【完結】愛するものがすべて。 愛しい姫君のために大納言さまに我が身を差し出す献女の正体は?

あっ ふーこ賦夘

文字の大きさ
3 / 6

第3話 椿のお宿。

しおりを挟む


3

 いてもたっても居られなんだ。

 仲間の狐達のことも、大妖怪になり日本国に根付ねつくことも、なにもかも考えられなくなった。

 牡丹ぼたんに忘れられる。

 そればかりが頭から離れず・・・。
 そのこと以外、どうでもよいことのように思えた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「このたび姫様付きの女官となりました椿つばきでございます。」

   どきどき。

 大妖狐となったわらわが人の姿に身をやつすなど造作ぞうさもない。
 新参者の女官に化けたわらわは、あの時の無礼な女に紹介されて久方ぶりに牡丹さまにおあいした。

 牡丹ぼたんさまは、わらわが知っておる牡丹さまからお変わりになられておりませぬよね?

  怖々、顔をあげる、と。

「・・・まあ!」

 とびきりの笑顔をむけて、そしてまたうつむく牡丹さま。

 椿つばきの名を耳にして、小狐、椿が!と、あるはずもない期待をしてしまうほど、今も椿が恋しく思われてならない牡丹。

 小狐が女官になるなんてあるわけないわよね。

「?あの・・・牡丹ぼたんさま?・・・椿つばきでございます。」

「えっ?」

 再び顔をあげて、手をとる、と。

「椿!」

 小狐が女官になって会いに来てきてくれる訳はないんだけど、
 お嫁に行きたくない気持ちがそう思わせてしまうのかもしれないのだけど、
椿が会いに来てくれたと思いたい!

「?」

 なにをやっておるのじゃ??
 相変わらずよくわけのわからぬ女子おなごじゃのう??

 真ん丸な目をパチパチさせて不思議そうに牡丹を眺める椿。

「あの・・・。もしや・・・。ありがとうっていってるの?」

 不安そうにわらわをみつめる牡丹さまに。

「・・・そう。ありがとうでよろしいですよ。牡丹さま。」

 はにかみながらそうゆうと。

   ぶわっ。

 牡丹は、もう涙と感情があふれだして、止まらなくなる。

「・・・椿!ああ、神様が、嫁ぐことに決まったわたくしに、椿を返してくださったのですね。」

・・・・・・・・・。

   がくっ。

 ちょっと違うけど、まあ、なんでもよいわ。

  牡丹は・・・。
 牡丹さまは、お変わりなく牡丹さまであったようで・・・。

 安堵あんどの気持ちが満ち満ちてやっと我にかえれるようじゃ。

 どうにも純粋とゆうか、ちょっと普通の人にはついていかれない感覚の持ち主ではあるが・・・。
 
 わらわはとっても嬉しいぞよ。
 願わくばこのまま・・・。このままの牡丹さまでいてくりゃれ。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 嫁入り前の一年間、牡丹さまと椿はそれはそれは姉妹のように仲良く過ごした。

 互いの心に欠けていたものが満たされるように。
 時には牡丹が姉のように、時には牡丹が甘えるように。
 時には椿が姉のように、時には椿が諭すように。


   コンコン椿。
 椿のお宿はどこにある。

   コンコンここじゃ。
 椿のお宿はここにある。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
 
 そして、大納言護国さまに嫁がれる牡丹さまについて、わらわも大納言家に行ったわけじゃが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...