何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら

たけむら

文字の大きさ
1 / 3

第1話

しおりを挟む
下校時に、裏門から出ようと校舎裏を歩いていたら、後ろから見知らぬ生徒に声をかけられた。普段話さない生徒が、人目を偲んだところで、やけに緊張して、自分に声をかけてくる。そうなったら、想像することはみんなほぼ同じに違いない。

「ねえ、聞きたいことがあるんだけど…」

そう言って、恥じらいに頬を染める目の前の姿は微笑ましい。いくら気持ちが荒んでいる俺だって、思わず笑顔になってしまうくらいには。

「何?」
「月野くんって、付き合ってる人とか、いるの?」

ぴしり、と怒りにこめかみを震わせながら、それでも、いい格好をしたい俺は必死に笑顔を顔に貼り付ける。

「うん、いるよ。秋斗しゅうとが自分で言ってたし」

その言葉を聞いた時、目の前の女子学生の引き結んだ唇が、わずかに歪む。

「…そっかあ。…うん、ありがとう、花岡くん」

きれいにカールさせたまつげでまばたきを何度も繰り返し、その子は、心もとなさそうに視線を彷徨わせる。ひとりで何度も頷いた後、しばらくして彼女はペコリと頭を下げた。そして、そのまま小走りで去っていく。風をはらんだポニーテールが、黒いリボンまとって揺れていた。その背中を見送った俺は、踵を返し、家へと急ぐ。今日はなんとか上手く撒けたので、このまま自宅へと直行したい。帰り道で秋斗と会うなんてごめんだ。

「誰と会うのがごめんなの?」
「わっ」

不意に真後ろから聞こえてきた穏やかな声に、飛び上がるほど驚いた。ぎこちなく振り返ると、そこには先程話題に上った男子高校生、もとい秋斗が首を傾げている。染めていないのに茶色がかったその髪の毛と、日の光に透き通る茶色の瞳、真っ白な肌。運動部にあるまじき肌の白さながら、その体は、制服越しからでも、鍛えていることが伺える。物腰は穏やかで、顔つきは柔らかく、優しいのに、体はがっしりと筋肉質というギャップ。こんな人が好みだという人は多いのだろう。…凡庸な自分などとは違って。

「なんで先帰るの、今日は部活ないって言ったじゃん」
「部活ないからって、なんで秋斗と帰らないといけないんだよ」
李久りく、今週ずっと一人で帰らせちゃってごめんね。謝るから、拗ねないで」
「拗ねてねーよっ」

ギャンギャン騒ぐ俺の肩を掴んで、秋斗はどんどん歩いていく。裏門は、正門よりも人が少ないとはいえ、秋斗の類まれな容姿は、その人たちの視線を一身に引きつける。注目の的である秋斗本人は気にしていないようだったが、隣でドナドナされている俺は、なんだか歩いているだけで惨めな気持ちになってきた。

秋斗は、家が隣ということで家族ぐるみの付き合いがある幼馴染だ。そして、頭も良くて、顔も良くて、おまけに運動能力もいい、まさしく神に何物も与えられた人。幼い頃は隣で無邪気に遊んでいられたけれど、大きくなるにつれて、秋斗の隣にいることが苦しくなった。何も秀でたところが無いくせに、一丁前に嫉妬を身につけてしまった自分の汚れ具合が、時々嫌になる。

「テスト勉強進んでるの?」
「やってはいるけど、進まない」
「まあ、今回の範囲難しいけどさ」
「え、やっぱり? 秋斗もそう?」

秋斗の隣にいると、周囲に比較されそうで怖いし、そうでなくても自らが勝手に比較して、落ち込んでしまう。それなのに、秋斗の隣は居心地が良くて、やっぱり困る。

そして、家の前まで来ると、秋斗は何食わぬ顔で鞄から鍵を取り出し、ドアを開けた。…「俺」の家の。

「なんで俺の家の鍵持ってんの?」
「この間、瑞来さんにもらった」
「母さんに?」

なんと母さんは、自分の家の鍵を秋斗に渡したらしい。なんということだ、俺の逃げ場所は、もうどこにもないじゃないか。

「そして、上がってくの?」
「え、うん」
「帰れよ」
「やだ」
「っちょっとっ、帰れって、マジでっ」

秋斗の両肩を力一杯押しても、彼は涼しい顔で靴を脱ぎ、勝手知ったる風に俺の部屋へと歩いていく。

「大丈夫だよ、大人な本見つけても、内緒にしておいてあげる」
「っ持ってねーよ!」
「お年頃なんだから、恥ずかしがることじゃないよ」
「…秋斗は持ってんのかよ」
「持ってないよ、いらないもん」

いらない…? いらないって、どういうことだ…? 頭がクエスチョンマークで埋め尽くされる俺とは対照的に、秋斗は、落ち着いた様子でミニテーブルのそばに座った。

「李久、どこがわかんないの?」
「は? お前ここで勉強してくの?」
「うん」
「ええ…」
「これ、買ってきといたよ、李久の好きなジュース」

そう言って、秋斗が鞄から取り出したのは、オレンジの炭酸ジュースだ。確かに昔からこのジュースが好きで、小さい頃、何かあるたびに買ってもらっていた。

「ほら、時間もったいないよ、座りなよ」
「はあ…」

ぽんぽんと自分の近くの床を叩く秋斗、ではなく、ジュースの魔力に負けた俺は、渋々隣に座る。最近は一人で使っていたこのミニテーブルも、秋斗とふたりで使っていると、なんだか狭く感じる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

え?俺って思ってたよりも愛されてた感じ?

パワフル6世
BL
「え?俺って思ってたより愛されてた感じ?」 「そうだねぇ。ちょっと逃げるのが遅かったね、ひなちゃん。」 カワイイ系隠れヤンデレ攻め(遥斗)VS平凡な俺(雛汰)の放課後攻防戦 初めてお話書きます。拙いですが、ご容赦ください。愛はたっぷり込めました! その後のお話もあるので良ければ

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 一月十日のアルファポリス規約改定を受け、サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をこちらへ移しましたm(__)m サブ垢の『バウムクーヘンエンド』はこちらへ移動が出来次第、非公開となりますm(__)m)

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

その部屋に残るのは、甘い香りだけ。

ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。 同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。 仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。 一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

処理中です...