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第一章 魔王討伐編

第12話 魔獣をいじめるいじめっ子

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「オラオラ! やり返してみろよ。え?」
「ははっ。もう弱ってやんよ。体力ねーなー」
「魔獣なんてこんなもんだぜ」

「げっ……」

 ユイシャを落ち着かせようととして歩いていたのに、ユイシャをいじめてたやつらかよ。
 しかも、また弱いものいじめてるし……おい、今回は相手人間じゃないぞ。マジかよ。

「にゃぁ……」

 頭を抱えるようにして、じっと動かない紫色の毛。聖獣とは別の俺を殺す生物。

 あれは、魔獣!

 あいつら!

「ユイシャはちょっと下がってて、俺が止めてくる」
「でも」
「大丈夫。あんなのに負ける俺じゃない。ユイシャも俺の特訓見てただろ?」
「うん! そうだね」

 さて、獣使いとしてのスキルはやりすぎだな、子ども相手に大人気なさすぎる。
 そもそもあんなやつら、獣使いとして相手するほどじゃない。
 ルカラの頑強さで十分だ。

「おい、やめないか! いじめるな。かわいそうだろ」
「おーおー! 貴族様じゃねぇか。今度は魔獣の点数稼ぎか?」

 そうだよ。いや、じゃなくて。

「最近白いの見ねぇけど、そいつもお前が保護したんだな? どーせ」
「タロまでやってたのか……」
「タロだって。ダッセー名前つけてやんの。でも、大人がみんな言ってるぜ? 魔獣は人間に害をなす。魔獣は人間の敵だって。仲良くしてるんなら親にいいつけるぞ? 魔獣と仲良くしてるって。貴族様の地位がどんなことになるかなー?」
「俺の親父はそんなことで評判が下がるほどつまらないことはしてない。そもそも魔獣が人間の敵だってのは誤解だ。人間の一方的な決めつけだ」

 少なくともゲームではそういう設定だった。
 聖獣は人に利用され、人に売り買いされていたが、魔獣は見た目から人に勘違いされ、何もしていないにも関わらず、そこかしこに悪い伝承が残っている。そのせいで人から嫌われ、見つけたら殺すよう指令が出されている。

「なんだよ。ベンキョーしてるから偉いってのか?」
「そういうことじゃない。そもそも、そんなに殴りたいなら地面でも殴ってればいいだろ」
「ばっかじゃねぇの? そんなの意味ねーじゃん。そういやお前、殴られてもいいみたいに言ってたよな? そうだよな? 今日もそのつもりで来たんだろ。おい、お前ら。こいつを殴ることにしようぜ」
「おうおう。いいねぇ。貴族様殴れるなんて偉くなった気分だ」
「威勢がいいだけでビビって声も出ねぇか」

 俺、そんなこと言ったか?
 黙っていると、俺は顔、肩、腹と順番に拳をぶつけられた。
 だが、どれも遅すぎる。片手で払って受け流せる。
 ゲームに出てこない、名前も知らないモブの子どもだ。ステータスもレベルも最低だと思った方がいい。でないと怒りでやりすぎてしまう。

「おい。大人しく殴られろよ。殴られたいんだろ?」
「俺は殴られたいんじゃない。俺は正々堂々と戦えって言ったんだ。お前らから手を出したってことは、俺と正々堂々殴り合う準備ができてるってことだよな?」
「なんだ? 一人だけで勝てると思ってんのか? 俺たちの方が多いぞ?」

 ケタケタと笑う少年たち。
 前回は堂々としてるだけで逃げたんだが、今回はそうもいかないか。
 さて、何をすれば脅しになるかな。

 そうだ。

「何するつもりだよ」

 俺は近くの木に手を触れる。

「……少し力を貸していただけませんか?」

 あいにく、こんなことは想定していなかったせいで木剣は置いてきてしまった。
 だからこそ。獣使いとしての力、生き物の能力を最大限引き出す力で、俺は木から、ちょうどいい長さの枝をもらった。

「……ありがとうございます」

 俺よりよっぽど長く生きている樹木の協力に感謝し、俺は少年たちに向き直った。

「ボソボソと気持ちわりーな!」

 何をしていたのかわかっていな彼らはニタニタ笑いながら俺を見てくる。
 俺は、そんな彼らを気にせず、木がくれた大人の腕ほどの枝軽く振るう。
 木剣ほどではないが、十分に扱える。

「さ、やろうか」

 俺の武器にギョッとした三人は目を丸くしてお互いの顔を見ている。
 何かコソコソと相談し出した。
 うーん。変なアイテムとか使われるとさすがに手加減するのが難しくなるし、できればこれで帰ってほしいんだけど。

「きょ、今日のところは勘弁しといてやる。覚えてろよ!」

 三人はザコ役みたいなことを言って、一目散に逃げていった。仕返しが怖いならやるなよ。
 まあ、俺だって急に丸太振り回すやつと遭遇したら逃げるけども……。
 さて、俺は枝を返してから、急いで魔獣のところまで走った。

 おそらくサイズからして子どもだろう。このサイズでも本気で暴れ回ったら、村の一つくらい地図からなくなるぞ。本当に、何考えてるんだか。
 見た目に反して優しいから、そんなことしない個体が多いだけで、乱暴なやつは乱暴だからな、全く。

「大丈夫か?」
「にゃ」

 今回はタロの時と違い、俺が助けたとわかるらしい。だが、大丈夫じゃないな。タロの時よりも傷の具合がひどい。
 それでも、魔獣の子がこんなところで死ぬはずはない。おそらく、好奇心で飛び出したところを急に殴られたんだろう。
 すぐに、携帯しているポーチからきのみを取り出す。
 ゲームの時と同じように見つけるたび拾っているから、おそらく全回復まで足りるはず。
 どれだけ経っても腐らないし、無限に収納できるのはゲームの時と同じだ。というか、きのみも拾った時よりなんだか色艶がよくなってないか? これも獣使いとしてのスキルなのか……?
 安全か確認するため一口かじる。
 うまい、別に作り物と入れ替えられてるとかではない。これなら与えても大丈夫だ。

「もう大丈夫だからな。どうか、食べてくれ。命を繋ぐために」

 俺が差し出すと、一口一口は小さいが、この辺で一般的なきのみだからか食べてくれた。
 一度、ほのかに光った後、タロより酷かった傷は一瞬で消え、つやのある紫色の毛が戻ってきた。
 お、おい。嘘だろ? 前より治りがいい。傷はどう見ても深かったのに。

「すごい」

 いつの間にか後ろで見ていたユイシャがこぼした。
 それ、俺も言いたかった。

 傷が治ると、魔獣は俺の手を離れ、恐る恐るといった感じで立ち上がった。
 体の傷を確かめるようにくるくる回ると、尻尾をピンと立てて俺をなぜか前足で叩いてきた?
 また俺悪者だと思われてる?
 いや、にしては痛くない。というより、なんだろう。甘えてきている。猫が気まぐれにちょっかいを出してきている時のような。

「もしかしてさ。遊んでほしいんじゃないかな?」
「そ、そうか?」

 ユイシャに言われると、魔獣は俺をキラキラした目で見ているように見える。
 まあ、こういうのは子どもの方が鋭かったりするからな。

 俺はそっと魔獣のあご下に手を回し喉元を撫でてやった。
 ゲームでの聖獣は犬のようで、魔獣は猫のようなキャラだった。主人と決めたなら従順な聖獣に対し、常にイタズラっぽい魔獣。
 俺の理解はどちらを見ても正しかったらしく、魔獣は撫でられて猫のようにゴロゴロと喉を鳴らしながら気持ちよさそうに目をつぶっている。

「わ、わたしも、いい?」
「大丈夫か?」
「うにゃ!」
「大丈夫みたいだ」
「わー。ふわふわだー」

 ユイシャは根っからの動物好きみたいだな。



 散々かわいがった後で、俺たちは魔獣を森に帰した。

「もう襲われるんじゃないぞー!」

 一度忠告しておいたし、これで大丈夫だろう。順調順調。
 やはり、獣使いとして訓練を積んでおいてよかったな。
 手当てが早くできるのは本当にいい。
 しかし魔獣は聖獣と違って引っ込んでてくれるだろうか? 大人しくしてた方が安全と判断してくれるだろうか?
 少しさみしいけど、いじめられるのは嫌だろうしな。ゲームならルカラを殺すが、俺としては聖獣や魔獣には幸せでいてほしい。
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