煌めく世界へ、かける虹

麻生 創太

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第三章『Go! Go! サイン会♪』

灼熱

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「うっはぁ~……!!」

文哉の胸の中に熱い想いが込み上げていた。

「おじさん、とってもカッコいいね!!」

騎士の鎧を纏った大柄な男に思わず声をかけてしまった。
すると、大男・ガウェインは照れた様子で頭を掻いて言う。

「そ、そうか……?」

文哉は言う。

「オレは中野 文哉! よろしくね、おじさん!」

「夏継 ガウェインだ。まあ、呼び方は何でもいいが……」

張り詰めていた空気が一気に弛緩したような、そんな感覚を文哉は得た。
しかし、一人の女性の声によって引き戻されることとなる。

「みんな、来ますよ!」

ミリアムの呼びかけに、皆が再び警戒を強める。
まだ戦いは終わっていないのだ。
猛牛は助走をつけた上でこちらにまっすぐ向かって来た。
決着をつけようということなのだろう。途轍もない速度の突進は当たれば即死は確定だ。
文哉はことはに言う。

「ことはちゃん! オレの身体をことはちゃんの植物で固定してほしいんだ!」

「え……」

一瞬、驚きの声を上げてしまうことはだったが、すぐに頷きを返し、

「分かった。やってみる」

続けて、文哉は残る二人にも呼びかける。

「ミリアムさんとガウェインさんには、あの牛にできるだけ攻撃を当ててほしいんだ」

「……分かりました」

指示を受けたミリアムがガウェインへ視線で合図を送ると、彼は深く頷きを返してきた。
文哉は叫ぶ。

「行くよ、みんな!!」

言いきった途端、彼は絵筆を宙に走らせる。と同時に、ミリアムとガウェインが地を蹴り走り出した。
大きく描き出された“それ”を文哉は担いで構えた。
そこへ、ことはが生み出した無数の蔦で文哉の胴体から両脚を固定していく。
一方、ミリアムは切っ先に旋風を纏わせた長剣を、ガウェインが爆炎を纏った大剣を同時に猛牛へ振り下ろした。
二人の連携攻撃を受けた猛牛は倒れこそしないものの、一気に失速していった。

「まだです!」

ミリアムは叫びながら再び斬撃を猛牛へ喰らわせる。ガウェインも彼女に続いて大剣を振り回した。この一連の流れを何度も繰り返す。
敵にダメージを与えつつ、突進の速度を落とす。そして敵が疲弊したところへ確実に強烈な一撃を叩き込む。それが、文哉の立てた作戦だ。
この作戦は、決して一人の力では完遂できない。協力者が必要不可欠なのだ。
反動でブレないよう身体をしっかりと固定させた文哉は肩に担いだ得物──ロケットランチャーの狙いを定める。
ミリアムとガウェインのおかげで勢いを失った猛牛にもう逃げる術はない。

「いけぇーーーーーっ!!!!!」

絶叫とともに文哉はロケットを発射した。

「援護します!」

「俺たちの力を受け取れ!」

ミリアムとガウェインはそう言って、宙を切り裂いた。
斬撃の衝撃から双の力が生み出される。
ミリアムの風と、ガウェインの炎。
二つは混ざり合って文哉の放ったロケットに宿った。やがてロケットは急速に加速し、止まることのない灼熱の弾丸となる。
そうして途轍もない速度で打ち出されたロケットはついに、猛牛の頭部を勢いよく貫いた。
直撃を真正面から喰らった猛牛は、悲鳴を上げながら消滅していった。
文哉たちが力を合わせ《GROW》の暴走を止めた瞬間であった。



新堂 結人のサイン会を荒らし回った猛牛が消滅したその矢先。現れた影がある。荘厳な装飾の入った巨大な鏡だ。

「あれって、まさか……」

ことはがそう呟いた刹那、鏡の中から二人の人物がいきなり飛び出してきた。
一人は、加々見の手下とされる性別不明の人物。そしてもう一人は、光を飲み込んでしまいそうな漆黒の鎧に身を包んだ騎士だ。
黒騎士は素早い動作でその手に持った剣を振り被り、ガウェインを斬りつける。しかし、咄嗟にガウェインは大剣を盾として黒騎士の攻撃を受け止めた。
そこへ黒騎士の脇腹目掛けてミリアムが鋭い突きを繰り出すも、すんでのところで躱されてしまった。
漆黒の騎士甲冑の動きは見かけによらず身軽だ。

「ガウェインさん、大丈夫ですか?」

「ああ。君のおかげで助かった」

ガウェインの無事を確認したミリアムは、小さく息を吐いた。
ミリアムは文哉たちへ尋ねる。

「あの方たちは誰なんですか?」

「黒いやつはオレたちも初めて見るから分かんないけど……」

言いながら文哉は番場の方へ振り返る。彼はサングラスのブリッジを持ち上げつつ文哉の言葉を継いだ。

「加々見 成美の手下は一人ではなかった、ということだね」

ガウェインは大剣を構えながら低い声で言う。

「奴らは敵……という認識でいいんだな?」

実際はどうなのだろう。
ガウェインの問いかけに即答できない文哉は、性別不明の謎の人物へ向かい合い、告げる。

「君は一体、何者なの?」

文哉の言葉を受けて、謎の人物はゆっくりとした口調で自らの名を口にした。

「私は、ゆかり……」

彼、或いは、彼女──正体不明の人物はそう言いながら、文哉の方へまっすぐ向かって来る。
迎え撃とうと文哉が七色の絵筆を構えたその時。縁と名乗る人物は上空に跳躍し、文哉を飛び越えていったのだ。

「え……っ」

一瞬、何が起きたのか分からず、文哉は呆気にとられてしまった。
宙を飛んだまま自らの武器である大鎌を掲げ、縁は言う。

「……あなたの鍵をいただきます」

告げた直後、縁は掲げていた大鎌を近くにいたユリアンへ向けて振り下ろした。
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