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第30話 何もしてませんって!
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結局姫様の血を吸わせてしまった。
けれど、姫様が自ら差し出したのだし、あの場はあれでよかったのだろう。
よかったのか?
ま、まあいいんだ。
守るべき人に守られてしまったような気がしたけど、うーん……?
別に、僕が吸われてもよかったような……?
「……なんだったんだろ?」
なんにしても、姫様はサーピィやダンジョンに住むヴァンパイアたちのことは友好的な存在として報告してくれたみたいだ。
サーピィたちは実験対象にされることもないらしくて、ちょっと安心している。
話を聞いたり、独自の魔法について調べたりはするみたいだけど、それも血を与えることの対価として合意のうえらしい。
「よかったね。サーピィ」
「はい。あの、ありがとうございますリストーマさん。何から何まで」
「いや、セスティーナのおかげだよ。僕はただのセスティーナの兵だからね」
「ありがとうございますお姫様!」
「いえいえ。私のことはセスティーナで大丈夫ですよ」
「は、はい! セスティーナさん!」
初対面の時が嘘のように、同じ部屋にいてもいがみ合う様子はない。
二人とも、ちょっと緊張があっただけで、普通にしていればいい人なのだ。
「……わたし、何もされてない……。血も分けてもらえることになったし……。リストーマさんのおかげ。へへへ」
「ん? 何か言った?」
「な、なんでもないです!」
ちょっと不思議な雰囲気があるけど、それはやっぱりダンジョン育ちだからなのかな?
とろんとした顔で僕を見てくる時があるけど……あ、もしかして、よっぽど僕の血が美味しそうなのかな?
だから姫様も、吸い尽くすのを危惧して……。
いや、それだけじゃないか。
なんとなく、嬉しかったんだと思うな。同じくらいの歳っぽくて、同じくらいの感覚を知ってそうで。
ヴァンパイアという不思議な存在。住んでいた場所も豪華な屋敷じゃなかったし、立派な装飾もなかった。穴倉暮らしのボロボロな家々。着ている服もボロボロで裾が破けている。
でも、垣間見える育ちのよさや、気配りとか、周りを見れることが、きっと……。
「……リストーマ様……」
「はい? セスティーナ? なんでしょう」
呼ばれた気がして目線を向けると、姫様がじっとりとした目で見てくる。
えっと、なんだろう。
「私が報告している間に何かしたんですか?」
「いえ、特に何も……。なんだか満足したらしく眠っていたので、僕は特に何もできませんでした」
「満足して……?」
「わたし、あの後寝ちゃってました?」
「それはもうぐっすりと」
「何に満足したんですか!」
「それは、きっとセスティーナの血ですよ」
うとうとしてたから、とりあえず姫様のイスに座らせてあげたら、すぐに寝てしまったのだ。
ベッドに移そうにもテコでも動かなくて、仕方なく起きるまでそのままにしてしまった。
「みんなにも、って感じのことを言っていたので、多分間違いないと思います」
「そ、そんなこと言ってましたか? は、恥ずかしい……」
「私の血がそんなによかったですか?」
「いや、それはもう!」
よっぽどよかったらしく、食い気味に姫様に近づいてちょっと引かれている。
「あ、ごめんなさい。でもとても美味しくて」
「いや、そんなに言われると少し照れますね。普段言われないことなので」
「やはり、セスティーナさんの生活、肉付き、スタイル。どれも素晴らしいからですよ」
「そ、そんな。あの。あんまりほめられると、照れてしまいます」
「そう思いますよね! リストーマさんも!」
「はい。それはもちろん! ……あれ、これ、失礼じゃないですか?」
「…………っ!」
姫様が真っ赤になって固まってしまった。
あれ、あれれれれ?
勢いで同意してしまったけど……。
「いや、えっと。否定する部分はないので、なんとも……」
「……っ!」
姫様は人に恥じないように日々努力を惜しまない。だからこそ、肉体には気をつけている。
それこそヴァンパイアであるサーピィから血をほめられるくらいは当たり前、だけど、
「でも、僕が言ってよかったものか……」
「ほら、リストーマさんもこう言ってます。心配することないですよ。わたしはお二人と仲良くしたいだけですから」
「そう、そうみたいですね!」
うわずった声で叫ぶと、姫様はそっぽを向いてしまった。
無理をされているわけじゃないといいけれど、急に顔が赤くなったのは心配だ。
そう言えば昨日もそんな様子だった。
「あの。連日僕のスキルに付き合わせて疲れさせてしまっていませんか? セスティーナの体に負担をかけている気がするのですが」
「だ、大丈夫です。ですが、その……」
やっぱり、何か言いたいことがあるみたいだ。
「聞きます。セスティーナの言うことならなんでも聞きます!」
「えっと……。なんでもですか?」
「はい。なんでもです!」
「ふふっ。ふふふふふ」
「セスティーナ……?」
何やら急に笑い出した。
「あはは。あははははは」
つっかえていたものが流されたように、姫様がとめどなく笑い声を上げている。
「えっと。どうかしましたか?」
「そうですね。リストーマ様はそういう人でしたね。……お優しい……。でも、あんまり気安くなんでもするなどと言ってはいけませんよ? 私が悪い女性だったらどうするんですか? 本当になんでもさせられてしまいますよ?」
「セスティーナはそんな人じゃありませんから大丈夫です」
「信頼してくださっているということで、ありがたく受け取っておきます」
「はい……?」
さすがに姫様以外になんでもするとは言わないと思う。
それに、姫様だからなんでもさせられても応えたいと思えるし。
「あの、では、その……」
「はい」
少し言いにくそうに姫様は口ごもった。
「女の子同士で秘密のお話をするので、席を外してもらってもいいですか?」
「はい! 出かけてきますね!」
けれど、姫様が自ら差し出したのだし、あの場はあれでよかったのだろう。
よかったのか?
ま、まあいいんだ。
守るべき人に守られてしまったような気がしたけど、うーん……?
別に、僕が吸われてもよかったような……?
「……なんだったんだろ?」
なんにしても、姫様はサーピィやダンジョンに住むヴァンパイアたちのことは友好的な存在として報告してくれたみたいだ。
サーピィたちは実験対象にされることもないらしくて、ちょっと安心している。
話を聞いたり、独自の魔法について調べたりはするみたいだけど、それも血を与えることの対価として合意のうえらしい。
「よかったね。サーピィ」
「はい。あの、ありがとうございますリストーマさん。何から何まで」
「いや、セスティーナのおかげだよ。僕はただのセスティーナの兵だからね」
「ありがとうございますお姫様!」
「いえいえ。私のことはセスティーナで大丈夫ですよ」
「は、はい! セスティーナさん!」
初対面の時が嘘のように、同じ部屋にいてもいがみ合う様子はない。
二人とも、ちょっと緊張があっただけで、普通にしていればいい人なのだ。
「……わたし、何もされてない……。血も分けてもらえることになったし……。リストーマさんのおかげ。へへへ」
「ん? 何か言った?」
「な、なんでもないです!」
ちょっと不思議な雰囲気があるけど、それはやっぱりダンジョン育ちだからなのかな?
とろんとした顔で僕を見てくる時があるけど……あ、もしかして、よっぽど僕の血が美味しそうなのかな?
だから姫様も、吸い尽くすのを危惧して……。
いや、それだけじゃないか。
なんとなく、嬉しかったんだと思うな。同じくらいの歳っぽくて、同じくらいの感覚を知ってそうで。
ヴァンパイアという不思議な存在。住んでいた場所も豪華な屋敷じゃなかったし、立派な装飾もなかった。穴倉暮らしのボロボロな家々。着ている服もボロボロで裾が破けている。
でも、垣間見える育ちのよさや、気配りとか、周りを見れることが、きっと……。
「……リストーマ様……」
「はい? セスティーナ? なんでしょう」
呼ばれた気がして目線を向けると、姫様がじっとりとした目で見てくる。
えっと、なんだろう。
「私が報告している間に何かしたんですか?」
「いえ、特に何も……。なんだか満足したらしく眠っていたので、僕は特に何もできませんでした」
「満足して……?」
「わたし、あの後寝ちゃってました?」
「それはもうぐっすりと」
「何に満足したんですか!」
「それは、きっとセスティーナの血ですよ」
うとうとしてたから、とりあえず姫様のイスに座らせてあげたら、すぐに寝てしまったのだ。
ベッドに移そうにもテコでも動かなくて、仕方なく起きるまでそのままにしてしまった。
「みんなにも、って感じのことを言っていたので、多分間違いないと思います」
「そ、そんなこと言ってましたか? は、恥ずかしい……」
「私の血がそんなによかったですか?」
「いや、それはもう!」
よっぽどよかったらしく、食い気味に姫様に近づいてちょっと引かれている。
「あ、ごめんなさい。でもとても美味しくて」
「いや、そんなに言われると少し照れますね。普段言われないことなので」
「やはり、セスティーナさんの生活、肉付き、スタイル。どれも素晴らしいからですよ」
「そ、そんな。あの。あんまりほめられると、照れてしまいます」
「そう思いますよね! リストーマさんも!」
「はい。それはもちろん! ……あれ、これ、失礼じゃないですか?」
「…………っ!」
姫様が真っ赤になって固まってしまった。
あれ、あれれれれ?
勢いで同意してしまったけど……。
「いや、えっと。否定する部分はないので、なんとも……」
「……っ!」
姫様は人に恥じないように日々努力を惜しまない。だからこそ、肉体には気をつけている。
それこそヴァンパイアであるサーピィから血をほめられるくらいは当たり前、だけど、
「でも、僕が言ってよかったものか……」
「ほら、リストーマさんもこう言ってます。心配することないですよ。わたしはお二人と仲良くしたいだけですから」
「そう、そうみたいですね!」
うわずった声で叫ぶと、姫様はそっぽを向いてしまった。
無理をされているわけじゃないといいけれど、急に顔が赤くなったのは心配だ。
そう言えば昨日もそんな様子だった。
「あの。連日僕のスキルに付き合わせて疲れさせてしまっていませんか? セスティーナの体に負担をかけている気がするのですが」
「だ、大丈夫です。ですが、その……」
やっぱり、何か言いたいことがあるみたいだ。
「聞きます。セスティーナの言うことならなんでも聞きます!」
「えっと……。なんでもですか?」
「はい。なんでもです!」
「ふふっ。ふふふふふ」
「セスティーナ……?」
何やら急に笑い出した。
「あはは。あははははは」
つっかえていたものが流されたように、姫様がとめどなく笑い声を上げている。
「えっと。どうかしましたか?」
「そうですね。リストーマ様はそういう人でしたね。……お優しい……。でも、あんまり気安くなんでもするなどと言ってはいけませんよ? 私が悪い女性だったらどうするんですか? 本当になんでもさせられてしまいますよ?」
「セスティーナはそんな人じゃありませんから大丈夫です」
「信頼してくださっているということで、ありがたく受け取っておきます」
「はい……?」
さすがに姫様以外になんでもするとは言わないと思う。
それに、姫様だからなんでもさせられても応えたいと思えるし。
「あの、では、その……」
「はい」
少し言いにくそうに姫様は口ごもった。
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「はい! 出かけてきますね!」
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