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偽善者と終焉の島 後篇 八月目
偽善者と封印邪神 その01
しおりを挟む夢現空間 修練場
「あぁ……酷い目に合った」
『自業自得じゃないんですか』
「……結局洗いざらい情報を提出しても、まだそれを言われるんだな」
『情報はどれだけあっても足りないなんてこと、絶対にありませんからね。メルスさんも今度からは気を付けた方が良いですよ』
「へいへい。リュシルも俺みたいにならないよう、気を付けてくれよ」
あの後、俺は直ぐに情報を吐いた。
カツ丼を待たずとも自分で用意できたし、何より嘘を吐いても意味の無い集団相手にどうやって心理戦に持ち込むっていうんだよ。
レイにこっそりと念話をし、情報を一部流出を許可してもらってから、俺はそれらを大人しく吐いた。
本当に言ってはいけないことも時にはあるのだ。
相手の機微が良く分かる三人も、さすがにそこを深く掘り下げようとはしなかった。
なので、必要最低限に彼女達が訊きたかった部分――レイたちについての情報を吐き、その詰m……質問はお開きとなった。
「――じゃあ早速、邪神様の元へと行ってみるとしますか」
『……あの、気を付けた方が良いと言ったばかりなのですが』
「大丈夫大丈夫。その内行くこと自体は、昨日言ってただろう?」
『それは……そうなのですが』
「なら――思い立ったが吉日、その日以降は全て凶日だ。……って、俺は常に凶運だったから意味ないな、これ」
『急に漫画から持って来ないでくださいよ』
まぁまぁ、別に良いじゃないか。
最近はグルメな食材も、一部だけなら再現できるようになったんだしよ。
既に俺の手には黒い意匠の施された鍵が握られており、いつでも邪神の元へと向かえる準備はできていた。
「残念なことに、そこには俺しか直接は行けないみたいだからな。いつもみたいにフラッと帰って来るのを待っていてくれよ」
『……本当に、行けると思ってますか?』
「え?」
その言葉に、俺の全身がゾクッとする。
まるで、体中を舐め回すように見つめられているかのように……って、
「――何やってるの? 全員で」
『いえ、お気になさらずメルス様』
「いや、なら扉への道を塞がないでくれよ。それじゃあ通れないだろう」
『ここを通りたければ――わたしたちの屍を越えていってみてください!』
「……いや、できないから。屍にしたくないからな、お前たちを」
邪神と眷属と、どっちが大切かなんて直ぐに分かる問題だ。
両方が同時に困っているなら、俺は迷わずに眷属の元へ向かうさ。
「――ま、それとこれとは今は関係無い話だけどな(――"転移眼")」
『……一体どこへ!?』
初め、アンは俺の転移先を扉の前だと考えたらしい……が、そちらではない。
俺が移動したのは……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
???
「――フゥ、ここが邪神のいる空間か」
(転移眼)を使って飛んだのは、鍵に登録された座標位置であった。
熟練の域に達した今の(転移眼)ならば、座標とそこへ行く為に必要な力(<次元魔法>等)があれば、そこへ行くことも可能なのだ。
……にしても、やけに(神氣)の消費が激しい移動だったな。
『中級神』になっていたから良かったものの、もし『下級神』のままなら失敗に終わってたよ。
「さーてと、邪神様はどちらにいらっしゃるのかね~」
飛び込んだその空間は、鍵や扉が放っていたオーラ同様に昏いものであった。
光を呑み込むような真っ暗な世界……だけど、そこには冷たさを感じない不思議な感覚がある。
かつて過去の王都で戦ったレイブンが放っていた瘴気とは違う暗さで、例えるなら……心を癒す夜? みたいな感じだな。
うん、俺の詩的センスは低いからな。
自分でも何を言っているのか皆目見当が付かないや。
暗視系の(神眼)を発動し、この空間のどこかにいる邪神を探す。
そして、暫くすると――
「あ、多分アレが邪神だな。レイが言っていた通り、鎖で縛り付けられているし」
俺の視界には、クエラムのように大量の鎖が体中に絡まっている少女を見つけた。
目を閉じているので瞳の色は分からないのだが、髪はこの空間と同様に純黒である。
身長はそこまで高そうに見えないが……神は容姿も自在にできるんじゃないか?
まぁ、そこはどうでも良いか。
偽善者にとって必要な事象は、困っていそうな人が、困っているような事態に陥っているということだけだしな。
「えっと……とりあえずチェックと」
クエラムのときのように、実は人が姿を変えた鎖……なんて代物だと困る為、とりあえず(鑑定眼)で視てみることに――
「名前は"邪縛の聖鎖"ね~。鎖というアイテムな時点で、聖も邪もあるのかどうか気になるところがな~。……外すと爆発してそれが知らされる、装備中は常時(神氣)を抑制して吸収する。後は隷属効果がある……うん、またこの方法で行くとしようか」
フィレルの時に用いた方法――入れ替わりからの身代わり交換――によって、即脱出となる。
あ、勿論のことだが、鎖はスタッフが丁寧に回収したぞ。
『……ん、ん~~』
「お、起きたな」
寝ぼけ眼を開く少女。
その瞳の色は、髪と同様に真っ黒なものであった。
……うん、まだ話してもいないのに何故か病んでいるように見えるな。
『……ん、ん!?』
「よ、俺はメルス。レイに頼まれてここに来た偽善者だ」
『…………』
「え? 何か言ったか?」
ボソボソと何かを呟いているようだったので、耳を澄ます為に顔を近付けると――
『死ぬのだ! メルス!!』
「え、いやちょっと待っチェギュ!」
――そのまま顔面に蹴りを受けた。
もう、何がどうして?
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