催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武

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いろいろ考えよう

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 魔王領 大使館

 前回──第二王女襲来の反省を生かし、今回は魔王領で優雅な一日を送ることに。

 館の中には住人がいっぱい居るものの、そこに『※生者限定』と絞り検索を掛けてしまえば解答は1としか出ないこの建物。

 ──いわゆる幽霊屋敷である。

 そんな幽霊たちを大量ゲットし、労働力として活用する俺……生きてないから労働基準法とかには反していないとこじ付けておく。

『おはようございます、ご主人様』

「……誰?」

『フェールです。この通り、名札も付けていますのでお見知りおきを』

「分かった……幽霊メイドでいいか?」

 そう告げると名札を目の前に押し付けてくるので、仕方なく覚えたと伝える。

 名札が剥がせないからといって体ごと迫るのはいいが、幽霊だから内側まで透けてしまうことを忘れないでもらいたい。

『ご主人様、幽霊の体がお好みなので?』

「いや、別に性欲とか湧かないからな。顔は世間一般から見て美人だと思うが、俺自身からすると綺麗という感想しかない」

『そ、そうですか……嬉しいです』

「嬉しいのは別に構わないんだが、あんまり感情を発露させるなよ──消えてるぞ」

 幽霊なので、なぜか今のやり取りで成仏しかかっている。

 俺が魔力を注げば強制的に維持させることも可能だが、今回はそんなにヤバくはないので本人が感情を制御すれば元に戻るだろう。

『もも、申し訳ありません!』

「貴重な人材なんだ、残ると決めたからには自分で定めた使命のために残り続けろ。俺がやらなくてはいけないことが増えてしまうではないか──さて、そろそろ起きるか」

『は、はい! すぐに準備をしてまいりますので!』

 ペコリとお辞儀をすると、どこかへ一瞬で消える……たしかフェール。
 幽霊だからなのか、この屋敷内に限り転移が可能なんだとか……しかも全員。

「それだけ怨念で強化されていたってことなのかな? まあ、そんなにせわしなく動きたくないから構わないけど。俺もついでに運べたらよかったのに」

 幽霊専用の能力なようで、生きている者をセットで運ぶことはできない。

 なので俺が霊化すれば、その部分だけなら運んでもらえる……行き先が食堂なら、肉体部分がそれにあやかれないので却下である。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 こちらに来ても、朝の特訓は忘れない。
 幽霊たちにも強要してあるので、しっかりと鍛錬を行っている。

『さて、今回は何をするか……』

 魔王が自慢するようにわざとコピーさせてきた暗黒魔法、それはある程度モノにした。

 ちなみにこれ、犬騒動のあとに直接交渉して頂いた魔法だ……『これで君も魔王だ!』とか言われた時は少々イラッとしたが。

 使えば闇魔法に付与することも瞬時にできるし、複数展開した闇魔法の中に一つだけ混ぜる……なんてことも今ではできる。

 優秀な人材パシリ抹殺対象ゴミの前でしか使えないだろうが、それでも鍛えてはいた。

「別のことをやるとしよう──(並速思考)起動っと」

 ケルベロスにも魔王と似た感じで転写させてもらったのだが、非常に頭が痛くなる。

 催眠で忘れようとしても、頭以外のどこかが悲鳴を上げているようであまり使わずに放置していた。

 けどまあ、便利には違いないのでどうにか会得しておきたい。
 これがあれば、並列的な思考を行ったうえでそれを加速させることができるからな。

「段階的に、並列思考からやっていこう。たぶん一気にやるから限界を超えるんだろう」

 すでに視界が真っ赤になっている。
 一秒で十秒分加速させただけでも、二つに増やした思考に耐えられないのが現状だ。
 そして解除した途端、物凄く糖分を頭が欲している気がしてきた。

「疲れた脳には甘い物ってこういうことだったのか……アイツ、そんなに疲れてたのか?」

 口癖のように頭の使いすぎと言って俺をパシらせていた……もちろん、口癖なのはパシラせる方であって、頭云々ではないぞ。

 けどまあ、たしかに甘いものを食べているときの妹は満足そうではあったが。

「とりあえず補給しようか……これかな?」

 前に暇潰しで料理スキルの練習として作っていたお菓子……これも妹のお蔭せいだな。
 その余りを仕舞ったままだったので、取りだして口に含んでおく。

「だいぶよくなってきた……ブドウ糖云々を考えて作ったのがよかったのかもしれない」

 こんな物を作れと、レシピを見せてきたことがあった妹。
 それを記憶から引っ張り出して作ってみたのだが、奴隷たちに絶賛だった。

「よし、そろそろ始めようか」

 意識を切り替え再び並速思考スキルを使ったうえで、並列のみに意識を傾ける。
 すると速度はそのまま、思考だけが丸々二つ分となって異なる思考が行えるように。

(1+1=2、1+2=3、2+3=5……いや、面倒臭いな)
(7×1=7、7×2=14、7×3=21……いや、面倒臭いな)

 どちらも同じ結論には至ったものの、しっかりと異なる計算を果たせている。
 ついでに、計算二つ分の余りの要領で筋トレができるのでやっていることは三つだ。

「まずは並列を極めよう。それから高速化に対応して……やることが多いな」
(面倒だな)
(疲れそう)

 口と思考×2が同じ意見を出しているが、それでもやった方が後が楽なのだ。
 そう自分に命じて、どんどん体を慣らしていくのだった。

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