9 / 27
留守番戦争
第一章:8話 『血』
しおりを挟む
おびただしい量の血液。すでにこのメイド―ルキエルの命は、人の致死量の血と同時に失われているだろう。
「い…いったい、何…が…。」
わからない。今この屋敷には2人のメイド…すでに1人は多量の血とともに倒れていて、もう1人は外出しているが、あとはアイリスとアレスの2人がいる。父グランと母ユーナは各々の用事でここにはいない。
混乱と焦燥の中、必死の思考で冷静を取り戻そうとする。しかし、己の心臓はそれに反してどんどん早く脈をうっていく。アレスがルキエルの生死を確認するために近寄ろうとした次の瞬間、
「やぁ。」
「――っ!?」
かけられた声とともに背後から紫紅の光が真横に振るわれた。アレスは咄嗟に前に飛び、それを回避する。当たっていたら間違いなく即死だっただろう。だがアレスの身長を考えると今の一撃はアレスの頭をかすめるぐらいで、当たることはなかった。
「今のはっ…!」
背後からの一撃、そのアクションを起こした人物がそこにいた。アレスが厨房に来た時にはいなかったが、ルキエルに気をとられているうちにいつの間にかアレスの背後に迫っていた。それは狂気、殺意、恐怖。2日前に味わったそれと同じ異常。
「……何でお前がここにいるのか……聞いてもいいか?」
そこに立っている異常。それはアレスの2度目の入学式に招かれざる来客として侵入して来た黒フルフェイスだった。アレスは6歳とは思えない反応を見せる。本来なら声帯を限界まで震わせ、激昂し叫んだだろう。けれど、そうしなかった。怒りの感情に身を委ねることは簡単で単純。しかし、そうしてしまったら黒フルフェイスを倒すことはできない、アレスはそのことを直感と経験で感じ取った。入学式での悲惨な経験で。
それに…
「(今ここで俺がやられたらアイリスが危ない…)」
「よく今の攻撃を避けられたね~、偉いぞぉ。」
黒フルフェイスは入学式と同じような態度で、大げさに手をパチパチとならす。拍手のつもりだろうが今のアレスにはふざけているようにしか見えない。
「もう一度聞くぞクソマスク。何でここにいる?」
アレスと黒フルフェイスの距離は5mほどで、アレスはキッチン、黒フルフェイスは廊下にいる状態だ。さらに、アレスの後ろにはルキエルが倒れている。その距離にはどれだけの殺意がぶつかり合っているのか…。
「なぁ~にぃ、見張りや警備のいる王城ならともかく、こんな誰もいない屋敷に侵入するのなんて簡単だったYO!」
アレスがどれだけのシリアスな雰囲気を生み出しても、羽をもがれた蚊を潰すかのような感覚で壊していく黒フルフェイス。本来、屋敷の警備はもう一人のメイド―テーラが掛け持っていた。よりにもよって彼女がいない時間にこの男は侵入してきたのだ。
「そんなことじゃない!どんな目的があってここにいるのかだ!またユーナが目的なのか!」
「ふっ。」
「――?」
「ふははははははっ!」
黒フルフェイスはお腹を抱えて豪快に笑い出した。
「何がおかしい!」
「いや…ふふふっ…くっ、あー失敬失敬。ぷっ、ひーひーくくく。…………ふー、何が目的かと聞かれたならばしょうがない、答えよう…しょうがなくはないか…。ずばり…君がほしい…。」
左手で前髪をかきあげ、右手の人差し指でアレスを指して、まるでキザした男が女にプロポーズするかのような口調で答えた黒フルフェイス。そもそも顔を隠している時点で前髪もなければ決め顔も意味ないのだが…。
「――――…………………。」
アレスの頭の中は一気におかしくなった。狂ったとかという意味ではなく、単純に状況が読めないことに対する疑問、不安。アレスはしばらく黙った。
「黙っとるってーことは、僕のプロポーズの答えはオッケーってことかな?」
静寂が支配していた時間を割きに壊したのは、黒フルフェイスのほうだった。
「オッケーなわけないだろ!」
それに対して、アレスも返答する。
「えーー…。」
「えーー、じゃねえ!ふざけてんのか!」
「ふざけてないよ~本気だよ~。まあ、欲しいのは君の…君たちの『血』なんけどね。」
ふざけた口調から一転して、頭から押さえ込まれるような重圧を帯びた口調になった。
「血……だと…?」
「そうなんです!『血』なんですよ!はい!」
またもとの口調に戻った黒フルフェイス。入学式と同じ調子で両手を横に広げ、高らかに宣言した。
「本当ならあなたの母親…ユーナさんの血が目的だったんだけど、この際息子の君でもいいという判断になってね。だから、君の…君たちの『アルカディアル家の血』をもらうよ。」
悪鬼はその下劣な笑みをマスクの下に隠していたが、本性はそのまま表に出していた。
「い…いったい、何…が…。」
わからない。今この屋敷には2人のメイド…すでに1人は多量の血とともに倒れていて、もう1人は外出しているが、あとはアイリスとアレスの2人がいる。父グランと母ユーナは各々の用事でここにはいない。
混乱と焦燥の中、必死の思考で冷静を取り戻そうとする。しかし、己の心臓はそれに反してどんどん早く脈をうっていく。アレスがルキエルの生死を確認するために近寄ろうとした次の瞬間、
「やぁ。」
「――っ!?」
かけられた声とともに背後から紫紅の光が真横に振るわれた。アレスは咄嗟に前に飛び、それを回避する。当たっていたら間違いなく即死だっただろう。だがアレスの身長を考えると今の一撃はアレスの頭をかすめるぐらいで、当たることはなかった。
「今のはっ…!」
背後からの一撃、そのアクションを起こした人物がそこにいた。アレスが厨房に来た時にはいなかったが、ルキエルに気をとられているうちにいつの間にかアレスの背後に迫っていた。それは狂気、殺意、恐怖。2日前に味わったそれと同じ異常。
「……何でお前がここにいるのか……聞いてもいいか?」
そこに立っている異常。それはアレスの2度目の入学式に招かれざる来客として侵入して来た黒フルフェイスだった。アレスは6歳とは思えない反応を見せる。本来なら声帯を限界まで震わせ、激昂し叫んだだろう。けれど、そうしなかった。怒りの感情に身を委ねることは簡単で単純。しかし、そうしてしまったら黒フルフェイスを倒すことはできない、アレスはそのことを直感と経験で感じ取った。入学式での悲惨な経験で。
それに…
「(今ここで俺がやられたらアイリスが危ない…)」
「よく今の攻撃を避けられたね~、偉いぞぉ。」
黒フルフェイスは入学式と同じような態度で、大げさに手をパチパチとならす。拍手のつもりだろうが今のアレスにはふざけているようにしか見えない。
「もう一度聞くぞクソマスク。何でここにいる?」
アレスと黒フルフェイスの距離は5mほどで、アレスはキッチン、黒フルフェイスは廊下にいる状態だ。さらに、アレスの後ろにはルキエルが倒れている。その距離にはどれだけの殺意がぶつかり合っているのか…。
「なぁ~にぃ、見張りや警備のいる王城ならともかく、こんな誰もいない屋敷に侵入するのなんて簡単だったYO!」
アレスがどれだけのシリアスな雰囲気を生み出しても、羽をもがれた蚊を潰すかのような感覚で壊していく黒フルフェイス。本来、屋敷の警備はもう一人のメイド―テーラが掛け持っていた。よりにもよって彼女がいない時間にこの男は侵入してきたのだ。
「そんなことじゃない!どんな目的があってここにいるのかだ!またユーナが目的なのか!」
「ふっ。」
「――?」
「ふははははははっ!」
黒フルフェイスはお腹を抱えて豪快に笑い出した。
「何がおかしい!」
「いや…ふふふっ…くっ、あー失敬失敬。ぷっ、ひーひーくくく。…………ふー、何が目的かと聞かれたならばしょうがない、答えよう…しょうがなくはないか…。ずばり…君がほしい…。」
左手で前髪をかきあげ、右手の人差し指でアレスを指して、まるでキザした男が女にプロポーズするかのような口調で答えた黒フルフェイス。そもそも顔を隠している時点で前髪もなければ決め顔も意味ないのだが…。
「――――…………………。」
アレスの頭の中は一気におかしくなった。狂ったとかという意味ではなく、単純に状況が読めないことに対する疑問、不安。アレスはしばらく黙った。
「黙っとるってーことは、僕のプロポーズの答えはオッケーってことかな?」
静寂が支配していた時間を割きに壊したのは、黒フルフェイスのほうだった。
「オッケーなわけないだろ!」
それに対して、アレスも返答する。
「えーー…。」
「えーー、じゃねえ!ふざけてんのか!」
「ふざけてないよ~本気だよ~。まあ、欲しいのは君の…君たちの『血』なんけどね。」
ふざけた口調から一転して、頭から押さえ込まれるような重圧を帯びた口調になった。
「血……だと…?」
「そうなんです!『血』なんですよ!はい!」
またもとの口調に戻った黒フルフェイス。入学式と同じ調子で両手を横に広げ、高らかに宣言した。
「本当ならあなたの母親…ユーナさんの血が目的だったんだけど、この際息子の君でもいいという判断になってね。だから、君の…君たちの『アルカディアル家の血』をもらうよ。」
悪鬼はその下劣な笑みをマスクの下に隠していたが、本性はそのまま表に出していた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです
しーしび
恋愛
「結婚しよう」
アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。
しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。
それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】
積み上がった伏線の回収目前!!
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる