トラフェルキア見聞録(クローズドβ)

名誉ナゴヤニスタン人

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01.お父さん、お母さん、就職は決まってないけど、働く喜びがわかりました

第001話「話をしよう。あれは今から36万……」

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第001話「話をしよう。あれは今から36万……」


 ――――今日も僕はこのワンルームで目を覚ます。
 目を覚まし起き上がると、背後で暖炉がパチパチと燃えている。


ウェンデル:「いたたた……」


 ――――起きて最初に感じるのは頭の火照り、これは暖炉側を頭にして寝ていたせいだ。今晩は逆にして寝よう。次に感じること、足が冷たい。これは暖炉と反対側に足を置いて寝たせいだ。

 その次に感じる事――全身、特に背中が痛い。これは床に藁と布だけ敷いて寝ていたせいだ。生憎なのであるがベッドを買う金が無い、ブロンズベッドの価格は現在国営マーケット価格で5,500ギルダンを前後しており、直近の取引履歴を見るに200から400ギルダンほどの価格上昇が見られる。

 このワンルームは非常に殺風景で、暖炉を除いては布団とさえいえない粗末な藁とボロ布の集合体に木製のチェストとボロボロの物書き台が一つずつ、書きかけの日記とペンが置きっぱなしだが椅子はない、買うお金が無かった。



 重大な情報を口にしなければならない。
 現在、僕の全財産は467ギルダンである。



 ――――いや待って欲しい、これは決して悲観的な数字ではないのである。最近僕はとても仕事を頑張っている、だから先週よりも400ギルダンほど貯蓄が増えた。1日1回のパン切れと石のスープが今では1日3回食べられる。しかも日に一回は卵を奮発できるようになったのだ。このペースで仕事を続ければ来月にはベッドで寝る事も不可能ではないかもしれないし――いや、そうじゃないだろう。僕には行かなきゃいけない場所がある。

 この水の都アクエストン王国から直線距離にしておよそ30キロメートル、港町クレイまで辿り着く事が出来たならば、そこから定期船に乗ってハケインの町にまで行く事が出来る。そうすれば姫川さん……いや? それともここでは「シャルロット」と呼ぶべきだろうか、とにかく彼女と合流する事が出来るかもしれない。


 郵便屋のおかげで彼女の近況を手紙で知る事だけは出来るが、この状況となってから僕は一度も彼女に直接会っていないのだ。無事でいてくれると良いが――――。



 そのような事を考えながらウェンデルは立ち上がり、背中や尻についた藁の切れ端をパンパンと叩く。早くベッドで寝たい、しかし冒険資金を貯めなければこの都市を出てシャルロットとの合流を目指す事さえ叶わぬ、この金銭的バランス感覚が当初の見立て以上に難しいのだった。



 じっと手を見る、もはや見慣れた我が手である。
 指はきちんと五本生えている。三本とかでなくて良かった。
 爪も生えてる。最近爪が伸びる事に気が付いた、壁で爪とぎをしているだけではそろそろ誤魔化しきれない、爪切りを買わなければ。

 200ギルダンの予算内で僕用の爪切りは買えるだろうか? いや今悩んでも仕方がない、路上バザー・国営マーケット価格を検討し相場を見極める必要がある、それで情報を得てから悩むことにしよう。


 もう一度自らの手を見ると、ふわふわに生えたウォルナット色の体毛が嫌でも目に入る。

 壁には唯一中古20ギルダンで買った鏡が――大きなヒビが入っているが、まあパン一つと同等の価格なら文句も言えない。

 鏡を見ると、手から生えた体毛と同じ、ウォルナット色の毛の生えた顔と、同じ色の鼻、長く垂れた耳が映った。まるでウサギのようだが、実際これはラビバーンという名前の種族で、亜人族の一種……亜人! つまりれっきと人類の仲間なのである! 決してソロウリー、完璧にウサギと同一生物というわけではないのだ、だから安心して欲しい。

 実際僕はこの街に来てから何度も普通のウサギを見ている、その肉を調理するラビバーン族も、兎肉のグリルをレストランで食べるラビバーン族さえ何度も見ている。それで一度「ウサギがウサギを食べて大丈夫なのか?」と聞いたら?

 ――――殴られた、理不尽だ、当然の疑問だろう。あと、僕はステーキを食べたかったので草原でウサギを捕まえようと一度試みた。短く結果を伝えよう。



 ――――惨敗だった。危うく死ぬ所だった。
 そうだ、僕は野兎に勝負を挑んで、負けたのだ。


 もう少し自分の身体生命には気を遣おうと思った事件であり、あれから街から遠くには出ていない。もう少し経験を積んで、武器防具を揃えなければならないだろう。




 ――――ごめん、もともとは何の話だったっけ?

 そうだ。僕だってかつては普通の、肌色の肌の、普通の人間だった。嘘じゃない信じて欲しい。それがある日僕はウサギになったのだ。あれは今から36万、いや1万4千年前だったか。


 まあいい。
 今日の仕事が終わったらその話について回顧録を書こうと思う。
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