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第6話:『北関東グレイヴディガー』
◆11:ブレイク&リコール(サイドB)−1
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彼からの手紙を受け取ったとき、私は少なからず驚いた。
彼とはここ数年すっかり音信が途絶えてしまい、こちらからの連絡もとりようがなかった。色々と言葉を取り繕ってはいるが、しょせん、我々のやっていることはやくざな仕事である。
正直なところ、最悪の事態も想定していないでもなかった。だから安堵もしたのだが――手紙の封を開いた途端、そんな安堵も吹き飛んでしまった。
手紙は二通。
一通は、彼から私への贈り物だった。こういう時、彼には到底かなわないな、と思う。彼に学び、彼に近づこうとしていた時、一度でもそれを欲しがったつもりはなかった。だが実際に貰ってみると、晴れがましさと畏れで胸が満たされる。私に演技の道を説き、自分には演技は出来ないなどと言っておきながら、私の知るところ、彼ほど人の心をよく把握している人物はそうはいなかった。
そしてもう一通は、彼の舞台への招待状だった。
そしてそれを一通を開いたとき。なぜ彼が私に贈り物をしたのか、その理由を知った。なればこそ、私にはその招待を断ることなど出来るはずもなかった。勿論、恩義がある人の頼みだからということもある。だが、それだけではない。
舞台の幕が上がったのだ。
限りなく100%に近づくことを可能とし、だがそれ故に100%になることが出来なかった男。その彼が、はじめて100%の向こう側に辿り着くための舞台。
この私にも欲はある。
そのひそやかな、誰にも知られぬ偉大な挑戦の中で、ささやかではあるが役を与えられ、そして同時に観客という名の見届け人を務めることになるのであれば。
彼からの『贈り物』にかけて、これほどの栄誉はないと胸を張って断言できるのだから。
彼とはここ数年すっかり音信が途絶えてしまい、こちらからの連絡もとりようがなかった。色々と言葉を取り繕ってはいるが、しょせん、我々のやっていることはやくざな仕事である。
正直なところ、最悪の事態も想定していないでもなかった。だから安堵もしたのだが――手紙の封を開いた途端、そんな安堵も吹き飛んでしまった。
手紙は二通。
一通は、彼から私への贈り物だった。こういう時、彼には到底かなわないな、と思う。彼に学び、彼に近づこうとしていた時、一度でもそれを欲しがったつもりはなかった。だが実際に貰ってみると、晴れがましさと畏れで胸が満たされる。私に演技の道を説き、自分には演技は出来ないなどと言っておきながら、私の知るところ、彼ほど人の心をよく把握している人物はそうはいなかった。
そしてもう一通は、彼の舞台への招待状だった。
そしてそれを一通を開いたとき。なぜ彼が私に贈り物をしたのか、その理由を知った。なればこそ、私にはその招待を断ることなど出来るはずもなかった。勿論、恩義がある人の頼みだからということもある。だが、それだけではない。
舞台の幕が上がったのだ。
限りなく100%に近づくことを可能とし、だがそれ故に100%になることが出来なかった男。その彼が、はじめて100%の向こう側に辿り着くための舞台。
この私にも欲はある。
そのひそやかな、誰にも知られぬ偉大な挑戦の中で、ささやかではあるが役を与えられ、そして同時に観客という名の見届け人を務めることになるのであれば。
彼からの『贈り物』にかけて、これほどの栄誉はないと胸を張って断言できるのだから。
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