解散したアイドルユニットをまだ箱推ししてる私の下に、推しの一人が転校してきました

dun

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6話 素顔

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時間は午後に突入し、学園全体が朝より更に盛んになり始めた。

校内放送でイベント案内のアナウンスが鳴り響き、遠くではバンド演奏の音が聞こえ始めて、学校の外では神輿が行き交っている。私達はそのどれにも関わる事が出来ない。

はあ、と瑞希さんは一息付く。
流石に沢山の人との応対に疲れたのかなと思って、「あの、何かしましょうか?」と尋ねてみた。

「ごめん、飲み物買ってきてくんない?」

私を見ずに、首からかけているアクセサリの位置を調整しながら言葉を投げかけられる。

「はい!喜んで!」

普通こんなのはマネージャーがする事だ。だからついつい力になれる事が嬉しくて従ってしまう。スワロウテイルが好きなのは事実だ。だけど、ミズとアオも、またそれぞれも私は好きなのだ。彼女らが在る事が、たまらなく推す側にとっては嬉しい。それは、私の押し付けかもしれないけど……。

自販機でオレンジジュースを買って、再び定位置へと戻ってくる。
そんな時に、校庭内に並び立つ屋台からソーセージや串カツの匂いがこちらまで届いてきた。

「ごめん、ご飯買ってきてくれない?」

再び適当に投げられる命令。

「はい!喜んで!」

串に刺された大きなフランクフルトを買ってきて、後からアイドルに肉類を食べさせてはいけないのではないかと後悔してしまうも、しっかりと大きく口を開けて彼女はそれを食べていた。

「次はそっちも一回ファンサしてみなよ。私疲れちゃった」

私の後ろにしゃがんで隠れながらジュースと焼かれたソーセージを頬張りつつ、軽く命令される。

「は、はい……?」

もう、完璧な小間使いだ。

「君みたいなファンの子といると気が抜けるよ」

目を瞑りながらオレンジジュースをぐびぐびと飲み、そう静かに、余暇の真っ只中を楽しんでいるように軽やかな声で瑞希さんは呟く。

「それって、もしかして褒めてくれてますか?」

気が抜ける、は良いようにも悪いようにも取る事ができるから、私は少し訝しみつつ聞いてみた。自分が推しに嫌な思いをさせていれば申し訳無いと思いながら。
すると瑞希さんは、私の質問に対して押し殺したような笑い声と共に朗らかな笑顔を見せてくれた。

「うん、こんなのは久しぶり。忙しくて友達いないし、毎日疲労できりきり舞いだったし」

年相応の、高校1年生の笑顔だった。

「それにここじゃそんなに同業人とかアンチもいないし、君みたいな女の子ファンに過剰に好かれるのもまあ悪くないね。大型犬飼ってるみたいで面白いよ」

テレビで見るミズの笑顔とはまた違って、瑞希さんは目をずっと瞑りながらへにゃへにゃと笑っている。それは、それこそが普段の瑞希さんのようで、普通の生活をミズが求めている証のようにも見えて……。クールな仮面の裏側に滾る気持ちが表に溢れ出たようだった。

「あの……」

おずおずと、声をかける。彼女の内側と、言葉の節々から出る裏側の世界が気になって。だけど声をかけた時には既に元の表向きの表情に戻ってしまっていた。

「ん、どした」

その気丈で端正な横顔を見ると、私風情がこんな事を言っていいのかと躊躇いそうになる。だけどはっきりと言う事にしてみた。聞きたい事と、自分の少しの願望を織り交ぜた言葉を。

「やっぱり、スワロウテイルはもう駄目、ですか?一人で、辛くないですか?」

少しの硬直と共に、再び何事も無かったように涼しい顔で彼女は飲み物を口に付け喉を鳴らす。

「辛いって、何で?」
「ミズの事をずっと見てたから、今そう思うというか」

さっきの瑞希さんは、少し寂しそうだったから。
あんな顔、少なくともユニット時代は一度も見た事が無い。

「でも、私の事をソロになってからも好いてくれてるファンがいるからさ。だから頑張らないとね。元相方もあの体たらくだし」

頑張らないと、と思っている時点でそれは一種の強迫観念ではないのかと思ってしまう。

一人で何でも出来ると言っても、ずっと一人だときっといつかしんどくなる筈だ。
推しの為に何か、出来る事……。葵さんはスワロウテイルを復活させようとしている。理由は分からないけどかつての仲間と仲直り出来れば、瑞希さんは無理しなくても良くなって、あの輝いていた二人組に戻るかもしれない。勿論今も充分に瑞希さんは輝いているけど。

「あの、葵さんがファンをああいう風に思っている理由って、聞いた事ありますか?」
「無いよ、そんなの。きっと価値観の違いなだけで、それを私がずっと気付けなかっただけ」

場をさっきみたいな空気にしたくないのか、半笑いで答えられる。

「そうですか……。そう、ですかね?」

その優しさが、かえって過去に触れてほしくないように見えて辛く感じる。
だけど。いや、と頭の中で首をぶんぶんと振りそんな風に考える思考を振りほどく。
こんな気持ちは私の勘違いなだけだ。昔からよく人の顔色を窺ってきた人間だし。
それに私が口を挟むような、挟めるような事でも無い。
俯いてそんな事を考えていると、誰かがこちらへ向かってくる足音が聞こえ始めてきた。

「瑞希さん、お客さんですよ」

気持ちを切り替えながらそう隣へ促しつつ、顔を上げると……。

「はあ……。で、気が抜けた所にお前が来る。大変なもんだよ、お仕事は」

向かって正面を見れば、葵さんが私達の眼前へ再び戻って来ていた。
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