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偽善者と公害対策 二十五月目

偽善者と旅での修行 その01

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連続更新となります(05/12)
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 ヴァナキシュ帝国 冒険ギルド


「よーし、頑張るぞー!」

「メルちゃん、その恰好はいったい……」

「あんまり似合わないかなー?」

「いえ、とても可愛らしいのですが……なんでしょうか、この敗北感は」


 クラン『月の乙女』。
 女性だけで構成されたこの集団において、俺……いや、メルはマスコットであり切り札的存在だ。

 ただし、彼女たちが了承したうえで能力に縛りを設けているため、その都度頼れるものに違いが生じている。

 今回の縛りは──聖職者。
 先日ネロが行ったように、聖人っぽく振る舞い格を上げるのが目標だ。

 そのため衣装も奮発しており、彼女たちもみんな目を奪われている。
 眷属譲りの愛らしさを持ったこの姿に、世界でもっとも貴重な服を着ているからな。


「……鑑定が効かないんだけど。メル、いったいこれは何なの?」

「『死葬の修道服』セットだよ。セット装備すべてを着ていると、いろんな装備補正が付いてくるんだ」

「仰々しい名前ね……逆に見れなくて正解な気がしてきたわ」

「ひどいなー。私もますたーたちの役に立つため、張り切って着てきたんだから」


 まあ、先日学んだ話術を試しにリーンの神殿に行ったら、ぜひ着てほしいと二人の聖女様に言われてしまったというのもあるが。

 ちなみに格好の詳細な説明をすると──頭巾なし、ベールとワンピースのシスター服。
 デザインは当然、元となった『還魂』ことアイの物を踏襲している。

 セット装備の効果は……数が多すぎて説明しがたいが、さすがは試練の報酬になっているだけある、と言えば分かりやすいだろう。


 閑話休題まさにチートアイテム


 そんなわけで、今回の俺はシスターっぽく支援を行うことになる。
 ただ、同じポジションであるクラーレが居るので、あんまり働かなくてもいいのだ。


「けど、ますたーはまだ使いこなしていないからねー」

「うぐっ!」

「私が教えられることはもう何もない。魔力の制御、それにスキルの負担軽減もだいぶ上手くなっているよ。それでも使いこなせていないのは、ますたー自身に問題があるから」

「……はい、そうですね」


 クラーレの固有スキル【万能克復】。
 死者蘇生すら可能とする能力だが、その代償は彼女自身がその身を捧げること。

 その代償を極限まで抑え込むため、彼女はさまざまなことをした。
 その果てに俺の眷属へなってもいるし、助けたいんだが……俺は偽善者である。


「今回トレーニングするのは、私の眷属としての力かな。眷属同士で鍛えることもできるけど、私に近ければ近いほど印の性能は高くなるからね。ますたーには、今回私が居る間に使えるようになってもらうからね」

「シガぁン……」

「そんな捨てられる小動物みたいな目をしないでちょうだい。メルはあなたのことを思ってやってくれるでしょう?」

「お、想って……そ、そうですね! メル、よろしくお願いします!」


 ふんす、とやる気に満ち溢れたクラーレに疑問は残るが、誰も気にしてないようだ。
 今回何をするかはまだ聞いていないが……どんなことであれ、修業は行おう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 彼女たちが帝国に来ていたのは、数あるレベル上限解放クエストの中でも、知られている場所として、もっとも高いレベルまで解放することができる国だったからだ。

 レベルはすでに上げ終わっていて、周辺での活動もだいぶやっている。
 ……死者の都に行きたがっていたが、そこは諦めてもらった。


「それで、ますたーたちはどこに行くの?」

「本当は井島に行きたかったけど……止めておいた方がいいのよね?」

「うん、今はまだ祈念者の排斥運動がやっているからね。ますたーたちは行かなかったけど、東の方だとアンデッドを使って死に戻り対策なんかもしているからね。ちなみに、一番偉い人は織田家だよ」

「……その家名だけで、どうしてそんなやり方なのか理解できてしまうわね」


 知られているのが悪逆非道の数々だから、彼女たちの反応も引く感じのものばかり。
 話をする限り、手段を択ばないだけで悪人というわけではないんだよな。


「とにかく、東がダメなら今度は西よ。初期じゃ森は通れなかったけど、今は普通に通れるし、情報もだいぶ多いわ。依頼を受けながらゆっくりと行きましょう……異論はないわね? それじゃあ、依頼を探すわよ」

『おおっ!』


 彼女たちは掲示板に向かい、西へ向かう道中で訪れる場所に関する依頼が無いかチェックし始める……一石二鳥だし、普通お金は必要だからな。

 俺は席を動かず、そんな彼女たちの様子を親の気分で眺める。
 いろいろとあったが、自然と受け入れてくれるようになったんだよな。


「西となると、まだまだ行ってない場所が多いもんね。眷属のみんななら、結構行ってそうだけど……せっかくだし、訊いてみた方がいいのかな?」


 俺だけの問題ではなく、『月の乙女』に関わる情報だし。
 知ったうえで何も言わないのと、知らないから言えないのではまったく意味が違う。


「たしか、ティンスとオブリが西に行ったことがあるとか言っていたような言ってなかったような……とりあえず訊いてみようっと」


 そんなことをしながら、依頼が決まるまでの時間を潰す。
 出発の時は……そう遠くはない。


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