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01.お父さん、お母さん、就職は決まってないけど、働く喜びがわかりました
第006話「僕がブリギンド監督官の下で働く理由」
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第006話「僕がブリギンド監督官の下で働く理由」
およそ3時間後、ウェンデルは採掘を中断しキャンプ地で座り込んでいた。
この時間は座って休んでいても監督官は怒ったりしない。だってサボっているわけじゃない。
もしこの手記を読んでいる人がいるとしよう、どうして僕がこんな鉱山で働いてるのか、疑問に思う人がそろそろ出てくると思う。こんな仕事をしてるのはレベルの問題で? もちろんある。だけどこの仕事には実際メリットが多いんだ。
僕に友達はいないけど、もし友達がこの世界にやってくる事になったら、僕は自信を持ってここの仕事を最初に始める事を勧める。――――たとえ、あのとても可哀想なケト族の出来事があった直後だったとしてもね。
なんでって? ひとつひとつ説明するから、よく聞いてね。
まずお昼ご飯がつくんだ。普通のカットパンか、食パンのどちらかをタダで貰える。僕はいつも食パンを貰って、持ち込みの、自分でスライスした鶏のボイルドエッグを挟んで食べる。日々の労働の暮らしの中の、ささやかな贅沢だ。
今日はもう持って無いけど、普段は食後に薬草を噛んでリラックスもする。
監督官のおじさんは怖いけど、あの人はパンの品質にはうるさくて、カビてるパンは絶対くれない。もしもカビてたら持っていけば別のパンと交換してくれる。数が足りなかった時は賃金を上乗せしてくれる。
それに、ルールを守っている限りは鉱員をきちんと守ってくれる、他にも鉱山や林業で監督官さんと似た事をしている人がいるけれど、傭兵を3人以上も雇ってくれるのはこの人だけだ。
例えばここよりずっと遠い所にスコミュー洞っていう、鉱石の出る洞窟がある(らしいよ)。そこに行くチームはもっと給料が良い(らしい)けれど、遠くにあるから日帰りでは帰って来られない(らしいよ)。お金に目がくらんだ鉱員が何人もそこから帰ってこなかったのを僕は知っている(これに関しては実際に事例を知っている。あれから僕はウル族のジナイドに一度も会っていないのだから)。
だけどこの人はそこまでは行かない。対策さえ怠らなければ絶対安全な、比較的近場のニビ鉱山までしか行かない。ここはレベル4までのモンスターしか出ない小さな鉱山で、めったに4は出ない。しかも出て来るモンスターは足が遅いから、簡単に逃げられる。
道具を貸してくれるのも凄く良い所だ。鉱石を掘るにはピッケルが必要だけど、ピッケルは消耗品の上に、僕の身分では高価だ。そのランニングコストを彼が背負ってくれる。真面目に仕事をしている分にはピッケル代を天引きもされない。
もし僕ひとりだったら、絶対にモンスターに遭わないと仮定してもこの仕事は不可能だ。僕の資力では1本買うのが限度のピッケルが折れるたび、片道40分の道のりを往復する事は出来ない。だけど監督官なら交換用ピッケルを豊富に用意出来るのだ。
お昼休憩をくれるし、8時―17時の仕事で、定時になったら仕事が途中であっても有無を言わさずアクエストンまで集団帰宅――つまりそれは現地解散させられる危険がないってことで、帰り道もレベルの高い傭兵と一緒に街まで帰れるって意味なんだ。ここに勤めて二週間ぐらいになるけど、片づけの時間を含めても18時まで働いた事はこれまでに一度もない。
現地解散の職場、お昼休憩をくれない職場に、支払いが遅れたり貰えなくなったりする職場、定時で帰れない職場、持参の馬が必須の職場、日帰りできない職場、安全対策が不十分で事故が頻発する職場、そういう仕事はトラフェルキアでも多く見つける事が出来る。
ブリギンド監督官の仕事は安いけど、前述のどれにも当てはまらない。レベル、職業、装備、経験、人種、馬の所有許可証――――すべて不問。やる気があって、ピッケルを壁に向かって振る事が出来れば良い。もうわかっただろう? 長生きしたかったらここが一番ベターだ。
食事を終えたウェンデルはこうして冒険の記録を書いていると、誰かの視線を感じたような気がして顔を上げた。
すると【ケト族】――――というのは猫耳と尻尾のついている、亜人種の中では比較的ヒュームー族に近い見た目の人達の事を指すのであるが、そのケト族の女性がこちらをじっと見ていた。若いケト族の女性、ギザギザした髪型で銀髪だった。
ウェンデルが小首をかしげるが、丁度その時監督官のホイッスルが音を吹いた。お昼休憩の終わりだ。
僕はメニューブックを閉じるとピッケルを持って立ち上がり、また仕事へと戻った。午後も頑張ろう。
===NOW LOADING.....===
およそ3時間後、ウェンデルは採掘を中断しキャンプ地で座り込んでいた。
この時間は座って休んでいても監督官は怒ったりしない。だってサボっているわけじゃない。
もしこの手記を読んでいる人がいるとしよう、どうして僕がこんな鉱山で働いてるのか、疑問に思う人がそろそろ出てくると思う。こんな仕事をしてるのはレベルの問題で? もちろんある。だけどこの仕事には実際メリットが多いんだ。
僕に友達はいないけど、もし友達がこの世界にやってくる事になったら、僕は自信を持ってここの仕事を最初に始める事を勧める。――――たとえ、あのとても可哀想なケト族の出来事があった直後だったとしてもね。
なんでって? ひとつひとつ説明するから、よく聞いてね。
まずお昼ご飯がつくんだ。普通のカットパンか、食パンのどちらかをタダで貰える。僕はいつも食パンを貰って、持ち込みの、自分でスライスした鶏のボイルドエッグを挟んで食べる。日々の労働の暮らしの中の、ささやかな贅沢だ。
今日はもう持って無いけど、普段は食後に薬草を噛んでリラックスもする。
監督官のおじさんは怖いけど、あの人はパンの品質にはうるさくて、カビてるパンは絶対くれない。もしもカビてたら持っていけば別のパンと交換してくれる。数が足りなかった時は賃金を上乗せしてくれる。
それに、ルールを守っている限りは鉱員をきちんと守ってくれる、他にも鉱山や林業で監督官さんと似た事をしている人がいるけれど、傭兵を3人以上も雇ってくれるのはこの人だけだ。
例えばここよりずっと遠い所にスコミュー洞っていう、鉱石の出る洞窟がある(らしいよ)。そこに行くチームはもっと給料が良い(らしい)けれど、遠くにあるから日帰りでは帰って来られない(らしいよ)。お金に目がくらんだ鉱員が何人もそこから帰ってこなかったのを僕は知っている(これに関しては実際に事例を知っている。あれから僕はウル族のジナイドに一度も会っていないのだから)。
だけどこの人はそこまでは行かない。対策さえ怠らなければ絶対安全な、比較的近場のニビ鉱山までしか行かない。ここはレベル4までのモンスターしか出ない小さな鉱山で、めったに4は出ない。しかも出て来るモンスターは足が遅いから、簡単に逃げられる。
道具を貸してくれるのも凄く良い所だ。鉱石を掘るにはピッケルが必要だけど、ピッケルは消耗品の上に、僕の身分では高価だ。そのランニングコストを彼が背負ってくれる。真面目に仕事をしている分にはピッケル代を天引きもされない。
もし僕ひとりだったら、絶対にモンスターに遭わないと仮定してもこの仕事は不可能だ。僕の資力では1本買うのが限度のピッケルが折れるたび、片道40分の道のりを往復する事は出来ない。だけど監督官なら交換用ピッケルを豊富に用意出来るのだ。
お昼休憩をくれるし、8時―17時の仕事で、定時になったら仕事が途中であっても有無を言わさずアクエストンまで集団帰宅――つまりそれは現地解散させられる危険がないってことで、帰り道もレベルの高い傭兵と一緒に街まで帰れるって意味なんだ。ここに勤めて二週間ぐらいになるけど、片づけの時間を含めても18時まで働いた事はこれまでに一度もない。
現地解散の職場、お昼休憩をくれない職場に、支払いが遅れたり貰えなくなったりする職場、定時で帰れない職場、持参の馬が必須の職場、日帰りできない職場、安全対策が不十分で事故が頻発する職場、そういう仕事はトラフェルキアでも多く見つける事が出来る。
ブリギンド監督官の仕事は安いけど、前述のどれにも当てはまらない。レベル、職業、装備、経験、人種、馬の所有許可証――――すべて不問。やる気があって、ピッケルを壁に向かって振る事が出来れば良い。もうわかっただろう? 長生きしたかったらここが一番ベターだ。
食事を終えたウェンデルはこうして冒険の記録を書いていると、誰かの視線を感じたような気がして顔を上げた。
すると【ケト族】――――というのは猫耳と尻尾のついている、亜人種の中では比較的ヒュームー族に近い見た目の人達の事を指すのであるが、そのケト族の女性がこちらをじっと見ていた。若いケト族の女性、ギザギザした髪型で銀髪だった。
ウェンデルが小首をかしげるが、丁度その時監督官のホイッスルが音を吹いた。お昼休憩の終わりだ。
僕はメニューブックを閉じるとピッケルを持って立ち上がり、また仕事へと戻った。午後も頑張ろう。
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