異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽

文字の大きさ
272 / 287
〈成人編〉

52. 家探しです


 姿を隠すことができる魔道具のマントを装着して、地下の通路を通り抜ける。
 通路を挟んで向かい合わせに地下牢があるため、姿を見られないように【隠密】スキルで気配を消した。

 どのくらいの日数を、ここに閉じ込められているのか。
 獣人の少女たちは、ベッドの上で膝を抱えてぼんやりしている。
 諦めたような眼差しに、胸が痛んだ。

 幸い、最低限の食事は保証されているようで、目に見えて弱っているようには見えない。

(部屋に置かれた魔道トイレと定期的に運び込まれる湯のおかげで、清潔ではあるのよね)

 奴隷として売るためか、身奇麗さは保たせるつもりなのだろう。
 だが、陽が当たらずに空気も良くない、こんな閉塞された場所に押し込められて、心身共に健康でいられるはずがない。

(すぐにでも助け出したいところだけれど……ごめんね。もう少しの辛抱よ)

 体格のいい、大人びた少女が四肢を投げ出すようにベッドでぐったりしていたのは、おそらく何らかの薬を投与されているのだろう。

 こっそり【鑑定】すると、獅子族とクマ族の少女だった。
 見張りの男が『しつけ』と口にしたのは、この子たちのことなのだろう。胸くそが悪い。

(状態は……獣人のみに効果のある筋弛緩薬を使われているようね。意識はかろうじてあるから、薬が抜ければ動けるようになる)

 後遺症もなさそうで、ホッとする。
 だが、こんな物騒な薬が存在するなんて知らなかった。

(エドやアキラに使われないよう、気を付けておこう)

 ポーションで治すことはできないが、薬師による解毒薬を処方するか、【解毒キュア】魔法を使えば、彼女たちの自由を取り戻すことは可能だ。

『センパイも使えましたよね?』
(うん。ミーシャさんのスパルタ式の修行の成果で、【治癒】の派生魔法として覚えることができたわ)

 修行の内容については思い出したくもないが、おかげで対抗できそうだ。

「え……だれか、いるの?」
「……ッ⁉︎」

 か細い声が響いて、ナギは肩を震わせた。気配を消して、姿も隠していたはずなのに。

(さすが、獣人。鼻が利く)
『匂いは仕方ないですよねー。センパイは特にいい匂いがするし……』

 仔狼アキラがのんびりとそんな感想をもらすので、ちょっとだけドギマギしてしまった。

(いい匂いって……!)
『美味しそうな匂いがするんですよ、センパイは』
(って、そういう意味⁉︎     もう、焦ったじゃない!)

 乙女心が台無しである。

(どうせ、いっつも料理ばかりしていますよ! もうっ)
『……そういう意味ではなかったんだけど、まぁ、いいか』

 きょろきょろと周囲を見回す犬族の獣人の少女には申し訳ないが、呼び掛けには答えずに、そっと階段を上がった。


◆◇◆


 屋敷内の見張りの男たちはすべて、アキラの闇魔法で眠りについている。

 この隙に、家探やさがしだ。
 ナギは一部屋ずつ、徹底的に探して回ることにした。

「いちばん怪しい書斎からいくわよ」
『はーい!』

 まずはデスク周りから。書棚の中身をひっくり返し、本の隙間に書き付けが挟まっていないかまで、丁寧に調べていく。

 鍵付きの抽斗ひきだしの中にあった書類はごっそり【無限収納EX】へ。
 帳簿らしき書類の束もまとめて回収──するとバレてしまいそうなので、表紙だけを残して中身を抜き取った。
 スカスカになった空間には土魔法でダミーを作成し、文字通りの穴埋めとする。
 
『センパイ、隠し金庫がありましたけど、コレどうします?』

 何やら真剣な表情で床の匂いを嗅いでいた仔狼アキラが尻尾を振る。
 黄金色の瞳が期待で輝いていた。
 どうやら、床下に隠し収納があったようだ。羽目板を外すと、ビンゴ!

 どうするかなんて、そんなの決まっている。

 にこりと可憐に微笑むと、ナギはずっしりとしたお宝が詰まっていそうな金庫を容赦なく【無限収納EX】に放り込んだ。

「大事な証拠だもんね? 回収しなくっちゃ」
『ですよねー?』

 キャッキャと笑いながら、容赦なく家探しを敢行する。

『そういえば、センパイ。犯罪組織から押収した財産は事件解決に尽力した冒険者に所有権だか、優先権だかが与えられるんですよね?』

 熱心に冒険者の規約本を熟読していたエドのほうが詳しいくせに、にんまりと笑いながら尋ねてくる。

「そうよ。押収した金銀財宝、魔道具なんかも売上げの何割かは冒険者ギルドや被害者への填補に充てられるらしいけど、半分は貰えるはず」

 犯罪に手を染めた商会なのだ。
 後ろ暗い方法で蓄えた財産は商業ギルドの銀行に預けることはなく、人目に付きにくい別荘などに隠してある可能性が高い。

『つまり、ここで見つけたお宝はオレたちの稼ぎになるってことですね!』

 ひゃっほう、と張り切るアキラを、もちろんナギは止めない。

 書斎にある本棚の裏の隠し扉を【鑑定】スキルで発見すると、両手でようやく抱えられるほどの大きさの壺にぎっしりと詰め込まれた金貨を回収した。

『センパイ、これ』

 隠し扉の奥をアキラがちょい、と前脚で示した。暗くて見えにくい。

照明ライト

 魔法で灯りを浮かべると、壁沿いに棚があった。
 宝石箱や高価な魔道具が並べられている。どれも売り払えば、ひと財産になりそうな品ばかり。

『これ、アイツの持ち物ですよ』
「アイツ? ……ああ、グレンさんの」

 彼が腰に下げていた剣と短剣。収納の魔道具ストレージバングルもある。
 指輪やブローチ、ネックレスなどもまとめて没収したようで、一緒に置かれていた。

「魔力を感じるから、これも魔道具なんだろうね」
『相棒に居場所が分かる魔道具が盗まれたって嘆いていたから、それなんじゃないです?』
「そんな便利な魔道具があるんだね」
『便利ですけど、オレは使われたくないなー。GPS機能みたいじゃないですか?』

 それはそうかもしれない。
 だが、連絡を取る方法が限られている異世界では、ありがたい品物だ。

「そんな高価そうな魔道具を持たされているグレンさんって、よっぽどお金持ちのお家の人なんだろうね」
『まあ、そうかもしれませんね……お金だけじゃなくて、家柄も相当良さそうですけど』

 ともあれ、隠し部屋のお宝もごっそり回収させてもらおう。
 下っ端の組織の連中は隠し財産については知らされていないだろうし、頻繁に確認することもないはず。
 隠し部屋の棚の中には、誘拐された獣人の少女たちの私物らしき荷物もあったので、それも忘れずに回収した。
 後でちゃんと返してあげるつもりだ。

「さて、このくらいかな?」

 ざっと室内を見渡してみる。
 小細工を施したので、ぱっと見た感じでは荒らされたようには見えない。
 うん、すぐにはバレないだろう。

「じゃあ、他の部屋も見て回りましょう!」
『なら、隣の主寝室がオススメです。高そうなお宝がいっぱい隠してあったから!』
「ほんと? それは楽しみね!」

 ウキウキと書斎を後にする二人。
 鍵を掛けるのも忘れずに。

(二人とも、本来の目的を忘れていないか……?)

 仔狼アキラの『中』で、エドが呆れたようにため息を吐いていたが、宝探しに夢中な二人はもちろん気づいていない。

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー