スキル「火吹き芸」がしょぼいと言われサーカスをクビになった俺、冒険者パーティ兼サーカス団にスカウトされた件〜冒険者としてもスキルを使います〜

マグローK

文字の大きさ
27 / 32

第27話 アリサの力

しおりを挟む
「何ができるかくらいは、ちゃんと見せておかないとね」

 腕を回し張り切っているのか、アリサはそんなことを言っている。

 いやいや正気か?

 ここは森の中だ。派手に氷系魔法を使っても、木でさえぎられて見にくいんじゃないのか。

「ドーラも少し協力してくれる?」

「いいけど、本当にここでやるの?」

「もちろん」

 まあ、アリサのことだ。何か考えがあるんだろう。

 心配になるが、今はアリサがメインだ。

 俺はアリサを信じることにして、おとなしく助けを求められるまで待つことにした。

「それじゃ始めますね」

「ああ」

 リルに確認すると、アリサはその場でアクロバットを始めた。

 側転、バク宙、空中で氷系魔法を発動し、足場を作っての二段ジャンプ、などなど。

 流れるように動きながらアリサは氷を地面から生やしていた。

 なるほど、巨大な氷を作るわけではなかったのか。

 俺としてはてっきり、最大級の氷のオブジェクトでも作るとばかり思っていたが、人と同じサイズの氷で何かをするなら、森の中でも問題はないか。

「そろそろだよ。ブレスの準備をしてて」

「わかった」

 スムーズに耳打ちを受け、頷く。

 と言っても、俺にできるのは、アリサの指示でブレスを使うために、呼吸を合わせておくことだけだ。

 あくまで冷静にアリサの様子を見ておく。それが一番の準備だ。

 そのため、リラックスして見ていたところ、アリサは俺の予想を超えてきた。

 いくつかの氷が像へと形を変えていく。それは見覚えのある人の形になっていった。

「これは」

「今! 薄くブリザードブレス」

「え、ぶ、ブリザードブレス?」

 てっきりファイアブレスだと思っていた俺は、少しまごつきつつも、初めてのブリザードブレスを吐き出した。

 薄くという指示の通り、キラキラと雪のように太陽光を反射させながら、氷像に降りかかっていく。

 そこには、まるでステージの上で芸を披露しているような、俺たちサーカス冒険団のメンバーの氷像が輝いていた。

「フィニーッシュ!」

 どうやら、これでよかったようだ。

 像の前で決めポーズをし、アリサは頭を下げた。



 反応がない。

 誰も動かない。

 もしかして、アリサはリルたちにも氷系魔法を使ってしまったのか。

 そんな不安を裏切るように、パチパチと手を叩く音が響き出した。

「すごいな。こんな繊細なものを作れるなんて」

「本当だよ。これじゃオレたちの立場がないって」

「ワタシもこれから大丈夫かな」

「いや、ははは。ありがとうございます。でも、いつもより動きやすかったんですよ」

「それはリルのスキルのおかげじゃない?」

「そうなの?」

 改めてリルのスキルについて俺はアリサに説明した。

「なるほど。すごいスキルですね」

「ありがとう。しかし、こんなものを見せられては認めざるを得ないな。それに、まだ正式に入団を認めてなかった」

「え! あたしまだ認められてなかったんですか?」

 驚いた様子のアリサにリルは首を横に振った。

「いや、いつもやってることをしていなかっただけさ。すでにアリサの入団は認めていたよ」

 リルはそこで咳払いすると、アリサの目をじっと見つめた。

「アリサをサーカス冒険団、団員四号に任命する」

「ありがとうござい、ま、す?」

 なんだか歯切れの悪い反応。

「嫌なの?」

「そうじゃなくて、ここにいるのは五人でしょ? あたしは団員四号じゃなくて五号なんじゃと思って」

「ああ、それなら問題ない。私は団員〇号だ。そもそも団員じゃなくて団長だからな」

「なるほど」

 それでいいの? 納得なの?

 まあ、深く突っ込んでも仕方ないことか。

「あたしも、他のみんなもいい感じだね」

「確かに。リルのスキルもあるし、アリサのメニューも前より成長を実感できるし。それがいいんじゃない?」

「ああ。アリサがいなかった時は、デタラメに量をこなしていただけだからな。やっと練習と言える気がする」

「そこまでじゃないですよ。それに、今日は初日なので様子見で、まだまだ詰めが甘いと思います。あとは、少しずつ修正していけば必要な練習はできるはずです」

 どこか確信している様子でアリサは言ってのけた。

 しかし、ここまで人に的確な練習を促せるとは、アリサには一体何が見えているんだろう。

「アリサには一体何が見えているんだ?」

 あ、リルも同じこと考えてたみたいだ。

「あたしは、ただ足りないと思うところを、こうすればいいんじゃないかってアドバイスしてるだけですよ」

「それにしては的確すぎやしないか? 私もスキルで人の適性が見えているのだが、アドバイスができるレベルまで使えてないのだが」

「うーん。だとすると、そうですね」

 確かに、アリサにリルと同じようなスキルがあるという話は聞いたことがない。

 アリサはただの氷系の魔法使いだ。

 今の見た目に魔女らしさはないが、それでも操るのは魔法のはずだ。

 人にアドバイスするのは別なような。

「確かに、あたしが最初から持っていたスキルとしては氷系の魔法だけです。それに、最初から人の力を見抜けたわけじゃないんです。今も一番得意なのは氷系魔法です。ただ、ドーラの冒険者カードを見たのなら分かると思いますが、スキルは結構後からでも習得できるんですよ」

「え、いつの間に俺が冒険者登録したって知ってたの?」

 なんか話の腰を折った気がするが、思わず口から出ていた。

 そんな俺に、アリサは手刀を切って舌を出した。

 そしてなぜかリルまで申し訳なさそうにしている。
「ごめん。ドーラが寝てる間に見ちゃった。あと話を聞いちゃった」

「すまない。つい嬉しくなって話してしまった」

「別に隠してないからいいけど。通りでブリザードブレスとか知ってるわけだよ」

 まあ、俺も自分で練習していたことがスキルのレベルまで上がっていることは知らなかった。

 そこまで意識して練習しているだけでもアリサはすごいと思うけどな。

「ということは、オレもドーラみたいにブレスができるっていうこと?」

「それは難しいと思います。道具を使った火吹き芸ならできると思うんですけど、あれはどうすればできるのかよくわかりませんし」

「え? そうなの?」

「じゃあ、ドーラはどうやって何も使わずに人吹いていたか説明できるの?」

「難しいこと聞くなぁ」

 そんなこと考えたことなかった。

 昔から当たり前のようにできたせいで、できる感覚というものが、できない感覚と比較できない。

 ということは、わからない。

「ほらね? ドーラが説明できないのに、人に教えられませんよ。あたしが人に教えられるのは、あたしが見てわかることだけなんです」

 俺の回答を待たずにアリサは話を終えた。

「それでも十分すぎるほどすごいけどなぁ」

「この力を使わせてくれたのは前はドーラだけだったよ」

 最後にぼそっとアリサが言ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...