世界で唯一の天職【配信者】と判明した僕は剣聖一家を追放される〜ジョブの固有スキルで視界を全世界に共有したら、世界中から探し求められてしまう〜

マグローK

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第53話 魔王の娘か

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「少しは落ち着いた?」

「……うん」

 蚊の鳴くような小さな声で返事をしているけど、ゆっくりとうなずいたところを見れば、なんとなく少しは落ち着いたってことはわかる。

 いきなり涙を流し出したことには驚いたけど、本当によかった。

 でも、目を赤くはらすほど泣いていたことは心配だ。僕まで不安になってくる。

 これまでどこか取り繕っていたような気がしてたし、多分、僕に対してこんな姿を見せるのはあんまりいい気分じゃないと思う。

 それでも、目の前で女の子が困っている様子なのに、放っておくのは嫌だ。

「もしよければ、なにがあったか教えてくれないかな?」

「……うん」

「ゆっくりでいいよ」

「うん。……実は、フラータは魔王の娘なの」

「魔王の娘……」

「それで、パパとケンカして、家を飛び出してきちゃったんだ。パパはフラータのことを理解してくれないから、後悔はしてない。でも、これでいいのかわからなくなっちゃって……」

「そうだったんだ。わかってもらえないってのは辛いよね」

「……リストーマくんは驚かないの? 冗談だって笑わないの?」

「え、えっと。驚いたけど、もしかして冗談なの?」

 困ったな。

 正直に話してくれてると思ってたけど、そうじゃなかったのかな。

 何かを隠すために今みたいな言い方をしてるってこと?

 でも、僕にはまったくそんな風には見えないし……。

「どっちでもいいよ。フラータが真剣に話してくれてるんだから、疑って聞いたり、茶化したりしない。好きなように話してくれたら、それでいい。冗談なら冗談でも僕は気にしないよ」

「リストーマくん……。ありがとう。やっぱり、リストーマくんはすごい人だね」

「そんなことないよ。魔王の娘ってことはフラータの方がよっぽどすごい人だって」

「魔王の娘だから、フラータは人間じゃないけどね」

「あ、そっか。そうだね」

 魔王、魔王か……。


 驚いたな。

 でも、僕は冒険者じゃないから、魔王軍についてあんまり詳しく知らないんだよな。

 魔族は人間と敵対してるって話は聞いてきたけど、でも、本当にそれくらいだし。

 魔獣とは違う危険な存在って話だったけど、目の前のフラータはそう見えない。

「正直、フラータが魔王の娘だってことは、なんだか不思議な感じではあるよ? フラータを見てると、人間と魔王軍がどうして敵対してるのかわからないくらいだもん」

「フラータも敵対なんてしない方がいいと思ってる。フラータは、リストーマくんたちと仲良くしたい。だからパパとケンカして飛び出してきたんだ……」

「そういうことだったんだ」

 仲良くしたいのに理解されない。

 なるほど、魔王軍全体としては人間と仲良くするってことが理解できないのか。

 でも、フラータは優しいから、父である魔王の意見に賛同できなくて、それで……。

「真剣に聞いてくれてありがとう。きっと他の人だったらフラータのことを怪しむよ。それに、信じてくれなかったんじゃないかな?」

「そうかな? フラータはいい子だからみんな信じてくれると思うけど」

「そんなことないって。魔王軍ってだけで、他のところじゃ危険だって思われるんだから……。やっぱり、リストーマくんがすごい人なんだよ」

「僕自身はそんなすごいもんじゃないと思うけど、でも、そう言ってくれるのは素直に嬉しい」

 ただ少し、女の子が泣いてたからどうにかしてあげたかっただけだ。
 僕は、フラータが困っているようだったから話を聞いてあげただけだ。

 すごいなんて言われるほどのことはしていない。

 僕は、そんなすごい人じゃない。もっと努力しないといけないような、ちっぽけな存在だ。

「フラータはこれからどうするの? 行く場所とかあるの?」

 行くアテがないらしく、フラータは首を横に振った。

 僕だけの力でどうにかできるかはわからないけど、このままバイバイするのはモヤモヤが残りそうだ。

「よければ、僕と一緒に来る?」

「え?」

「ここらはこの間の怪鳥のせいで食べ物も少ないだろうし、かといって、フラータの食べるようなものを用意できるかはわからないんだけどさ。きっと安全に暮らせるように頼んでみるから。僕と一緒に来ない?」

「……そんな、迷惑じゃ」

「迷惑なんかじゃないよ。遠慮ならしなくていいって。姫様はダンジョンにいる魔族っぽい子たちにだって手を差し伸べてくれる優しい人だから」

 それに、これまでの経験から、しっかりと説明すればいいんだってこともわかっている。

 姫様も、むやみやたらに争い事が起こることはよしとしないはずだ。

「悪くない提案だと思うんだけど」

「でも、フラータは魔王の娘。魔王軍とは敵対関係の人間、それもお姫様に助けてもらうなんて……」

「嫌?」

「……」

 やっぱり、僕がよくてもフラータが気にするか。

 魔王も王様って考えたら、フラータも魔王軍のお姫様なんだもんな。

 もしかしたら、誰かに助けてもらうっていうことをよしとしないのかもしれない。

「むしろ、フラータの方からお願いさせてください。ただでとは言いません。どうか、何かさせていただく対価として、その提案を受けさせていただけないでしょうか」

「何か? いや、そんなことしなくても」

「フラータのできることでリストーマくんの力になりたいから、だから、何かをすることで一緒にいることを許してほしい。フラータがそうしたいの」

 そっか。

 フラータも考えてくれたんだ。

 お互いのためになることを。

「わかった」

「本当に?」

「うん。せっかくだし、さっそくダンジョンに入ろう」

「うん! リストーマくんの助手だね」

「助手、かな?」

 わからないけど、心強い。

 一人よりよほど安全なはずだ。

「気をつけてね」

「大丈夫だよ。フラータは人間より丈夫だから」

 胸を張る姿がかわいらしい。

 やっぱりこんな子が危ないなんてことはないはずだ。

「危ない!」

「きゃっ」

 危うくフラータが押し潰されるところだった。

 入り口が崩れダンジョンに閉じ込められた。

「大丈夫?」

「うん。なんともなかったよ。また、守ってもらっちゃった……」

「いいんだよ。それより……」

「どうしてこんなことに? おかしなところはなかったはずだよね」

 こんなに都合よく壊れるなんてそうない。

 それも、僕たちが入る時を狙っていたように壊れることなんて……。

「多分もう壊れてたんだ。壊れていたものを直して、直したものをまた壊れた状態にした」

「え、そんなことってできるの?」

「僕が知る限り、母くらい……」
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