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偽善者と還る理 十七月目
偽善者とPK妨害 その03
しおりを挟むその場に居る全員に緊張が走る。
見えるのに見えない、見えないのに見える男はノイズを散らし、突如現れた。
「どうしたガキ共? そんなに群れて、仲良くおままごとか? おいおい、その見た目でやるのは止めとけって……今なら特別に、このお兄さんが遊んでやるからよぉ」
「はぁ?」
「せっかくのクエストだ。やらせてやるのが筋ってもんだろぉが。邪魔してやんなよ──たかが一度くらい負けただけで」
「お、俺は負けてねぇ!」
叫ぶPKたちの代表者。
だが、男は飄々としたまま、その者を無視してフレイたちに話しかける。
「そっちのハーレム野郎と愉快な仲間たち、ここは俺に任せて先に行きな」
「で、ですが……!」
「あーあー、置いていけないなんて寒いこと言うんじゃねぇぞ。オレはオレのために、目的があってここに居るんだよ。何かしてぇことがあんなら、レイドボスをさっさと倒してからにしろ……話はそれからだ」
「しかし──!」
フレイは己の信条から、決して誰かを見捨てるような選択肢を取りたくはなかった。
前に進み出ようとする彼は、しかし動かない体に後ろを振り向く。
──そこには、少女たちが居た。
「フレイ、行こう」
「で、でも……」
「フレイ君。貴方がやらなければならないことはなんですか? ここで彼の言葉を無視して邪魔をして、予てから決めていたレイドイベントに参加しない……約束を、果たす気はないのですか?」
「くっ……」
フレイはとある少女と約束した──必ずレイドボスがドロップするアイテムを持ち帰ると……そして現在、彼はここに居る。
物事には優先度が存在し、少女は目の前の男よりも優先すべき存在だった。
「──お願いしても、いいですか?」
「お願いもおねだりも関係ねぇよ。さっさと行け、オレはコイツらを全部殺したら帰るからな。何か言いてぇなら早く戻ってこい」
「はい!」
フレイたちは歩を進める。
空間魔法によって生みだされた壁は、男の介入によって消失していた。
彼らを阻むモノは何もない──否、阻もうとする者はまだ存在する。
「俺たちを無視してんじゃねぇよ! 野郎ども、さっさとコイツらを殺すぞ!」
『おうっ!』
「だから、させねぇって言ってんだろ!」
フレイたちの周囲を囲もうとするPK集団だった……が、突如足元から崩れ落ち、全員が地に伏せた。
そこにあったのは闇──ズブズブと沼のように生まれた穴へ、脚が沈んでいるのだ。
「早く行け、さっさとよぉ!」
その言葉に促されるように、フレイたちはフィールドの奥へ向かっていく。
彼らのパーティーが居なくなると、当然追いかけようとする──だがそこへ、空間の壁が塗り潰されるように闇色の壁が現れる。
「さーてと、これでテメェらはここから出れなくなったわけだ。逃げることも、追いかけることもできずにくたばる気分だどうだ? とってもわくわくするだろ?」
「何なんだよお前……何がしてぇんだよ!」
「なんだもいいだろ? オレが目を付けていた奴を殺そうとした、道を阻もうとした時点でテメェらは終わったんだよ。外道は王道になれるわけねぇんだから、さっさと死んで神殿に逝ってこい」
男は強く地面を踏み付ける。
すると闇は呼応するように起き上がり、沈むPKたちを地表に吐きだす。
呑み込まれずに警戒していた者たちとすぐに合流し、男に向けて最大限の警戒を行う。
「というかテメェらはさぁ、たった独りを相手にここまで警戒してんのかよ。ダッセェなおい、雑魚すぎんだろ」
「……挑発なら応えねぇぞ。あのクソガキ相手に、そういうのは懲りたからな」
「そりゃあいいことだ、一つ学んだな。なら隠そうと思ってたが──“闇獣”」
再び地面を踏むと、男の影が蠢き一体の獣となった。
光を喰らう闇色の狼は、ギロリとPKたちに鋭い視線を向ける。
「さて、二対……数えるのが面倒だな。とにかく二対大勢、まだまだ俺の方が有利だ」
「邪魔すんなよ。俺はあのクソガキをどうしても殺したい……どれだけ長い間、アイツのことを想っていたことか!」
「そんなの知らねぇよ。お前の想いとやらはオレの考えよりも弱くて、弱肉強食のルールでオレの糧となった……それだけだよ」
フレイたちがレイドボスを討伐するまで、まだまだ長い時間を要する。
その間に、もう一つの死闘が行われた。
◆ □ ◆ □ ◆
「死と闘うと書いて死闘……けどまあ、それに主語は入ってねぇもんな」
勝手にモノローグを付けてみたが、実際負けないんだから仕方ない。
そもそも俺が負けるということは、眷属が大暴れするという最悪の結末だしな。
「て、テメェ! 正々堂々と勝負しろ!」
「うわぁ、テメェらがそれを言うのかよ。俺は魔法を使っただけ、アイツらの道を魔法で阻もうとしたテメェらに、そのことをとやかく言う権利はねぇよ」
「クソがぁ!」
しかしまあ、直接主人公候補を見るのは初めてだった気がするな。
クラーレたちと冒険をして、固有能力を狩ろうと思っていたが……数人分しか見つけられなかったし、なかなかに難しい。
「さてさて、物語は進んでいく。火の少年は少女のために、強敵に挑む。そして力に目覚め、討伐に成功するって……感じか? これが済んだら、目的を果たそうか」
今はそのために、駆除を行おう。
──候補者に纏わりつく邪魔な害虫の。
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