泣き虫エリー

梅雨の人

文字の大きさ
8 / 11

エリー22歳

しおりを挟む
ショーンと結婚して四年の月日が流れた。

結婚前日に、弟のダンはエリーのことをショーンに頼み、自分は騎士団の寮へその住処を移したため、今はショーンと二人きりの生活をしている。

しかし、いつでもショーンが戻ってこれるように部屋もそのままにしたままなので、休みになるとしょっちゅうダンが土産を持って帰ってきてくれている。

ダンの剣の腕はめっぽう強いらしくて、遂には、第三師団の小隊長にまでなってしまった。

父そっくりに成長したダンは、強面の大柄で見た目だけでも迫力十分だが姉の前だと表情がすぐに崩れて少し甘えん坊な弟の顔に戻るのだ。

「よお、姉ちゃん、ショーン元気にしてたか?ほいっ、これ、この前の遠征先で買ってきた。」
「ありがとう、ダン。お前も無茶してねえだろうな?エリーを心配させるなよ?」

「それはこっちのセリフだ、ショーン。姉ちゃん泣かせるようなことしてねえだろうな?」

「ふふふっ!二人共あいかわらずね。とにかくご飯にしましょ。今日はダンの好物の牛の煮込み作って待ってたんだから!」

結婚生活四年目が過ぎた今でもこうして弟ダンが姉を気にしてはしょっちゅう顔を見せに来てくれるため、ショーンとダンもまるで兄弟のようにその距離が縮まってその関係は良好だ。

パン屋の一人息子の嫁として気負っていたものの、義母マーシャと義父ギルがもともと気取らない大らかな性格の為か、これまで特に大変だとかストレスになるようなこともなかった。

そして、結婚してからのショーンはもうエリーに首ったけで、特に二人きりのときは何をするにもエリーにべったりとくっついて離れないのだ。

「ねえ、ショーン。ちょっと危ないわ。」
「ごめん、エリー。俺も一緒に手伝わせてよ。頑張るからこれ終わったら…どう?」

そうやっていつもエリーはヘロヘロになるまで妻命の夫に家中いたるところで愛されまくるのだ。

とにかくダンはエリーへの愛を隠そうとしないので、外では自重しているしているつもりでも周囲の人々からはそれはそれは生暖かく見守られている。

「お義母さん、お義父さん、ショーンと休憩に入りますね。」
「はいよ!エリーちゃん、ショーン、ゆっくりしてきなね!」

そう言ってて休憩に入った若夫婦を見送ったマーサとギルは二人の仲の良さに目を細めて見送った。

しかし、その時エリーとショーンの幸せそうな姿を喜べない女が店の中にいたことを誰も気が付かなかった。

そして、その日は訪れた。
いつもエリーにべったりと張り付くようにいるショーンの姿が急に見えなくなる日がこの何日か続いていた。

エリーもそれに違和感を覚え、マーサとギルに断りを入れてショーンを探しに出た。
きょろきょろと店の周りを探し回っているときに、ショーンの声と聞いたことのない女の声が聞こえてきた。

「やめろ!しつこいんだよ!」

「ショーン、そんなこと言わなで!好きなの。学園にいたころからずっと好きだったの。父さんの都合で引っ越しちゃって、つい最近やっとこの街に戻ってこれて。ショーンに好きだって言おうって決めてたの!なんでもう結婚しちゃったのよ!」

「お前に関係ないだろ?俺はエリー一筋なんだ!余計なことしてエリーにちかづいてみろ?ただじゃおかねえぞ。とにかく俺の近くをうろうろするのはやめてくれ。エリーに変な誤解をしてもらいたくないからな。」

そんな会話を聞いてしまったエリーは思わずショーンに駆けつけた。
エリーが現れてショーンは驚いたがすぐにそのたくましい腕に愛しい妻を囲った。

「ショーン、誤解しないから大丈夫よ?ちゃんと断ってるじゃない?大丈夫、大丈夫…。」
「ああ、エリー大丈夫だ。絶対に大丈夫。」

「っな!なによ!私がこんなにショーンのこと好きだって言ってるのに!信じられない!奥さんと目の前でイチャイチャするなんて!聞いたわよ?!結婚四年目でまだ子供が出来ないんですってね!…ねえ、ショーン。私が奥さんの代わりに産んであげてもいいのよ?」

「っなんだと?!口が裂けても頭が狂っても、他人にそんなこと頼むか!もう許せねえ!これ以上俺たちの近くをうろつくようならもうこの街にいられないように訴えてやる!」

堪忍袋の緒が切れたショーンの怒りは激しく、さすがに言い過ぎたと思ったのかその女はすごすごとその場を立ち去り、幸いにもその後姿を現すことはなかった。

しかし、その女が発した言葉は深くエリーの心を深く抉った。
なぜなら、なかなか身籠らないことを不安に思ったエリーが、医師に調べてもらった結果、子供を身籠る可能性が非常に低いことを告げられたばかりだったからだ。

大丈夫、大丈夫…と囁きながらも、女の心ない言葉にぽろぽろと涙するエリーをぎゅっと抱きしめショーンは静かにエリーに伝えた。

「エリー、俺はエリーがいてくれたらあとはもうなんだっていいんだ。子供がいようといまいと俺はエリーがいてくれるだけで幸せだ。貴族じゃないんだから。エリーと一緒になって俺って世界一幸せ者だと思ってるんだ。俺の幸せはエリーで、エリーの幸せは俺。そうだろ?」

そう言って、エリーは涙を吸い取ったり舐め取ったりされながらショーンに抱き上げられ、その日家に帰宅してからショーンの深い愛を朝方まで注がれ続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

妾に恋をした

はなまる
恋愛
 ミーシャは22歳の子爵令嬢。でも結婚歴がある。夫との結婚生活は半年。おまけに相手は子持ちの再婚。  そして前妻を愛するあまり不能だった。実家に出戻って来たミーシャは再婚も考えたが何しろ子爵領は超貧乏、それに弟と妹の学費もかさむ。ある日妾の応募を目にしてこれだと思ってしまう。  早速面接に行って経験者だと思われて採用決定。  実際は純潔の乙女なのだがそこは何とかなるだろうと。  だが実際のお相手ネイトは妻とうまくいっておらずその日のうちに純潔を散らされる。ネイトはそれを知って狼狽える。そしてミーシャに好意を寄せてしまい話はおかしな方向に動き始める。  ミーシャは無事ミッションを成せるのか?  それとも玉砕されて追い出されるのか?  ネイトの恋心はどうなってしまうのか?  カオスなガストン侯爵家は一体どうなるのか?  

私を嫌いな貴方が大好き

六十月菖菊
恋愛
「こんなのが俺の婚約者? ……冗談だろう」  そう言って忌々しげに見下してきた初対面の男に、私は思わず。 「素敵……」 「は?」  うっとりと吐息を漏らして見惚れたのだった。 ◇◆◇  自分を嫌う婚約者を慕う男爵令嬢。婚約者のことが分からなくて空回りする公爵令息。二人の不器用な恋模様を面白おかしく見物する友人が入り混じった、そんな御話。 ◇◆◇  予約投稿です。  なろうさんにて並行投稿中。

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

【完結】その仮面を外すとき

綺咲 潔
恋愛
耳が聞こえなくなってしまったシェリー・スフィア。彼女は耳が聞こえないことを隠すため、読唇術を習得した。その後、自身の運命を変えるべく、レイヴェールという町で新たな人生を始めることを決意する。 レイヴェールで暮らし始めた彼女は、耳が聞こえなくなってから初となる友達が1人でき、喫茶店の店員として働くことも決まった。職場も良い人ばかりで、初出勤の日からシェリーはその恵まれた環境に喜び安心していた。 ところが次の日、そんなシェリーの目の前に仮面を着けた男性が現れた。話を聞くと、仮面を着けた男性は店の裏方として働く従業員だという。読唇術を使用し、耳が聞こえる人という仮面を着けて生活しているシェリーにとって、この男性の存在は予期せぬ脅威でしかない。 一体シェリーはどうやってこの問題を切り抜けるのか。果たしてこの男性の正体は……!?

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

お飾りの私と怖そうな隣国の王子様

mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。 だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。 その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。 「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」 そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。 いつかこの日が来るとは思っていた。 思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。 思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。

処理中です...