催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武

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大きな戦いに挑もう

裏側は大忙し

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 ???

 ここではないどこか。
 また、真っ白な地平線が広がる場所。

『──何なんだ、あの【怠惰】は』

『異常、その一言に尽きますね』

『詩戦システム、いや世界すらも欺いたあの魔法。それに、自身が語っていた【導士】』

『何度目でしたっけ? その二つが、同時に発現した奴って?』

 木霊する声が二つ。
 彼らは自分たちの前に映しだされた光景を観て、ただただ唖然としていた。

『ブレイクスルーがひどすぎる! なんだあれは、どれだけエラーが起きたと思っていやがるんだアイツは!』

『破壊して無視、ですけどね。けど、たしかに今回は異常です……【英雄】の過程を無視した強制覚醒、破壊不能オブジェクトへの介入、『英傑』たちの能力複製、極めつけはこれですか──』

『戦績改変だと!? アイツが最低評価を自分から選んだからよかったものの、もし全員が最高評価なんてことになっていたら──その時点で世界が滅んでいたぞ!!』

『まあ、出される物が物ですしね。その点、彼と上手く交渉したコイツはずいぶんと運がいい。最悪、死んでたかもしれないのに』

 彼らは世界詩篇によって実行された、今回の詩戦システムの総評を語っていた。
 とはいえ、今回は異常事態が発生した結果強制的に見せられている、とも言えるが。

 切っ掛けは【怠惰】の因子を与えられた召喚者が、複合詩篇に選ばれたときだ。
 本来ではありえない速度で運命に干渉する召喚者を、彼らは監視対象に決定した。

 そしてログ機能にアクセスし、情報を洗い直そうとし──驚愕した。
 なぜならば、記されているはずの召喚者に関する記録がいっさい無かったのだ。

 定点の情報網からかろうじて映る例の召喚者の活動を調べ、知った異常な行動の数々。
 何より、召喚者と関わった者たちの大数が同様に特異行動を取り始める始末。

 彼らはそのような現象を引き起こす存在のことを──『導士』と呼び、恐れていた。

 彼らの支配下に存在する七つの因子。
 その一つ、【怠惰】を宿しながら【導士】でもある召喚者──イム。

 彼の行動を観察し、知った今回の活動。
 監視者たちは世界を滅ぼしかねないその行動の数々に、冷や汗を掻いていた。

『で、どうしますか? もういっそのこと、【救世主】でも使っちゃいますか?』

『それはダメだ! ……いいか、お前は知らないだろうが、さっき言っていた二つを同時に使うヤツ。こっちのではなくアイツら側の因子でだが、それが発生したことがある』

『……どうなったんですか?』

『【魔王】が根こそぎ滅ぼされ、因子持ちも殲滅だ。あっちもこっちも関係なく、そのときの被害は尋常じゃなかったよ。最後にはお前の言った【救世主】も出てきて、世界はズタボロ……直すのに数十世紀掛かったぞ』

 それは、イムたちが召喚されるはるか昔に起きた出来事。
 システムも不完全だった当時、異常個体として誕生したのが例の二つ持ち。

 イムと異なり好戦的だったその者は、最終的に世界を半壊させるほどの戦闘を行い──封印された。

 今の時代、その者は恐怖の象徴として恐れられている……誰もその地を訪れず、何者も触れさせないようにするため。

『とりあえずは様子見だ。どうやらコイツは何もされない限りは、ただニートみたいな生活で満足しているみたいだし』

『おそらくは放置ですね……何かあったらアラームが鳴るようにしておきましょう。条件はどうしますか?』

 そして、苦肉の策が実行される。
 イムが本格的にとある行動を始めるまで、世界は平和であり続けるのだった。

『──ヤツは、厄災だ!』

  ◆   □   ◆   □   ◆

 ???

「──戻ってこれました」

 少女の視界には、懐かしき光景が浮かぶ。
 彼女は先ほどまで意識を手放しており、目覚めるまでに三時間ほどを要していた。

 しかし、夢のような場所では長い時間が経過しており、そこで過ごしていた少女もまた濃密な経験を得ていたのだ。

 辺りを見渡し、情報を集める。
 火の消えた焚火台、森の中、遠くに見える連なる山脈……そういった物から己が何を成そうとしていたのかを思いだしていく。

「そうでした、たしか私は【英雄】として誰かの役に立ちたいと旅をしていましたね」

 自分でも、口に出して再認識しなければならないほど、夢のような場所で過ごした時間は過去のすべてを圧倒する物だった。

 実際には三時間ほどしか変わっていない。
 しかしそれでも、夢のような場所へ行く前と後とでは決定的に違うものを少女はいくつも知っていた。

「たしかこういうときは……『探索人形シークドール』」

 その手に嵌められた指輪が輝くと、一体の人形がどこからともなく現れる。
 それをごく自然とし、魔力を指先から糸状に伸ばして人形に接続していく。

「それじゃあ、よろしくお願いします」

『…………』

 コクリと頷いた人形は、そのまま辺りの警戒を行うために移動を開始する。
 視界に映った情報は少女に還元され、その場に居ながら情報が手に入る仕組みだ。

 欠点は、それを行うためには超絶的な技巧が必要だということ。
 だが今の少女であれば、それを十指で同時に行うことができるだけの才覚を持つ。

「イムさんにお会いするまで、どれだけ時間が掛かるのでしょうか? いっそのこと、自分から会いに行く、というのも驚いてくれるかもしれませんね」

 少女──サリスはそう言って苦笑する。
 彼は絶対に驚かないだろうなぁ、と考えて人形に意識を注ぐ。

 ──すべては、この迷宮『不帰の迷樹』から脱出するために。

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