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4話 もう一人
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大行列、という程では無いが、常に誰かしらの応対をしている状態だ。
小さな子供から同級生達。若年層から高年層まで幅広い人が祭りには来る。スタンプ如きにそんなに人が集まるのか疑問視していた事もあったが、折角アイドルが来るなら一目見たい気持ちが強い客が多いみたいで大変賑わっている。それに加えて元々昔からやっているイベントだし。
瑞希さんは思っていたより余裕があったのか、ちゃっかり自分の事を応援してくれるような人に対してスタンプ用紙にサインなんかも書き記している。そして、そんなお客さんに毎回必ず手を振る……。「また会いましょうね!」なんて言葉と共に。
「凄い、これが本物のファンサ……。」
彼女の誰とも懸命に向き合う麗しい姿をぼーっと眺めていると、あの日の事を思い出す。
中学一年生の頃、自分の東山苺という名前が恥ずかしくなった事があった。
「いちごちゃん、いちごちゃん」って。それがなんだか馬鹿みたいだって。実際、男の子とかに名前をいじられていた事もあった。だけどいつかのスワロウテイルのライブ終わり、ファンとお話してくれた時。そこでミズは、私の名前を可愛い名前だと、ただ忌憚の無い透き通った目でそう呼びかけてくれたのが嬉しかった。
私は元々二人に心を惹かれていた。何度も、テレビとかでその姿を見てきたし。
だけどやっぱり、自分の好きな人に肯定されるともっと好きになってしまうのだ。例え名前で悩むなんて些細な事でも、親が自分の事を愛しているからこんな名前を付けてくれていると分かっていても。
ユニットメンバーの一人としても、人としても心が引き寄せられていく。
百年の恋は覚めない。だからこそ私の中には、推しだけど推しでは無いという矛盾めいた感情が生まれているのだろう。
「ミズさん。瑞希さんは、どうしてそんなにファンの方を大切にしてくれるんですか?」
頭の中が過去の情景でいっぱいになり、それを何とか発散させる。
「前も言ったけど、同級生なんだから敬語とか使わなくても良いから」
ベルトコンベア作業のように数多の人が流れてくる合間を縫って、私達は小さな声で少しずつ言葉を交わしていく。最も、私の方には殆ど人は来ないけど。
「ファンサの理由がお金稼ぎの為、とか言ったらどうする?」
「え、この仕事お金出るんですか?」
「……もし、仮にお金の為にファンと接してたらどうする?」
軽い冗談を言ってみれば無かった事のようにされたし、瑞希さんみたいに来てくれた小さな女の子に手を振ってみたら、当たり前のように無視された。
それとは裏腹に、横にいる推しと少しずつ距離が近付いていけている気がする。遍く全ての人間に優しいアイドルオーラに騙されているだけかもしれないけど、やっぱりあの時、係に選ばれて本当に良かった!
「お金の為にアイドルをやる。それはちょっと、間違いでは無いですけど、うーん」
お金の為だけに彼女達は輝いていると仮に考えると少しもやもやとはしてしまう。慈善事業じゃ無い事なんて分かりきっているけど、それでも私達ファンは目の前の憧れに夢を見続ける消費者なのだ。
「だよね。ほんと馬鹿げてるわ、あいつ」
人がはけ始めたのを見計らってから、そう言って瑞希さんは純粋かつにこやかな笑顔で毒づく。
「あの、あいつって……?」
そう聞いた時、一瞬彼女の笑顔の奥に、苦い物を食べた時のようなしかめっ面が確かに出ていた。
聞いては行けない領域に踏み込みかけてしまい、慌てて瑞希さんから目を逸らす。
芸能界ともなると、勿論そういう魂胆の人だっているんだよな。でも、瑞希さんはそんな人に憤りを感じている。やっぱり彼女は聖人君子に等しい。
丁度よく、新しいお客さんが片手に屋台で売られていたたこ焼きを持ってこちらへ来てくれた。
「馬鹿げてるなんて、私は私の主張を曲げませんからね。瑞希さん」
そしてそのお客さんは、なんとも自然に私達のひそやかな会話の中へと割り込んできた。たこ焼きが放つ、そのほのかな温かさと共に。
「え……?」
お客さんの姿形を目を皿にして見つめる。
内巻き気味の黒髪の中に隠れ見える青いメッシュ。
そして瑞希さんと面識のありそうな態度と、並べば同じくらいの長身。
ともすればコスプレにも見えるゴシックパンクな黒いワンピースと胸に編まれた蝶のレースが、異界の女王のような風格をもたらしている。
まさか、スワロウテイルのアオ?
小さな子供から同級生達。若年層から高年層まで幅広い人が祭りには来る。スタンプ如きにそんなに人が集まるのか疑問視していた事もあったが、折角アイドルが来るなら一目見たい気持ちが強い客が多いみたいで大変賑わっている。それに加えて元々昔からやっているイベントだし。
瑞希さんは思っていたより余裕があったのか、ちゃっかり自分の事を応援してくれるような人に対してスタンプ用紙にサインなんかも書き記している。そして、そんなお客さんに毎回必ず手を振る……。「また会いましょうね!」なんて言葉と共に。
「凄い、これが本物のファンサ……。」
彼女の誰とも懸命に向き合う麗しい姿をぼーっと眺めていると、あの日の事を思い出す。
中学一年生の頃、自分の東山苺という名前が恥ずかしくなった事があった。
「いちごちゃん、いちごちゃん」って。それがなんだか馬鹿みたいだって。実際、男の子とかに名前をいじられていた事もあった。だけどいつかのスワロウテイルのライブ終わり、ファンとお話してくれた時。そこでミズは、私の名前を可愛い名前だと、ただ忌憚の無い透き通った目でそう呼びかけてくれたのが嬉しかった。
私は元々二人に心を惹かれていた。何度も、テレビとかでその姿を見てきたし。
だけどやっぱり、自分の好きな人に肯定されるともっと好きになってしまうのだ。例え名前で悩むなんて些細な事でも、親が自分の事を愛しているからこんな名前を付けてくれていると分かっていても。
ユニットメンバーの一人としても、人としても心が引き寄せられていく。
百年の恋は覚めない。だからこそ私の中には、推しだけど推しでは無いという矛盾めいた感情が生まれているのだろう。
「ミズさん。瑞希さんは、どうしてそんなにファンの方を大切にしてくれるんですか?」
頭の中が過去の情景でいっぱいになり、それを何とか発散させる。
「前も言ったけど、同級生なんだから敬語とか使わなくても良いから」
ベルトコンベア作業のように数多の人が流れてくる合間を縫って、私達は小さな声で少しずつ言葉を交わしていく。最も、私の方には殆ど人は来ないけど。
「ファンサの理由がお金稼ぎの為、とか言ったらどうする?」
「え、この仕事お金出るんですか?」
「……もし、仮にお金の為にファンと接してたらどうする?」
軽い冗談を言ってみれば無かった事のようにされたし、瑞希さんみたいに来てくれた小さな女の子に手を振ってみたら、当たり前のように無視された。
それとは裏腹に、横にいる推しと少しずつ距離が近付いていけている気がする。遍く全ての人間に優しいアイドルオーラに騙されているだけかもしれないけど、やっぱりあの時、係に選ばれて本当に良かった!
「お金の為にアイドルをやる。それはちょっと、間違いでは無いですけど、うーん」
お金の為だけに彼女達は輝いていると仮に考えると少しもやもやとはしてしまう。慈善事業じゃ無い事なんて分かりきっているけど、それでも私達ファンは目の前の憧れに夢を見続ける消費者なのだ。
「だよね。ほんと馬鹿げてるわ、あいつ」
人がはけ始めたのを見計らってから、そう言って瑞希さんは純粋かつにこやかな笑顔で毒づく。
「あの、あいつって……?」
そう聞いた時、一瞬彼女の笑顔の奥に、苦い物を食べた時のようなしかめっ面が確かに出ていた。
聞いては行けない領域に踏み込みかけてしまい、慌てて瑞希さんから目を逸らす。
芸能界ともなると、勿論そういう魂胆の人だっているんだよな。でも、瑞希さんはそんな人に憤りを感じている。やっぱり彼女は聖人君子に等しい。
丁度よく、新しいお客さんが片手に屋台で売られていたたこ焼きを持ってこちらへ来てくれた。
「馬鹿げてるなんて、私は私の主張を曲げませんからね。瑞希さん」
そしてそのお客さんは、なんとも自然に私達のひそやかな会話の中へと割り込んできた。たこ焼きが放つ、そのほのかな温かさと共に。
「え……?」
お客さんの姿形を目を皿にして見つめる。
内巻き気味の黒髪の中に隠れ見える青いメッシュ。
そして瑞希さんと面識のありそうな態度と、並べば同じくらいの長身。
ともすればコスプレにも見えるゴシックパンクな黒いワンピースと胸に編まれた蝶のレースが、異界の女王のような風格をもたらしている。
まさか、スワロウテイルのアオ?
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