泣き虫エリー

梅雨の人

文字の大きさ
6 / 11

プロポーズ2

しおりを挟む
ダンはショーンのエリーへの気持ちに気が付いていたが、必要以上の近づくなと釘を刺しておいたのだった。

しかしエリーに恋をして長年こじらせてきたショーンにはそんなダンの言葉はいとも簡単に右から左に流れてしまっていた。

「エリー、それ重たいだろ?俺に貸して、運んでやるから。」
「エリー、クリームが口についてたぞ、ほらこんなに。」
「エリー、髪の毛に何かついてるぞ。取ってやるからじっとしてて。」
「エリー、……はぁっ可愛い…。」
と、こんな具合になんだかんだ言い訳をしつつ、ダンがいないことをいいことに、自然にエリーに触れようとする年相応の残念な男ショーンが出来上がってしまった。

すると次第にエリーも、

「ショーン、ありがとう。力が強いのね。助かる!」
「ショーン、私についてたクリーム食べちゃったの?!恥ずかしいわ。」
「ショーン、本当に優しいよね。ありがとう…。」
と、思いがけず二人の間になんだか生暖かい空気が漂い始めていた。

これまでエリーの近くにいた男と言えば、亡くなった父親、弟ダン、元カレのロニーとこのパン屋の息子のショーンくらいである。

家の手伝いと仕事ばかりで家族以外との交流がほぼないエリーにとって、いつもエリーを気にかけてくれるショーンが特別な存在になるのにはそう時間がかからなかった。

店が終わってからの帰り道、エリーを送っていくショーンの距離はどんどん近くなり、次第に互いの手が触れ合うほど急接近していた。

すぐに触れ合いそうな距離にショーンの手があることで、エリーの胸はどんどん高鳴っていった。

ギル譲りの精悍な見た目と長身でしかも鍛えているであろう筋肉質の逞しいショーンが傍にいてくれるだけでドキドキしてしまうのだ。

そして、エリーに気持ちを伝えたいが、もし断られたらと思うと行動に移せないショーンは、エリーがそんなことを想っているとも知らずに今日もマーシャとギルをやきもきさせるのであった。

「お疲れさまでした。また明日もよろしくお願いします。マーシャさん、ギルさん!」
「ああ!お疲れエリーちゃん!また明日ね!ショーン、ちゃんと無事に送り届けるんだよ!」
「わかってるって、母さん!…じゃあ、いこっか、エリー!」
そういって、エリーを家まで送るのが日課になったショーンはだらしなくなりそうな顔をどうにかこうにか引き締めて、至福の時間をすごしていた。

「エリー、市場によってなにか買っていくものある?」

「うーん、今日はダンの好きな牛の煮込みでも作ろうと思ってるから、ちょっと寄っていこうかな。ダンは時間大丈夫なの?」

「俺は暇人だから大丈夫だよ。荷物が重けりゃエリーの代わりに持ってやれるしな。」

「そう?じゃあ、お願いしようかな。ありがとう。」

そういって、二人は方向を少し変えて市場の方へ歩き出した。
市場はいつ来ても大変にぎわっていて、肉、野菜、装飾品、果物、衣類、雑貨何でもそろっている。

質素倹約が基本のエリーはいつもそれらを眺めるだけで、購入するのは必要最低限のものだけだ。それは生活に余裕が産まれてからも変わっていない。

そんなエリーに愛しさが増すショーンは今日こそは自分の気持ちを告げようと意気込んでいた。

そしてそんなタイミングでショーンに災難が降りかかった。

「ショーン?やっぱりショーンだ!元気にしてた?ほら、学園で一緒だったマリリンよ!覚えてるよね?!」

「ああ、マリリンか。久しぶりだな。元気だったか?」

「うん、おかげさまで。今は実家の手伝いをやってるんだ。あれ?そちらの方は?」

「ああ、この子はエリーだ。うちのパン屋で働いてもらってるんだ。すごく気立てがよくてとても助かってるんだぞ。」

「…へぇ。エリーさん、初めまして。マリリンです。よろしくね。そうそう、せっかくあったんだし、カフェでも入ってお茶しましょうよ?」

「初めまして、マリリンさん。よろしくお願いします。あ、じゃあ、私はこの辺で…。ショーン、ここまで一緒に来てくれてありがとう。後は大丈夫だから。じゃあまた明日ね。マリリンさんも。」

そう言い残して、立ち去るエリーは動揺を隠すのでいっぱいいっぱいだった。

学園に少ししか通わなかったエリーはショーンが異性と一緒にいるのを見たこともなかったし、ましてや自分以外の異性の友達がいるなんてこれまで思いつきもしなかったからだ。

この気持ちを好きっていうんだろうと気が付いたのはつい最近のことで、でもそれでどうしたらいいのかなんてエリーにはわからないでいたのだ。

一歩一歩ショーンから離れていくたびに涙が目に滲んできた。

「…大丈夫、大丈夫…だよね?父ちゃん?」

涙声でそう呟きながら歩くエリーは急に大きな暖かい何かに包まれた。
それは記憶の中にある、大きな父に抱きしめられた時のような、心から安心できる暖かさだった。

「エリーッ!行かないで。ダメだ!俺はエリーの傍にいるって決めてるんだから置いていくなよ!」
それは、さっきおいてきたショーンだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから

よどら文鳥
恋愛
 私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。  五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。  私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。  だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。 「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」  この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。  あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。  婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。  両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。  だが、それでも私の心の中には……。 ※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。 ※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。

一年だけの夫婦でも私は幸せでした。

クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。 フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。 フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。 更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

私が妻です!

ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。 王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。 侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。 そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。 世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。 5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。 ★★★なろう様では最後に閑話をいれています。 脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。 他のサイトにも投稿しています。

処理中です...