人災派遣のフレイムアップ

紫電改

文字の大きさ
276 / 368
第7話:『壱番街サーベイヤー』

◆03:大陸の者たち-2

しおりを挟む
 ナリタ空港と都心を結ぶ東関東自動車道を走るリムジン。

 その内装は、成田空港と主要駅を結ぶ旅行者向けの”リムジン”バスなどとは異なり、実に豪華なものだった。運転席との間には仕切りがもうけられ、ハイビジョンテレビとオーディオセット、ワインクーラーまで設えられており、後部座席に座る三人の賓客をもてなせるようになっている。だが、後部座席に両脇を挟まれた格好でシートベルトを装着させられて座らされているファリスにとっては、リラックスなど出来ようはずもない。

「貴女たち、いったい私に何の用ですか」

 しごくまっとうな質問にも左隣の女……霍美玲かくみれいとやらは、微笑を浮かべるだけで答えようとはしない。そのくせに、ファリスが何か不穏当な動きをすれば、即座に押さえ込んでしまう予感がある。今パニックに陥ったら終わりだ。胸の中で凄まじい速度で膨れあがる焦りを必死に押さえつけ、ファリスは呼吸を整える。何か出来ることはないか。

 ハイビジョンテレビに眼を転ずると、分割された大画面に、刻々と移動するカーナビの地図、幾つかのウェブサイト、そしてテレビ番組が映し出されていた。カーナビなら彼女の国でも見かけないことはなかったが、こんなテレビは、そもそも車内に設置しようという発想が出てこない。

「……手荒な真似をして悪かったな」

 右側からかけられた唐突にかけられた声が、ファリスの思考を現実に引き戻した。右を向けば三人掛けのシートの左側には、ひとりの男が座っていた。……いや、落ち着いてよく見れば、それは男と言うより、少年というべき年齢の若者だった。

「あんた個人に危害を加えるつもりはないが、急いでいたんでな」

 ぶっきらぼうに声をかけつつ、ファリスとはなぜか視線を合わそうとしない。
 すると左隣の美玲が、たしなめるように口を開く。

「坊ちゃま、そういう時、王様しゃべらず、どーん、かまえている方が格好いいのコトよ」

 にこにこしながら美玲。英語を流暢に喋っている時は王族の風格すら漂わせるのに、日本語を使用すると、妙にたどたどしく、あどけない口調になってしまうようだった。

「坊ちゃまはやめろ。それから俺にはそんな虚仮威しは必要ない」

 そう返答した声は、やはり少年のものだった。

 歳の頃は十代の後半。もしかしたら、ファリスよりも下かも知れない。小顔と大きな瞳は、ややもすると童顔ととれなくもないが、への字に引き結んだ唇と、不機嫌そうにつり上がった目つきの方が、良くも悪くもその印象を裏切っている。

 体格は同世代の少年と比較すると小柄な部類に入るだろうか。服装はジーンズにスニーカー、パーカーとごくラフなもので、行儀悪く足を組んで広い車内に放り出している。だがこの高級車の車内でそんな仕草や服装をしていても、まったく浮いた印象はなかった。その原因に、ファリスはすぐに気づくことが出来た。ひとつは、服装はラフな印象を与えるようデザインされているだけで、その実すべてテイラーメイドの高級品であること。そしてもうひとつは、少年本人が身に纏っている気配だった。

 ファリスの知人にも同じ雰囲気の人間が何人もいる。高級なものを使うこと、人にかしずかれることを幼少の頃から「ごく当然のこと」と受け止めて育ってきた、高貴な血筋の者が持つ気配。ファリスは少し作戦を変えてみることにした。

「すでにご存じのようですが、私はファリス・シィ・カラーティ。ルーナライナ国王アベリフの第三皇女にして、大帝セゼルの系譜に連なるものです」

 公式の名乗り。ファリスと目線が合いそうになると、少年はちっ、と舌打ちをして、視線をハイビジョンテレビに戻した。そのまま言葉を続ける。

「なら、こっちが名乗らないのはフェアじゃないな。……俺はリュウリュウ颯馬ソウマだ。あんたには、華僑ゆかりの者、と名乗るのが一番判りやすいかな」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...