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第9話
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「夕理」
なんとか数学のピンチを乗り越え、本日を乗り切り、意気揚々と教室を出ると、そこには外向きのちょっと格好をつけた会長が立っていた。朝に寒い冗談を飛ばしていたときの面影はなく、ネクタイのことで色々と言ってきていた時代の会長の姿がきちんと復元されている。
「げ…」
そして、自分の後に続いて教室を出ようとしていた悪友は、背後で心底嫌そうな声を上げた。
「…夕理、行きましょうか」
「は? どこに?」
会長は俺の後ろを見つめた後、貼り付けたような笑みを浮かべ、腰を引き寄せてきた。
「…あの、伊佐野先輩」
「何でしょうか、秋山さん」
さすがに学校にいるからだろうか、会長の声はよそ行きのものだ。もうこっちとしては、その声の方がなんだかちょっと違和感があるのだが、会長はごく自然に使い分けているらしい。
そして、悪友の声も何だかちょっと硬いような気はするのだが、そんなことよりも何よりも、背の高い二人に挟まれているこの状況は気まずすぎる。アニメでよく見たことがあるようなシチュエーションだけれど、本当はもっとかわいい子とか愛嬌のある子を挟んでやるべきものだと思う。少なくとも、確実に俺が真ん中にいるのは間違えているし、俺のSAN値は、この空間にいるだけで削られてゆく。だって、慣れていないし。というか、こんな状況慣れてたまるか、という感じである。
「同意の上ですか」
「もちろんです、ご心配には及びません」
「何かあったら、黙っているつもり、ないですよ」
「大丈夫ですよそんなことは断じてあり得ませんから安心して帰ってくださいお気をつけて」
しかも、目の前で繰り広げられるラリーは、さっぱり何を言っているんだかわからない。会長も今までに聞いたことないくらい、なんだか早口だし。ここまで来てキャラ崩壊が起こっているけど、大丈夫なんだろうか。
「…」
「…」
無言のうちに見えない火花が散っているような気がする。というか、このデカブツふたりに挟まれた空間にいるのがやっぱり気まずいし、なんだか人目も引いてきたので、一刻も早く脱出したい。そちらふたりは勝手に盛り上がって楽しいかもしれないけれど、無関係なこちとらたまったものじゃない。
「あの、俺、先帰るのでっ」
「え? っおい」
「っ夕理?」
「…で、なんっで、会長が、ここに、いるんですか」
「恋人の部屋にいることは、そんなにおかしなことでしょうか」
「…だっ、こ、いび…と…っでも、急に来るのはおかしいでしょうがっ」
「それは、夕理がつれない態度をとったからですよ。夕理は悪い人ですね」
「…っ、なっ」
急にどアップになった会長の目が微笑む。会長の手が、こめかみあたりの髪を弄ぶ。かすかに頬に触れる会長の指が、くすぐったい。
「…こうやって近づくと、すぐ顔が赤くなりますね」
もう片方の手の甲が、さらりと頬を撫でていく。手が離れていく瞬間、少しだけ名残惜しいなんて思ってしまうのは、熱い頬に会長の手が少し冷たく感じるからだ。それだけだ。断じて、会長に頬を撫でられるのが気持ちいいからとかじゃない。
むしろ、会長の手が頬から離れて安心していたら、不意に前髪がかきあげられた。額までじわりと広がっていた熱が急に冷めていく。
「…なっ、なに、してっ」
「まだあげそめし前髪の、という有名な作品がありますが、確かに産毛が額に薄くかかっているというのは、なんだかそそられる光景ですね」
「…そ、そられ…っ」
「夕理、顔が一層赤くなりましたよ。何を想像したんですか」
「…何もっ、想像してなんかっ…っ」
咄嗟に目をつむると、会長が前髪をかき上げたせいで防御力が著しく低下した額に柔らかさが触れる。それが会長の唇なのだと、一日でしっかりと教え込まれてしまった体に、自分のものながら腹が立つ。
「大丈夫ですよ、昨日の今日で、さすがにそんな無理はさせません」
滅多に出さない、そんな優しい声音で言われると、逆に心がざわつくから困る。おまけに瞼に唇が落とされて、勝手に瞼から力が抜けていった。
「…それとも、夕理のかわいいおねだりでしたか」
「っ、そんなっ、わけ…っんっ」
するりと入ってきた会長の舌が、優しく舌に絡められる。深い口づけの水音と、わずかな衣擦れの音だけが静かな部屋にいやに響く。淡い電流が腰から背中に走っていき、体が震えた。
「…はあっ、んっ…っはあ…」
「…とても美味しそうなりんごですが、食べるのはまた今度の楽しみに取っておきますね」
「…っ、今度なんてっ、あるわけ…ないっ」
「大丈夫ですよ、夕理にその気がなくても、その気にさせますから」
仕上げとばかりに頬に唇が落とされる。会長の隠しきれない笑い声が耳に入ってくる。人をからかって楽しむところは、今になっても変わらない。
…というか、さっき会長は自信満々に恋人などとのたまっていたけど、いつの間に付き合っていることになったんだっけ。クーリングオフとかできないのかな、本当に。
なんとか数学のピンチを乗り越え、本日を乗り切り、意気揚々と教室を出ると、そこには外向きのちょっと格好をつけた会長が立っていた。朝に寒い冗談を飛ばしていたときの面影はなく、ネクタイのことで色々と言ってきていた時代の会長の姿がきちんと復元されている。
「げ…」
そして、自分の後に続いて教室を出ようとしていた悪友は、背後で心底嫌そうな声を上げた。
「…夕理、行きましょうか」
「は? どこに?」
会長は俺の後ろを見つめた後、貼り付けたような笑みを浮かべ、腰を引き寄せてきた。
「…あの、伊佐野先輩」
「何でしょうか、秋山さん」
さすがに学校にいるからだろうか、会長の声はよそ行きのものだ。もうこっちとしては、その声の方がなんだかちょっと違和感があるのだが、会長はごく自然に使い分けているらしい。
そして、悪友の声も何だかちょっと硬いような気はするのだが、そんなことよりも何よりも、背の高い二人に挟まれているこの状況は気まずすぎる。アニメでよく見たことがあるようなシチュエーションだけれど、本当はもっとかわいい子とか愛嬌のある子を挟んでやるべきものだと思う。少なくとも、確実に俺が真ん中にいるのは間違えているし、俺のSAN値は、この空間にいるだけで削られてゆく。だって、慣れていないし。というか、こんな状況慣れてたまるか、という感じである。
「同意の上ですか」
「もちろんです、ご心配には及びません」
「何かあったら、黙っているつもり、ないですよ」
「大丈夫ですよそんなことは断じてあり得ませんから安心して帰ってくださいお気をつけて」
しかも、目の前で繰り広げられるラリーは、さっぱり何を言っているんだかわからない。会長も今までに聞いたことないくらい、なんだか早口だし。ここまで来てキャラ崩壊が起こっているけど、大丈夫なんだろうか。
「…」
「…」
無言のうちに見えない火花が散っているような気がする。というか、このデカブツふたりに挟まれた空間にいるのがやっぱり気まずいし、なんだか人目も引いてきたので、一刻も早く脱出したい。そちらふたりは勝手に盛り上がって楽しいかもしれないけれど、無関係なこちとらたまったものじゃない。
「あの、俺、先帰るのでっ」
「え? っおい」
「っ夕理?」
「…で、なんっで、会長が、ここに、いるんですか」
「恋人の部屋にいることは、そんなにおかしなことでしょうか」
「…だっ、こ、いび…と…っでも、急に来るのはおかしいでしょうがっ」
「それは、夕理がつれない態度をとったからですよ。夕理は悪い人ですね」
「…っ、なっ」
急にどアップになった会長の目が微笑む。会長の手が、こめかみあたりの髪を弄ぶ。かすかに頬に触れる会長の指が、くすぐったい。
「…こうやって近づくと、すぐ顔が赤くなりますね」
もう片方の手の甲が、さらりと頬を撫でていく。手が離れていく瞬間、少しだけ名残惜しいなんて思ってしまうのは、熱い頬に会長の手が少し冷たく感じるからだ。それだけだ。断じて、会長に頬を撫でられるのが気持ちいいからとかじゃない。
むしろ、会長の手が頬から離れて安心していたら、不意に前髪がかきあげられた。額までじわりと広がっていた熱が急に冷めていく。
「…なっ、なに、してっ」
「まだあげそめし前髪の、という有名な作品がありますが、確かに産毛が額に薄くかかっているというのは、なんだかそそられる光景ですね」
「…そ、そられ…っ」
「夕理、顔が一層赤くなりましたよ。何を想像したんですか」
「…何もっ、想像してなんかっ…っ」
咄嗟に目をつむると、会長が前髪をかき上げたせいで防御力が著しく低下した額に柔らかさが触れる。それが会長の唇なのだと、一日でしっかりと教え込まれてしまった体に、自分のものながら腹が立つ。
「大丈夫ですよ、昨日の今日で、さすがにそんな無理はさせません」
滅多に出さない、そんな優しい声音で言われると、逆に心がざわつくから困る。おまけに瞼に唇が落とされて、勝手に瞼から力が抜けていった。
「…それとも、夕理のかわいいおねだりでしたか」
「っ、そんなっ、わけ…っんっ」
するりと入ってきた会長の舌が、優しく舌に絡められる。深い口づけの水音と、わずかな衣擦れの音だけが静かな部屋にいやに響く。淡い電流が腰から背中に走っていき、体が震えた。
「…はあっ、んっ…っはあ…」
「…とても美味しそうなりんごですが、食べるのはまた今度の楽しみに取っておきますね」
「…っ、今度なんてっ、あるわけ…ないっ」
「大丈夫ですよ、夕理にその気がなくても、その気にさせますから」
仕上げとばかりに頬に唇が落とされる。会長の隠しきれない笑い声が耳に入ってくる。人をからかって楽しむところは、今になっても変わらない。
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