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01.お父さん、お母さん、就職は決まってないけど、働く喜びがわかりました
第007話「ねえ、【WISPER】って何?」
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第007話「ねえ、【WISPER】って何?」
それからも僕はこのニビ鉱山で体力の限りピッケルを振り続けた。肉体労働だから夕方にはへとへとで、考え事をしている余裕も無くなってくる。だから僕は、昼間に僕をじっと見ていたケト族の女の人の事なんてもうすっかり忘れちゃってたんだ。
一体どれだけの回数、ピッケルを振り回したのかも忘れる頃に監督官のホイッスルが鳴り、/broadcast の大声量で仕事の終了を伝える合図が出た。僕は論理コマンドでメニューブックを呼び出して、現在時刻を確認する。時刻は17時ジャスト、今日も全く同じ時間で、完全な定時だ。
僕は鉱石の入った網カゴを背負い、折れてしまったピッケルを左手に、まだ折れていない二本目のピッケルを右手にする。ちゃんと忘れ物がないか確認…………よし、大丈夫そうだ。
全員で大急ぎで片づけを行う。アイテムの受け渡し、返却、整理等を行い、荷物をダンジョンの外まで搬出し、馬の腰袋のインベントリに放れるだけ放り込んでゆく。
監督官は腕時計をはめていて、僕がアイテム搬出を行う間、5回も6回も、何度も時刻を確認している。撤収作業をしていると、また誰かの視線を感じてそちらを向く。あのケト族の女の人だ、お昼にも見られていた事を思い出した。
監督官:「おいウサギ、手が止まってるぞ」
その間僕の手が止まっていたのか、監督官は僕をどやした。
ウェンデル:「あ、はい」
監督官:「急げよ、帰るのが遅れても残業代なんぞウチは出ないからな」
ブリギンド監督官の方へ振り返ると、彼はまた時計に視線を落としていた。
――――撤収準備が完了し、僕たち一行は夕暮れのギザルー平原を進んだ。目指すは僕たちの家があるアクエストン。帰り道は順調で、恐ろしいあのモルフィーは出てこない。僕の頭の大きさぐらいはある、ちょっと大きなハエやハチが飛んできても、傭兵三人なら一瞬で倒してしまう。
朝のように傭兵のアイテム権を侵害しようなどという愚行に走る者は流石に一人もいない。でも不思議だ、傭兵はモルフィーの死体は漁らないのに大きなハチの死体は漁る事が多いんだ。あのハチはレベル2ぐらいなのに、何がモルフィーの死体との興味を分けているのかが僕にはわからない。
その日の帰り道、僕はギザール平原中に生い茂る雑草を、右に左にキョロキョロ見渡し続けた。あの撃たれた可哀想なケト族の事が心配だった。彼が何とかして家に帰れたと思いたかった。彼の死体を見つけてしまうかもしれなくて怖かったけど、もし死体があったらそれは僕の責任かもしれない。
どうしよう。ううん、どうしようもなかった。
僕は取り返しのつかない事をしてしまったんだと思うと、胸が苦しくなった。
それでも平原で置き去りにされないためには、行軍しなければいけない。でも気になる事がある、行きの方が荷物は軽いはずなのに、いつも早足なのは帰り道の方なんだ。傭兵たちのアイテムルートも帰りの方が短くて、どこか急いでいるようにさえ見える。
不思議だ。もうちょっとゆっくり帰ったらだめなのだろうか。
ウェンデル:「なんで帰り道はいつも早足なんだろう?」
独り言のつもりだったけど、不思議に思う気持ちが結構大きな声で漏れていた。
アリアンナ>>:「知らないのか?」
ウェンデル:「え!? 誰!?」
頭の中に直接聴こえてくるような囁きを耳にして驚かないわけがないよ、だからキョロキョロと周囲を見た。
鉱員:「え?」
それを更に前後の鉱員の男が不思議がって、首をかしげる。囁くような声は女の人の声だった。この男の鉱員さんではない。
アリアンナ>>:「ん? おいおい世話がやけるな」
女性の声はまた囁いた。
アリアンナ>>:「「何でも無い」と言ってそのまま歩け。足を止めたらブリギンドが怒るし、色々よくない事が起こるぞ」
ウェンデル:「あー……ごめん、何でも無かったよ」
監督官の機嫌を損ねるのは良くない。事態を理解するよりも早くウェンデルは女性の囁きに従って状況を取り繕うと、行進を続けた。
アリアンナ>>:「OK」
アリアンナ>>:「メニューブックを出してるのを見たからイケると思ったんだが……ゴメンゴメン、もっと慣れてると思ってた」
ウェンデル:「誰……?」
今度は前と後ろの人の耳に届かないように呟く。囁きはすぐには答えてくれなかった。
アリアンナ>>:「ちゃんと言っとくけど、そのまま喋ってもオレには聞こえないからな。論理コマンドを使うんだ」
アリアンナ>>:「呪文は【CTRL & R】か、【/wisper アリアンナ】。後者の方が確実かな」
初めて耳にする論理コマンドだった。ウェンデルはメニューブックを呼び出す時の感覚で「/wisper アリアンナ」の論理コマンドを頭の中で入力する。
ウェンデル>>アリアンナ:「え? こう?」
ウェンデルは口をパクパクとさせたが声は喉から出て来なくて、自分の声は耳の奥で囁き声となって聴こえた。
アリアンナ>>:「良し、いいぞ、ちゃんと聴こえてる」
すぐに返事が返って来た。どうやら意思疎通に成功したみたいだ。
>>アリアンナ:「君は誰?」
真っ先に囁き声の正体を確かめようとする。
アリアンナ>>:「アンタの三つ後ろを歩いてる」
ウェンデルは歩きながら後ろを振り返る。自分の場所から三人後ろで歩く銀髪のケト女性が視界に入った。あの人だ。
アリアンナ>>:「そう、銀髪の猫女、それがオレだ」
ケト族の女性がニヤりと笑みを浮かべ、囁き続けた。
アリアンナ>>:「色々話したい事がある。アクエストンで解散したらそこで少し待っててくれ」
それからも僕はこのニビ鉱山で体力の限りピッケルを振り続けた。肉体労働だから夕方にはへとへとで、考え事をしている余裕も無くなってくる。だから僕は、昼間に僕をじっと見ていたケト族の女の人の事なんてもうすっかり忘れちゃってたんだ。
一体どれだけの回数、ピッケルを振り回したのかも忘れる頃に監督官のホイッスルが鳴り、/broadcast の大声量で仕事の終了を伝える合図が出た。僕は論理コマンドでメニューブックを呼び出して、現在時刻を確認する。時刻は17時ジャスト、今日も全く同じ時間で、完全な定時だ。
僕は鉱石の入った網カゴを背負い、折れてしまったピッケルを左手に、まだ折れていない二本目のピッケルを右手にする。ちゃんと忘れ物がないか確認…………よし、大丈夫そうだ。
全員で大急ぎで片づけを行う。アイテムの受け渡し、返却、整理等を行い、荷物をダンジョンの外まで搬出し、馬の腰袋のインベントリに放れるだけ放り込んでゆく。
監督官は腕時計をはめていて、僕がアイテム搬出を行う間、5回も6回も、何度も時刻を確認している。撤収作業をしていると、また誰かの視線を感じてそちらを向く。あのケト族の女の人だ、お昼にも見られていた事を思い出した。
監督官:「おいウサギ、手が止まってるぞ」
その間僕の手が止まっていたのか、監督官は僕をどやした。
ウェンデル:「あ、はい」
監督官:「急げよ、帰るのが遅れても残業代なんぞウチは出ないからな」
ブリギンド監督官の方へ振り返ると、彼はまた時計に視線を落としていた。
――――撤収準備が完了し、僕たち一行は夕暮れのギザルー平原を進んだ。目指すは僕たちの家があるアクエストン。帰り道は順調で、恐ろしいあのモルフィーは出てこない。僕の頭の大きさぐらいはある、ちょっと大きなハエやハチが飛んできても、傭兵三人なら一瞬で倒してしまう。
朝のように傭兵のアイテム権を侵害しようなどという愚行に走る者は流石に一人もいない。でも不思議だ、傭兵はモルフィーの死体は漁らないのに大きなハチの死体は漁る事が多いんだ。あのハチはレベル2ぐらいなのに、何がモルフィーの死体との興味を分けているのかが僕にはわからない。
その日の帰り道、僕はギザール平原中に生い茂る雑草を、右に左にキョロキョロ見渡し続けた。あの撃たれた可哀想なケト族の事が心配だった。彼が何とかして家に帰れたと思いたかった。彼の死体を見つけてしまうかもしれなくて怖かったけど、もし死体があったらそれは僕の責任かもしれない。
どうしよう。ううん、どうしようもなかった。
僕は取り返しのつかない事をしてしまったんだと思うと、胸が苦しくなった。
それでも平原で置き去りにされないためには、行軍しなければいけない。でも気になる事がある、行きの方が荷物は軽いはずなのに、いつも早足なのは帰り道の方なんだ。傭兵たちのアイテムルートも帰りの方が短くて、どこか急いでいるようにさえ見える。
不思議だ。もうちょっとゆっくり帰ったらだめなのだろうか。
ウェンデル:「なんで帰り道はいつも早足なんだろう?」
独り言のつもりだったけど、不思議に思う気持ちが結構大きな声で漏れていた。
アリアンナ>>:「知らないのか?」
ウェンデル:「え!? 誰!?」
頭の中に直接聴こえてくるような囁きを耳にして驚かないわけがないよ、だからキョロキョロと周囲を見た。
鉱員:「え?」
それを更に前後の鉱員の男が不思議がって、首をかしげる。囁くような声は女の人の声だった。この男の鉱員さんではない。
アリアンナ>>:「ん? おいおい世話がやけるな」
女性の声はまた囁いた。
アリアンナ>>:「「何でも無い」と言ってそのまま歩け。足を止めたらブリギンドが怒るし、色々よくない事が起こるぞ」
ウェンデル:「あー……ごめん、何でも無かったよ」
監督官の機嫌を損ねるのは良くない。事態を理解するよりも早くウェンデルは女性の囁きに従って状況を取り繕うと、行進を続けた。
アリアンナ>>:「OK」
アリアンナ>>:「メニューブックを出してるのを見たからイケると思ったんだが……ゴメンゴメン、もっと慣れてると思ってた」
ウェンデル:「誰……?」
今度は前と後ろの人の耳に届かないように呟く。囁きはすぐには答えてくれなかった。
アリアンナ>>:「ちゃんと言っとくけど、そのまま喋ってもオレには聞こえないからな。論理コマンドを使うんだ」
アリアンナ>>:「呪文は【CTRL & R】か、【/wisper アリアンナ】。後者の方が確実かな」
初めて耳にする論理コマンドだった。ウェンデルはメニューブックを呼び出す時の感覚で「/wisper アリアンナ」の論理コマンドを頭の中で入力する。
ウェンデル>>アリアンナ:「え? こう?」
ウェンデルは口をパクパクとさせたが声は喉から出て来なくて、自分の声は耳の奥で囁き声となって聴こえた。
アリアンナ>>:「良し、いいぞ、ちゃんと聴こえてる」
すぐに返事が返って来た。どうやら意思疎通に成功したみたいだ。
>>アリアンナ:「君は誰?」
真っ先に囁き声の正体を確かめようとする。
アリアンナ>>:「アンタの三つ後ろを歩いてる」
ウェンデルは歩きながら後ろを振り返る。自分の場所から三人後ろで歩く銀髪のケト女性が視界に入った。あの人だ。
アリアンナ>>:「そう、銀髪の猫女、それがオレだ」
ケト族の女性がニヤりと笑みを浮かべ、囁き続けた。
アリアンナ>>:「色々話したい事がある。アクエストンで解散したらそこで少し待っててくれ」
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