機械の森

連鎖

文字の大きさ
66 / 86
暇つぶし

騒動②

しおりを挟む
 心に傷を負った麗華が、お風呂を目指して歩いていると、
 深夜から今朝まで見た物や、味わった感触が全身をざわつかせる。

 そのときに味わってしまった――諦めとは違う、あの感情。あの快感。

 子宮に溜まっていた熱が広がり、下半身がそれを求めて小刻みに震えた。

(まだ……まだなの。早く乾いて……どうして、濡れていくの?)

 麗華は火照る身体を必死に抑えながら、
 背筋を伸ばし、胸を張り、膝を軽く曲げて、ゆっくり歩いている。

 そうやっている理由は、粘液が飛び散らないようにするためだったが、
 今では火照った場所に刺激を与えないようにと足を運んでいた。

 そんな目立つ歩き方に、
 異性の視線は、胸元や太腿へと興味深く絡みつき、
 同性は、苛立ちや殺意までもが混じった顔で麗華を見ていない。

 ――……見ないで……いや……はあ、はあ。もう、止まって……

 首筋を伝った汗が、背中を滑り、お尻を伝って、やがて女性器へ。

 もちろん汗が、お尻の谷間から割れ目に流れてきた事に焦ってしまい、

 ――これは粘液? それとも汗? まさか体液? 臭いのは…愛液?

 心臓は速く打ち、頬は赤くなり、一段と子宮が疼き、男の肉棒を求める。

 やっと早朝のざわついた脱衣所に辿り着いた時も、
 周りからの視線はなおも絡みつき、そんな中で浴衣の帯を解く。

「パリ…ペリ……カサ」

 ――肌に貼りついた布が、嫌な音を立てて落ちていく。

 床に散ったのは、ほつれと穴だらけの布切れ。

 しかし、それを周りの男達が見ることもない。

「すみません…色々あって…あはは…いやぁ~、なんででしょうね」

 麗華は、自分の裸が周りから見られているのに、少しも隠さず、
 大きな乳房が垂れ下がっていくのに、腰を大きく曲げて、
 濡れた割れ目が見えているのに、お尻を突き出すように、
 必死に落ちた残骸を拾う。

 その時にも…また布が破れ…拾い…濡れた場所を、
 自分の裸体を誇るように、腰や乳房を振って視線を集めた。

 ――あぁ……やっぱり……仕方ない。溶けてた……やっぱり……

 麗華は苦笑を浮かべているが、心の奥には焦燥や興奮が渦巻いていく。

(今も見られている…そんなに変? やっぱり臭うの?)

 老人ほど近くで、自分の身体を覗いてくる人はいないが、
 少し離れた場所から、熱い視線を送る男達はいた。

 麗華は絡みつく視線を感じながらも、ユックリ洗い場へ足を進め、
 鏡に映る自分の姿を見た瞬間に、優越感と緊張が走った。

 ――やっぱり……そうよね。ふふ……。

 麗華は、どこか嬉しそうに笑いながら腰を下ろし、
 前に一人で身体を洗っていた時の事を思い返す。

 服は溶ける――なら、全裸で挑めばいい。そう、溶けなかった。
 大型ナメクジ――もう少しで倒せた。けれど小型が群がって邪魔をした。

 もしまた、あの小さな群れに囲まれたら…
 巨大な二匹を同時に、それ以上の数が出てきたら…

 実は、それ以外の色々なナメクジがいるのかも…

(無理……無理よ。斬撃耐性。自動修復。軟体動物。そして……体液に粘液)

 想像しただけで背筋に寒気が走り、同時に全身が震える。

 ――正面突破はない。一瞬で倒せなければ……あの、あれが……あの中に。

 桶の湯面を見つめて、額に手を当てると、
 ナメクジに囲まれて、全身が粘液まみれになった状況を思い出す。

 その想いの中に、怒りとは別の熱い感情が混じっていた。

(エロナメクジ……絶対に許さない。お前に溶かされた髪!
 陵辱された心! 本当に、それだけ? 本当に? 実は……)

 熱めのお湯を全身に浴び、
 石鹸を泡立て、首筋から腕、指の間まで丁寧にこする。

 ――あのヌルヌル……あぁ、この蕩けてるような……あの感触……


 騒動②
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...