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第146話 友ができたのでせっかくだし友を誘いたい

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 友達が欲しいという気持ちは一段落したのか、はたまた、意外と気を使うということを知って怖気付いたのか、真里は友達友達言わなくなった。
 もしかしたら、茜という面倒な存在を友としてしまったせいかもしれない。
 その代わり、

「おい。友と遊びたいのだ」

 と言うようになった。

「普段から遊んでるじゃん」
「そうじゃないのだ。ああいう感じでやりたいのだ」

 真里が指さす先には、暇を持て余してしまったらしく、ジャンケンであいこになる回数の記録に挑戦している二人がいた。
 最高記録は三回らしい。
 不正をしていないことはわかるが、もっと回数は増やせそうなものだ。そもそも、他に有意義な過ごし方はいくらでもあるだろう。
 楓は気乗りせずため息をついた。

「えーあれやるの?」
「楓とじゃないのだ」
「え……」

 よくわからない遊びに誘われた上に、何故かフラれた。
 楓は机に突っ伏した。
 友じゃないと言われることもショックだったが、誘われてすぐ断られるのもショックだった。
 向日葵が背中を撫でてくれるものの、虚しさが楓の胸に訪れた。

「いや、違うのだ。そんなショックを受けないでほしいのだ。その、あれだ。たまには楓や向日葵以外とやりたいのだ」
「なるほど」

 何も違わなかったが、どうやら真里にとっては違うらしい。
 友達になってくれと言うだけで、一日が終わってしまった悪魔は、一体どれくらいの時間をかければ友達と遊ぶことができるのだろうか。
 もしかしたら天文学的な時間がかかるのではないか。
 悪魔はそれでもいいかもしれないが、人間は死んでしまうぞ。

「おい。私のこと馬鹿にしてるだろう」
「してないよ」
「顔を見ればわかるぞ」
「してないって。それに、僕たち以外とも遊んでるじゃん。楽しそうに話したりさ」
「そうじゃないのだ。私がやりたいのは道具のいらないゲームなのだ」
「つまりどこでもできるやつがいいと?」
「そうなのだ。今までやってきたものはどれも道具が必要だろう? だから、何もなくてもできるゲームの中身や名前を知りたいのだ」

 なるほど、と楓は再び頷いた。
 なにも、あいこの世界記録を目指そうと誘ってきていたわけではないらしい。
 ここであえてそのつまらない遊びを教えてもいいが、楓はせっかくだしと思い、懐かしさを感じながら幼少期の遊びを思い出した。

「これなんてどう?」

 と両手の人さし指を突き出した。

「それを目に突き刺すのか?」
「そんな物騒なことはしないよ。指の数字を足していって相手の両手をどちらもちょうど五にしたら勝ち。みたいなゲームだよ」
「ん? よくわからないんだが」
「じゃあ、教えながらやろうか」

 真里にも同じように指を出してもらい、楓は割り箸と教わったそのゲームの説明を始めた。
 戦争とか他の呼び名もあるらしいが、名前はさておき、相手の数字を五にする。そんなゲームだ。
 自陣で足すと片手が空くルールや、余りの処理をどうするかといった部分もあるため、両手をちょうど五にするのとは少し違うかもしれないが、おおむねのルールは五にすることに変わりなかった。
 そのため、正確には相手の両手に何も残らなければいいゲームとも言える。
 おおよそのルールを伝えると、相変わらずの飲み込みの早さで真里は理解したように頷いた。

「ふふふ。これはいいな。確かにどこでもできるな」
「……ま、相手は必要だけどね」
「私にはいるからな。まずは小手調べなのだ」
「行くよ!」

 かけ声とともに始めたものの、結果は楓の敗北だった。

「なんでかな?」
「甘いのだ。先の先まで考えないと必勝法には気づけないのだ」
「今知ったばかりなのに色々言われるのはなんか悔しいな」
「ならばもう一度やってみるか?」
「向日葵とやったら?」
「なになに? なにしてるの?」
「桜。ちょうどよかった。ほら、真里。やりたかったんでしょ?」

 楓は真里を見た。
 だが、つい先ほどまでつらつらと会話をしていたことが嘘のように、真里は口ごもってしまった。
 口をぱくぱくさせながら、落ち着きなく顔を動かしていた。
 普段会話をしている時は、完全に馴染めているが、何かを覚悟して話そうとすると、突然緊張してしまうらしい。
 隣では、そんな真里の様子を、ニヤニヤしながら向日葵が見つめていた。
 さすがに悔しいかったのか、真里は一呼吸おいてから桜を見上げた。

「あ、あれなのだ。一緒に割り箸しないか?」
「割り箸って?」
「知らないか? 楓ちょっと見せてやろうじゃないか」
「うん」

 お手本としてやるはずが、一回目よりも早く楓は負けていた。
 伝わるのか怪しかったが、やって見せるとわかったように向日葵は頷いた。

「それ、割り箸って言うんだ」
「そうなのだ。まだ時間もあるしどうだ?」
「いいよ。でも、できるかな?」
「大丈夫なのだ。楓程度の実力でも自信を持ってできると言ってるのだ」
「それひどくない? 今僕が教えたんだけど」
「そうなの?」
「ま、まあいいのだ。やるのだ」

 一対一。
 真里はとうとうやりたかった新しい友達との遊びを始めた。
 だが、容赦はなかった。
 大丈夫と言っていたが、何も大丈夫なことはなく、桜はあっという間に打ち負かした。

「ありゃりゃ。負けちゃった。強いね真里たん」
「そうでもないのだ」
「ねえ、これって、みんなでもできるんじゃなかった? せっかくだしやらない?」
「うーん。できた気はするけど、どんなルールだったけ?」
「じゃあさ。ちっちーやろうよ。これなら単純でしょ」
「なんなのだ?」

 両手をグーにして構え、桜は親指を上げ下げした。

「こうして、上がってる指の数を当てるんだよ」
「確かに、それなら数は多くともルールは単純だな」
「ま、当てなきゃいけない幅は広がるんだけどね。椿たんもやろ?」
「私はいいわよ。多いと面倒って話をしていたばかりじゃない」
「いいからいいから」

 椿も引きずり出され五人となった。
 ゼロから十までの数字を当てるゲーム。
 かけ声とともに指を上げ、指の数と言った数字が同じならば片方の手をあがりにする。
 両手ともあがりになった人が勝ち。そんな単純なゲームだった。
 楓が知っているものと同じならば、そういうルールだ。

「向日葵たんはわかる?」
「もちろん」
「呼び方も同じだった?」
「うん」
「そっか。色々と呼び方あるみたいだからね。まあ、あたしたちは同じものを見てきたから違うってことはないんだけどさ」
「そうだねぇ」

 楓の前世では指スマだの、いっせーのだの、統一されていない地域だったのか、色々な呼び方があった。
 だが、今は同じように過ごしてきたことになっている。「別の呼び方だったよ」とは言えなかった。
 ずっと近くで過ごしてきたはずが別の考えを持っていたらおかしいだろう。

「じゃあ、誰からやる? 初心者の真里たんからでいい?」
「お。いいのか? 私からで。単純なルールならば一気に勝たせてもらうぞ?」
「いいんじゃない? 一手では絶対に終わらないし。それに、真里たんが勝てば向日葵たんの負けが見られるかもしれないしね」
「ふふふ。いいだろう。行くぞ? ちっちーの七!」

 真里は一回目で数字をぴたりと当て、片方の手を引っ込めた。

「初手で当てるなんて狙ってできるものでもないのに」
「だから言っただろう? 私が勝ってしまうと」
「まあ、まだ勝負はこれからだからね。逆に、減ったことであたしたちにもチャンスが生まれたとも考えられるからさ」
「一つ減った程度で変わるものでもないだろう?」
「それはどうかな? ちっちーの六! あーはずれか。次、椿たんの番ね」
「ちっちーの五」

 不意打ちのように言葉を発した椿。
 つられて指は上がったが、どうか。
 数えてみると、ビンゴ。
 椿も片腕をあがりにした。

「なかなかやるね?」
「これって心理戦なのか運なのかわからないわよね」
「心理戦だよ。ねえ楓たん?」
「そうじゃない?」

 どちらかなんてわからないが、楓は頷いておいた。
 満足だったらしく、桜はにんまりとしている。
 それから楓は全員に向き直った。

「じゃあ、いくよ? ちっちーの三!」
「ほら、準備させちゃったらうまくいかないでしょ?」
「今のはそのせい?」

 楓ははずれた。

「そうだよ。だって心理戦だよ?」
「心理戦だからって準備どうこうかな?」
「ちっちーのゼロ!」

 まだ会話をしていただけに、向日葵の声には誰も反応できなかった。
 指は上がっていない。
 満足気に向日葵は腕を背後へ回した。

「ずるいのだ」
「別に、いつ言ってもいいはずだけど?」
「そうなのか?」
「うん。これもまた心理戦だよ」
「言いたいだけでは?」

 続く、二周目。
 向日葵以外がはずし、向日葵の一位が確定した。
 三周四周とターンは回り、真里二位、椿三位と順当に順位が決定していく。
 そして、勝負は終盤戦。楓と桜の一騎打ちまでもつれ込んだ。

「まるでババ抜きの最後の三枚みたいだね」
「でも、勝つのは僕だ」
「それはどうかな? ちっちーの……」

 桜はために入った。
 油断をつく方がいいように言っておいて、どうやらそれだけではないらしい。
 いや、油断をつくならば、いつだ? とあえて考えさせるのもいいのかもしれない。
 楓は黙って桜の手元を見ていた。
 今か今かとその時を待っていると、

「キーンコーンカーンコーン」

 休み時間終わりを告げる鐘が鳴った。

「ああ。終わっちゃったか。じゃ、今回は決着がつかなかったからノーコンテストってことで」
「それは二人が同率四位ってことだろう?」
「違うよ。全体がってことだよ」
「それはおかしいんじゃないか?」
「そうかな?」
「そうなのだ」

 ああでもないこうでもないと桜と話す真里からは、緊張している様子もなかった。

「よかったね」
「何か言ったか?」
「ううん。桜。ここは負けを認めておこう?」
「えー。せめて引き分けってことにしようよーせっかく向日葵たんの戦績を崩せるんだよ?」
「それはずるいと思うからさ」
「はーい」

 なくなくという様子だったが、桜は頷いた。
 二位になれたことが嬉しいのか、友とゲームをできてよかったのか、真里は充実した笑顔を浮かべていた。
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