トラフェルキア見聞録(クローズドβ)

名誉ナゴヤニスタン人

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01.お父さん、お母さん、就職は決まってないけど、働く喜びがわかりました

第005話「すみません、ピッケルを交換させてください」

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第005話「すみません、ピッケルを交換させてください」


 ギザルー平原を横断する形で移動し、ようやく辿り着いたのはニビ鉱山。商業価値のそれほどは大きくない鉱山で、銅鉱石と、錫石、亜鉛鉱石。運が良ければ鉄鉱石も採掘できるぐらいだ。

 初心者向けダンジョンで、推奨レベルは5以上。
 幸いにして安全だ。


 もちろん、僕はレベル1だから、一人だったら辿り着く事も出来ずにギザルー平原の真ん中あたりで力尽きるだろう。鉱山内もモルフィーこそいないがレベル3ぐらいのヒュージビートルが出て来る、膝ぐらいの大きなもある殺人カブトムシの事だ。

「ヒュージビートルが出たぞ!」
 ほら、遠くで誰かが叫んだ。僕はかまわずピッケルを振るい、採掘を続ける。
 鉱員はレベル1なのに大丈夫なのかって? 大丈夫さ。興味があったら見てるといい。


<!>鉱員:「AGGROアグローー!」

 ウェンデルが壁を掘る隣の採掘穴、ヒュージビートルと会敵した鉱員は/broadcast ぐらいの声量で大きく叫びながらダンジョン入口に向かって走った。モンスターと戦闘状態になったら、そう叫ばないといけないのだ。――別に叫ばなくてもいいが、命が惜しい時は叫んだ方がいい。

 ヒュージビートルはのっそのっそと地上を歩いて鉱員を追いかけるが、追いつかれる事は無い。形状はカブトムシに似ているけど、ニビ鉱山にいるヒュージビートルが俊敏に空を飛んだ所はまだ見たことが無い。きっと身体が重くて飛べないんだろう。足も遅いから逃げる気持ちさえあれば誰でも、ミニマム族の小さな足でだって逃げられる。


 鉱員がダンジョン入口側に走って来た所で、武装したヒュームー族のウォーリアーがモンスターを一刀両断にした。鉱員は傭兵に感謝し頭を下げるとまた採掘作業に戻っていった。


 ――――と、こういう流れだ。おわかりいただけただろうか? あ、これ亜鉛鉱だ。

 モンスターが出てきたら、監督官と傭兵たちのキャンプしている広場までダッシュでモンスターを牽引プルしてきて、始末してもらえば良いのである。とても簡単だ。

 だから僕たちは推奨を下回るレベルとステータスであってもかなり安全に採掘を行う事が出来る、人類の知恵の勝利だ。ギザルー平原で矢を向けられた時はあんなに恐ろしくて冷酷に見えた傭兵たちが、今はとても心強く、安心できる存在に思えた。


 ウェンデルが黙々と壁に向かって採掘を行っていると、ピッケルがボキリ、といやな音を立てた。
ウェンデル:「あっ」

 折れちゃった。これイヤだから、あんまり折りたくないなあ。

 溜息をついたウェンデルは鉱石を詰めた網カゴを背負うと、キャンプ地の監督官のもとを訪ねる。監督官は一見して偉そうだし実際偉い。でも、彼だって決してふんぞり返っているだけではない事に最近気が付いた。この時も彼は鉱員が採掘してきた鉱石をソートし、1ギルダンにもならない石ころの除外作業を行っていた。



ウェンデル:「すみません、折れちゃいました」
 長いウサギ耳をしゅんと垂らし、壊れたピッケルを見せると、いつも不機嫌そうな監督官はじっとこちらを見た。そして……

監督官:「交換しろ」
ウェンデル:「ありがとうございます」
 お辞儀してから壊れたピッケルを破損ピッケル置き場にドロップし、新品を一本拾得ルートする。僕にはできないけれど、破損したピッケルを修復できる人がいるらしいという噂を聞く。ピッケルはリサイクル資源なのだ。それにもともとピッケルは全部貸与品だから監督官さんの財産だし、壊れてるものだって勝手に持ち帰ったら泥棒になってしまうのだ。


 すると監督官が
監督官:「おいウサギ人間、前にも見た顔だな。昨日も居たか?」
 と聞いてきた。いったいこいつは何を言ってるんだ、昨日どころか僕は二週間ずっとこの職場にいるんだぞ!

 憤慨する気持ちを抑えて
ウェンデル:「はい、二週間になります」
 と答えたら彼は

監督官:「そうか、もう一本ぐらい持っていけ」
 と僕に言った。そんな事を言われたのはこの二週間ほどで初めての事なので面食らっていると
「どうせまた折れるだろ」
 と言った。

 まあその通りである、故意に折れば弁済対象になってしまうが、故意がなくたってどうしてもこれは一定確率で折れてしまうのだ、それが仕様だ、不具合ではない、純然たる事実としてピッケル系は消耗アイテムなのである。ゆえに真面目に働いてる範囲の破損は許して貰える。


「ルールはわかってるな。あとでちゃんと返却するんだぞ」
ウェンデル:「はい、ちゃんと返します」
 僕はもう一本ピッケルをルートし、掘った鉱石の入った網カゴを、空の網カゴと交換する。それを背負って僕は意気揚々と持ち場へ戻った。



 ピッケルの交換回数が半分に減ったことは、監督官に睨まれる回数が半分に減ったことも意味する。これは良いニュースだった。

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