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第1話
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下校時に、裏門から出ようと校舎裏を歩いていたら、後ろから見知らぬ生徒に声をかけられた。普段話さない生徒が、人目を偲んだところで、やけに緊張して、自分に声をかけてくる。そうなったら、想像することはみんなほぼ同じに違いない。
「ねえ、聞きたいことがあるんだけど…」
そう言って、恥じらいに頬を染める目の前の姿は微笑ましい。いくら気持ちが荒んでいる俺だって、思わず笑顔になってしまうくらいには。
「何?」
「月野くんって、付き合ってる人とか、いるの?」
ぴしり、と怒りにこめかみを震わせながら、それでも、いい格好をしたい俺は必死に笑顔を顔に貼り付ける。
「うん、いるよ。秋斗が自分で言ってたし」
その言葉を聞いた時、目の前の女子学生の引き結んだ唇が、わずかに歪む。
「…そっかあ。…うん、ありがとう、花岡くん」
きれいにカールさせたまつげでまばたきを何度も繰り返し、その子は、心もとなさそうに視線を彷徨わせる。ひとりで何度も頷いた後、しばらくして彼女はペコリと頭を下げた。そして、そのまま小走りで去っていく。風をはらんだポニーテールが、黒いリボンまとって揺れていた。その背中を見送った俺は、踵を返し、家へと急ぐ。今日はなんとか上手く撒けたので、このまま自宅へと直行したい。帰り道で秋斗と会うなんてごめんだ。
「誰と会うのがごめんなの?」
「わっ」
不意に真後ろから聞こえてきた穏やかな声に、飛び上がるほど驚いた。ぎこちなく振り返ると、そこには先程話題に上った男子高校生、もとい秋斗が首を傾げている。染めていないのに茶色がかったその髪の毛と、日の光に透き通る茶色の瞳、真っ白な肌。運動部にあるまじき肌の白さながら、その体は、制服越しからでも、鍛えていることが伺える。物腰は穏やかで、顔つきは柔らかく、優しいのに、体はがっしりと筋肉質というギャップ。こんな人が好みだという人は多いのだろう。…凡庸な自分などとは違って。
「なんで先帰るの、今日は部活ないって言ったじゃん」
「部活ないからって、なんで秋斗と帰らないといけないんだよ」
「李久、今週ずっと一人で帰らせちゃってごめんね。謝るから、拗ねないで」
「拗ねてねーよっ」
ギャンギャン騒ぐ俺の肩を掴んで、秋斗はどんどん歩いていく。裏門は、正門よりも人が少ないとはいえ、秋斗の類まれな容姿は、その人たちの視線を一身に引きつける。注目の的である秋斗本人は気にしていないようだったが、隣でドナドナされている俺は、なんだか歩いているだけで惨めな気持ちになってきた。
秋斗は、家が隣ということで家族ぐるみの付き合いがある幼馴染だ。そして、頭も良くて、顔も良くて、おまけに運動能力もいい、まさしく神に何物も与えられた人。幼い頃は隣で無邪気に遊んでいられたけれど、大きくなるにつれて、秋斗の隣にいることが苦しくなった。何も秀でたところが無いくせに、一丁前に嫉妬を身につけてしまった自分の汚れ具合が、時々嫌になる。
「テスト勉強進んでるの?」
「やってはいるけど、進まない」
「まあ、今回の範囲難しいけどさ」
「え、やっぱり? 秋斗もそう?」
秋斗の隣にいると、周囲に比較されそうで怖いし、そうでなくても自らが勝手に比較して、落ち込んでしまう。それなのに、秋斗の隣は居心地が良くて、やっぱり困る。
そして、家の前まで来ると、秋斗は何食わぬ顔で鞄から鍵を取り出し、ドアを開けた。…「俺」の家の。
「なんで俺の家の鍵持ってんの?」
「この間、瑞来さんにもらった」
「母さんに?」
なんと母さんは、自分の家の鍵を秋斗に渡したらしい。なんということだ、俺の逃げ場所は、もうどこにもないじゃないか。
「そして、上がってくの?」
「え、うん」
「帰れよ」
「やだ」
「っちょっとっ、帰れって、マジでっ」
秋斗の両肩を力一杯押しても、彼は涼しい顔で靴を脱ぎ、勝手知ったる風に俺の部屋へと歩いていく。
「大丈夫だよ、大人な本見つけても、内緒にしておいてあげる」
「っ持ってねーよ!」
「お年頃なんだから、恥ずかしがることじゃないよ」
「…秋斗は持ってんのかよ」
「持ってないよ、いらないもん」
いらない…? いらないって、どういうことだ…? 頭がクエスチョンマークで埋め尽くされる俺とは対照的に、秋斗は、落ち着いた様子でミニテーブルのそばに座った。
「李久、どこがわかんないの?」
「は? お前ここで勉強してくの?」
「うん」
「ええ…」
「これ、買ってきといたよ、李久の好きなジュース」
そう言って、秋斗が鞄から取り出したのは、オレンジの炭酸ジュースだ。確かに昔からこのジュースが好きで、小さい頃、何かあるたびに買ってもらっていた。
「ほら、時間もったいないよ、座りなよ」
「はあ…」
ぽんぽんと自分の近くの床を叩く秋斗、ではなく、ジュースの魔力に負けた俺は、渋々隣に座る。最近は一人で使っていたこのミニテーブルも、秋斗とふたりで使っていると、なんだか狭く感じる。
「ねえ、聞きたいことがあるんだけど…」
そう言って、恥じらいに頬を染める目の前の姿は微笑ましい。いくら気持ちが荒んでいる俺だって、思わず笑顔になってしまうくらいには。
「何?」
「月野くんって、付き合ってる人とか、いるの?」
ぴしり、と怒りにこめかみを震わせながら、それでも、いい格好をしたい俺は必死に笑顔を顔に貼り付ける。
「うん、いるよ。秋斗が自分で言ってたし」
その言葉を聞いた時、目の前の女子学生の引き結んだ唇が、わずかに歪む。
「…そっかあ。…うん、ありがとう、花岡くん」
きれいにカールさせたまつげでまばたきを何度も繰り返し、その子は、心もとなさそうに視線を彷徨わせる。ひとりで何度も頷いた後、しばらくして彼女はペコリと頭を下げた。そして、そのまま小走りで去っていく。風をはらんだポニーテールが、黒いリボンまとって揺れていた。その背中を見送った俺は、踵を返し、家へと急ぐ。今日はなんとか上手く撒けたので、このまま自宅へと直行したい。帰り道で秋斗と会うなんてごめんだ。
「誰と会うのがごめんなの?」
「わっ」
不意に真後ろから聞こえてきた穏やかな声に、飛び上がるほど驚いた。ぎこちなく振り返ると、そこには先程話題に上った男子高校生、もとい秋斗が首を傾げている。染めていないのに茶色がかったその髪の毛と、日の光に透き通る茶色の瞳、真っ白な肌。運動部にあるまじき肌の白さながら、その体は、制服越しからでも、鍛えていることが伺える。物腰は穏やかで、顔つきは柔らかく、優しいのに、体はがっしりと筋肉質というギャップ。こんな人が好みだという人は多いのだろう。…凡庸な自分などとは違って。
「なんで先帰るの、今日は部活ないって言ったじゃん」
「部活ないからって、なんで秋斗と帰らないといけないんだよ」
「李久、今週ずっと一人で帰らせちゃってごめんね。謝るから、拗ねないで」
「拗ねてねーよっ」
ギャンギャン騒ぐ俺の肩を掴んで、秋斗はどんどん歩いていく。裏門は、正門よりも人が少ないとはいえ、秋斗の類まれな容姿は、その人たちの視線を一身に引きつける。注目の的である秋斗本人は気にしていないようだったが、隣でドナドナされている俺は、なんだか歩いているだけで惨めな気持ちになってきた。
秋斗は、家が隣ということで家族ぐるみの付き合いがある幼馴染だ。そして、頭も良くて、顔も良くて、おまけに運動能力もいい、まさしく神に何物も与えられた人。幼い頃は隣で無邪気に遊んでいられたけれど、大きくなるにつれて、秋斗の隣にいることが苦しくなった。何も秀でたところが無いくせに、一丁前に嫉妬を身につけてしまった自分の汚れ具合が、時々嫌になる。
「テスト勉強進んでるの?」
「やってはいるけど、進まない」
「まあ、今回の範囲難しいけどさ」
「え、やっぱり? 秋斗もそう?」
秋斗の隣にいると、周囲に比較されそうで怖いし、そうでなくても自らが勝手に比較して、落ち込んでしまう。それなのに、秋斗の隣は居心地が良くて、やっぱり困る。
そして、家の前まで来ると、秋斗は何食わぬ顔で鞄から鍵を取り出し、ドアを開けた。…「俺」の家の。
「なんで俺の家の鍵持ってんの?」
「この間、瑞来さんにもらった」
「母さんに?」
なんと母さんは、自分の家の鍵を秋斗に渡したらしい。なんということだ、俺の逃げ場所は、もうどこにもないじゃないか。
「そして、上がってくの?」
「え、うん」
「帰れよ」
「やだ」
「っちょっとっ、帰れって、マジでっ」
秋斗の両肩を力一杯押しても、彼は涼しい顔で靴を脱ぎ、勝手知ったる風に俺の部屋へと歩いていく。
「大丈夫だよ、大人な本見つけても、内緒にしておいてあげる」
「っ持ってねーよ!」
「お年頃なんだから、恥ずかしがることじゃないよ」
「…秋斗は持ってんのかよ」
「持ってないよ、いらないもん」
いらない…? いらないって、どういうことだ…? 頭がクエスチョンマークで埋め尽くされる俺とは対照的に、秋斗は、落ち着いた様子でミニテーブルのそばに座った。
「李久、どこがわかんないの?」
「は? お前ここで勉強してくの?」
「うん」
「ええ…」
「これ、買ってきといたよ、李久の好きなジュース」
そう言って、秋斗が鞄から取り出したのは、オレンジの炭酸ジュースだ。確かに昔からこのジュースが好きで、小さい頃、何かあるたびに買ってもらっていた。
「ほら、時間もったいないよ、座りなよ」
「はあ…」
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