5 / 9
01.お父さん、お母さん、就職は決まってないけど、働く喜びがわかりました
第005話「すみません、ピッケルを交換させてください」
しおりを挟む
第005話「すみません、ピッケルを交換させてください」
ギザルー平原を横断する形で移動し、ようやく辿り着いたのはニビ鉱山。商業価値のそれほどは大きくない鉱山で、銅鉱石と、錫石、亜鉛鉱石。運が良ければ鉄鉱石も採掘できるぐらいだ。
初心者向けダンジョンで、推奨レベルは5以上。
幸いにして安全だ。
もちろん、僕はレベル1だから、一人だったら辿り着く事も出来ずにギザルー平原の真ん中あたりで力尽きるだろう。鉱山内もモルフィーこそいないがレベル3ぐらいのヒュージビートルが出て来る、膝ぐらいの大きなもある殺人カブトムシの事だ。
「ヒュージビートルが出たぞ!」
ほら、遠くで誰かが叫んだ。僕はかまわずピッケルを振るい、採掘を続ける。
鉱員はレベル1なのに大丈夫なのかって? 大丈夫さ。興味があったら見てるといい。
<!>鉱員:「AGGROーー!」
ウェンデルが壁を掘る隣の採掘穴、ヒュージビートルと会敵した鉱員は/broadcast ぐらいの声量で大きく叫びながらダンジョン入口に向かって走った。モンスターと戦闘状態になったら、そう叫ばないといけないのだ。――別に叫ばなくてもいいが、命が惜しい時は叫んだ方がいい。
ヒュージビートルはのっそのっそと地上を歩いて鉱員を追いかけるが、追いつかれる事は無い。形状はカブトムシに似ているけど、ニビ鉱山にいるヒュージビートルが俊敏に空を飛んだ所はまだ見たことが無い。きっと身体が重くて飛べないんだろう。足も遅いから逃げる気持ちさえあれば誰でも、ミニマム族の小さな足でだって逃げられる。
鉱員がダンジョン入口側に走って来た所で、武装したヒュームー族のウォーリアーがモンスターを一刀両断にした。鉱員は傭兵に感謝し頭を下げるとまた採掘作業に戻っていった。
――――と、こういう流れだ。おわかりいただけただろうか? あ、これ亜鉛鉱だ。
モンスターが出てきたら、監督官と傭兵たちのキャンプしている広場までダッシュでモンスターを牽引してきて、始末してもらえば良いのである。とても簡単だ。
だから僕たちは推奨を下回るレベルとステータスであってもかなり安全に採掘を行う事が出来る、人類の知恵の勝利だ。ギザルー平原で矢を向けられた時はあんなに恐ろしくて冷酷に見えた傭兵たちが、今はとても心強く、安心できる存在に思えた。
ウェンデルが黙々と壁に向かって採掘を行っていると、ピッケルがボキリ、といやな音を立てた。
ウェンデル:「あっ」
折れちゃった。これイヤだから、あんまり折りたくないなあ。
溜息をついたウェンデルは鉱石を詰めた網カゴを背負うと、キャンプ地の監督官のもとを訪ねる。監督官は一見して偉そうだし実際偉い。でも、彼だって決してふんぞり返っているだけではない事に最近気が付いた。この時も彼は鉱員が採掘してきた鉱石をソートし、1ギルダンにもならない石ころの除外作業を行っていた。
ウェンデル:「すみません、折れちゃいました」
長いウサギ耳をしゅんと垂らし、壊れたピッケルを見せると、いつも不機嫌そうな監督官はじっとこちらを見た。そして……
監督官:「交換しろ」
ウェンデル:「ありがとうございます」
お辞儀してから壊れたピッケルを破損ピッケル置き場にドロップし、新品を一本拾得する。僕にはできないけれど、破損したピッケルを修復できる人がいるらしいという噂を聞く。ピッケルはリサイクル資源なのだ。それにもともとピッケルは全部貸与品だから監督官さんの財産だし、壊れてるものだって勝手に持ち帰ったら泥棒になってしまうのだ。
すると監督官が
監督官:「おいウサギ人間、前にも見た顔だな。昨日も居たか?」
と聞いてきた。いったいこいつは何を言ってるんだ、昨日どころか僕は二週間ずっとこの職場にいるんだぞ!
憤慨する気持ちを抑えて
ウェンデル:「はい、二週間になります」
と答えたら彼は
監督官:「そうか、もう一本ぐらい持っていけ」
と僕に言った。そんな事を言われたのはこの二週間ほどで初めての事なので面食らっていると
「どうせまた折れるだろ」
と言った。
まあその通りである、故意に折れば弁済対象になってしまうが、故意がなくたってどうしてもこれは一定確率で折れてしまうのだ、それが仕様だ、不具合ではない、純然たる事実としてピッケル系は消耗アイテムなのである。ゆえに真面目に働いてる範囲の破損は許して貰える。
「ルールはわかってるな。あとでちゃんと返却するんだぞ」
ウェンデル:「はい、ちゃんと返します」
僕はもう一本ピッケルをルートし、掘った鉱石の入った網カゴを、空の網カゴと交換する。それを背負って僕は意気揚々と持ち場へ戻った。
ピッケルの交換回数が半分に減ったことは、監督官に睨まれる回数が半分に減ったことも意味する。これは良いニュースだった。
ギザルー平原を横断する形で移動し、ようやく辿り着いたのはニビ鉱山。商業価値のそれほどは大きくない鉱山で、銅鉱石と、錫石、亜鉛鉱石。運が良ければ鉄鉱石も採掘できるぐらいだ。
初心者向けダンジョンで、推奨レベルは5以上。
幸いにして安全だ。
もちろん、僕はレベル1だから、一人だったら辿り着く事も出来ずにギザルー平原の真ん中あたりで力尽きるだろう。鉱山内もモルフィーこそいないがレベル3ぐらいのヒュージビートルが出て来る、膝ぐらいの大きなもある殺人カブトムシの事だ。
「ヒュージビートルが出たぞ!」
ほら、遠くで誰かが叫んだ。僕はかまわずピッケルを振るい、採掘を続ける。
鉱員はレベル1なのに大丈夫なのかって? 大丈夫さ。興味があったら見てるといい。
<!>鉱員:「AGGROーー!」
ウェンデルが壁を掘る隣の採掘穴、ヒュージビートルと会敵した鉱員は/broadcast ぐらいの声量で大きく叫びながらダンジョン入口に向かって走った。モンスターと戦闘状態になったら、そう叫ばないといけないのだ。――別に叫ばなくてもいいが、命が惜しい時は叫んだ方がいい。
ヒュージビートルはのっそのっそと地上を歩いて鉱員を追いかけるが、追いつかれる事は無い。形状はカブトムシに似ているけど、ニビ鉱山にいるヒュージビートルが俊敏に空を飛んだ所はまだ見たことが無い。きっと身体が重くて飛べないんだろう。足も遅いから逃げる気持ちさえあれば誰でも、ミニマム族の小さな足でだって逃げられる。
鉱員がダンジョン入口側に走って来た所で、武装したヒュームー族のウォーリアーがモンスターを一刀両断にした。鉱員は傭兵に感謝し頭を下げるとまた採掘作業に戻っていった。
――――と、こういう流れだ。おわかりいただけただろうか? あ、これ亜鉛鉱だ。
モンスターが出てきたら、監督官と傭兵たちのキャンプしている広場までダッシュでモンスターを牽引してきて、始末してもらえば良いのである。とても簡単だ。
だから僕たちは推奨を下回るレベルとステータスであってもかなり安全に採掘を行う事が出来る、人類の知恵の勝利だ。ギザルー平原で矢を向けられた時はあんなに恐ろしくて冷酷に見えた傭兵たちが、今はとても心強く、安心できる存在に思えた。
ウェンデルが黙々と壁に向かって採掘を行っていると、ピッケルがボキリ、といやな音を立てた。
ウェンデル:「あっ」
折れちゃった。これイヤだから、あんまり折りたくないなあ。
溜息をついたウェンデルは鉱石を詰めた網カゴを背負うと、キャンプ地の監督官のもとを訪ねる。監督官は一見して偉そうだし実際偉い。でも、彼だって決してふんぞり返っているだけではない事に最近気が付いた。この時も彼は鉱員が採掘してきた鉱石をソートし、1ギルダンにもならない石ころの除外作業を行っていた。
ウェンデル:「すみません、折れちゃいました」
長いウサギ耳をしゅんと垂らし、壊れたピッケルを見せると、いつも不機嫌そうな監督官はじっとこちらを見た。そして……
監督官:「交換しろ」
ウェンデル:「ありがとうございます」
お辞儀してから壊れたピッケルを破損ピッケル置き場にドロップし、新品を一本拾得する。僕にはできないけれど、破損したピッケルを修復できる人がいるらしいという噂を聞く。ピッケルはリサイクル資源なのだ。それにもともとピッケルは全部貸与品だから監督官さんの財産だし、壊れてるものだって勝手に持ち帰ったら泥棒になってしまうのだ。
すると監督官が
監督官:「おいウサギ人間、前にも見た顔だな。昨日も居たか?」
と聞いてきた。いったいこいつは何を言ってるんだ、昨日どころか僕は二週間ずっとこの職場にいるんだぞ!
憤慨する気持ちを抑えて
ウェンデル:「はい、二週間になります」
と答えたら彼は
監督官:「そうか、もう一本ぐらい持っていけ」
と僕に言った。そんな事を言われたのはこの二週間ほどで初めての事なので面食らっていると
「どうせまた折れるだろ」
と言った。
まあその通りである、故意に折れば弁済対象になってしまうが、故意がなくたってどうしてもこれは一定確率で折れてしまうのだ、それが仕様だ、不具合ではない、純然たる事実としてピッケル系は消耗アイテムなのである。ゆえに真面目に働いてる範囲の破損は許して貰える。
「ルールはわかってるな。あとでちゃんと返却するんだぞ」
ウェンデル:「はい、ちゃんと返します」
僕はもう一本ピッケルをルートし、掘った鉱石の入った網カゴを、空の網カゴと交換する。それを背負って僕は意気揚々と持ち場へ戻った。
ピッケルの交換回数が半分に減ったことは、監督官に睨まれる回数が半分に減ったことも意味する。これは良いニュースだった。
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる