解散したアイドルユニットをまだ箱推ししてる私の下に、推しの一人が転校してきました

dun

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7話 あまりにも早い再訪

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「ふ、何回でも来ますよ……。ファンの前では良い顔をする、お仕事では笑顔を絶やさない。それがあなたの弱点ですから」

よく見たら、葵さんが肩から下げている黒いポーチのようなショルダーバッグの中からお菓子の箱が少しはみ出ている。スタンプを押したら貰える景品を律儀に沢山全部受け取っているみたいだ。彼女も別に悪い人では無さそうなんだけど。

「次の、お願いします!その後私と目、合わせてください。ちゃんと私を見てください。ファンサ、お願いします」

そう言って、再び何も書かれていないサラの用紙を取り出す。

「はあ……。律儀にルール守ってこっち来るのもムカつくな」

右腕を僅かにシワが寄ったこめかみに添えながら、印鑑を朱肉に押し付ける。

「はい、ほら帰れ」

餞別とばかりにパイン飴を二つ投げつけ、瑞希さんは誰もいない方向を向いた。
嫌うような態度を醸し出しながらも、やる事はちゃんとしてくれる。それがアイドルとしての表向きの態度か本質ではそこまで嫌っていないのか、どちらなのか分からない。

「すいません、あともう一個印鑑をお願いします」

片手で謝罪の意を示しながら、もう一枚のA4用紙くらいの紙面を取り出す。

「はあ?何回やんだよ」

頬杖を机に付きかけて慌てて辞めながら、その紙面を葵さんから奪うように掠め取る。

「…って、これ。ユニット結成の時の契約書じゃねえか!サラッと混ぜんなよ、小賢しいな……。しかも何でこんなもん持ってんだよ」

掠め取った紙を再び突き返し、その紙を掴み取った葵さんの口から軽い舌打ちが聞こえる。

「はあ、疲弊じゃアイドルは騙せませんか……。どさくさに紛れてと思いましたが」
「どういうつもりだよ……」

怒っているとも喜んでいるともつかない、極限まで何か溢れ出しそうな物を抑えた声がくぐもって聞こえる。

「私は瑞希さんのファンであるからこそ、あなたともう一度同じ場所に並びたいんです」

それにつられるように、フワフワとしていた葵さんの態度が一気に引き締まる。あの、ステージに立っていた時の気弱そうな姿は存在しない。

「お前にはうんざりだ。私は一人でやるって決めたんだよ」

だが机を強く叩き、瑞希さんは立ち上がってかつてのパートナーを拒絶した。

「葵、お前が何を考えてるのか分からないけど。気持ちってのは伝わらなきゃ意味無いんだよ。それに、私の本当のファンにお前みたいなこじれた奴はいない」
「こじれた奴、ですか……。かつてを取り戻したいという想いはいたって普通の考えだと思うのですが」
「とにかく、もうスパッと諦めてくれない?一年半くらい経ってるんだしさ」
「……!」

言い辛い。だけど私も、諦めてはいない。
ずっと、理由を知りたかったし、二人が好きだから戻って欲しいと思っている側の人間だ。

だから……。

「いや。私はスワロウテイルのファンで、今のミズのファンじゃありません。だけど、ミズさんの事が好きなんです。だから、私も、こじれてます」

二人の過去に何があったのか分からず会話に付いていけない。だけど私みたいな人が今もいる事を、伝えたくて自然と割り込んでしまった。

「そんなのは唯の厄介ファン。追っかけ、君が好きなのも二人でいる時の私って言ってたよね」
「……」

そうきっぱりと言われれば、私は言い訳も何も言い返せない。
いくら推しだと言っても、ソロになれば来ないというのはそう取られて当然だ。

「瑞希さん……」

私と葵さんの呟きが重なる。
私は謝罪を、一方は諦観の意味を備えた言葉になって宙空に響いた。
周囲の喧騒がうるさいのに、私達が発している小さな声の方が何倍も大きく聞こえる。

「一度終わった物を何回も求めないで」

そう言って彼女は立ち上がり、そそくさと歩き去っていってしまった。

「瑞希さん、どこに?」
「知らない?夜から体育館でライブだから、それの練習」
「ええ!?」

そんな彼女を慌てて追いかけようとするも、背後からガシッと肩を掴まれる。

「スタンプのチェックポイントさん、あなたはそこから動かない。動いたら嫌いになります」

きりっとした瞳と高身長の圧から発せられる圧倒的なオーラに、私は取り込まれる。葵さんは現状表立った活動はしていない。それでも一度公衆の面前での仕事をした人間は、纏っている、抱えている物が全然違って見える。

「私はスワロウテイル復活の為に動いているだけです。あなただって、それを望んでいるのでしょう?私に協力してくれませんか?」

私だって、出来るならそうしたい所だ。だけどそのまま葵さんの意見を鵜吞みにして協力すれば、一生平行線のまま。本来干渉出来ない推しという存在に近付けているこの状況のせいで、途方も無いくらい心が揺れ動き続けている。

気持ちを整理しようと、瑞希さんが歩き去っていった方向を見る。私の横に座っていた彼方の夢のような景色は、今はいなくなり代わりに彼方の屋台がぼんやりと見えていた。
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