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第1話 名刺芸・斬鉄
「お前そんなに死にたいのか?」
思わずビクッとしてしまうが、僕に言われた言葉じゃなかった。汚く汚れた灰色の猫をつまんでいる大杉くんを見ればわかる。死にかけの猫に言ったんだ。
「おい明命。この猫、その檻に入れろ」
「でも」
「いいから入れろ! ただ、荷物を置くなよ。汚れるからな」
クスクスという声が聞こえつつも、僕、明命重隆《めいめいしげたか》は他の人の声は気にせずに、言われた通りに、猫を優しく檻に入れた。
当然、大杉くんたちのカバンは汚さないように。
僕はこうして学外でも学内でも大杉くんたちのパシリをやっている。こんなんじゃ何にもならない。そうわかっているが、孤立が怖くて、無視が怖くて、作り笑いをして彼らに群がっている。
数年前から友達と笑うということができていない。好きなものを好きと言えていない。あわよくば、クラスの好きな子、あの幼なじみと付き合いたいとか考えたけど、その子はすでに大杉くんの彼女だ。もう遅い。
こうやって考えているだけで、今までは何もできなかった。何もしてこなかった。
「さて、こいつはこれで外に出られないな」
「いや、なに言ってるのさ。隙間から出られるじゃないか」
「ばっかだなぁ、明命は。今からその隙間を埋めるんだよ。まぁどっちにしろだけど、やるなら確実にな。わかってるだろ明命、寄生虫は殺処分だ」
大杉くんは僕の肩をつかんで耳元でそう言うと、笑いながら猫の方へと向き直った。数人の取り巻きとともにケタケタ笑いながら、猫の入った鉄製の檻を取り囲む。そんな大杉くんたちを見て、猫は怯えたように動かない。
昔は、こんなんじゃなかった。僕だって、我が身可愛さに、弱いものいじめに加担するようなことはよしとしていなかった。
父の名刺をパクって人を楽しませようとしていたことだってあった。小学校、中学校とみんな笑顔で楽しんでくれた。でも、高校に進学してからは、嘲笑の的にこそなれど、純粋に楽しんでくれた事は一度もなかった。
それも一年以上前の話。
「おい、何してんだよ明命! お前もやるんだよ」
ぼーっと突っ立っていた僕に、大杉くんが怒声を浴びせてくる。
そんな、怒った大杉くんの顔を見て、僕は息を吐き出した。
そして、カバンから一枚の名刺を取り出して投げた。
僕の投げた名刺は、ヒュンヒュンと風を切りながら、スカンッ! と彼の背後にある木に突き刺さった。
「何のつもりだ?」
「猫を解放してあげてほしい」
僕の申し出に、大杉くんは少し黙って考えてからうなずいた。
「いいぜ。そのかわり、お前の入れた猫だ。しばらくここに入ってろ」
僕も、大杉くんの言葉にうなずいた。
予想通りの反応だった。
鉄でできた檻、その扉を開いて、僕は猫を外に出してあげた。それから代わりに僕が檻に入る。
身長170センチの僕でも問題ないサイズの檻で、僕でも簡単に中に入れた。
見世物小屋のような状態になり、猫の代わりに入った僕を大杉くんたちは笑う。
「傑作だな大道芸人」
「ほんと。よっぽど名刺芸より似合ってるんじゃないか?」
「俺らがこのまま放置したら、お前どうするつもりなんだよ」
「脱出するんならさっさと脱出してみろよ」
煽るように言う彼らの顔を見て、僕はもう一度息を吐く。
彼らは名刺芸をなめているようだが、斬鉄くらい僕でもできる。
僕は、大杉くんたちを横目に見ながら、腰をひねってもう一枚の名刺を指に添えた。
腰のひねりを使った動きで、檻の鉄格子をサクッと切った。
ずるずると鈍い音を立てながら、僕を囲う鉄格子がずれて行く。
「は? 嘘だろ? まじで切りやがった」
「おいおいどうすんだよ。そんなはずじゃないだろ」
「あれは猫に使う目的だったんだ。事故だ、事故。あいつが悪い」
驚きとどよめきの声を漏らして、表情を真っ青に変えた大杉くんたちは、僕の行動に恐れをなしたとでも言わんばかりの勢いで、僕に背を向け一目散に駆け出した。
そんな大杉くんたちの様子に疑問を想い浮かべながらも、檻から脱出するため、僕は鉄格子に手をかけた。
すると、強い力をかけた訳でもないのに、鉄格子はバラバラと内向きに傾きだした。
反射的な恐怖で体が動かず、構えも取れず、鉄の棒は僕の顔面に向けて容赦なく思いっきり連打を食らわせてきた。
当然、名刺芸以外は普通の人間である僕は、たまらずその場に倒れ込んだ。
「どっちにしろってこういうことかよ」
今さらになって、大杉くんの言葉が思い返される。
きっと、僕が名刺でこの鉄格子を壊すまでもなく、この鉄格子は勝手に崩れて、中の猫を殺す仕組みだったんだ。
そこまで思いいたってから、こんなタイミングじゃもうどうしようもないことに気づく。
頭がくらくらするし、目はまともに見えないし、口の中は血の味しかしない。
そんな僕に近づくように、ひたひたという足音が聞こえてきた。
耳はまだ、まともに機能しているのか、それとも、もう既におかしくなってしまったのか、僕にはわからない。
どちらにしろ、何かが僕に終わりを告げようとしているらしかった。
その足音は、僕の顔の前あたりで止まると、その場にしゃがみこんだ。
「そんにゃに自分の顔が嫌いにゃのか? にゃら、それくらいは叶えてやるにゃ」
どうやら本当に頭がおかしくなってしまったらしい。
頭がおかしそうな奴の声が聞こえている。これはきっと空耳だろう。
死ぬ前の幻聴だ。
そんなふうに考えたのと時を同じくして、僕の意識はそこで途絶えた。
思わずビクッとしてしまうが、僕に言われた言葉じゃなかった。汚く汚れた灰色の猫をつまんでいる大杉くんを見ればわかる。死にかけの猫に言ったんだ。
「おい明命。この猫、その檻に入れろ」
「でも」
「いいから入れろ! ただ、荷物を置くなよ。汚れるからな」
クスクスという声が聞こえつつも、僕、明命重隆《めいめいしげたか》は他の人の声は気にせずに、言われた通りに、猫を優しく檻に入れた。
当然、大杉くんたちのカバンは汚さないように。
僕はこうして学外でも学内でも大杉くんたちのパシリをやっている。こんなんじゃ何にもならない。そうわかっているが、孤立が怖くて、無視が怖くて、作り笑いをして彼らに群がっている。
数年前から友達と笑うということができていない。好きなものを好きと言えていない。あわよくば、クラスの好きな子、あの幼なじみと付き合いたいとか考えたけど、その子はすでに大杉くんの彼女だ。もう遅い。
こうやって考えているだけで、今までは何もできなかった。何もしてこなかった。
「さて、こいつはこれで外に出られないな」
「いや、なに言ってるのさ。隙間から出られるじゃないか」
「ばっかだなぁ、明命は。今からその隙間を埋めるんだよ。まぁどっちにしろだけど、やるなら確実にな。わかってるだろ明命、寄生虫は殺処分だ」
大杉くんは僕の肩をつかんで耳元でそう言うと、笑いながら猫の方へと向き直った。数人の取り巻きとともにケタケタ笑いながら、猫の入った鉄製の檻を取り囲む。そんな大杉くんたちを見て、猫は怯えたように動かない。
昔は、こんなんじゃなかった。僕だって、我が身可愛さに、弱いものいじめに加担するようなことはよしとしていなかった。
父の名刺をパクって人を楽しませようとしていたことだってあった。小学校、中学校とみんな笑顔で楽しんでくれた。でも、高校に進学してからは、嘲笑の的にこそなれど、純粋に楽しんでくれた事は一度もなかった。
それも一年以上前の話。
「おい、何してんだよ明命! お前もやるんだよ」
ぼーっと突っ立っていた僕に、大杉くんが怒声を浴びせてくる。
そんな、怒った大杉くんの顔を見て、僕は息を吐き出した。
そして、カバンから一枚の名刺を取り出して投げた。
僕の投げた名刺は、ヒュンヒュンと風を切りながら、スカンッ! と彼の背後にある木に突き刺さった。
「何のつもりだ?」
「猫を解放してあげてほしい」
僕の申し出に、大杉くんは少し黙って考えてからうなずいた。
「いいぜ。そのかわり、お前の入れた猫だ。しばらくここに入ってろ」
僕も、大杉くんの言葉にうなずいた。
予想通りの反応だった。
鉄でできた檻、その扉を開いて、僕は猫を外に出してあげた。それから代わりに僕が檻に入る。
身長170センチの僕でも問題ないサイズの檻で、僕でも簡単に中に入れた。
見世物小屋のような状態になり、猫の代わりに入った僕を大杉くんたちは笑う。
「傑作だな大道芸人」
「ほんと。よっぽど名刺芸より似合ってるんじゃないか?」
「俺らがこのまま放置したら、お前どうするつもりなんだよ」
「脱出するんならさっさと脱出してみろよ」
煽るように言う彼らの顔を見て、僕はもう一度息を吐く。
彼らは名刺芸をなめているようだが、斬鉄くらい僕でもできる。
僕は、大杉くんたちを横目に見ながら、腰をひねってもう一枚の名刺を指に添えた。
腰のひねりを使った動きで、檻の鉄格子をサクッと切った。
ずるずると鈍い音を立てながら、僕を囲う鉄格子がずれて行く。
「は? 嘘だろ? まじで切りやがった」
「おいおいどうすんだよ。そんなはずじゃないだろ」
「あれは猫に使う目的だったんだ。事故だ、事故。あいつが悪い」
驚きとどよめきの声を漏らして、表情を真っ青に変えた大杉くんたちは、僕の行動に恐れをなしたとでも言わんばかりの勢いで、僕に背を向け一目散に駆け出した。
そんな大杉くんたちの様子に疑問を想い浮かべながらも、檻から脱出するため、僕は鉄格子に手をかけた。
すると、強い力をかけた訳でもないのに、鉄格子はバラバラと内向きに傾きだした。
反射的な恐怖で体が動かず、構えも取れず、鉄の棒は僕の顔面に向けて容赦なく思いっきり連打を食らわせてきた。
当然、名刺芸以外は普通の人間である僕は、たまらずその場に倒れ込んだ。
「どっちにしろってこういうことかよ」
今さらになって、大杉くんの言葉が思い返される。
きっと、僕が名刺でこの鉄格子を壊すまでもなく、この鉄格子は勝手に崩れて、中の猫を殺す仕組みだったんだ。
そこまで思いいたってから、こんなタイミングじゃもうどうしようもないことに気づく。
頭がくらくらするし、目はまともに見えないし、口の中は血の味しかしない。
そんな僕に近づくように、ひたひたという足音が聞こえてきた。
耳はまだ、まともに機能しているのか、それとも、もう既におかしくなってしまったのか、僕にはわからない。
どちらにしろ、何かが僕に終わりを告げようとしているらしかった。
その足音は、僕の顔の前あたりで止まると、その場にしゃがみこんだ。
「そんにゃに自分の顔が嫌いにゃのか? にゃら、それくらいは叶えてやるにゃ」
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