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〈成人編〉
52. 家探しです
しおりを挟む姿を隠すことができる魔道具のマントを装着して、地下の通路を通り抜ける。
通路を挟んで向かい合わせに地下牢があるため、姿を見られないように【隠密】スキルで気配を消した。
どのくらいの日数を、ここに閉じ込められているのか。
獣人の少女たちは、ベッドの上で膝を抱えてぼんやりしている。
諦めたような眼差しに、胸が痛んだ。
幸い、最低限の食事は保証されているようで、目に見えて弱っているようには見えない。
(部屋に置かれた魔道トイレと定期的に運び込まれる湯のおかげで、清潔ではあるのよね)
奴隷として売るためか、身奇麗さは保たせるつもりなのだろう。
だが、陽が当たらずに空気も良くない、こんな閉塞された場所に押し込められて、心身共に健康でいられるはずがない。
(すぐにでも助け出したいところだけれど……ごめんね。もう少しの辛抱よ)
体格のいい、大人びた少女が四肢を投げ出すようにベッドでぐったりしていたのは、おそらく何らかの薬を投与されているのだろう。
こっそり【鑑定】すると、獅子族とクマ族の少女だった。
見張りの男が『しつけ』と口にしたのは、この子たちのことなのだろう。胸くそが悪い。
(状態は……獣人のみに効果のある筋弛緩薬を使われているようね。意識はかろうじてあるから、薬が抜ければ動けるようになる)
後遺症もなさそうで、ホッとする。
だが、こんな物騒な薬が存在するなんて知らなかった。
(エドやアキラに使われないよう、気を付けておこう)
ポーションで治すことはできないが、薬師による解毒薬を処方するか、【解毒】魔法を使えば、彼女たちの自由を取り戻すことは可能だ。
『センパイも使えましたよね?』
(うん。ミーシャさんのスパルタ式の修行の成果で、【治癒】の派生魔法として覚えることができたわ)
修行の内容については思い出したくもないが、おかげで対抗できそうだ。
「え……だれか、いるの?」
「……ッ⁉︎」
か細い声が響いて、ナギは肩を震わせた。気配を消して、姿も隠していたはずなのに。
(さすが、獣人。鼻が利く)
『匂いは仕方ないですよねー。センパイは特にいい匂いがするし……』
仔狼がのんびりとそんな感想をもらすので、ちょっとだけドギマギしてしまった。
(いい匂いって……!)
『美味しそうな匂いがするんですよ、センパイは』
(って、そういう意味⁉︎ もう、焦ったじゃない!)
乙女心が台無しである。
(どうせ、いっつも料理ばかりしていますよ! もうっ)
『……そういう意味ではなかったんだけど、まぁ、いいか』
きょろきょろと周囲を見回す犬族の獣人の少女には申し訳ないが、呼び掛けには答えずに、そっと階段を上がった。
◆◇◆
屋敷内の見張りの男たちはすべて、アキラの闇魔法で眠りについている。
この隙に、家探しだ。
ナギは一部屋ずつ、徹底的に探して回ることにした。
「いちばん怪しい書斎からいくわよ」
『はーい!』
まずはデスク周りから。書棚の中身をひっくり返し、本の隙間に書き付けが挟まっていないかまで、丁寧に調べていく。
鍵付きの抽斗の中にあった書類はごっそり【無限収納EX】へ。
帳簿らしき書類の束もまとめて回収──するとバレてしまいそうなので、表紙だけを残して中身を抜き取った。
スカスカになった空間には土魔法でダミーを作成し、文字通りの穴埋めとする。
『センパイ、隠し金庫がありましたけど、コレどうします?』
何やら真剣な表情で床の匂いを嗅いでいた仔狼が尻尾を振る。
黄金色の瞳が期待で輝いていた。
どうやら、床下に隠し収納があったようだ。羽目板を外すと、ビンゴ!
どうするかなんて、そんなの決まっている。
にこりと可憐に微笑むと、ナギはずっしりとしたお宝が詰まっていそうな金庫を容赦なく【無限収納EX】に放り込んだ。
「大事な証拠だもんね? 回収しなくっちゃ」
『ですよねー?』
キャッキャと笑いながら、容赦なく家探しを敢行する。
『そういえば、センパイ。犯罪組織から押収した財産は事件解決に尽力した冒険者に所有権だか、優先権だかが与えられるんですよね?』
熱心に冒険者の規約本を熟読していたエドのほうが詳しいくせに、にんまりと笑いながら尋ねてくる。
「そうよ。押収した金銀財宝、魔道具なんかも売上げの何割かは冒険者ギルドや被害者への填補に充てられるらしいけど、半分は貰えるはず」
犯罪に手を染めた商会なのだ。
後ろ暗い方法で蓄えた財産は商業ギルドの銀行に預けることはなく、人目に付きにくい別荘などに隠してある可能性が高い。
『つまり、ここで見つけたお宝はオレたちの稼ぎになるってことですね!』
ひゃっほう、と張り切るアキラを、もちろんナギは止めない。
書斎にある本棚の裏の隠し扉を【鑑定】スキルで発見すると、両手でようやく抱えられるほどの大きさの壺にぎっしりと詰め込まれた金貨を回収した。
『センパイ、これ』
隠し扉の奥をアキラがちょい、と前脚で示した。暗くて見えにくい。
「照明」
魔法で灯りを浮かべると、壁沿いに棚があった。
宝石箱や高価な魔道具が並べられている。どれも売り払えば、ひと財産になりそうな品ばかり。
『これ、アイツの持ち物ですよ』
「アイツ? ……ああ、グレンさんの」
彼が腰に下げていた剣と短剣。収納の魔道具もある。
指輪やブローチ、ネックレスなどもまとめて没収したようで、一緒に置かれていた。
「魔力を感じるから、これも魔道具なんだろうね」
『相棒に居場所が分かる魔道具が盗まれたって嘆いていたから、それなんじゃないです?』
「そんな便利な魔道具があるんだね」
『便利ですけど、オレは使われたくないなー。GPS機能みたいじゃないですか?』
それはそうかもしれない。
だが、連絡を取る方法が限られている異世界では、ありがたい品物だ。
「そんな高価そうな魔道具を持たされているグレンさんって、よっぽどお金持ちのお家の人なんだろうね」
『まあ、そうかもしれませんね……お金だけじゃなくて、家柄も相当良さそうですけど』
ともあれ、隠し部屋のお宝もごっそり回収させてもらおう。
下っ端の組織の連中は隠し財産については知らされていないだろうし、頻繁に確認することもないはず。
隠し部屋の棚の中には、誘拐された獣人の少女たちの私物らしき荷物もあったので、それも忘れずに回収した。
後でちゃんと返してあげるつもりだ。
「さて、このくらいかな?」
ざっと室内を見渡してみる。
小細工を施したので、ぱっと見た感じでは荒らされたようには見えない。
うん、すぐにはバレないだろう。
「じゃあ、他の部屋も見て回りましょう!」
『なら、隣の主寝室がオススメです。高そうなお宝がいっぱい隠してあったから!』
「ほんと? それは楽しみね!」
ウキウキと書斎を後にする二人。
鍵を掛けるのも忘れずに。
(二人とも、本来の目的を忘れていないか……?)
仔狼の『中』で、エドが呆れたようにため息を吐いていたが、宝探しに夢中な二人はもちろん気づいていない。
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