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〈成人編〉
51. 合鍵とお留守番
しおりを挟むナギたちが閉じ込められている屋敷には、夜間に十人ほどの男たちが常駐しているようだが、日中は静かだった。
【気配察知】スキルで牢内から調べたところ、屋敷に残っていたのは二人だけ。
「チャンスね。……お願いしていい、アキラ?」
「キャン!」
影の中からするりと這い出てきた仔狼に、グレンがぎょっとする。
彼が闇魔法の使い手だと知った今でも、目にすると驚いてしまうようだ。
「屋敷の中を探ってくれる? あと、捕まっている子たちに必要そうならポーションを使ってあげて」
こくり、とうなずく仔狼が装着しているストレージバングルにポーションを十本、収納させた。
「いいのか、ナギ」
「必要経費はギルドから回収するので」
グレンは心配性だ。
育ちがいいからなのか、お人好しすぎて、こちらが心配になるくらい。
ポーションは買ったものではなく、どれもダンジョンの宝箱から入手したものだ。
エドには転生特典で取得した【回復能力】が、ナギには【治癒魔法】があるため、二人ともポーションの世話になることは滅多にない。
(そのうち売りに出そうと思いつつ、どんどん溜まっていったのよね……)
なにせ、ナギはドロップアイテムが入手し放題なのだ。
ナギの魔力や記憶などを元に改変された食材ダンジョンにはバレてしまっていて通じないが、他のダンジョンでは【無限収納EX】スキルでドロップアイテムを総取りできるので。
(魔石にお肉、毛皮なんかの素材はもとより、レアドロップアイテムも簡単に手に入るから、お金には困っていないのよね……)
稼げるうちは頑張るつもりで冒険者として勤しんでいるが、四年半の活動で既に老後資金まで余裕で稼げているのだ。
(辺境伯邸から持ち出した財産は別にして、金貨千枚以上は貯めているもの)
日本円にして億単位の貯金がある。
ダンジョンで狩った魔獣や魔物素材とドロップした魔道具や装飾品。
稀に出会う宝箱の中身を売却したお金だけでなく、エイダン商会に販売したレシピの代金なども含めると、かなりの金額となったのだ。
(まぁ、うちは宿代が不要なのと、食費がほとんど掛からないから、ここまで貯めることができたのよね)
お金に困っていないため、なんとなくポーションは売らずに確保してあった。
「こういう時に惜しむものではないですから」
「……ああ、そうだな。すばらしい判断だ」
ふ、と口元を綻ばせたグレンが頭を撫でてきた。
唐突な行為に、ナギはきょとんとする。
「? なんですか」
「いや、ナギはいい子だなと感動して、つい」
「はぁ……ありがとうございます?」
どう反応していいのか分からず、何となくお礼を口にすると、余計に撫でられた。
仔狼が不機嫌そうに瞳を細める。
『ちょっと馴れ馴れしくないです? 噛んでもいいですか、センパイ』
(噛むのはダメ)
物騒な念話に首を振って「ステイ」と念じる。
「じゃあ、よろしくね、アキラ」
『任せてください!』
キッ、とグレンを睨み付けると、仔狼は鉄格子の隙間からするりと抜け出した。
二度目ともなれば、慣れたものだ。
「賢い子だが、鍵を取ってくるなんてことができるのか……?」
「できます。うちの子、天才なので」
「そ、そうか」
アキラにお願いしたのは、誘拐された獣人の子のケアと偵察。ついでに牢屋の鍵を取ってきてもらうこと。
(実際、この程度の鉄格子なら、魔法ですぐにでも壊せるんだけど……)
派手にぶちかまして、本命に逃げられたら意味がない。
前回の偵察で、アキラは屋敷内の見取り図を把握している。
日中ということで監視人数も少なく、油断しきっている今なら、鍵の場所も見つけやすいだろう。
「大丈夫かな……」
心配そうに見送るグレンをよそに、仔狼は意気揚々と駆けていった。
◆◇◆
「本当に取ってきてくれた……」
「言ったでしょう? うちの子は天才だって」
呆然と見下ろす先では、仔狼が鍵を咥えて尻尾を振っている。
無事に任務を終えて、帰ってきたのだ。
『見張りは闇魔法で眠らせているので、しばらくは見つかりませんよ』
「ありがとう、アキラ」
地下牢の鍵を受け取ると、土魔法で合鍵を作りだす。
実家である辺境伯邸でも使った手口だ。【生活魔法】しか使えなかったけれど、魔力量でゴリ押しして、土魔法を駆使したのだ。
(凝縮した土から作った鍵だから、あまり頑丈ではないのよね)
そう何度も使えないものだが、調べものをするくらいなら充分だろう。
土魔法で作った合鍵はポケットに入れておく。
アキラが見張りを眠らせてくれている間に、屋敷内を捜索だ。
なぜか、張り切っているグレンには残念なお知らせです。
「グレンさんはお留守番をお願いします」
「む、何故だ⁉︎ 僕も手伝う!」
「ダメです。誰もいなかったら、抜け出しているのがバレてしまうじゃないですか」
「う……それはそうだが」
「私が毛布の中で眠っているフリをお願いしますね」
「……わかった」
あとを任せて、すばやく地下牢から抜け出した。
意外に凝り性なグレンがナギの使っていたベッドに枕や布を丸めたものを詰めて、細工してくれることに。
「じゃあ、行こう。案内をよろしくね、アキラ」
『はーい。こっちですよ、センパイ』
足音を立てないよう気を遣いながら、【隠密】スキルを発動する。
見張りは眠らせてもらったが、被害者である獣人の子たちはそのままなのだ。
見つかって騒がれてしまったら大変なので、角を曲がったところで姿を隠す魔道具のローブも羽織る。
ナギたちが閉じ込められているのと同じような地下牢があと六部屋あった。
二人部屋で、十二人。
長期間閉じ込められていたのか、皆ぐったりと横になっている。
部屋にはベッドが二つと、トイレが置かれている。
衛生面を気にしてか、一応は魔道具のトイレなので、思ったよりは清潔そうだ。
ちなみにナギはグレンがいる場でトイレなど絶対に無理だったので、早々に収納スキル持ちなことを明かしてテントの中にトイレを移動して使っている。
使う時だけ、テントを出しているので、見張りには見つかっていない。
グレンは獣人であるナギが【生活魔法】を使うことに驚いていたが、収納スキルについては純粋に喜んでくれた。
どうやら身に付けていた武器だけでなく、収納の魔道具や装飾品などをすべて奪われてしまっていたようだ。
(マジックバッグやストレージバングルは使用者が魔力登録しておけば、他人が中身を取り出すことはできなくなるけど、荷物がないと不安になるわよね……)
無手になる恐ろしさは何となく理解していたので、ナギはこっそり彼に武器になる小型のナイフを渡してある。
上着の内ポケットに隠せる大きさなので、彼の獲物だった立派な剣と比べて頼りないが、最低限の自衛には役立つはずだ。
(オスカーさんなら、身ぐるみはがされても、まだどこかに暗器を仕込んでそうだけど……)
グレンの心配性の保護者には仔狼に手紙を渡してもらっているので、大丈夫だとは思うのだが──
『センパイ、早く! 闇魔法で眠らせてはいるけど、大きな音や衝撃を与えたら、起きちゃいますからね』
「ん、分かってる。さっさと証拠品を押収しちゃおう!」
ガズール商会が関わっている証拠の品を手に入れて、できれば違法密売に手を出している相手も引っ張り出したい。
「根こそぎ浚えるわよ、アキラ」
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