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第7話:『壱番街サーベイヤー』
◆03:大陸の者たち-2
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ナリタ空港と都心を結ぶ東関東自動車道を走るリムジン。
その内装は、成田空港と主要駅を結ぶ旅行者向けの”リムジン”バスなどとは異なり、実に豪華なものだった。運転席との間には仕切りがもうけられ、ハイビジョンテレビとオーディオセット、ワインクーラーまで設えられており、後部座席に座る三人の賓客をもてなせるようになっている。だが、後部座席に両脇を挟まれた格好でシートベルトを装着させられて座らされているファリスにとっては、リラックスなど出来ようはずもない。
「貴女たち、いったい私に何の用ですか」
しごくまっとうな質問にも左隣の女……霍美玲とやらは、微笑を浮かべるだけで答えようとはしない。そのくせに、ファリスが何か不穏当な動きをすれば、即座に押さえ込んでしまう予感がある。今パニックに陥ったら終わりだ。胸の中で凄まじい速度で膨れあがる焦りを必死に押さえつけ、ファリスは呼吸を整える。何か出来ることはないか。
ハイビジョンテレビに眼を転ずると、分割された大画面に、刻々と移動するカーナビの地図、幾つかのウェブサイト、そしてテレビ番組が映し出されていた。カーナビなら彼女の国でも見かけないことはなかったが、こんなテレビは、そもそも車内に設置しようという発想が出てこない。
「……手荒な真似をして悪かったな」
右側からかけられた唐突にかけられた声が、ファリスの思考を現実に引き戻した。右を向けば三人掛けのシートの左側には、ひとりの男が座っていた。……いや、落ち着いてよく見れば、それは男と言うより、少年というべき年齢の若者だった。
「あんた個人に危害を加えるつもりはないが、急いでいたんでな」
ぶっきらぼうに声をかけつつ、ファリスとはなぜか視線を合わそうとしない。
すると左隣の美玲が、たしなめるように口を開く。
「坊ちゃま、そういう時、王様しゃべらず、どーん、かまえている方が格好いいのコトよ」
にこにこしながら美玲。英語を流暢に喋っている時は王族の風格すら漂わせるのに、日本語を使用すると、妙にたどたどしく、あどけない口調になってしまうようだった。
「坊ちゃまはやめろ。それから俺にはそんな虚仮威しは必要ない」
そう返答した声は、やはり少年のものだった。
歳の頃は十代の後半。もしかしたら、ファリスよりも下かも知れない。小顔と大きな瞳は、ややもすると童顔ととれなくもないが、への字に引き結んだ唇と、不機嫌そうにつり上がった目つきの方が、良くも悪くもその印象を裏切っている。
体格は同世代の少年と比較すると小柄な部類に入るだろうか。服装はジーンズにスニーカー、パーカーとごくラフなもので、行儀悪く足を組んで広い車内に放り出している。だがこの高級車の車内でそんな仕草や服装をしていても、まったく浮いた印象はなかった。その原因に、ファリスはすぐに気づくことが出来た。ひとつは、服装はラフな印象を与えるようデザインされているだけで、その実すべてテイラーメイドの高級品であること。そしてもうひとつは、少年本人が身に纏っている気配だった。
ファリスの知人にも同じ雰囲気の人間が何人もいる。高級なものを使うこと、人にかしずかれることを幼少の頃から「ごく当然のこと」と受け止めて育ってきた、高貴な血筋の者が持つ気配。ファリスは少し作戦を変えてみることにした。
「すでにご存じのようですが、私はファリス・シィ・カラーティ。ルーナライナ国王アベリフの第三皇女にして、大帝セゼルの系譜に連なるものです」
公式の名乗り。ファリスと目線が合いそうになると、少年はちっ、と舌打ちをして、視線をハイビジョンテレビに戻した。そのまま言葉を続ける。
「なら、こっちが名乗らないのはフェアじゃないな。……俺は劉。劉颯馬だ。あんたには、華僑ゆかりの者、と名乗るのが一番判りやすいかな」
その内装は、成田空港と主要駅を結ぶ旅行者向けの”リムジン”バスなどとは異なり、実に豪華なものだった。運転席との間には仕切りがもうけられ、ハイビジョンテレビとオーディオセット、ワインクーラーまで設えられており、後部座席に座る三人の賓客をもてなせるようになっている。だが、後部座席に両脇を挟まれた格好でシートベルトを装着させられて座らされているファリスにとっては、リラックスなど出来ようはずもない。
「貴女たち、いったい私に何の用ですか」
しごくまっとうな質問にも左隣の女……霍美玲とやらは、微笑を浮かべるだけで答えようとはしない。そのくせに、ファリスが何か不穏当な動きをすれば、即座に押さえ込んでしまう予感がある。今パニックに陥ったら終わりだ。胸の中で凄まじい速度で膨れあがる焦りを必死に押さえつけ、ファリスは呼吸を整える。何か出来ることはないか。
ハイビジョンテレビに眼を転ずると、分割された大画面に、刻々と移動するカーナビの地図、幾つかのウェブサイト、そしてテレビ番組が映し出されていた。カーナビなら彼女の国でも見かけないことはなかったが、こんなテレビは、そもそも車内に設置しようという発想が出てこない。
「……手荒な真似をして悪かったな」
右側からかけられた唐突にかけられた声が、ファリスの思考を現実に引き戻した。右を向けば三人掛けのシートの左側には、ひとりの男が座っていた。……いや、落ち着いてよく見れば、それは男と言うより、少年というべき年齢の若者だった。
「あんた個人に危害を加えるつもりはないが、急いでいたんでな」
ぶっきらぼうに声をかけつつ、ファリスとはなぜか視線を合わそうとしない。
すると左隣の美玲が、たしなめるように口を開く。
「坊ちゃま、そういう時、王様しゃべらず、どーん、かまえている方が格好いいのコトよ」
にこにこしながら美玲。英語を流暢に喋っている時は王族の風格すら漂わせるのに、日本語を使用すると、妙にたどたどしく、あどけない口調になってしまうようだった。
「坊ちゃまはやめろ。それから俺にはそんな虚仮威しは必要ない」
そう返答した声は、やはり少年のものだった。
歳の頃は十代の後半。もしかしたら、ファリスよりも下かも知れない。小顔と大きな瞳は、ややもすると童顔ととれなくもないが、への字に引き結んだ唇と、不機嫌そうにつり上がった目つきの方が、良くも悪くもその印象を裏切っている。
体格は同世代の少年と比較すると小柄な部類に入るだろうか。服装はジーンズにスニーカー、パーカーとごくラフなもので、行儀悪く足を組んで広い車内に放り出している。だがこの高級車の車内でそんな仕草や服装をしていても、まったく浮いた印象はなかった。その原因に、ファリスはすぐに気づくことが出来た。ひとつは、服装はラフな印象を与えるようデザインされているだけで、その実すべてテイラーメイドの高級品であること。そしてもうひとつは、少年本人が身に纏っている気配だった。
ファリスの知人にも同じ雰囲気の人間が何人もいる。高級なものを使うこと、人にかしずかれることを幼少の頃から「ごく当然のこと」と受け止めて育ってきた、高貴な血筋の者が持つ気配。ファリスは少し作戦を変えてみることにした。
「すでにご存じのようですが、私はファリス・シィ・カラーティ。ルーナライナ国王アベリフの第三皇女にして、大帝セゼルの系譜に連なるものです」
公式の名乗り。ファリスと目線が合いそうになると、少年はちっ、と舌打ちをして、視線をハイビジョンテレビに戻した。そのまま言葉を続ける。
「なら、こっちが名乗らないのはフェアじゃないな。……俺は劉。劉颯馬だ。あんたには、華僑ゆかりの者、と名乗るのが一番判りやすいかな」
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