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01.お父さん、お母さん、就職は決まってないけど、働く喜びがわかりました
第002話「EE.890/02/16 朝 晴れ」
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第002話「EE.890年 2月16日 朝 晴れ」
【EE.890年 2月16日。天気、晴れ。石のスープについてだけど、最近あの味に慣れて来た】――――ウェンデルの日記。
やはり寒いが、最近マシになってきたような気がしないでもなかった。
冒険者用のワンルームで目覚めたウェンデルは、あちこち傷がついてデコボコの机の上に、パンと水の入った石コップを置く。机の表面に軽く触れると……若干傾いた。角度にして10度ほどなら、若干って言ってもいいよね? そうなんだ、この机は品質が非常に悪くて、平らな床の上に立てても水平にならないんだ。
ウェンデル:「うーん、みかん箱とどっちがマシかな」
口ではそう言いつつも、いや無理は言えないよ、とすぐに自戒する。この机はこの間の仕事上がり、街の裏路地の端に投棄されていて、所有者情報は無くて……だから誰にも見られないようにこっそり取得して帰って来た――――つまり原価タダ。「タダより高い物はない」なんて言葉も昔あったけど、それは前の世界の言葉だろう? 時代遅れのことわざだ。
僕ははこの世界でよく知ったのである、安い事は素晴らしい、タダであればもっともっと素晴らしいという事を。
ウェンデルはパンを立ったまま口にする。拾った場所に椅子は無かった、マーケットで取引価格を見たら、アッシュ製の椅子の最後の取引価格は388ギルダンだった。全財産は467ギルダンであるので買えない事もないが、全財産近くの資金をつぎ込んでまで椅子を買うのは馬鹿馬鹿しいと思った。
それに、机が真っすぐではないのだから、椅子だって買ったらきっとナナメになっているに決まっている。ナナメに座ってパンを食べるだけの生活なんて、かなしいじゃないか。
食事と身支度を済ませ、ワンルームを出る。草の匂いが鼻を突いた、この体になってから、少し鼻と耳が良くなったように思うが、気のせいだろうか?
ここは【ヴァンディーナ連合王国】を形成する国家の一つ【アクエストン王国】、そのアクエストンの冒険者集合住宅地区に今いるわけだ。
手すりもない二階の木造通路を歩き、手すりもない木製階段を降りて進む。気を付けなきゃいけない、ここに来てから既に二度足を踏み外している。
姫川――いや、改めシャルロットさん、もしアクエストンに来たらあれを一番最初に見て欲しい、あちこちに干された洗濯物ロープの向こう、この住宅地区からも見える大きな大きな大樹の事だ。
あれは生命の大樹と言うらしい。近くまで行った事はないが、この木何の木よりもずっとずっと大きい事は疑いようもない。しかも噂によると、あれ自体がお城で、あのメチャでかいブロッコリーの中にはミニマム族のお姫様が住んでいるのだそうだ。
え? 【ミニマム族】を知らない? ミニマム族というのは――――
ミニマム族:「おい、気を付けてくれ!」
その声と共にウェンデルはドン、と横から膝を押される。見下ろすと、僕の胸の高さよりも小さいぐらいの人がこちらを睨みつけていた。小さな、とはいうが彼は立派な髭を生やしていて、顔に刻まれた皺は初老ぐらいの年にも思える。どうやら、ボーッと考え事をしていたら、僕の肘が彼に当たってしまったみたいだ。
ウェンデル:「あっ……ごめんよ……」
ウェンデルは頭を下げ、申し訳なさそうにその場をそそくさと離れる。……見た? 今のが【ミニマム族】だ。ドワーフ族とか、ホビット族とか、そういう風に呼ぶ人もいるけれど、ミニマムと呼ぶのが正しいんだってさ。わかりやすい呼び名で良かったよね。
早く集合場所に向かわないといけない、なにせ仕事は遅刻厳禁、上司は時間にシビアだから給料が出なくなってしまうし、置いてかれたら一人では仕事場に向かう事自体がまず出来ない。そういう職場だ。
アクエストンの冒険者居住区を抜け、橋を渡ろうとする。その途中でふいに足を止め、川を覗き込んだ。水深は浅く、水は清潔で、そこに暮らす淡水魚の姿も見えた。
その内魚を釣りたい。もちろん、食べる為に。
でも釣具屋はどこにあるかわからない。「メープルロッド」が最も低級で安い釣り竿のはずであるが、国営マーケットには出品が一つとして無かった。……おかしい、一番安い釣り竿なのに、売ってないのはなぜだろう? 誰かその理由を知ってる人はいないのかな? でも僕、この国に友達がいないから、誰に聞けばいいか判らないんだ。
水面に映るのはすっかりウサギ顔に成り果てた我が顔がである。うん、カッコイイ。
頭の体毛を平らに整えて、ウェンデルはまた駆け足。
【EE.890年 2月16日。天気、晴れ。石のスープについてだけど、最近あの味に慣れて来た】――――ウェンデルの日記。
やはり寒いが、最近マシになってきたような気がしないでもなかった。
冒険者用のワンルームで目覚めたウェンデルは、あちこち傷がついてデコボコの机の上に、パンと水の入った石コップを置く。机の表面に軽く触れると……若干傾いた。角度にして10度ほどなら、若干って言ってもいいよね? そうなんだ、この机は品質が非常に悪くて、平らな床の上に立てても水平にならないんだ。
ウェンデル:「うーん、みかん箱とどっちがマシかな」
口ではそう言いつつも、いや無理は言えないよ、とすぐに自戒する。この机はこの間の仕事上がり、街の裏路地の端に投棄されていて、所有者情報は無くて……だから誰にも見られないようにこっそり取得して帰って来た――――つまり原価タダ。「タダより高い物はない」なんて言葉も昔あったけど、それは前の世界の言葉だろう? 時代遅れのことわざだ。
僕ははこの世界でよく知ったのである、安い事は素晴らしい、タダであればもっともっと素晴らしいという事を。
ウェンデルはパンを立ったまま口にする。拾った場所に椅子は無かった、マーケットで取引価格を見たら、アッシュ製の椅子の最後の取引価格は388ギルダンだった。全財産は467ギルダンであるので買えない事もないが、全財産近くの資金をつぎ込んでまで椅子を買うのは馬鹿馬鹿しいと思った。
それに、机が真っすぐではないのだから、椅子だって買ったらきっとナナメになっているに決まっている。ナナメに座ってパンを食べるだけの生活なんて、かなしいじゃないか。
食事と身支度を済ませ、ワンルームを出る。草の匂いが鼻を突いた、この体になってから、少し鼻と耳が良くなったように思うが、気のせいだろうか?
ここは【ヴァンディーナ連合王国】を形成する国家の一つ【アクエストン王国】、そのアクエストンの冒険者集合住宅地区に今いるわけだ。
手すりもない二階の木造通路を歩き、手すりもない木製階段を降りて進む。気を付けなきゃいけない、ここに来てから既に二度足を踏み外している。
姫川――いや、改めシャルロットさん、もしアクエストンに来たらあれを一番最初に見て欲しい、あちこちに干された洗濯物ロープの向こう、この住宅地区からも見える大きな大きな大樹の事だ。
あれは生命の大樹と言うらしい。近くまで行った事はないが、この木何の木よりもずっとずっと大きい事は疑いようもない。しかも噂によると、あれ自体がお城で、あのメチャでかいブロッコリーの中にはミニマム族のお姫様が住んでいるのだそうだ。
え? 【ミニマム族】を知らない? ミニマム族というのは――――
ミニマム族:「おい、気を付けてくれ!」
その声と共にウェンデルはドン、と横から膝を押される。見下ろすと、僕の胸の高さよりも小さいぐらいの人がこちらを睨みつけていた。小さな、とはいうが彼は立派な髭を生やしていて、顔に刻まれた皺は初老ぐらいの年にも思える。どうやら、ボーッと考え事をしていたら、僕の肘が彼に当たってしまったみたいだ。
ウェンデル:「あっ……ごめんよ……」
ウェンデルは頭を下げ、申し訳なさそうにその場をそそくさと離れる。……見た? 今のが【ミニマム族】だ。ドワーフ族とか、ホビット族とか、そういう風に呼ぶ人もいるけれど、ミニマムと呼ぶのが正しいんだってさ。わかりやすい呼び名で良かったよね。
早く集合場所に向かわないといけない、なにせ仕事は遅刻厳禁、上司は時間にシビアだから給料が出なくなってしまうし、置いてかれたら一人では仕事場に向かう事自体がまず出来ない。そういう職場だ。
アクエストンの冒険者居住区を抜け、橋を渡ろうとする。その途中でふいに足を止め、川を覗き込んだ。水深は浅く、水は清潔で、そこに暮らす淡水魚の姿も見えた。
その内魚を釣りたい。もちろん、食べる為に。
でも釣具屋はどこにあるかわからない。「メープルロッド」が最も低級で安い釣り竿のはずであるが、国営マーケットには出品が一つとして無かった。……おかしい、一番安い釣り竿なのに、売ってないのはなぜだろう? 誰かその理由を知ってる人はいないのかな? でも僕、この国に友達がいないから、誰に聞けばいいか判らないんだ。
水面に映るのはすっかりウサギ顔に成り果てた我が顔がである。うん、カッコイイ。
頭の体毛を平らに整えて、ウェンデルはまた駆け足。
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