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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目

偽善者とレイドラリー中篇 その05

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「──がはっ、げほっ、ごほっ……」


 目の前で偽者が──『俺』が消えていく。
 すでに白い箱も黒い箱も失われたこの場所において、ヤツが復活することは無い。

 たとえその可能性があろうと、発動しているモブ化の魔導の力によってその発露は完全に妨げることが可能だ。

 しかし、勝者である俺なのに、ダメージが大きい。
 モブ化しているのは俺も同様で、多少鍛えたとしてもメルスモブだった。


「もう少し、鍛え、ないとな……」


 筋トレなどはしていたはずだが、積み重ねも微々たるものだったようで……非常に泥仕合っぽい幕引きだったよ。

 魔石やポーションでブーストしていなかったら、負けていたのは俺だった気がするし。


「職業に就いていること……忘れてた」


 追い込まれた原因である。
 身力値と能力値に制限を設けることで、間接的にスキルは封じていた。

 しかし職業が与える恩恵に関しては自身がまったくあやかれないため、少々おざなりになってしまっていたのだ。

 そして、過去の俺が就いていた職業の一つは【闘王】……お分かりいただけただろう。


「クソッ、どうせならもっと華麗に勝利したかったというのに……完全に死にかけ状態だろ、これ。【聖人】や【勇者】なんかにも就かなければよかった」


 などと愚痴っていると、完全に『俺』が粒子となり宝箱が配置される。
 張っていた気が緩み、深ーーくため息を吐く余裕が与えられた。

 モブ化の魔導はまだまだ発動時間が長いので、時間潰しに宝箱の中身を予想したりして解除の時間を待つ。


「──“心身治癒グランドキュア”……よし、ちゃんと回復できるな」


 回復系最上位魔法の一つを使い、疲れ切った心と体を癒す。
 魔力は魔導が解除された瞬間に大量に戻ってきたので、気にせず使うことができた。


「宝箱の中身をチェックチェック……ふむ、罠とかは無いみたいだな」


 いちおうでも『俺』は運営神が創ったヤツだ……何かしらの最後っ屁を残しているかもしれないと思ったが、さすがにそこまで俺の考えを再現してはいないようだ。


「中身は……『厄災の宝珠』。いったい、何と景品交換できるんだよ」


 自分を倒すことで装備品が量産できるってか? いや、『俺』の皮膚とか細胞とか……呪いに使えるような物を配るんじゃ。


「それじゃあさっそく、帰ると……ん?」


 転送陣で帰還しようとすると、ずいぶんと聞いていなかったアレが再び脳裏に響く──


≪ただいま、神敵の討伐が行われました。これにより、当エリア『神査の霊廃堂』における特殊システムが起動、ユニークボスモンスター『ザ・グロウス』が解放されました≫

≪条件を満たした場合、戦闘に勝利せずともランダムで宝珠を手に入れることができますので、皆さま振るって挑戦してください≫


 ユニークボスモンスター……『超越種』と同じ分類ってことか。
 しかし本来『超越種』は、運営神より前の神々によって創られた存在のはず。

 それに『還魂』のアイドロプラスムことアイも、そんな名前のヤツは知らなかった。
 単純に存在が確認されていなかった可能性も高い……しかしそれ以上の心当たりが俺にはある──


「まさか……創ったのか、自分たちで新しい『超越種』を……」


 リオンがまた発狂してしまう。
 いったいどれだけのリソースを費やせば、そんな所業ができるというのだろうか。

 そしてそれを行うだけのリソースがあったなら、リオンがどれだけ有意義な活用法を見出せたことやら。


「確証は無いけど、間違いなく情報収集用のためだよな。だって、成長グロウスだし」


 わざわざ高い餌で釣り上げるのは、より多くの被験者を集めるため。
 そしてそのすべてを糧として、『超越種』は力を蓄えていく。

 初代偽者も:戦闘再現:を使ってきたぐらいなので、運営神はそれなりに情報収集を行うぐらいの知恵はあるのかもしれない。

 その活用法は未だ不明だが、わざわざこの流れでアナウンスが鳴るということは、完全に俺に関する事柄が理由だろう。


「どんだけ俺のことが好きすぎるんだよ」


 一プレイヤーにそこまで注力するゲームがあったら、間違いなくクソゲー扱いされる気もするだろうが……ここは『AFO』、何でもありの世界である。

 神の被創造物でしかない俺たち人は、こうして弄ばれる運命なのかもしれない。

 ──もちろん、そんなクソッたれな人生はゴメンこうむるので、少なくともこっちの世界では全力で足掻かせてもらうけれど。


「……とりあえず帰ろっか。安全地帯で快復しながら眷属と情報を共有しておこう」


 念のため魔力を<久遠回路>へくべ、さらなる魔力を増幅しておく。
 一定量が溜まったら、『厄災の宝珠』を収納して元のエリアに戻る。

 ──さらば、俺の偽者よ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 てっきり誰か(主にアルカ)に襲われるかと思っていたのだが、誰の出迎えもなく神殿から逃げることに成功した。

 無人の場所に結界を構築して引き籠もり、しばらくは休養を取ることになる。
 なにせフルボッコにしようと思ったら、逆に殴り返されて傷ついた身だからな。

 おまけに厄介な職業が追加されていたせいで、真の意味で万全な状態とは言えない。
 その休憩も兼ねて、しばらくは様子を窺うとしよう──もちろん、保険は用意してな。


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