機械の森

連鎖

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オトギリソウ(迷信)

①リンゴ(選択と誘惑。恐山。)⑧

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 老人に何度も逝かされて、
 楽しい夢を見ていた麗華が、望んでいない現実に戻ってきた。

「ガバッ。。。待ってぇぇぇえ。いやぁああああ。待ってえぇえええ。」

 麗華が起きたのは、窓や扉まで全開にされた温泉の脱衣場で、
 今の叫び声を聞かれてしまい、気づいた人に見られたかもしれないが、
 そんな事よりも、さっきまで見ていた夢の続きを探していた。

「だ。。大丈夫かい?少し激しくしすぎたかねぇ。本っ当にすまなかった。
 酸欠と長湯でのぼせてしまって、ここで倒れてしまった。
 本当にごめん。。身体は大丈夫かぃ?何処かに異常は無いかな?」

「酸欠?」
「ああ、見なかったのかい?長い間お風呂に入るなって看板。
 あと、窓を開けて換気をしていろって書いてあるだろ?
 この温泉の効能はいいが、たまにキツくなるんだよ。すまなかったね。」
「私って、倒れて気絶していたんですか?」
「これだけいい女だと、ついな。アハハハハ。で、どうだった?」

「凄く良かったです。おじいさんに飼われたくなっちゃいました。」
「。。。」

(何を言っている?やっぱり酸欠で、そうなのか?飼うってなんの事だ?)

 確かに麗華が倒れるまで楽しんでいた自分が悪いのは知っていた。

 その気絶した彼女が、全裸のまま起き上がって最初に言う言葉なら、
 酷いと泣いたり、どうしてと怒ったり、謝れと詰め寄ったり、
 何かしら自分を責めて非難してくると思っていた。

 しかし、彼女が真剣な顔で飼われたいなどと言ってきた事に、
 何か別の場所に障害が起こっているかもと、この男も焦り始めていた。

「私の事を飼いませんか?料理。洗濯。もちろん、下の世話も出来ます。
 掃除でも、何でもします。一緒にいてくれるだけでいいです。」

「。。。」

(どういうことだよ。何か薬?病気持ちか?それとも何か?)

 彼女の美しい容姿と真剣な表情は怖く、さっきの告白も、
 本当のことを言っているのではなく、妄想を口にしていると思っていた。

 しかし、彼女の真剣な表情は、嘘をついているようには見えないし、
 現実と妄想が混ざり合っている人かもしれないと焦っていた。

「もちろん、お金などは必要ありません。
 お金は沢山持っているので、私が生活費を全て出しても問題ありません。
 何でも出来る肉便器として、私を飼育して貰えませんでしょうか?」

「。。」

(肉便器って、どういう意味だ?本当に、あの意味なのか?
 まあ金持ちってのは、何となくわかった。。。が、飼育だと?)

「目線に入って気に入らない時は、他の男に貸し出してもいいですし、
 複数の人に貸し出して、撮影に使って貰っても構いません。
 何でも言ってください。何でもしますし、何をされたって恨みません。」

「うぅぅぅん。。うーん。。変な事を言っているけど、
 酸欠で頭が壊れたのかい?飼育って、家畜にでもなるのかい?」

「うぅ。。そっ。。それでいいです。。そっ。それだって出来ます。
 首輪とリードで繋いで貰って、家畜として飼育してください。
 だから、お願いします。なんでもいいんです。何でもしますからぁあ!」
「ふぁはァ。。?」

 やっと彼に本気で聞いて貰えたように感じた麗華が、
 言葉に詰まりながらでも、とても嬉しそうに笑ったので、
 今までの言葉や言動が勘違いでは無く、
 全てが本気で本当の事だと気づいた男から、変な声が漏れていた。

「。。。。でも、イタコ。。イタコに会えたんです。。。イタコですよ!!
 もう一度でいいから、お願いします。本っ当にお願いします。」

(おばあさん。あの、おばあさんは、何か知っている。絶対。。絶対に!)

 自分の記憶が曖昧になっているのは、納得が出来ないし、
 彼を忘れるはずが無いのに、
 数ヶ月。数年たったただけで、忘れるはずが無い記憶が消えているのは、
 夢と同じく、何かしらの不可解な事があったハズだと思い始めていた。

「それは、夢じゃないかなぁぁぁ。一緒にいたけど、誰も来なかったよ。」
「そ。。それでもいいから、また。。また。。。お願い。お願いします。」

「死んだ人は戻らないんだよ。見ただろ?ここは、そういう場所さ。
 もう閉園時間だし、お嬢さんは宿泊じゃないだろ?
 だから、早く戻りなさい。さっさと戻るんだよ。いいかなぁ。あはは。」

(そうかい。そうかい。夢を見たんだね。とってもいい夢をね。。。)

 彼女が大事な人を無くし、その人に会いたくて、
 ここに来たという事は、彼女を見ただけで気づいていた。

 しかもさっき、その人の事で何か自分にとって都合のいい夢を、
 諦められない気持ちを続けられる妄想を、見ていた事にも気づいていた。

 もちろん、死んだ人は戻らないし、
 それでも諦められない人が、沢山いることも知っていた。
 この場所が、そういう人の為に必要な場所なのも。。。

 その夢を見た彼女が何を求めて、今から何をしたいのかも。。。。

「でっ。。でも。もう一回でいいんです。もう一度でいいですから!」
「ゴシゴシ。さあ、帰ろうか。帰ろうね。麗華ちゃん。さぁ。時間だぁ。」

「ちょっと、ちょっとまって。。。おじいさん。待ってって。」

「ほら着るんだよォオオ。時間。。時間だって。」「ちょっと。。」
「はいショーツ。。パチン。。プチプチ。ブラはこっち。。」「えっ。」
「はい、足上げてぇええ。スルスル。」「おじいさん。ちょっと。」

「さあ、つぎはァあああ、シャツも着てくださいぃい。」「。。」
「グイグイ。。さあ、着たかなぁあ。。ジャケット。も、着てねエェぇ。
 ゴシゴシ。。ゴシゴシ。。頭は仕方ないから、生乾きでいいよねえぇ。」

(はぁああ。やっぱり、そうじゃないと思いたいけどぉ、そうだよなぁ。)

 彼女から言われた提案は、とても嬉しい内容で、
 老い先短い自分が手伝えるなら、なんだってしてあげたかった。

 しかし、彼女に夢にすがるような生活をしてほしくないし、
 このまま夢と気づいて、夢と現実の違いに諦め、
 そのこと自体を忘れてほしいと願っていた。

「おじいさん。。れ。。連絡先。。じゃあ、また会って。。」
「会いたくなったら、また会えるよ。早く帰んなさい。ガラガラ。」

(もったいないよなぁ。この子と生活。うぅうん。でもなぁ。
 だって、彼女から誘っているんだし、でもなぁ。家族がみたら。はぁ。)

 これだけの若い美女と一緒にいれば、色々と目立つのはいいが、
 彼女が思っていない夢を見ると、見るまでオネダリをされてしまう。

 その程度は大丈夫だと言えるほどに若くは無いし、
 これと同じ事を毎日か、日に何回も求められても答えられない。

 それ以上に、彼女と一緒に生活している姿を、
 家族に見られて、なんと言えばいいのかを考えただけで、
 今回は諦めてもらうように、お願いをしていた。

「。。ま。。また来ます。また来たらお願いしますね。約束ですよ!
 カツカツ。。やくそくですよぉおお。カツカツ。カツカツ。」

(はぁ。。ダメかァ。。そうよね。でも。。でも、イタコに会えた。
 常識では考えられない不思議な現象にも会えた。。じゃあ、彼だって!)

 今回初めて不可思議な現象に遭遇し、
 これを続けていけば、常識では考えられないことが起こり、
 最終的にはジンさんに会えるという自信と言えばいいのか、
 あるいは、淡い夢と言えるかもしれない、生きる希望が芽生えていた。

 もちろん、そのためにはこのおじいさんが必要で、
 ここに長く居続ければ彼に嫌われてしまいそうなので、
 今回は素直に帰ることを決めて、スマホで次の予定を考えていると、
 タクシーの時間が迫っている事に気づき、あわてて走り出していた。

 。

 予定よりは少し遅れていたが、
 今回のタクシーは、いつものような感じで対応をしてくれたので、
 素直に荷物をトランクに入れてもらい、車内に入って待っていた。

「温泉は、良かったかい?」
「離れのお風呂で、落ち着いて楽しめたし、とっても良かったですよぉお。」
「あそこは混浴だっただろ?誰かに見られなかったかい?」

「混浴には慣れているので、少しも気にしていないですし、
 人も少なくて、とても気持ち。。。。」

(普通よね。。まあ、見られているのは仕方がないけど、次はこの人なの?
 次の鍵はこの人なの?また気に入って貰えたら先に進める?というの?)

 半分濡れた髪と、独特な臭いに気づいた運転手が、
 温泉の話をしてきただけだが、
 今回の事で何かに気づいた麗華は、どう言えばいいか困っていた。

 もちろん、このまま運転手に抱かれても良かったし、
 何処かに連れていかれて、そこで犯されたり、
 さっきのように、人が入っている混浴温泉に連れていかれて、
 犯しているような視線で見られながら、全員の相手をしても良かった。

「いい所だよね。。そうだ。お客さん。ホテルは何処だい?」
「予約は取っていないので、何処かいいホテルはありませんか?」

(家に来い?うぅん。これから一緒にホテルに泊まろう?
 ここで降ろされたくなければ?今すぐ脱げ?さっさと次の客をとれ?)

 麗華らしい答えでもあるし、今までしてきた事の記憶でもあるのだが、
 昔は、よく聞いていた言葉を待っていた。

「今日なら、何処でもあいていると思うから、
 グランド。ユニサイト。パークかな。。他は小さな所だし、
 お客様のような人が、一人で泊まるような場所でもないですよ。」

「あっ。。温泉は、温泉が有る場所はありませんか?温泉が好きです。」

(違うみたいだね。じゃあ、あの時。。おじいさん以外の。。もっと?)

 いつものような言葉でもない返事にガッカリしながら、
 今日は不可思議な現象に会っていたので、それと同じ状況になれば、
 また彼女に会えるという、根拠もないことを考え始めていた。

「それなら、グランドだね。大浴場が温泉だったはずだよ。
 そこがダメだったら、他のホテルに向かおうか?」

「大浴場。。そういうのじゃなくて、昔からやっているような、
 小さな民宿みたいな感じで、温泉が有る場所は有りませんか?」

(恐山から近い。狭い湯船。熱い源泉。あと絶頂と気絶をすれば。。)

 もう一度さっきの状況を思い出しながら、
 おじいさん以外で、何が鍵だったのかを思い出しながら聞いていた。

「あるにはあるが、若い女性が一人で泊まるならぁあ、
 一度、街に戻った方がいいと思うよ。」

「違うんです。この場所から近くて温泉なら何でもいいです。」
「確かに、この辺にもあるが。。。」
「小さなお風呂のような温泉でいいです。」
「確かにあるには、あるんだが。。。」
「ここから近くて、源泉が近くて、温泉の温度が高い場所が。。」
「ああ、あのホテル。。。でもなぁ。」

 麗華が言っているようなホテルに、運転手も気付いたような口ぶりだが、
 何故か彼女をそこに連れていくのを、躊躇っているようだった。

 。

 彼女が希望したホテルに着くと、運転手はトランクから荷物を取り出し、
 麗華に荷物を渡してから、明日の予約時間を話していた。

「じゃあ、明日の10時に迎えに来るから、ここで待っていて下さい。」
「10時ですね。」

「でも、ここでいいのかい?本当に大丈夫かい?
 送迎して申し訳ないが、都会の女性が一人だと色々と大変だよ?」

「あはは。大丈夫です。こういう個性的なホテルが好きなんです。
 温泉の匂いもするし、こういう場所を探していました。」

「お客さんが言うのならいいが、明日は違う人に頼んでいるので、
 約束の時間が来たら、ここで待っていてくれよ。」

「はーい、ありがとうございました。」

(彼に誘われなかったし、逆に嫌がっているってのが、それっぽいよね。
 しかも、イタコがいた場所から近いし、温泉が源泉でしょ。
 お風呂も狭そうだし、夜中に一人で入って。。。うふふふふ。)

 運転手の口ぶりだと、このホテルに麗華を一人で泊めたく無いらしいが、
 もちろん彼女の顔は、これが次の鍵だと思っているらしく、
 とても嬉しそうに建物を見つめていた。


 ①リンゴ(選択と誘惑。恐山。)⑧
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