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〈冒険者編〉
213. 海キャンプふたたび 1
数日はエドと二人でのんびりと過ごした。
庭の畑の世話に果樹の手入れ。
新しく手に入れた調味料やスパイスを使って色々な料理作りにも挑戦してみた。
合間には街に繰り出して、買い物も楽しんでいる。
ドワーフ工房にも足を運び、お土産を手渡しつつ、思い付いた調理器具作りを依頼した。
「休暇も満喫したことだし、そろそろダンジョンに行きたくない?」
「行きたい」
ナギの提案にエドは間髪入れず、大きく頷いた。
黙々と畑仕事やパン作りに励んでいたが、戦闘狂ウサギさんの弟子はダンジョンが恋しくなっていたようだ。
「お肉の在庫は大量にあるし、今回は海ダンジョンに行きたいわ」
「いいと思う。サバの味噌煮は美味かったし、また食べたい」
「味噌と合う魚料理はたくさんあるからね。じゃあ、明日から海ダンジョンに行きましょう! 今回は泊まりで?」
「二泊三日は潜りたい」
「そうね。海産物の在庫も心許ないし、たくさん確保しておきたいから、二泊三日の海キャンプで!」
東の冒険者ギルドでの打ち合わせは四日後だ。
預けてある食材ダンジョンのドロップアイテムや採取品の査定結果の報告と、今後のスケジュールについて説明があるらしい。
打ち合わせ日の前日までに家に帰っておけば大丈夫だろう。
「屋敷内の結界と目眩しの魔道具にもたっぷり魔力を補充しておいたから、安心して出発できる」
畑の作物も少しダメにはなっていたが、新しく植え替えも済んだし、獣避けの柵にも魔力を補充しておいた。
予備の魔石もくっつけておいたので、二ヶ月は結界も保つだろう。
「じゃあ、今日は明日からのご飯を作り置きしないとね。エドもパンをよろしく」
「ん、分かった。ナンも焼いておこう」
「さすがエド、分かっているわね!」
海辺のキャンプで食べるカレーなんて最高に決まっている!
「シーフードカレー、楽しみ……! 手早く作りたいし、この際カレーのルーを作っちゃおうかな……?」
好みの風味のカレールーがあれば、時短で美味しいカレーを作ることが出来る。
「固形ルーが作れなくても、配合したスパイスでカレー粉を用意しておけば、後が楽よね? うん、やってみよう!」
張り切ったナギが試行錯誤をした末に、どうにかカレー用の固形ルーを作り上げることか出来た。
窓の外は既に夜の帷が降りている。
「六時間かかったな……?」
「うん……。でも、おかげで美味しいカレーが作れそうよ」
「そうだな……。試作で余ったカレーを使って、俺もカレーパンがたくさん作れたから満足だが」
試作と味見を繰り返していたため、胃が重い。今夜は夕食は必要なさそうだ。
早朝、海ダンジョンを目指すため、海キャンプの準備を整えたら、すぐに休むことにした。
◆◇◆
「海ダンジョン! 二ヶ月ぶりね!」
「ああ。楽しみだ」
白砂のビーチを横切り、飛び石のような小岩を越えて向かった先にある、島ダンジョン。
東の肉ダンジョンとは違い、浅黒く陽に焼けた冒険者が多い。
島ダンジョンの入り口にある、ストーンヘンジに似た遺跡が転移扉だ。
それぞれチームごとに転移していく冒険者たちの列に並ぶ。
「まず、どこに行こう」
「ナギは何が欲しいんだ?」
「んー。やっぱりカニは欲しいな。岩牡蠣とエビも食べたいし、久しぶりに美味しいお刺身も食べたい」
「なら、まずは六階層だな」
ビッグクラブは全長が2メートルほどある大きなカニの魔獣だ。
甲羅はやたらと硬く、倒すのが面倒なわりにドロップするのは魔石と肉だけ。
カニの肉は傷みやすいため、大抵の冒険者はそのまま捨てていくと聞いた時には、前世日本人の二人は悲鳴をあげそうになったものだ。
(あんなに美味しい、高級品なのに!)
おかげで六階層で稼ごうとする冒険者はほとんどいないため、ナギたちは狩り放題なのだが。
「もったいないよねー? 生で良し、煮ても焼いても揚げても美味しいのに」
「だな。カニ味噌も素晴らしかった」
「もう在庫もないし、フロア中のビッグクラブを狩り尽くしちゃいましょう。なるべく中身を損なわない方法で」
「そうだな。気を付けて狩ろう」
真剣な表情で頷き合うと、二人は手を繋いで転移扉に触れた。
「六階層へ」
◆◇◆
一時間ほど集中してビッグクラブを狩った。ナギは水魔法で槍を作り、鳩尾部分に突き刺して倒した。
これは漁師に教えてもらった甲殻類を苦しめずに締めるやり方らしく、エドも同じ場所を狙って攻撃している。
海に潜んでいるビッグクラブは弓の魔道具を使い、雷魔法で倒した。
後半は仔狼が氷魔法で無双したが、大量のカニを確保できたので、ナギは笑顔で仔狼をもふもふする。
『カニ退治は楽しいですね、センパイ!』
「そうね。今夜はカニ刺しを食べましょう」
『やったー!』
白い砂浜を飛び跳ねて喜ぶポメラニアンもどきはとても可愛らしい。
ひとしきり砂浜を駆け回った仔狼は岩陰に向かった。エドに代わるのだろう。
彼が着替えている間、ナギは冒険者用のショートブーツから革のサンダルに履き替えた。
「せっかくだから、貝やウニも探そう」
膝まで海に浸かりながら、岩の隙間を覗き込む。目的の獲物はすぐに見つかった。
ウニだ。黒い棘に刺されないよう、調理用トングで摘み上げる。
用意しておいたバケツにそっと放り込み、目についたウニや貝を黙々と採取していく。
「ナギ、俺も手伝おう」
「あ、エドには周囲の警戒をお願いしたいな。タコやウツボや海蛇がいると嫌だから……」
「分かった」
タコは美味しいので食べるのは大好きだが、巻き付かれると厄介なのだ。
吸盤に吸い付かれると、ひどいアザになるし、何よりぬるぬるして気持ちが悪いので。
「お、さっそくいた」
蛇を素手で捕まえる黒狼族の少年はタコやウツボを恐れることなく、ひょいっと確保する。
さすがに、そのままナギに手渡すことはせず、氷魔法で凍らせてくれた。
「ありがと、エド」
バケツ三杯分のウニを確保したナギは満ち足りた表情で海から上がった。
浄化魔法で汚れを落とすと、ショートブーツに履き替えて砂浜を指差す。
「エド、リポップしたわ。今夜の夕食が!」
今夜の夕食──もとい、ビッグクラブだ。
エドは軽く顎を引くとメイン料理の具材を手に入れるため、素早く駆けて行った。
◆◇◆
六階層から次に向かったのは、八階層。
ここは食材というより、シーサハギンの宝箱狙いだ。海に棲むサハギンはレアドロップアイテムとして小箱を落とす。
魚介類の他に黄金や宝飾品が詰められたアイテムボックスになっているため、これが今回の稼ぎになる。
シーサハギンの小箱には昆布やワカメなどの海産物が手に入るので、ナギは地味に楽しみにしていたりする。
ナギの【無限収納EX】の能力でレアドロップのはずの小箱は全てのシーサハギンから手に入れることが可能なため、八階層だけでもかなりの稼ぎを得られた。
「この海のサハギンたち、やっぱり何処かの海で沈没船の積荷を手に入れているわね」
小箱の中には、帝国の金貨が何枚か入っていた。親指の爪ほどの大きさの真っ赤なルビーの指輪もある。
特に目を惹くのは繊細な銀細工が施されたティアラだ。
「海の中にあったはずなのに、劣化していないのが不思議すぎるわ……」
「劣化防止の魔術が施されていたのかもしれない」
「ああ、なるほど。お金持ちの帝国ならありそう」
何にせよ、これらのおかげで今回の稼ぎは金貨十枚以上は確実だろう。
二泊三日で百万円の儲けなら、銅級としては上々だ。
「良し、これで今回のノルマは達成ね。あとは程々に楽しみましょう!」
久々の海キャンプ。
少し早めのバカンスを楽しむ気満々の二人は、十階層に転移する。
ウユニ塩湖に良く似た絶景が広がる、美しい階層で今夜はテント泊する予定だった。
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