もうあなたを離さない

梅雨の人

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エピローグ

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「……愛してるわ、レオ……。」

愛する妻の声が聞こえた気がして意識が覚醒した。

恐る恐る俺はゆっくりと目を開けた。
何もかもに絶望して憔悴していた俺の隣には、いなくなってしまったはずの妻がいて、俺の腕の中で安心しきった顔で眠っていた。

なんて幸せな夢なんだ。
さっきまで失ったものの大きさに耐えることが出来ずに狂いそうになっていたというのに。

もう会えないと思っていたはずの妻のぬくもりを感じる。
これが夢ならもうどうか醒めないようにと強く願う。

自分の都合のいい夢の中で俺は、いつまでも腕の中の妻を抱きしめ続けた。


「っん…。おはよう、レオ。もう起きてたのね?」
「おはよう、アイシャ。愛してるよ。心から。」

「ふふふ、私もよ…レオ。愛してるわ。」

その後、失ってしまった妻をもっと感じたくなった俺は妻の許しを得て久しぶりに妻を抱いた。

もう二度と離さないとばかりに何度も何度も。

遅い朝食を寝室でとった俺達は、共に湯船に浸かった。
もう一時だって妻と離れたくなかった。

でも、その後妻の髪の毛を乾かしてベッドに横たえた後、ゆっくり休んでおくんだよとキスを送った俺は、執事と今日の予定を確認しながら身支度を終えた。

出来ることなら一緒に妻といたかったが、先ほどから執事がドアをノックして俺の準備を急かしていたので渋々身支度をして部屋を出たのだが…。

ここまで来たら、これは夢ではなく現実だと確信を得た俺は執事に今日の日付を聞いてみた。

その日付は俺の記憶が正しければ、あの女と出会ったあの日あたりだと気が付いた。
信じられないが、どうも俺は本当に過去に戻って来てしまったらしい。
そしてなぜか、あの女と出会う直前に。

執事が馬車の手配をし、エントランスで待機をさせている。
これから商談相手と会うために、彼らの滞在する王都で一番大きなホテルのロビーに向かうことになっている。

そうだ、その商談の帰りの道中であの女がいきなり馬車の前に飛び出してきたのを俺が助けてしまったんだったな…。


あんな女にかかわってしまったがために、最愛のアイシャを愚かな俺は失ってしまったんだ―――。
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