夏目の日常

連鎖

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二人の日常

海へ②

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 いつもの部屋の中で、顔面蒼白な夏目が過呼吸まで起こしているのか、
 全身を細かく震わせて必死に何かを我慢していた。

「な。。夏目さん。嫌なら。。断ろうか?。。。もう。。やめようか?」

 夏目の異常な行動で、やっと目が覚めたのか、
 引き返すなど出来ないタイミングで、これを辞めようと言い始めていた。

「あ。。ごめんねぇ。。ちょっと待って。ちょっと、まってね。アハハ。
 やっぱり、恥ずかしくて泣きそうだから、アハ。。アハハ。
 ごめんなさい。ちょっとまってて、海斗。ごめんねぇ。
 でも。。お仕事。お仕事。。パンパン。お仕事って言ってるでしょ!」

「もう辞めよう。もういいから、もういいって。夏目さん。もういいよ。」

 いつもハッキリ強い夏目を見ているので勘違いしていたのか、
 露出が多い女の子が、肌を見せる服を着ただけで恥ずかしいのに、
 いつも露出を控えている私服しか着ていない夏目に、
 露出度の高い服を着させて見たいという気持ちだけで選んでいた海斗も、
 彼女が激しく戸惑う姿を見て、旅行まで辞めようとしていた。

「ごめんなさい。パートの安い給料でしか海斗を助けてあげられないって、
 いつも気にしていたの。だから、今日の事は最高に嬉しいの。
 今も海斗を助けられるって。本当は、とっても感謝しているのよ。」
「えっ。。夏目さん。」

(感謝しているの?ち。違うよ。僕が稼いでいないから、
 僕が稼いでいないから、夏目さんを困らせているんだ。
 ごめん夏目さん。本当にごめんなさい。)

 海斗も、新入社員だから仕方がないと諦めていたが、
 余裕を持って暮らせる程には、お給料を貰っていない事を自覚していた。

 それなのに、夏目がパートの給料が安いことまで気にしていると知って、
 申し訳ない気持ちと、とても幸せで愛おしい気持ちに包まれていた。

「だからお願い、海斗。わたしに勇気をちょうだい。強く。強く言って!
 これを着て、旅行に行けって命令して。いいのよ。命じて。
 お前は、俺の言うことを聞けって、命令してちょうだい。」

 お金を稼ぐためとはいえ、
 いつも全身を隠すような服しか着ていない夏目にとって、
 若い海斗が見ても露出度が高い服や下着を着て、
 外に出るだけでも、気絶しそうなほどに恥ずかしいのに、
 隅々まで撮影され、知らない人たちに見られることを考えるだけで、
 悪寒と震えが止まらないのを、海斗への愛で誤魔化そうとしていた。

「うぇええ。夏目さん。ごめんなさい。ごめんなさいぃいいい。」
「いいのよぉお。命令してちょうだい。私に勇気を頂戴。
 海斗を助けられるって、本当は嬉しいんだから。お願い命じて!」

「夏目さん。ガサガサ。この服と下着をつけて。
 ヒック。ウェっ。うェエン。ごめんなさい。これを着てえぇ!」

(ごめんなさい、夏目さん。本当にごめんなさい。本当にごめんね。)

 真剣に見てくる夏目の目を見て、
 恥ずかしい気持ちを無理矢理押し殺して、
 服や下着を着てくれるとわかったが、
 本当は、露出度が高い服と言っていることさえも嘘で、
 外を出歩くことはできない、
 恥ずかしい服や下着を選んだ事を、海斗も心の中で謝っていた。

「こ。。これ。ガサガサ。はあはあ。ありがとう。海斗。ガサガサ。
 もう大丈夫よ。もう元気をもらったわ。もうこれで大丈夫よ。」
「ごめんなさい。ごめんね。夏目さん。本当にゴメンなさい。」

「そんなに謝らなくても大丈夫だから、少し弱気になっただけよ。
 でも最初は家で着替えて、撮影も自分でしていい?。」
「はい。大丈夫です。車で待っています。」
「本当は、着替えたらすぐに撮影をするんでしょ?」

 もし間違った参考資料を掲載してしまえば大変なので、
 本当に夏目が着ているのか、ネットなどからの写真ではないのか、
 実際には本人が着ていなくて、別の人が着ていることも考えられるので、
 着替えている最中も、海斗に確認してもらう必要があると考えていた。

「いや。そこまでは。。」
「いいの。着替えてスグの撮影も必要よね。そのまま確認が必要でしょ。
 でも、ごめんなさい。今回は言われたものに着替えて、
 撮影は自分でするから許してね。
 でも、これ以降は、どんなに恥ずかしくたって、どんなに嫌でも、
 着替えたら海斗に撮影させるから、いまは、それで許して。。ごめん。」

「はい。夏目さん。」

 今回だけは自分で撮影を行ない、その写真を海斗が見たら、
 旅行を辞める?撮影を諦める?アルバイトは諦める?違う物にする?
 などの対応を考えてくれることを、心の片隅では期待していた。

「ウフフフ。見れなくてガッカリしたのぉ?でもカイトぉおおお。
 若いギャルが着ているような、露出が高い服と下着でしょ?
 やっぱり、この年齢で着るとなると恥ずかしくてね。
 本当にダメな女よね。海斗の奥さんとして失格かな。アハハ。」
「夏目さんは、最高の奥さんです。代わりなんかいません。夏目さん。」

 もちろん、ダメだと言われないと思って夏目も言ったが、
 正直に、最高で自分の代わりがいないと言われたことに、
 陰鬱な暗い気持ちなど吹き飛んで、嬉しさが爆発していた。

「もぉおお。小尻用のショーツとかは無理よぉお。大きいしぃい。」
「夏目さんでも、大丈夫なショーツを選んでいます。」
「派手なのは我慢するけど、胸も大きいから小さいとビチビチよ。」
「夏目さんの、大きさでも大丈夫なのを選んでいます。」

「はぁぁぁ。小尻用のショートパンツで、
 大きな私が履くと、ムリってお肉が脇からはみ出すのでしょ。
 胸も、アミアミとかパッツンで、ブラは丸見えよねぇ。見えるよね。」
「うーん、ブラは見えないですし、
 夏目さんのおしりも、見えないものを選んでいます。」

 夏目が想像していた露出度が高い服装は、
 十代のギャルが着ていそうな、忌避感が強い格好で、

 下は、夏目ならお尻が飛び出すほどに短いスカートの下に、
 ピチピチのスパッツや、小さな黒いショーツで下腹部を隠しているか、

 何を隠しているの?と見てしまう、
 お尻の割れ目や、動けば前の膨らみまで浮き出てしまう、
 ピタピタのショートパンツの中に、
 ショーツを履かないか、紐しかない極小のタンガを食い込ませていた。

 上着もひどく、最初から見せるための派手なブラの上に、
 身体を隠す事など考えていない、アミアミや、丈の短いキャミソール、
 見せているのよと言っている、
 ピチピチ、ピタピタで透ける服をノーブラで着ていた。

「それって、若い女性用なの?」「はい、若い女性用です。」
「そう?ならいいけど、でも。。着替えは見せられないよ?」
「着替えを、確認する必要はありません。夏目さんを信じています。
 ただ、着心地のレポートはお願いします。」
「ふぅうん。それならいいわ。楽しみに待っててね。へぇぇぇ?」

 そんな話が終わると、いつものように、海斗が着替えている横で、
 肌を隠すこともなく服を脱ぎ、夏目は着替えを始めていた。

「ガサガサ。白?」

 紙袋の中には、 白く小さなフリルがたくさんついた、
 可愛らしいものが1つ入っていた。

「ガサ。。次は赤?」

 白いフリルを袋から取り出すと、次に乗っていたのは、 
 真っ赤な幅広の紐に刺繍が施された、不思議なものが1つ。

「ガサガサ。他にないわよね。ゴソ。赤い紐に白いフリル?」

 その下にあった、綺麗に折りたたまれた服を崩して探す事も考えたが、
 
「カイトさぁ。ちょっと見てよぉ。これと。これれぇえ。壊れているわよ。
 この服の飾りが、はずれているうぅぅ。壊れちゃっているわよ!
 あとさァ。下着が見つからないんだけどぉお。ゴソゴソ。ないわねぇ。
 もしかして、服と一緒に折りたたんでいたりする?」

 たたまれた服を崩してしまって、変なシワができるのも勿体なくて、
 海斗に下着が無いことを聞いていた。

 もちろん、服の上に置いてあったものを見つけていたが、
 それらは下着とは言いにくく、あまりにも小さかったし、
 白い塊は、シュシュや髪留めのようにも見え、
 赤い塊も、細いスカーフやどこかの飾りにも見えたので、
 それなら、別のものが入っていると思っていた。

「よく見たら、あると思うよ。
 もしかして、滑って、奥に入ったかなあぁ。アハハハハハ。奥かも。
 
 女性用の下着って、スベスベしているしぃい、滑っちゃったかなぁ。
 折り畳むと小さいから、奥に入ったのかもぉおお。

 ごめんなさい、夏目さん。バタバタ。ごめんなさい。
 駐車場の料金もそろそろ変わるんで、先に行ってるね。」

「そォ?そんな時間になったのねぇ。はーい、よろしくぅ。」

 いくら車に乗らない夏目でも、
 深夜料金が終わると、料金が高くなる事を知っているので、
 見つからないと聞いていた下着のことも、
 探せば見つかるだろうと、軽い気持ちで返事をしていた。

「夏目さん。待ち合わせは、いつものコンビニでねぇ。」
「ハイハイ。よろしくねぇーぇえ。」
「ドドドド。。どだん。バッタん。どんどん。どんどん。ゴガガガン。」

 やっぱり、料金が変わる時間に間に合っていないのか、
 最初から早く起きればいいのにと思いながら、
 バタバタと焦って走っていく、海斗の足音を聞いていた。

「ガサガサ。。。ガサガサ。うぅウン。ゴソゴソ。ウゥン?うん?」

 まず、海斗に言われた通りに、折り畳まれた服の間に落ちていないか、
 実は一緒に折り畳まれていないかを、
 折り目など気にしないで、袋から服を取り出してから確認していた。

 それでも、下着らしきものが見当たらなくて、

「かさ。ふぅうん。ずっ。。ズりずり。へぇえぇええ。ずるずる。」

 まず最初は、白いレースのついたフリルをテーブルの上に広げていた。
 もちろん次は、残った赤い紐の塊を解いてから横に並べていた。

「どん。。。どん。どどどん。ドドドドドドォん。ガチャ。。
 カイトぉおおお!あなたさぁああ!!!カイトぉお。まちなさぁあい!」

「ドカドカ。。ドカドカ。。」

(ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさいぃ。ごめん。なっちゃん。)

 少し離れた場所からも聞こえる、
 野獣のように吠えている夏目の声が聞こえてきたので、
 その声に心の中で謝りながら、
 海斗は必死に駐車場に向かって、追いつかれないように逃げていた。


 海へ②
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