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第8話

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今日はとんでもない日だ。朝っぱらから会長の変なギャグを浴び、隣の席の悪友、いや、悪友から冷たくされ、心の中に冷たい風が吹きすさぶ俺は、今、ピンチに陥っている。

そう、事件の発端は先週。いつも隣の席の優等生に見せてもらっていた宿題を自分の力でやろうと思い立ったのだ。宿題をするためには当然教科書が必要だ。名前を書いた時以来初めてくらいの勢いで家に教科書をえっちらおっちらと持って帰り、そして…。その後は、賢い読者の諸君ならば分かるであろう。そう、置き勉しかしてこなかった俺は、教科書を家から持ってくることを…忘れたのだ。

やばい、まずい。仕方ないから全然関係ない社会の教科書を広げたけど、例題を当てられたら詰むやつだ。

こっそりと横目で隣の席を見るが、見た目と違って成績が良い隣の男子は、突っ伏してピクリとも動かない。彼の体調もちょこっと気になるが、それよりも気になるのは、教科書だ。せっかく広げた教科書の上に、そうやって覆い被さるようにして突っ伏しちゃって、全然教科書が見えない。首を伸ばしてなんとか隙間から教科書を覗こうとしているが、全っ然見えない。

「おい、水沢何してる」
「っひゃい」

呼ばれた声に反射的に前を見ると、ばっちりと数学の藤田先生と目が合った。驚きすぎて返事はままならなかったし、声も裏返ってしまった。俺じゃなければ可愛いとかなるんだろうけれど、残念なことに俺のそんな声に需要はない。見る人の鳥肌が立つだけだ。会長はかわいいとかなんとか言ってくるけど、あの人は一回病院に行ったほうがいいと思う。

「秋山のことが気になるのは分かるけど、授業に集中しなさい。お前成績悪いんだから」
「…すいません」

じわじわと恥ずかしさが込み上げてきながら、前の席の人に隠れるように背中を丸める。笑わないでいてくれてありがとう、親愛なるクラスメイトたち。寝てるだけかもしれないけど。授業聞いてないだけかもしれないけど。

「…教科書、忘れたの」
「ん?」
「これ使えば」

そう言って隣の席の元悪友、秋山くんは彼の教科書を机に置いてくる。そして、その代わりとばかりにダミー要員だった社会の教科書をぶんどっていった。

「…ふっ、これ社会の教科書じゃん」

ばかじゃんと呟き、パラパラとページをめくった秋山くんは、また机に突っ伏した。

「起きてたの?」
「名前呼ばれたから、起きた」
「…それは、ごめんだわ」
「あっそ」
「…あのさ」
「何?」
「…また、勉強…とか、教えて…くんないかな…って」

なんだか気恥ずかしくて、黒板の方を見ながら途切れ途切れに言葉を紡ぐ。友達でいることってこんなに難しかったんだっけ。仲直りするのって、こんなに難しいものだったんだっけ。

沈黙を誤魔化すように、無理矢理唾を飲み込む。たっぷり息を吸って吐いても、隣の秋山くんは無言だった。

恐る恐る横目で隣の席を確認すると、秋山くんは、机に突っ伏した姿勢のまま首だけ上げて、真っ直ぐに黒板を見ていた。逆に首痛くなるんじゃないかな、それ。

「…別に、いいけど」

ぶっきらぼうに言った悪友の耳が赤くなっていたのは、見なかったことにしてあげよう。

「おい、水沢? 何してるんだ、(3)の答えは?」
「…え」
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