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第23話 寝落ち
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料理の片付けも終わり、僕はタレカとともにゲームを再開した。
それからすぐ、タレカは船をこぐようにうつらうつらし始めた。
気遣いの気持ちを伝えるより先に寝かせてあげればよかったかもしれない。僕が事故を起こすのを嫌ったのだろうが、タレカは率先して家事をこなしてくれている。努めて感謝を伝えてきてはいたが、一人分でよかったはずの諸々の作業が二人分になり、気を張っていたのは事実だろう。
「タレカ」
「んー?」
僕の呼びかけにも心ここにあらずという感じで、ふわふわしたように応えるだけだった。
そのまま体を揺らしていると、タレカは僕の肩へとこてんと頭を乗せてきた。
「……!」
僕は反射的に変な言葉を漏らしそうになるのを必死で我慢する。
ゲームの方ではタレカが上手かったことによって何も起こらなかったが、ここにきてタレカが僕の肩ですうすうと寝息を立てながら眠ってしまった。
とはいえ、見た目は僕なので動揺は半減だ。が、帰りに見たタレカの笑顔がチラついて、自然と心臓の鼓動は早まっていた。
気づくと僕もタレカも雑魚敵にやられ、ゲームオーバーになっていた。僕はいったん、ゲーム画面をポーズにする。
「……どうしたものかなぁ」
本当、こういう時の陽キャは羨ましい。
経験不足の僕では何をすればいいのかわからない。起こすべきなのか、そっと離れるべきなのか、一緒に寝てしまうべきなのか判断できない。今の状況で最後のは絶対にないとわかるが、かといって、選択肢を列挙できているとも思えない。
気持ちよさそうに寝ているのを見ると起こすのも忍びない気がしてくる。
「……どうすりゃいいんだよ」
僕は長く息を吐き出してから決断した。
「おいタレカ。食べてすぐ寝たら牛になるぞ?」
僕はこの状況に居た堪れなくなり、一番の起こすを選択した。
控えめな声量だったつもりだが、タレカは僕の言葉を聞きつけると、いきなり顔を起こして僕の顔を凝視してきた。
「その話本当?」
慌てたように肩を掴んで聞いてくるタレカの剣幕に、僕は一瞬で圧倒されてしまった。
「な、何の話?」
「牛になるって話。あれ、本当なの?」
「ああ」
必死に聞いてきた内容がやっと理解でき、僕は首を縦に振った。
「う、嘘……メイトの体が、牛に……」
「いーや違う違う。そのうなずきじゃない。なるほど、のうなずきだから」
「じゃあ、大丈夫なの? メイトは牛にならなくて済むの?」
「あくまで僕がって言ってるのは気になるけど、キセキは願わないと叶わないはずだから、あっても起こらないんじゃない? 誰かになりたいって、牛になりたいわけではないんでしょ?」
「そう、ね」
なんだか不安な返事だったが、タレカの方も安心したようだった。
そりゃ、本気で言ったつもりはないけど、本当に牛になったら焦るもんな。
「まったく、心配させないでよね」
「ここまで反応するとは思ってなかったから」
「私だからよかったものを、他の子に同じ言葉を使ってたら、メイトの顔は原型が残ってないと思うわよ」
「これタレカの体なんだけど?」
「だからよ。私でよかったわね」
「元の姿だったら同じようにされていたと……?」
恐ろしいことに、僕の問いにタレカは無言でほほえむだけだった。
ゴクリと思わず喉が鳴る。
うかつな発言はつつしんだ方がよさそうだ。
「人の体って話なら、眠気ついでにずっと聞きたかったことがあるのよ」
「キセキについて? 知ってる範囲でなら答えるけど」
「違うわ」
タレカは首を横に振って答えた。
意外な返答に、僕は思わず目を見開いてしまう。
「流石に人体について本格的な医学的知識とかを求められても困るぞ。僕は医者でもなんでもないんだから」
「そうでもないわよ」
「じゃあ何さ」
「メイト、私と入れ替わってから一滴もコーヒー飲んでないでしょ」
どういう類いの質問かわからず、僕は一瞬固まってしまった。
「別に飲まないことはおかしくもないだろ?」
「そうやって誤魔化すことないわ。メイト、学校でさえ毎日のようにブラックコーヒー飲んでたじゃない」
「……そんなとこ見てたの?」
「ある程度、ね。周りを見るのは癖なのよ」
「確かに、そういう意味じゃ一滴も飲んでない」
僕は改めて頷いた。
おそらく、カフェイン中毒と言われるくらい、僕はコーヒーを飲んでいた。
特別夜更かしをする方でもないが、好きで飲んでいたら、それこそ癖になり、毎日飲むのが日課のようになっていた。
それをこの二日まったく飲んでいない。もし僕のコーヒー好きを知っていたのであれば違和感を覚えることかもしれない。
「何か理由があるの?」
「うーん。なんとなくだけど、それじゃ満足いかないんだろ?」
「もちろんよ」
真剣な顔のタレカに僕は迷いつつも口にする。
「他人の体だからかな。僕の知る限り、タレカは飲んでなさそうだしさ。それに、家にもコーヒーを淹れるものはない感じだから。勝手な想像だけど苦手なのかなって思って」
「ええ。そう。飲むと眠れなくなるのよ。驚くほど。体調も崩すし」
「合う合わないはあるだろうからな」
僕が何気なく言うと、タレカは薄くほほえんだ。
「ありがとう。大変でしょうに」
「いいや。タレカの体だからか。そこのところは問題ないさ」
僕はそこで膝を打って立ち上がった。
「さ。タレカも眠いんだろうし、今日やることはさっさと終わらせてさっさと寝ようぜ。明日も同じような一日があるんだからさ」
「そうね」
それからすぐ、タレカは船をこぐようにうつらうつらし始めた。
気遣いの気持ちを伝えるより先に寝かせてあげればよかったかもしれない。僕が事故を起こすのを嫌ったのだろうが、タレカは率先して家事をこなしてくれている。努めて感謝を伝えてきてはいたが、一人分でよかったはずの諸々の作業が二人分になり、気を張っていたのは事実だろう。
「タレカ」
「んー?」
僕の呼びかけにも心ここにあらずという感じで、ふわふわしたように応えるだけだった。
そのまま体を揺らしていると、タレカは僕の肩へとこてんと頭を乗せてきた。
「……!」
僕は反射的に変な言葉を漏らしそうになるのを必死で我慢する。
ゲームの方ではタレカが上手かったことによって何も起こらなかったが、ここにきてタレカが僕の肩ですうすうと寝息を立てながら眠ってしまった。
とはいえ、見た目は僕なので動揺は半減だ。が、帰りに見たタレカの笑顔がチラついて、自然と心臓の鼓動は早まっていた。
気づくと僕もタレカも雑魚敵にやられ、ゲームオーバーになっていた。僕はいったん、ゲーム画面をポーズにする。
「……どうしたものかなぁ」
本当、こういう時の陽キャは羨ましい。
経験不足の僕では何をすればいいのかわからない。起こすべきなのか、そっと離れるべきなのか、一緒に寝てしまうべきなのか判断できない。今の状況で最後のは絶対にないとわかるが、かといって、選択肢を列挙できているとも思えない。
気持ちよさそうに寝ているのを見ると起こすのも忍びない気がしてくる。
「……どうすりゃいいんだよ」
僕は長く息を吐き出してから決断した。
「おいタレカ。食べてすぐ寝たら牛になるぞ?」
僕はこの状況に居た堪れなくなり、一番の起こすを選択した。
控えめな声量だったつもりだが、タレカは僕の言葉を聞きつけると、いきなり顔を起こして僕の顔を凝視してきた。
「その話本当?」
慌てたように肩を掴んで聞いてくるタレカの剣幕に、僕は一瞬で圧倒されてしまった。
「な、何の話?」
「牛になるって話。あれ、本当なの?」
「ああ」
必死に聞いてきた内容がやっと理解でき、僕は首を縦に振った。
「う、嘘……メイトの体が、牛に……」
「いーや違う違う。そのうなずきじゃない。なるほど、のうなずきだから」
「じゃあ、大丈夫なの? メイトは牛にならなくて済むの?」
「あくまで僕がって言ってるのは気になるけど、キセキは願わないと叶わないはずだから、あっても起こらないんじゃない? 誰かになりたいって、牛になりたいわけではないんでしょ?」
「そう、ね」
なんだか不安な返事だったが、タレカの方も安心したようだった。
そりゃ、本気で言ったつもりはないけど、本当に牛になったら焦るもんな。
「まったく、心配させないでよね」
「ここまで反応するとは思ってなかったから」
「私だからよかったものを、他の子に同じ言葉を使ってたら、メイトの顔は原型が残ってないと思うわよ」
「これタレカの体なんだけど?」
「だからよ。私でよかったわね」
「元の姿だったら同じようにされていたと……?」
恐ろしいことに、僕の問いにタレカは無言でほほえむだけだった。
ゴクリと思わず喉が鳴る。
うかつな発言はつつしんだ方がよさそうだ。
「人の体って話なら、眠気ついでにずっと聞きたかったことがあるのよ」
「キセキについて? 知ってる範囲でなら答えるけど」
「違うわ」
タレカは首を横に振って答えた。
意外な返答に、僕は思わず目を見開いてしまう。
「流石に人体について本格的な医学的知識とかを求められても困るぞ。僕は医者でもなんでもないんだから」
「そうでもないわよ」
「じゃあ何さ」
「メイト、私と入れ替わってから一滴もコーヒー飲んでないでしょ」
どういう類いの質問かわからず、僕は一瞬固まってしまった。
「別に飲まないことはおかしくもないだろ?」
「そうやって誤魔化すことないわ。メイト、学校でさえ毎日のようにブラックコーヒー飲んでたじゃない」
「……そんなとこ見てたの?」
「ある程度、ね。周りを見るのは癖なのよ」
「確かに、そういう意味じゃ一滴も飲んでない」
僕は改めて頷いた。
おそらく、カフェイン中毒と言われるくらい、僕はコーヒーを飲んでいた。
特別夜更かしをする方でもないが、好きで飲んでいたら、それこそ癖になり、毎日飲むのが日課のようになっていた。
それをこの二日まったく飲んでいない。もし僕のコーヒー好きを知っていたのであれば違和感を覚えることかもしれない。
「何か理由があるの?」
「うーん。なんとなくだけど、それじゃ満足いかないんだろ?」
「もちろんよ」
真剣な顔のタレカに僕は迷いつつも口にする。
「他人の体だからかな。僕の知る限り、タレカは飲んでなさそうだしさ。それに、家にもコーヒーを淹れるものはない感じだから。勝手な想像だけど苦手なのかなって思って」
「ええ。そう。飲むと眠れなくなるのよ。驚くほど。体調も崩すし」
「合う合わないはあるだろうからな」
僕が何気なく言うと、タレカは薄くほほえんだ。
「ありがとう。大変でしょうに」
「いいや。タレカの体だからか。そこのところは問題ないさ」
僕はそこで膝を打って立ち上がった。
「さ。タレカも眠いんだろうし、今日やることはさっさと終わらせてさっさと寝ようぜ。明日も同じような一日があるんだからさ」
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