異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽

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〈冒険者編〉

240. オークカツは勝利の味 2

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 宝箱には戦利品が所狭しと詰め込まれていた。まず目に付いたのは、小さなガラスの瓶に入った宝石だ。
 ルビー、サファイア、エメラルドにアメジスト、ダイヤモンドまである。
 どれも裸石のままなので加工は必要だが、全部で二十粒ほどあった。

「わぁ……! すごく綺麗」

 見惚れるナギの背後から覗き見たキャスが目を輝かせた。同じくナギの背後から覗き込んでいたミーシャも笑顔だ。

「大きなサイズの物が多いから、これは買取額が期待できるわね」
「そうですね。アクセサリーに加工された物はデザインの良し悪しで買取額も変動しますから。未加工な宝石の方が喜ばれることがあります」
「知らなかった……」

 てっきり裸石よりもアクセサリーの方が高く買い取って貰えるのだと思い込んでいた。
 
「古臭いデザインの物はあまり好まれないからねー? 結局、石を取り外して台座は潰してリメイクの二度手間になる可能性もあるし」
「そうなんだ……」
「まぁ、一概に全てのアクセサリーがそうとは限らないから。素晴らしいデザインの物は買取額もかなり上がるわよ?」

 苦笑混じりにキャスが説明してくれたが、流行りのデザインなどさっぱり分からないので、ナギは曖昧に笑うだけに留めておいた。
 前世でも、宝石はあまり興味がなかったので、メジャーな種類しか知らない。
 幸い、今生のナギには【鑑定】スキルがある。女子力はスキルでカバーしようと、そっと心の内で呟いた。
 宝石はキャスに渡し、宝箱の中身に集中することにした。

「宝石の他は……ずっしりと重い皮の巾着袋。これは当たりの匂いがします」

 中身はなんと、金貨百枚。日本円に換算すると、約一千万円になる。
 八人で山分けすることになるが、かなり美味しい臨時収入だ。
 前回と同じく、希少な香辛料の詰め合わせセットな木箱も宝箱の奥から発見した。とても嬉しい。
 他にもバングル型の収納の魔道具とハイポーションが十本、魔道武器のショートソードが見つかった。

「魔剣か。効果は分かるか?」

 槍使いのルトガーが、ショートソードに興味を示している。
 ミーシャがショートソードを手に取り、鑑定した。

「珍しいですね。氷の魔剣のようです」
「氷の魔剣……もしかして、私たちが複合魔法で倒したからですか?」

 氷と風の魔法を使い、ハリケーンを発生してオークキングを倒したのだ。
 ドロップアイテムは稀に魔物や魔獣の息の根を止めた攻撃や魔法の影響を受けることがある、と聞いたことがあった。

「さぁ、どうかしら」
「氷の魔剣とは、強力な武器になりそうだな!」

 喜ぶルトガーに、ミーシャは優雅な所作で首を傾げた。

「強力な武器というより、便利な道具でしょうね。鑑定によると、触れた物質を冷やすことが出来る、とあるわ」
「触れた物質を冷やす魔剣……?」

 てっきり、切り付けた相手を凍らせることが可能なのかと思ったが。
 ミーシャは無情にも「いいえ」と首を振った。

「物質を凍らせるほどの力はないわ。せいぜい飲み物を冷やす程度の力ね」
「…………マジか…」

 がくり、と肩を落とすリーダーをキャスが慰めている。
 
「武器としては微妙だけど、飲み物を冷やせるなんて便利だと思うけどなー?」

 ナギが首を捻ると、ラヴィルもこくこくと頷いた。

「私も便利だと思うわ。だって、このショートソードがあれば、エールを冷やして飲めるんでしょう?」
「エールやジュースも冷やし放題ですよ。飲み物だけでなく、食品も冷やせるみたいだから、プリンやゼリーを作る時にも重宝しそうです!」
「素晴らしい魔道具じゃない」

 とは言え、ナギもラヴィルも本気で欲しがってはいない。
 二人とも相方が氷属性の魔法を使えるので、冷やす魔道具が絶対に欲しい、というわけでもなかったので。
 飲み物を冷やすくらいなら、ナギの【生活魔法】でも事足りるのだ。

「エールを冷やして飲めるのか……」

 ルトガーがごくりと喉を鳴らす。
 武器としての使用は諦めたようで、新たな可能性に希望を見出しているのか。
 冷たいエールは、翌日が休みの夜に限り、エドが皆に提供してあげているので、その美味しさは既に知られている。
 肉料理にピッタリの冷たいエール。ジョッキごと冷やして貰ったそれを一息に煽る爽快さは、何事にも変え難い。
 ルトガーを筆頭に黒クマ夫婦もうっとりとしていたが、金庫番のキャスが待ったを掛けた。

「ダメよ。冷たいエールを楽しむだけの魔剣なんて。ここは高い価値を示して、ギルドに売りつけるのが得策でしょう」
「そんな殺生な……」
「皆で山分けするにも、換金した方が楽でしょ?」
「そりゃそうだけどよー……」

 とほほ、と肩を落とす大男を、黒クマ夫婦がそっと慰めている。
 どうやら、キャスには皆逆らえないようだ。

「えっと……じゃあ、宝箱の中身を見ますね。最後はコレ! てのひらサイズの長方形の積み木……?」

 お宝には到底見えないそれを戸惑いながら拾い上げると、ミーシャが息を呑むのが分かった。

「……ミーシャさん?」
「ナギ、それも魔道具ですよ。とても便利なレアドロップアイテムだと思います」
「積み木じゃないんだ。えっと、じゃあ【鑑定】……」

 スキルを発動し、注視する。
 創造神の慈悲、という説明文付きの魔道具は、何と『シェルターボックス』だった。

「シェルターボックス。魔力を流して地面に設置すると、結界付きの簡易宿泊所を展開できる──って、凄いですね⁉︎」
「収納スキルがなくても、ナギのように『家』を持ち歩くことが出来るようになるのか?」

 エドの疑問ももっともだ。
 ここは、試してみるに限る。

「2メートル四方の広さがあれば設置できるみたいだし、見てみましょう!」
「そうですね。私も興味があります」
「私も見たいわ。何人用なのかしらね?」

 師匠二人も興味津々で身を乗り出してくるので、ナギは慌てて手の中の積み木もどきの魔道具に魔力を流した。
 淡く光りだしたソレを地面に置いて、念のため距離を置く。
 すると、てのひらサイズだった木材が大きくなった。

「……木の扉?」
「随分小さな『家』ね」

 大きくなったとは言え、電話ボックスサイズだ。積み木状態の時にはなかった木製の扉が付いていたので、とりあえず中を確認することにした。
 ドアノブを引くと、中は空間が拡張されていたようで、十メートル四方はある。

「思ったよりも広いですね。隅に小部屋がある……?」

 先に足を踏み入れたエドが確認してくれた小部屋はどうやらトイレだったようだ。

「トイレ付きで、魔力を流した人が認めた相手しか入ることが出来ないシェルター、魔物避けの結界付き。めちゃくちゃ良いドロップアイテムですよ!」

 これだけの広さがあれば、中にテントを設置することも出来るのだ。
 セーフティエリアは魔獣や魔物は排除できるが、人は拒むことが出来ない。
 なので、最低でも誰か一人は見張り番が必要なのだ。悲しいことに、同じ冒険者を警戒するために。
 それが、このシェルターボックスがあれば見張りも必要なくなる。
 何より、トイレ付きなのがありがたい。

「しかも、最新式の魔道トイレだわ!」
「この小窓から外の様子も眺められるわね」
「防音仕様だから、ゆっくり休めそうですね」

 女性陣は大喜びだ。
 やはり、清潔なトイレは必須なのである。たとえ、そこがダンジョンであろうとも。

「トイレ休憩にも使えるから、これは売らずに使いませんか?」
「「「「「賛成」」」」」

 女性陣は全員一致で賛成に回った。
 その勢いに圧倒されていた男子三名も慌てて首肯する。
 ひととおり中を確認したので、シェルターボックスを後にした。
 元の積み木サイズの状態に戻すと、ナギはそれをミーシャに預けた。
 
「お腹が空いたので、とりあえず食事にしませんか?」
「そうね。フロアボスのオークキングを倒したから、しばらくはセーフティエリアだし。夕食にしましょ!」

 ナギの提案に、真っ先にラヴィルが頷いてくれた。皆、お腹がぺこぺこなのだ。
 何せ、オークの集落を潰し、オークキングも殲滅したので。
 宝箱の他にもオークキングは肉を落としてくれている。各種様々な部位の肉が合計で百キロはあった。
 オーク肉を使って作るメニューは決まっている。

「では、お待ちかねのオークカツを作りますね!」

 今日一番の歓声がフロア中に響いた。
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