今更あなたから嫉妬したなんて言われたくありません。

梅雨の人

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遺言

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「愛しい妻エルザへ、 

これを見ているという事は私は病魔には勝てずに君を置いてあの世に行ってしまったのだね。君を残して先に逝ってしまって本当に申し訳ない。 

愛しいエルをこんなに早くに一人にしてしまうなんて私はとても不安だ。 

大変不本意ではあるが、君のことを別れてからも未練たらしく何十年もしつこく想い続けているらしい男に託すことにした。 

出来ることならエルが最後の時を迎える時まで、私が君の側にいたかったが、こうなってしまっては仕方無い。

どうか幸せになって、エル。

エルが天寿を全うしたらすぐに私がエルを迎えに行くよ。そしてその時に、エルの過ごした幸せで楽しかった話を聞かせてほしい。 

そして、来生で生まれ変わることがあれば、私は君を必ず見つけ迷わずに跪いて、再び君に生涯を共に寄り添う権利を乞うよ。 

大丈夫だ、エル。幸せになるんだよ。私はずっと君を見守っている。

愛している…。愛しているよエルザ。 

ダグラスより」 


涙で視界がぼやけるエルザは手紙を抱きしめ嗚咽を漏らし涙を流し続けた。 

「エルザ様、ダグラス前陛下に生前あなたには内緒でここに呼び出され、あなたを頼むとこんな愚かな私に頭を下げられました。…これから、あなたの傍に寄り添い支えることを許していただけませんでしょうか…。」 

ルーカスは緊張した面持ちでエルザに手を差し伸べた。

死してなお、エルザのことを愛し心配する夫ダニエルの包み込むような愛に触れて、涙が止まらないエルザだった。

そんなエルザを前にぐっと拳を握り締めたルーカスは、意を決したかのようにエルザに手を差し伸べた。 

そのままゆっくりと震える手でエルザの手を包み込んだルーカスは、エルザの華奢な手に触れた。

それは、まだ自分たちが学園に通っていたころに触れた以来のことで、プリシアとの一件以来、初めて、エルザに触れることを許された瞬間であった。 

長年想い続けてきたエルザの手は、若かりし頃のそれと変わらずとても暖かかった。  
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