夏目の日常

連鎖

文字の大きさ
上 下
16 / 37
二人の日常

海の家②

しおりを挟む
「サラサラ。ジャリ。ジャリ。カン。カンカン。ふぅ。暑いわねぇ。」

 夏目が向かっているのは、何年も使っているのだろうか、
 古い木製の張りに、波打ったトタンが打ち付けられた海の家で、
 九月中旬で、周りにお客さんもいないというのに、
 営業中の、のぼりが出て営業しているように見えるが、
 夏目が外から見る限りは、店の中に誰もいないように見えていた。

「すみませぇええん。すみませぇええん。あのぉおお。すみませぇええん。
 誰か、いませんかぁあ?すみませぇえん。誰かぁあ。」
「はいはい。今、行きますよ。行きますよぉお。ハイハイ。。。うおっ。」

(透けてるぞ。おい、アレって水着じゃないよなぁ。透けているぞぉ。)

 日差しが強いので見えづらい事もあるが、
 ベージュのくるぶし丈のワンピースの生地はとても薄く、
 女の背中から通った光が、服に差し込んでいたので、
 男から見ると、身体のラインがハッキリ見えて、
 この女が、服の内側に何も着ていないように見えていた。

 夏目は、ネトラレ夫との旅行中は身体を見せるのを諦めていたので、
 どんな相手でも堂々と、
 飛び出す乳房の膨らみと、先端のポッチに赤黒く映るブラ、
 オヘソの窪みに、陰部へ繋がる太腿にできるシワ、
 お尻側から見れば、大きな膨らみが飛び出し、
 クッキリと境目まで見えているのも、気にしない事にしていた。

 そんな姿を健康な男が見てしまえば、
 遊びに来た女の姿を、じっと見てはダメだと知っていても、
 驚いた声と、全身を探るように見るのを止められなかった。

「んっ?。。。ああ、あはは。この格好ですかぁ。いやぁああ。アハハ。」
「ああ、スケスケだぞ。恥ずかしくないのか?本当に丸見えだゾ!!」

(最終日に痴女かよ。まあ、面倒だがいい客が来たなぁ。最高だぞ。)

 相手が怖がって逃げないように、とても温和で柔和な顔をして、
 今の格好が露出し過ぎで、透けて見えている事を正直に指摘していた。

「コレは彼の趣味なんで、じっくり見てもいいです。見るのはいいですよ。
 悪いのは彼だし、私は見られても特に気にしていませんから。アハハ。」
「はァァァ。本当に大変な彼を、好きになったんだね。可哀想にぃい。」

(いつものカップルってのか。まあそれはいい。それは、いいんだが。)

 女が言うように、ジックリ見たい欲望に流されそうだったが、
 それが誘い文句で、舐め回すように見た途端に逃げ出されても困るので、
 普通に、困った彼氏を好きになったと答えていた。

「こんなオバサンの身体なんかを見ても、お見苦しいでしょうが、
 少しの間だけ我慢して貰えませんか?本当に、すみません。」

 ワンピースがスケスケで、
 全裸に変態下着まで見せていると気づいているのに、
 見せている自分が悪いと、申し訳なさそうな顔をして夏目が謝っていた。

「かれ?かれかぁ。。まあ、今日は人もいないから多少はいいと思うが、
 道路には、近づかないでくれよ。
 あんたの格好を見た男が、運転をミスって事故っても大変だからな。」

(じゃあ、このいい女。この格好で彼と楽しんでいたのか?この格好で?)

 夏目がさっきまでと違うのは、前髪を垂らしていなく、
 軽く纏めてから、サイドでクリップで止めて顔を出し、
 後ろ髪は、長い黒髪をくるくると纏めてから、
 その上から、大きな櫛状のクリップで止めていた。

 髪を全てまとめて顔を出しているので、
 黒い眼鏡が顔を隠してはいるが、可愛らしい垂れて大きな目と、
 シャープな鼻と、ポテッとした厚手の唇がハッキリ見えて、
 エリ首も、綺麗なうなじが覗いているので、
 色々な角度から覗いてみたいと思う、男の心を掻き乱していた。

「こんな、オバサンじゃあ。。あっ。。この格好デスネ。これですかぁ。
 あはは。。すみません。そうですよねぇ。あはははっ。
 遠くから見たら、若い子と間違って目立ちますか?間違いますよねぇ。」

「目立つと言えば目立つが、
 裏手の屋根あたりを通っている道路は、交通量が多くてな。

 あんたのような女が、砂浜で歩いているのを見かけると、
 どうしても気になってしまい、
 もっと近づいて覗き込もうとして、ハンドルをきってしまうんだよ。

 後はわかって貰えるかな、危ないってことだよ。
 可愛い子が、一人で海辺を歩いていると目立って危ないんだよ。」

(透けるってのは、どうしても気になるよなぁ。これは目立つしなぁ。)

 ワンピースから張り出している胸やお尻が、遠くからでも目立つので、
 刺激が少ない海辺の道で車を走らしていれば、どうしても気になって、
 運転中でも、夏目を目で追っているだろうと思っていた。

「そうですかぁあ?
 離れていると、年齢がわからないから見ちゃうでしょうね。アハハ。
 本当は、こんなおばさんなのにね。申し訳ないですねぇ。あはは。」

「いや。。。」

(君の身体が魅力的だし、髪型も顔もエロいってぇえ。やべぇ。ダメだ。)

 何度顔を見ても、何度身体を見ても、何度考えても、
 とても魅力的で男が競っても欲しがる女にしか、見えていなかった。

「こんなオバサンに、興味を持って見て貰うのは嬉しいのですが、
 やっぱり運転中は、危ないですよね。わかりました。
 道路には、近づかないようにしますね。ありがとうございます。
 おばさんってバレて、ガッカリさせちゃ悪いですもんね。あははは。」

「ああ。。といっても、混むのは会社帰りの時間だし、今は大丈夫かもな。
 で。。お姉ちゃん。何の用だい?食事とか飲み物かな?」

「水着に着替えたいので、更衣室とかありませんか?」

 ここでの商売が長いせいなのか、いつも感じていた、
 男性特有の不快な視線を感じない、不思議な男に聞いていた。

「水着にか?海に入ると、クラゲがいるかもしれないから、
 入らないほうがいいと思うぞ。刺されると痛いから。海には入るなよ。」

 今、夏目に話しかけているのは、濱田(はまだ) あきら
 年齢は70の後半、身長は160cm中盤、
 ガッシリとした白髪の老人で、日に焼けた浅黒い肌に、
 使い古したハイビスカス柄のアロハシャツ。
 下は膝丈の濃紺のカーゴパンツに、足は使い古したサンダルで、
 この九月中旬でも暑い海辺で、働いてると言えば似合うが、
 年齢を重ねているせいか、
 こんな場所で、小さな海の家を経営している感じではなく、
 どこかで怒鳴りながら、若い男を連れ歩いている雰囲気を漂わせていた。

 そんな、まだまだ現役の男でも、
 この女が、どんな水着を選んだのか興味があったが、
 やっぱり、この時期にクラゲに刺される事故があったら大変なので、
 海に入るのを辞めるように説得していた。

「数時間程度で、撮影がメインだから大丈夫ですよ。海には入りません。」
「そうか?砂浜にいれば大丈夫だが、気おつけてくれよ。」

(海の家を閉めた頃に来る、カップルってやつだな。撮影ってやつな。)

 この男も何度も目撃したことがある、人が少なくなった頃に訪れて、
 露出撮影と外で色々と二人で楽しむような、
 露出カップルの片割れだと、夏目の事を考えていた。

「はーい、痛いのは嫌だから海には入りませんし、
 クラゲには気おつけますね。心配してくれて、ありがとうございます。」
「着替えるのなら、裏手にあるシャワーの辺りで着替えるか、
 面倒なら、おじさん、そっちを向いているから、
 その机の辺で、着替えて貰ってもいいがね。あはははっ。」

「ぶる。。ぶるぶる。ふうぅう。寒くなって来たから、シャワーにします。
 シャワーを、お借りしますね。すみません。暖かいシャワーを。。」

 高齢な男が相手であっても、全裸を見せるのは抵抗があったのか?
 それとも少し冷えたせいなのか、突然ブルブルと震え出していたので、
 下半身をシャワーで洗い流そうと考えていた。

「ああ、いいよ。シャワーは有料だから、1000円を貰うよ。」
「そ。。そうですよねぇ。うぅぅん。でもぉぉぉ。いや。あのぉおお。」
「すまないねぇ。色々と使っているんで、高くなっちまって。」

「いや。そうじゃないんです。今はお金を手元に持っていないので、
 ここで食事をするので、その時に一緒に支払っていいですか?」

 撮影の後で食事をしようとは考えていたが、
 その時には海斗も一緒なので必要ないと思い、
 夏目が持っているのは小さな紙袋だけで、お金を持っていなかった。

「ああ、いいよ。」「えっ。。いいんですか!!」
「疑っている訳では無いが、脱いだ服をそのまま置いていって貰えるかな?
 海に行くなら、持っていくのも邪魔だろうし、預かっておくよ。」

(これだけハッキリ言う女なら、シャワー代程度で逃げるわけないし、
 シャワー室を使ってもらえれば、お金などいらないがな。アハハ。)

 一生懸命、相手に気づかれないように我慢しているのか、
 何か見たいものがあって焦っているようで、
 隠すように置いてあるモニターに、濱田は視線を何度も送っていた。

「そこまでサービスして貰えるんですね。優しいお店なんですねぇ。
 ありがとうございます。じゃあ、シャワーをしてきますね。」
「ほら、タオル。。バサン。
 シャワーは、壁がくり抜かれた先にあるからな。」

(あんたが、俺にサービスとお金を落としてくれるんだよ。
 あんたはいい女だよ。どれだけ稼げるかねぇ。どれだけ売れるかね。)

 すぐにでも確認したい気持ちがまさっているのだろう、
 さっき出てきた少し奥まった、厨房のような場所に再び戻っていた。

「タオルまで。。本当にありがとうございます。」
「ああ、そうだ。脱いだ服は、全てこっちで回収するからァアア、
 部屋の手前にある籠に、入れたままにしておいてくれェえぇ。」
「はぁあぁあい。わかりましたぁああ。コツコツ。コツコツ。」

 濱田が言った通りに、店の中を抜けて裏手に行くと、
 くり抜かれた壁の先に、
 木の梁と膝から肩までのトタンで囲まれた部屋があり、
 その部屋の入口には、丈の短いスイングドアが取り付けられていた。

 その部屋には屋根はなく、人の頭より高い位置に道路が通っているため、
 道路からの視線を遮るための、約3メートルほどの壁が立っていた。

「どん。。。ガラン。。ギーギー。」

 夏目がシャワー室を確認しようと、スイングドアを開けて中に入ると、
 泥除けのスノコと、向日葵のようなシャワーの出口が全てを覗いていた。

「ごォオオオ。。ごォオ。するする。へぇえええ。ごぉぉぉ。ごぉおお。」

 服を脱ぎ始めたすぐそばで、クルマが走る音が聞こえて、
 壁があっても道路は頭の上にあるため、
 背の高い車なら、屋根のない部屋を上から覗けるし、
 逆に夏目から見上げると、頭の上を走っていくトラックが見えていた。

「フゥゥゥ。ごォオオ。ごおぉ。バさん。ふぅう。ごぉおお。フゥうう。」

 そんな丸見えな場所でも、誰かに見られることは諦めている夏目は、
 少しも気にせず、大胆にワンピースを脱ぎ、
 シャワー室の前にある、簡易台の上にあった古びたカゴの中に、
 脱いだ服を入れていた。

「ガラン。。キュッキュ。。シャアぁあ。しゃァあ。しゃァああ。」

 身体に絡みついた汗を流すために、
 隣の赤いノブは怖くて回さず、青いノブだけを回して、
 真夏の日差しで熱湯になった水が収まるまで、シャワーを出していた。

「しゃぁあ。。ガサガサ。。ふぅうん。これ?ふぅうん。ガサガサ。
 へぇぇぇ。これなんだぁぁぁ。あはは。いやぁああ。アハハ。これ?」

 まず紙袋から取りだしたのは、透明なジッパー付き袋に入った、
 真っ赤なハート型のキラキラ光ったメダルの中央に、
 組紐の赤いセッターチャームが付いたものが二個。

 一般的には、水着とは記載されていないと思うが、
 赤いニップレスと、付属の飾りだと思われる物を取り出していた。

 「ボトムは?ボトム。。もしくは、紙袋なの?ボトムが、これだとか?」

 いくら探しても、ニップレスの上から着るビキニトップも、
 もちろん、それに合わせたボトムも見つからないので、
 実は袋に何かの細工がされていないかを確認していた。

「ビリ。ビリぃいいい。ビリビリ。ガサガサ。ん。。うん?うぅぅぅ!」

 いくら探しても、ボトムが見つからないので、
 ニップレスがブラなら、袋がボトムと言われているような気がして、
 少しでもボトムに似せようと袋を破いていると、
 紙袋の内側に張り付いている、厚い台紙が見つかっていた。

 もちろん、他に入っている物など無いので、
 そのテカテカと光った台紙を取り出すと、
 その表面に赤く薄い布が、折り畳まれて貼り付いていた。

「はぁ!なによ。カイトぉおおお。コレがシール?これが水着って言うの!
 これが、可愛いボトムって言いたいっていうのぉおおお。」

 昔からオナニーが大好きな事もあったし、
 耳年増で、そういう系の情報収集も欠かさない夏目は、
 カイトが言っていた、水着がシールだと言っていた事を思い出して、
 この折りたたまれた真っ赤な布が、アレだと気づき大声で叫んでいた。

 濱田と夏目しかいないお店で、大声を上げてしまえば、

「ダダダダ。だだだだ。おい、どうした?。。。何があった?どうした!
 誰かに覗かれたか?それとも、何か見つけたのか?何を見た?」

(見つけただと、最後の客なのに見つけたのかァ?はぁああ。まさか。
 はァ言い訳。言い訳かぁああ。いい女なのによぉお。クソぉお。)

 夏目の叫び声に慌てた濱田が、慌ててシャワーブースに飛び込んできた。

「ジャァアア。。ジャアア。。あ。。あは。はぁ。あはは。ごめんなさい。
 ごめんなさい。まだ入っていなくって。アハ。アハハ。」

 何故か濱田の視線は、
 まずは、シャワーヘッド。シャワーブース。建物の壁。
 やっと、屋根や道路の方を見て何かを確認していた。

 夏目は、濱田が一番最初にシャワーヘッドを見ていたので、
 シャワーの水が流しっぱなしになっているのを怒られると思って、
 とてもバツが悪そうな顔で、半笑いになって謝っていた。

「チラっ。。お。。おう。。いいぞ。。チラチラ。おぉおう。いや。まあ。
 それはいいが、何があった?何処かに覗きでも出たのか?」

 シャワー室は、店の裏手にポツンと飛び出した構造だし、
 すぐそばに道路の土台があり、道路からの視線を遮るのは、
 骨組みに巻かれた膝から肩までのトタンに、気休め程度の高い壁。

 泥除けのスノコが、シャワーブースに置いてあるので、
 肩と言うより、夏目だと横から胸まで覗けるはずだし、
 トタンの壁は中途半端で終わっているので、
 下からだって、好きなだけ舐めるような視線で覗けるような構造だった。

 そんな場所で、ワンピースを脱いで下着姿になっている女が、
 覗き程度で、悲鳴をあげるわけないのだが、

 駆け込んできた濱田は、隣を走っている道路や店の屋根の上や裏手から、
 着替えを覗かれたのかを聞いていた。


 海の家②
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

温泉聖女はスローライフを目指したい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,299pt お気に入り:159

婚約破棄された婚活オメガの憂鬱な日々

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:384

【加筆修正中】赤貧伯爵令嬢は、与えられる美食と溺愛に困惑する!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:74

乗っ取り

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

ZPE毒吐き感想

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

仰せのままに、歩夢さま…可愛い貴女に愛の指導を

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:12

処理中です...