人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第7話:『壱番街サーベイヤー』

◆19:ミックスカクテル(その1)-3

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「や、これは助かる。……良かったら、ピザたべる?」
「えっ」

 反射的に皿に視線を移しかけ、目を伏せた。正直なところ、今日の乱闘続きで昼に食べたタイカレーはすでに消化し尽くしており、ドリア一皿程度では到底カロリー消費を補いきれていなかったのである。

「ぼくこれでも体型維持のためにカロリー制限しててね。半分も食べないから。どーぞどーぞ」

 年寄り臭いセリフとともにボリュームあるピザの皿を差し出す。理性と礼儀と食欲が二秒ほど葛藤し、後者に軍配が上がった。

「そ、それじゃあ、少し、頂きます。……今日もお仕事帰りなんですか?」
「んー、ちょっと違うかな。夕飯は軽く済ませて、仕事をするのはこれから。お客さんがどうしても夜がいいって言うんでね。せっかくだから、昼は東京観光に回したんだよ」
「観光、ですか?」

 思わずまじまじと見てしまう。この男の顔立ち、そして発音は完璧に日本人のものだった。今日一日(名目上の)観光案内をしていた浮き世離れした銀髪の皇女と比べるとどうにも違和感がぬぐえなかった。

「ああ。ぼくは日本人なんだけど、最近ずっと日本を離れていたんだ。せっかく戻ってきたから、東京の思い出の場所を巡っていたんだよ。会いたかった人も二人ほどいたしね。いやはやさすがはトーキョー、ちょっと目を離すとすぐビルが生えてくる。思わず刈り取りたくなっちゃうよ」

 高層ビルを空き地に生えた雑草か何かのように言う。

「ぼくが昔居た大学も近くにあってね~。変わってるものもあり、変わっていないものもあり。懐かしくってついつい長居しちゃったよ。あ、会いたかった奴ってのは大学の後輩なんだけどね、あいつめ、学校サボってバイトに精を出してるらしく、いなかったんだよ」
「あ~、やっぱりそういう人、多いんですか」
「多いねえ。まったく困ったものだ。学生の本分は勉強だと言うに。――まあいいよ。会いたかったもう一人には、今ここで会えたからね」

 男は屈託のない笑みのまま、真凛の顔をじっとみつめた。

「――え?」
「七瀬真凛、さんだよね」

 真凛の瞳孔がすっと細くなる。もしや先ほど倒した『南山大王』の関係者か。そこにはすでに世間に疎い女子高生ではなく、武道家の顔があった。警戒に気づいたのか、男は大げさに両手を振った。

「あーいや!ごめんごめん!これじゃ完全に不審者だよね。言い直すよ。アルバイトで陽司のアシスタントをしてる子、だよね?」
「えっ!陽司の知り合いなんですか?」
「昔ね。結構これでも、仲は良かったんだよ」
「昔のアイツ、……って」

 どんなヤツだったのか。以前少しだけ聞いたことがあったが、その時はケンカ状態でありとても教えてくれる状態ではなかった。この男は知っているのか。そう疑問をぶつけようとした時。

「やー君のことは知り合い経由で良く聞いててねー。陽司のやつが事あるごとに君のこと語っているっていうから気になって気になってさ。いやはやいやはや、まさかこんな可愛らしい子と毎日一緒にバイトしているとは!あの人間不信のひねくれ者にはちと果報が過ぎるというものだよ。バイト先が高田馬場にあるっていうから寄ってみたらまさかのドンピシャ」
「っ、そ」

 そうなんですか?知り合いとは誰なのか?というか、亘理陽司が自分のことを事あるごとに話しているとはどういうことか?可愛らしいとはどういうことか?というか貴方そんなに陽司と親しいんですか、どういう関係ですか――瞬時に脳内が複数の疑問で焼き切れかけ、言葉が詰まる。どうにか口を開こうとしたが、

「――そうなん、」
「飲み物お代わりいる?」

 結果、七瀬真凛はいずれの質問も口にすることはできなかった。
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