異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽

文字の大きさ
175 / 312
〈冒険者編〉

241. オークカツは勝利の味 3

しおりを挟む

 そこからは戦場だった。
 ナギはエドを助手に、ただひたすらオークカツを揚げた。
 使える者は師匠でも、と。
 土鍋でご飯を炊いてもらい、キャベツの千切りを山盛り用意してもらった。
 スープは作り置きの味噌汁。文句は言わせない。
 シンプルにキャベツの千切りに揚げ立てのオークカツをどん、と載せて提供する。
 ご飯のおかわりはセルフ方式にして、後はひたすらカツを揚げた。

 揚げ物は揚げ立てが一番。
 なので、エドと二人がかりで大量にオークカツを作ってはテーブルに運んでもらい、それぞれ好きなように食べてもらった。
 健啖家揃いの冒険者はさすがで、皆ぺろりと分厚いオークカツを平らげていく。
 次々と皿が空く様子を感心しながら眺めて、ナギはあらためて思った。

(本当に美味しい食べ物と出会った時、男の人は無言でひたすら食べる人が多い気がする)

 その点、女性陣は「美味しい!」と感情表現を露わにする人が多いように思う。
 この味を、この楽しさ、幸福感を皆と共感したいという気持ちが大きいのだろう。
 カツを揚げながら、そっと確認したところ、キャスはオークカツを口にした途端、目を潤ませながら隣に座るゾフィの背をバンバンと叩いていた。

「んんー! んんんっ⁉︎   んっ、お、美味しいわ! 何これ何これぇ?」

 ゾフィはカッ! と目を見開き「うまい」と一声叫んでから、物凄い勢いでカツを頬張っている。
 師匠二人には以前に何度か、オークカツを提供したことがあるので、他の皆よりは余裕があるはずだが──

「もぐもぐ……オークカツ、相変わらず美味しいわねもぐ」
「ええ、さすがはナギです。大量に食べれば飽きがくるオーク肉をこれほど素晴らしい料理に昇華させるとは。いくらでもおかわりができますもぐもぐ……おかわりをお願いします」

 余裕があるはずの師匠二人は楽しそうな会話を交わしつつ、ぺろりとオークカツを平らげていた。
 土鍋四つ分の白飯も既に食べ尽くされている。

「わぁぁ……二人がかりで揚げる早さよりも食べ尽くされるスピードの方が早いってどういうこと?」
「ナギ、言っただろう。戦場になると。俺たちが勝利するか、奴らが勝鬨を上げるかの真剣勝負だ」
「いやいや、これそんなのだった? 単なる夕食会では?」

 エドの目が真剣だ。
 真剣なのは悪くないが、妙な対抗心を持たないで欲しい。

「手が止まっているぞ、ナギ。アイツらのおかわりに全て応えて、さらに明日のカツサンド用の具材も揚げることが出来れば、俺たちの勝ちだ」
「そんな勝利条件がいつの間に」
「ナギ、おかわりを頼む!」
「こっちにも。あと五枚は食える」
「嘘でしょ……わんこ蕎麦じゃないんだけど⁉︎」

 呆然としている間にも、次々とおかわりコールが振ってくる。
 オークカツですよ? 厚さ三センチで足の裏サイズの大きな肉を使った揚げ物ですよ?
 困惑しながらも、ナギは慣れた手付きでオーク肉をバッター液にくぐらせて、パン粉をまぶして油に放り込んでいく。
 パチパチと油が弾ける心地良い音が響く中、テーブルについた大食漢たちは味噌汁をすすりながら、うっとりとため息を吐いていた。

「話には聞いていたが、本当に旨いな。いくらでも食える」
「このキャベツと一緒に食うと、さらに食がすすむ気がする」
「分かる。あと、米。もっちりした米とオークカツはお互いを高め合っていると思う。交互に食べるのが最高に美味しい」
「まさに天上の味ね……」
「なるほど、これが勝利の味」

(うん、『黒銀くろがね』のメンバーたちは全員オークカツの虜になっちゃったわね……)

 自分たち用の夕食分をそっと【無限収納EX】に確保すると、ナギは再び無心でオークカツを揚げる行為に没頭した。


◆◇◆


 結論から言えば、オークカツを巡る戦いには無事勝利を収めました。
 何せ、オークの集落ごとフロアボスを仕留めたので、ドロップした肉は大量にあったので。
 ただでさえ揚げ物は胃に溜まるもの。
 さしもの大食漢たちも途中で根を上げたので、ナギたちはゆっくりと自分たちの夕食を堪能することが出来た。
 ついでに作り置き用のオークカツをかなりの数を仕込むことができたので満足だ。
 さすがに翌朝はサッパリした物が食べたいと所望されたので、中華粥風の朝食にしてみたが。
 鶏ガラから作ったスープにごま油を混ぜたので、風味がとても良い。
 具材はコッコ鳥の胸肉を少々、三つ葉に似たハーブを添えて。

「あったかくて、お腹にしみるわー……」

 ほうっとため息を吐くラヴィル。ミーシャも瞳を細めながら、上品に粥を口元に運んでいる。
 どうやら気に入ってくれたようだ。

「消化に良さそうな、優しい味がします」
「昨夜は皆さん食べ過ぎていましたからね。せめて朝食は胃に優しいメニューにしてみました」

 食後のハーブティーを皆に提供しながら、ナギはにこりと微笑んだ。
 良い年をした大人たちは、さすがにばつが悪いようで、そっと視線を逸らしながら反省していた。
 ハーブティーはエルフのミーシャ仕込みの胃腸を整える効用があるものを出してある。
 気付いたルトガーが代表して頭を下げてきた。

「あれほど食べ過ぎる可能性を注意してくれていたのに、抑制できなかったのは申し訳ない。反省している」
「ごめんなさい」
「すまん」
「悪かったと思っている」

 しゅん、と大きな体を縮こめて反省する姿を目にすると、こちらも申し訳ない気分になってしまうのは不思議だ。

「いいですよ。エドも言っていましたが、オークカツは初めて口にすると、中毒性がすごいみたいだし……仕方ないかなぁと」

 もっともらしく頷いているエドだって、初めて食べた時の反応は凄まじかったのだから。

「でも、初めて食べたわけでもないミーシャさん達も夢中で食べていたような……」

 ふと気付いた疑問を口にすると、心外そうに首を振られた。 

「仕方ないじゃない。だって、オークカツはとっても美味しいんだもの!」
「ラヴィの言う通りです。それに、あらためて気付きましたが、この食材ダンジョン内でドロップする肉は特別に美味しい気がします」
「ここのお肉が?」
「あ、それは私も思ったわ。よくあるオーク肉がハイオークランクの味だった」
「このダンジョンは大森林の濃い魔素に晒される場所にありますからね。その分、魔物や魔獣が高品質になっている可能性はあります」
「おお……!」

 それは良いことを聞いた。
 魔素は濃ければ濃いほどに、食材は美味しく変化すると言う。
 珍しい調味料や香辛料、お酒に甘味の他にも、美味しいお肉が手に入ると知れたら、このダンジョンに人がたくさん集まるようになるかもしれない。

(冒険者がたくさん集まれば、その分ドロップアイテムの香辛料が手に入りやすくなる……!)

 冒険者なので、ダンジョンに挑むことに否やはないが、いかんせん拠点から遠すぎるのだ。
 いっそ、大森林の側に転居するのもありかもしれないけれど。

(でも、せっかく良い土地を手に入れたし、たくさん友人が出来た街を離れたくない)

 エドと二人で稼いだお金で買った土地なのだ。
 緑豊かな森が目の前にあり、海ダンジョンや肉ダンジョンからも近い、とても良い拠点を手放すのは悔しい。

「だから、この食材ダンジョンが有用で、周辺を開拓しても元が取れると冒険者ギルドに認めてもらうために、今回の任務を頑張らないとね」
「そうだな」

 エドも同意してくれた。
 やる気に満ちた表情でナギは皆を見渡していく。

「次はハイオークが巣食う三十一階層。そこをクリアすると、大本命の三十二階層になります」

 こくり、と誰かの喉が鳴る音がした。
 そう、大本命。前回は、まだそこのフロアまでしか拡張されていなかった。
 一カ月以上経った今、どこまでダンジョンが深く広がったかは分からないが。

「ハイオーク肉も素晴らしいですが、やはり本命はブラッドブル肉です」
「ブラッドブルか……」

 巨大な牛系の魔獣はボアと同じく厄介だ。
 スピードもパワーもあり、マトモに対峙しようとすれば跳ね飛ばされてしまう。
 だが、大変だからこそ、そのドロップアイテムが手に入った時の喜びは計り知れない。

「では、行きましょう! 下層へ!」

 美味しいお肉が待っている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

継子いじめで糾弾されたけれど、義娘本人は離婚したら私についてくると言っています〜出戻り夫人の商売繁盛記〜

野生のイエネコ
恋愛
後妻として男爵家に嫁いだヴィオラは、継子いじめで糾弾され離婚を申し立てられた。 しかし当の義娘であるシャーロットは、親としてどうしようもない父よりも必要な教育を与えたヴィオラの味方。 義娘を連れて実家の商会に出戻ったヴィオラは、貴族での生活を通じて身につけた知恵で新しい服の開発をし、美形の義娘と息子は服飾モデルとして王都に流行の大旋風を引き起こす。 度々襲来してくる元夫の、借金の申込みやヨリを戻そうなどの言葉を躱しながら、事業に成功していくヴィオラ。 そんな中、伯爵家嫡男が、継子いじめの疑惑でヴィオラに近づいてきて? ※小説家になろうで「離婚したので幸せになります!〜出戻り夫人の商売繁盛記〜」として掲載しています。

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。