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第6話:『北関東グレイヴディガー』
◆11:ブレイク&リコール(サイドB)−2
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「ありゃあ『フレイムアップ』つう派遣会社の連中だあね。東京にあるちっちゃい会社だけんど、なーんかロクでもないのがいっぱい揃ってるらしいよ」
ワゴンの助手席で、相変わらず携帯ゲーム機に外付けのモバイルアンテナを取り付けながら土直神が説明するのを、またジャージに着替えた清音と、こちらは変わらぬ背広姿の徳田が聞き入っている。
「ええっと……あのちっちゃい子は『殺促者』。ウルリッヒのデータベースによると、野生のケダモノも真っ青なルール無用の残虐超人。なんでも半径一メートル以内に近づくと目ン玉を抉られるとか。でも知能はそんなに高くないらしいんで、作戦や罠にはよくひっかかるらしい」
時刻はすでに三時を廻り、日は傾きかかっている。今彼らがいるのは、元城市の国道17号沿いにあるショッピングセンターの立体駐車場に停めた、徳田の大型ワゴンの中だった。
あのほとんど訳がわからないまま突入した三対三の戦闘の後。
清音は元の場所に戻ってはみたのだが、土直神の術の影響で大幅に地相が変化してしまったことと、先ほどの苛烈な殺気と闘志のぶつかり合いが、感光したようにこの辺りの”雰囲気”に焼き付いてしまったため、当分は神下ろしの術式を執り行うどころではなさそうだった。
このままここにいても仕方がないとの判断から、清音達四人は得るものがないまま、元来た河原を下って徳田の車に乗り込み、ひとまずは街で態勢を整え直しているのである。
「んで、一番厄介なのは、あのコートのおっちゃん。連中のまとめ役の須恵貞ってヤツだな。こいつはあのちみっこより、倍以上の脅威と考えといた方がいいやね」
最近の携帯ゲーム機はノートPCの真似事も出来るらしく、液晶画面をタッチペンで繰りながら、データを読み上げていく土直神。あのタバコ臭い男が駆使した術式の数々は、清音の使う術とはかなり系統が異なるようだ。恐らくは西洋の流れ。そして自然の力を借り受けるよりも、自然そのものを従え支配する思想に基づくもの。
「銀のプレートを使ったって言ったろ?ならたぶん、方陣魔術だぁな。悪魔と交渉して力を引き出す魔術とも、神の慈悲を願い授かる法力とも異なる、神サマの命令権を行使して俗世に奇跡を行使する”聖魔術”だぁね。魔方陣の刻まれたプレートをかざして簡単な呪文を唱えるだけのクセして、かなり強力らしい」
行使出来る力が弱いほど、組み合わせたり重ねがけしたり蓄えたり増幅したりして”術”に仕立て上げなければならない。本当に強い者が力を使う場合、柏手一つで魔を祓い、歩法一つで大地や大河すら操る事が出来るのだ。
「そーいや昔、有名どころの魔術結社の団長が発掘したとかって話もあったな。でも天使サマか聖者でもないと扱いは許可されないモノのはずなんだがなぁ……って、どしたん清音ちん?」
「……いえ。土直神さんって意外と博識だったんだなぁ、とちょっと感心してたところです」
「意外と、とは失礼な。見てくれよおいらを。いかにも内なる知性がにじみでてる顔だろ?」
「ええ。だから意外だと言ったんです」
「引っかかる言い方だぁな。まぁいいや。実際ウチはまっとうな神道からはずいぶん外れてるんで、その分こだわりなくあっちゃこっちゃの術を貪欲に研究して取り入れてるワケ。とくにあの方陣魔術のレパートリーは多彩だぁね。雷を起こす、銀の糸で敵を拘束する、なんて攻撃系から、失せもの捜し物についてもかなりの……」
不意に土直神は言葉を切り、ううんと一つ唸った。そして業界長いけど実物拝むのは初めてだねー、などとぶつぶつ呟く。だが清音は彼らの能力以前に、そもそもの疑問を解決しておかなければならなかった。すなわち、なぜ、彼らと戦うことになったのか。
「ほんで最後のあの兄ちゃんについては……あんまり情報がないけんど。まぁそこは、詳しそうなシドーさんから説明してもらいましょーか」
土直神の、そして清音と徳田が視線が一斉に四堂に向く。当の四堂はといえば、無言のまま運転席で食事を繰り返していた。
四堂が今口にしているのは、徳田にショッピングセンターの中のドラッグストアで買い込んできてもらった巨大な缶入りのプロテインに、袋詰めの上白糖をぶちこみ、牛乳を混ぜて練りあげたものである。
それを、無言のままペットボトル入りのスポーツドリンクで胃の中に流し込みながら、サプリメントの錠剤をおつまみ代わりにかじっている。
どうひいき目に見ても美味そうな食事ではなかったが、四堂は一向に意に介した様子はない。それもそのはず、これは食事ではなく、『補給』なのだ。不死身じみた再生能力とは言え、材料(・・)がなければ細胞は分裂できない。
損傷箇所の補修と、次に向けての物資の備蓄。そのために経口摂取するものは、栄養バランスが整って軽量でさえあれば良い。引き裂かれ、焼けこげた背広とは対照的に、まったく無傷の筋肉は、傍目に見てもあまりにも不自然に過ぎた。
「……昔の知り合いだ。たまたま遭遇したので戦闘を仕掛けた」
「……それだけ、ですか?」
「ああ」
それきり四堂は、ただ栄養補給のみに口を開閉させるだけだった。
ワゴンの助手席で、相変わらず携帯ゲーム機に外付けのモバイルアンテナを取り付けながら土直神が説明するのを、またジャージに着替えた清音と、こちらは変わらぬ背広姿の徳田が聞き入っている。
「ええっと……あのちっちゃい子は『殺促者』。ウルリッヒのデータベースによると、野生のケダモノも真っ青なルール無用の残虐超人。なんでも半径一メートル以内に近づくと目ン玉を抉られるとか。でも知能はそんなに高くないらしいんで、作戦や罠にはよくひっかかるらしい」
時刻はすでに三時を廻り、日は傾きかかっている。今彼らがいるのは、元城市の国道17号沿いにあるショッピングセンターの立体駐車場に停めた、徳田の大型ワゴンの中だった。
あのほとんど訳がわからないまま突入した三対三の戦闘の後。
清音は元の場所に戻ってはみたのだが、土直神の術の影響で大幅に地相が変化してしまったことと、先ほどの苛烈な殺気と闘志のぶつかり合いが、感光したようにこの辺りの”雰囲気”に焼き付いてしまったため、当分は神下ろしの術式を執り行うどころではなさそうだった。
このままここにいても仕方がないとの判断から、清音達四人は得るものがないまま、元来た河原を下って徳田の車に乗り込み、ひとまずは街で態勢を整え直しているのである。
「んで、一番厄介なのは、あのコートのおっちゃん。連中のまとめ役の須恵貞ってヤツだな。こいつはあのちみっこより、倍以上の脅威と考えといた方がいいやね」
最近の携帯ゲーム機はノートPCの真似事も出来るらしく、液晶画面をタッチペンで繰りながら、データを読み上げていく土直神。あのタバコ臭い男が駆使した術式の数々は、清音の使う術とはかなり系統が異なるようだ。恐らくは西洋の流れ。そして自然の力を借り受けるよりも、自然そのものを従え支配する思想に基づくもの。
「銀のプレートを使ったって言ったろ?ならたぶん、方陣魔術だぁな。悪魔と交渉して力を引き出す魔術とも、神の慈悲を願い授かる法力とも異なる、神サマの命令権を行使して俗世に奇跡を行使する”聖魔術”だぁね。魔方陣の刻まれたプレートをかざして簡単な呪文を唱えるだけのクセして、かなり強力らしい」
行使出来る力が弱いほど、組み合わせたり重ねがけしたり蓄えたり増幅したりして”術”に仕立て上げなければならない。本当に強い者が力を使う場合、柏手一つで魔を祓い、歩法一つで大地や大河すら操る事が出来るのだ。
「そーいや昔、有名どころの魔術結社の団長が発掘したとかって話もあったな。でも天使サマか聖者でもないと扱いは許可されないモノのはずなんだがなぁ……って、どしたん清音ちん?」
「……いえ。土直神さんって意外と博識だったんだなぁ、とちょっと感心してたところです」
「意外と、とは失礼な。見てくれよおいらを。いかにも内なる知性がにじみでてる顔だろ?」
「ええ。だから意外だと言ったんです」
「引っかかる言い方だぁな。まぁいいや。実際ウチはまっとうな神道からはずいぶん外れてるんで、その分こだわりなくあっちゃこっちゃの術を貪欲に研究して取り入れてるワケ。とくにあの方陣魔術のレパートリーは多彩だぁね。雷を起こす、銀の糸で敵を拘束する、なんて攻撃系から、失せもの捜し物についてもかなりの……」
不意に土直神は言葉を切り、ううんと一つ唸った。そして業界長いけど実物拝むのは初めてだねー、などとぶつぶつ呟く。だが清音は彼らの能力以前に、そもそもの疑問を解決しておかなければならなかった。すなわち、なぜ、彼らと戦うことになったのか。
「ほんで最後のあの兄ちゃんについては……あんまり情報がないけんど。まぁそこは、詳しそうなシドーさんから説明してもらいましょーか」
土直神の、そして清音と徳田が視線が一斉に四堂に向く。当の四堂はといえば、無言のまま運転席で食事を繰り返していた。
四堂が今口にしているのは、徳田にショッピングセンターの中のドラッグストアで買い込んできてもらった巨大な缶入りのプロテインに、袋詰めの上白糖をぶちこみ、牛乳を混ぜて練りあげたものである。
それを、無言のままペットボトル入りのスポーツドリンクで胃の中に流し込みながら、サプリメントの錠剤をおつまみ代わりにかじっている。
どうひいき目に見ても美味そうな食事ではなかったが、四堂は一向に意に介した様子はない。それもそのはず、これは食事ではなく、『補給』なのだ。不死身じみた再生能力とは言え、材料(・・)がなければ細胞は分裂できない。
損傷箇所の補修と、次に向けての物資の備蓄。そのために経口摂取するものは、栄養バランスが整って軽量でさえあれば良い。引き裂かれ、焼けこげた背広とは対照的に、まったく無傷の筋肉は、傍目に見てもあまりにも不自然に過ぎた。
「……昔の知り合いだ。たまたま遭遇したので戦闘を仕掛けた」
「……それだけ、ですか?」
「ああ」
それきり四堂は、ただ栄養補給のみに口を開閉させるだけだった。
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