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第6話 どうして知ってる?
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「よろしければこちらを」
と言われ、なんだかやたらと高級そうなポーションをいただいてから、すっかり体がラクになった。
姫様が求めるレベルまで回復するのに、一ヶ月はかかるだろうと思っていたけど、気づいたら治ってしまっていた。
「すごい。こんなすごいものがあるなんて……。知らなかったなぁ」
「おはようござ……。リストーマ様! 元気になられましたか! なられたんですね!」
「ひめさわっ!」
「よかった。立てるんですね。そうですよね。当たり前ですよね。ふふっ。よかった。うふふっ」
「はい。姫様のおかげです。ありがとうございます」
「いいんです。私のことのように嬉しいので。それより、姫様はやめてください。なんだか気恥ずかしいです」
「ですが……」
姫様は突如顔を上げると、ずいっと寄ってきた。
「セスティーナと呼んでください!」
「せ、セスティーナ様」
「セスティーナです」
「せ、セスティーナ?」
「はい!」
有無を言わせない雰囲気に思わず呼び捨てにしてしまった。
目の前に広がる満面の笑みに頭が真っ白になる。
「いやしかしセスティー……いや、無理です。セスティーナ様」
「怒りますよ?」
「ええ!?」
「私、こう見えて強情なんです」
ふふん。と鼻を鳴らしながら胸を張る姿は、特に誇るようなことをしていなくても様になる。
また、命令されては困ってしまうし、
「わかりました。せ、セスティーナ。ありがとうございました」
「まあ、今はそれでいいです。リストーマ様」
「僕に対しては様付けるんですか!?」
「私はいいんです」
なんだか満足げに笑っている。
姫様がいいのなら、僕としてもいいのだけど、姫様がこんな人だとは知らなかった。
確かに、僕が知っている、人を引っ張っていくような雰囲気より、どうやら本人は少しわがままで強情な女の子らしい。
「それで、どうして僕の名前を知っているんでしたっけ?」
「そうでしたね。その話をするんでした。お身体が大丈夫なら、少し歩きましょうか」
「いいんですか?」
「はい」
僕がいたのはやはり、ヴァレンティ王国の王城内だった。
僕にはよくわからない仕事をする、いろんな人が働いているようだ。
どれもこれもが高級そうで、多分触ったら怒られる。
「リストーマ様は、剣聖の家の方ですよね」
「えっと、一応……」
「一応じゃないですよ。シュウェット家のご長男。助けられてよかったです。そんな方を忘れるはずもありません。……だって、私の初恋の相手ですもの」
「そう、ですよね……」
「あの、その。……?」
やはり、僕に対しての認識は剣聖の家の長男。
そう思えば、名前を知っていることも納得できる。剣聖は国に対して多少の融通が効くほどの重要人物だからだ。
当たり前だが、僕のことを知っていても家庭環境までは知られていない。世間に対して剣聖である父といえば、勇猛果敢で優秀な存在だ。
単純な話だった。
でも、僕のことを覚えていたことはすごい。面と向かって会うのは初めてのはずだけど……。
「一つ聞いておきたいのですが、他国、この国の外から、お知り合いがお見舞いに来たりしますか?」
「いえ、ないと思いますが」
「……それじゃあ、今接近しているこの気配はいったい……?」
「あの」
「こちらの話です。お気になさらずとも大丈夫です」
「セスティーナは僕に聞きたいことはありますか? 僕だけ聞くのは不公平ですし、あればですけど」
「優しいのですね。聞きたいこととしては、あのダンジョンにどうしてお父様もなく一人でいたのかということでしょうか。もしかして、ジョブに覚醒されたことと関係が? 失礼ですが、あの状況からして、戦闘向きのジョブではなかったのでは?」
なんだか姫様と話していると何から何まで見透かされている気分だ。
「はい。そうだと思います」
きっと、隠してもバレてしまう。
「実は……」
僕は父様のこと、家族のことを体感したまま話した。
多分信じられないだろうとは思っていた。でも、姫様の優しさに甘えたくなった。
父様は雑用にでも使ってやると言っていたが、それが本当かわからない。だから、少しだけ話すつもりだった。
だけど、話し出したら止まらなかった。
「……そうして僕はダンジョンに捨てられました」
結局最後まで話してしまった。
姫様は引いてることだろう。実の父親をおとしめるような話なんて、聞いていて決して楽しい話じゃない。
せっかく優しくしてくれたというのに、台無しだ。
「辛かったですね」
またしても姫様は泣いていた。
「いや、あの」
「いいんです。大丈夫ですよ。もう。大丈夫」
今度は僕の頭を抱くように、優しく包んでくれていた。
なんだか、初めて安心できる。今まで息をしていなかった気がするほど、ゆっくり息ができる。
「そんな悲しい顔、しないでください。あなたは、リストーマ様は、私の命の恩人なんです。そんな人が悲しんでいると、私まで悲しくなります」
「すみません」
「いいんです。でも、謝られたいわけじゃないですから」
「ありがとう、ございます」
「はい!」
僕を助けてくれたのが姫様でよかった。
思わず涙が出ても隠してくれる姫様でよかった。
ああ。そうか、僕はずっと辛かったんだ。泣いていいんだ。
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
「本当ですか?」
「はい。もう、大丈夫」
僕より泣いていたのか、涙の跡が残る姫様の顔。その最後の一粒を拭いつつ僕は頷いた。
「それでは、少し、ご挨拶にうかがいましょうか」
と言われ、なんだかやたらと高級そうなポーションをいただいてから、すっかり体がラクになった。
姫様が求めるレベルまで回復するのに、一ヶ月はかかるだろうと思っていたけど、気づいたら治ってしまっていた。
「すごい。こんなすごいものがあるなんて……。知らなかったなぁ」
「おはようござ……。リストーマ様! 元気になられましたか! なられたんですね!」
「ひめさわっ!」
「よかった。立てるんですね。そうですよね。当たり前ですよね。ふふっ。よかった。うふふっ」
「はい。姫様のおかげです。ありがとうございます」
「いいんです。私のことのように嬉しいので。それより、姫様はやめてください。なんだか気恥ずかしいです」
「ですが……」
姫様は突如顔を上げると、ずいっと寄ってきた。
「セスティーナと呼んでください!」
「せ、セスティーナ様」
「セスティーナです」
「せ、セスティーナ?」
「はい!」
有無を言わせない雰囲気に思わず呼び捨てにしてしまった。
目の前に広がる満面の笑みに頭が真っ白になる。
「いやしかしセスティー……いや、無理です。セスティーナ様」
「怒りますよ?」
「ええ!?」
「私、こう見えて強情なんです」
ふふん。と鼻を鳴らしながら胸を張る姿は、特に誇るようなことをしていなくても様になる。
また、命令されては困ってしまうし、
「わかりました。せ、セスティーナ。ありがとうございました」
「まあ、今はそれでいいです。リストーマ様」
「僕に対しては様付けるんですか!?」
「私はいいんです」
なんだか満足げに笑っている。
姫様がいいのなら、僕としてもいいのだけど、姫様がこんな人だとは知らなかった。
確かに、僕が知っている、人を引っ張っていくような雰囲気より、どうやら本人は少しわがままで強情な女の子らしい。
「それで、どうして僕の名前を知っているんでしたっけ?」
「そうでしたね。その話をするんでした。お身体が大丈夫なら、少し歩きましょうか」
「いいんですか?」
「はい」
僕がいたのはやはり、ヴァレンティ王国の王城内だった。
僕にはよくわからない仕事をする、いろんな人が働いているようだ。
どれもこれもが高級そうで、多分触ったら怒られる。
「リストーマ様は、剣聖の家の方ですよね」
「えっと、一応……」
「一応じゃないですよ。シュウェット家のご長男。助けられてよかったです。そんな方を忘れるはずもありません。……だって、私の初恋の相手ですもの」
「そう、ですよね……」
「あの、その。……?」
やはり、僕に対しての認識は剣聖の家の長男。
そう思えば、名前を知っていることも納得できる。剣聖は国に対して多少の融通が効くほどの重要人物だからだ。
当たり前だが、僕のことを知っていても家庭環境までは知られていない。世間に対して剣聖である父といえば、勇猛果敢で優秀な存在だ。
単純な話だった。
でも、僕のことを覚えていたことはすごい。面と向かって会うのは初めてのはずだけど……。
「一つ聞いておきたいのですが、他国、この国の外から、お知り合いがお見舞いに来たりしますか?」
「いえ、ないと思いますが」
「……それじゃあ、今接近しているこの気配はいったい……?」
「あの」
「こちらの話です。お気になさらずとも大丈夫です」
「セスティーナは僕に聞きたいことはありますか? 僕だけ聞くのは不公平ですし、あればですけど」
「優しいのですね。聞きたいこととしては、あのダンジョンにどうしてお父様もなく一人でいたのかということでしょうか。もしかして、ジョブに覚醒されたことと関係が? 失礼ですが、あの状況からして、戦闘向きのジョブではなかったのでは?」
なんだか姫様と話していると何から何まで見透かされている気分だ。
「はい。そうだと思います」
きっと、隠してもバレてしまう。
「実は……」
僕は父様のこと、家族のことを体感したまま話した。
多分信じられないだろうとは思っていた。でも、姫様の優しさに甘えたくなった。
父様は雑用にでも使ってやると言っていたが、それが本当かわからない。だから、少しだけ話すつもりだった。
だけど、話し出したら止まらなかった。
「……そうして僕はダンジョンに捨てられました」
結局最後まで話してしまった。
姫様は引いてることだろう。実の父親をおとしめるような話なんて、聞いていて決して楽しい話じゃない。
せっかく優しくしてくれたというのに、台無しだ。
「辛かったですね」
またしても姫様は泣いていた。
「いや、あの」
「いいんです。大丈夫ですよ。もう。大丈夫」
今度は僕の頭を抱くように、優しく包んでくれていた。
なんだか、初めて安心できる。今まで息をしていなかった気がするほど、ゆっくり息ができる。
「そんな悲しい顔、しないでください。あなたは、リストーマ様は、私の命の恩人なんです。そんな人が悲しんでいると、私まで悲しくなります」
「すみません」
「いいんです。でも、謝られたいわけじゃないですから」
「ありがとう、ございます」
「はい!」
僕を助けてくれたのが姫様でよかった。
思わず涙が出ても隠してくれる姫様でよかった。
ああ。そうか、僕はずっと辛かったんだ。泣いていいんだ。
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
「本当ですか?」
「はい。もう、大丈夫」
僕より泣いていたのか、涙の跡が残る姫様の顔。その最後の一粒を拭いつつ僕は頷いた。
「それでは、少し、ご挨拶にうかがいましょうか」
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