愛を知ってしまった君は

梅雨の人

文字の大きさ
20 / 49

ムスクの匂い

しおりを挟む
「怖くないか、ルビー?」 

「怖くないわよ、ジョー。心配してくれてるのね。ありがとう。」 

ボートに乗る際にバランスを崩しかけた時に、しっかりと受け止め支えてくれたジョーンズが、ボートを漕いでくれながらもいまだに自分を気に掛けてくれたことにルビーは感心した。 

目の前で悠然とボートを漕ぐジョーンズを見つめるのも違うような気がして、ルビーはふっと水面に目をそらした。 

心地よい静寂が二人を包み、ルビーとジョーンズはしばらく景色を堪能していた。 



「気持ちいいな。…ああ、久々にルビーと釣りに行きたくなってきた。覚えてるか?

まだ俺たちが幼かったころ、良く釣りに行っただろ?勇んで釣ったはいいが、釣った魚が怖いってルビーはいつも泣きそうな顔で俺に助けを求めてきてさ。魚にとってはルビーの方が怖いと思うぞってつい思ったことが口から出た時、ルビーがきょとんって顔して。

ぷくくっ…。あー…ものすごく可愛かったなぁ。」 

「その話は覚えてるわ。魚にとっては私の方が怖いと思うって言われて目から鱗だったわ。魚も私も互いに怯え合ってたのね、なんて納得したの。

今思うと、確かにそうなんだけど…。っふ!ふふふっ!そのあと、得意げにしてたくせに、ジョーったら滑って転んで尻もちついて!」 
 
「はははっ!それは忘れてて欲しかったやつだな。っと…ちょっと雨が降りそうだ…。ルビー、そろそろ戻ろうか。」 

気が付けば雨雲が空を覆っていることに内心舌打ちしたジョーンズは、力一杯ボートを漕いで陸へ向かった。 

雨が降りそうだからと頭に被されたジョーンズのジャケットはすっぽりとルビーを覆い、ジャケットからは好ましい落ち着いたムスクの匂いがした、 

徐々に振り出してきた雨でジョーンズのシャツが濡れ、ボートを漕ぐたびに盛り上がる逞しい肉体がシャツ越しに垣間見えていた。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】私の婚約者は、妹を選ぶ。

❄️冬は つとめて
恋愛
【本編完結】私の婚約者は、妹に会うために家に訪れる。 【楽しい旅行】続きです。

我慢しないことにした結果

宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

行ってらっしゃい旦那様、たくさんの幸せをもらった私は今度はあなたの幸せを願います

木蓮
恋愛
サティアは夫ルースと家族として穏やかに愛を育んでいたが彼は事故にあい行方不明になる。半年後帰って来たルースはすべての記憶を失っていた。 サティアは新しい記憶を得て変わったルースに愛する家族がいることを知り、愛しい夫との大切な思い出を抱えて彼を送り出す。 記憶を失くしたことで生きる道が変わった夫婦の別れと旅立ちのお話。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

いくつもの、最期の願い

しゃーりん
恋愛
エステルは出産後からずっと体調を崩したままベッドで過ごしていた。 夫アイザックとは政略結婚で、仲は良くも悪くもない。 そんなアイザックが屋敷で働き始めた侍女メイディアの名を口にして微笑んだ時、エステルは閃いた。 メイディアをアイザックの後妻にしよう、と。 死期の迫ったエステルの願いにアイザックたちは応えるのか、なぜエステルが生前からそれを願ったかという理由はエステルの実妹デボラに関係があるというお話です。

【完結】その約束は果たされる事はなく

かずきりり
恋愛
貴方を愛していました。 森の中で倒れていた青年を献身的に看病をした。 私は貴方を愛してしまいました。 貴方は迎えに来ると言っていたのに…叶わないだろうと思いながらも期待してしまって… 貴方を諦めることは出来そうもありません。 …さようなら… ------- ※ハッピーエンドではありません ※3話完結となります ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

処理中です...