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〈冒険者編〉
241. オークカツは勝利の味 3
しおりを挟むそこからは戦場だった。
ナギはエドを助手に、ただひたすらオークカツを揚げた。
使える者は師匠でも、と。
土鍋でご飯を炊いてもらい、キャベツの千切りを山盛り用意してもらった。
スープは作り置きの味噌汁。文句は言わせない。
シンプルにキャベツの千切りに揚げ立てのオークカツをどん、と載せて提供する。
ご飯のおかわりはセルフ方式にして、後はひたすらカツを揚げた。
揚げ物は揚げ立てが一番。
なので、エドと二人がかりで大量にオークカツを作ってはテーブルに運んでもらい、それぞれ好きなように食べてもらった。
健啖家揃いの冒険者はさすがで、皆ぺろりと分厚いオークカツを平らげていく。
次々と皿が空く様子を感心しながら眺めて、ナギはあらためて思った。
(本当に美味しい食べ物と出会った時、男の人は無言でひたすら食べる人が多い気がする)
その点、女性陣は「美味しい!」と感情表現を露わにする人が多いように思う。
この味を、この楽しさ、幸福感を皆と共感したいという気持ちが大きいのだろう。
カツを揚げながら、そっと確認したところ、キャスはオークカツを口にした途端、目を潤ませながら隣に座るゾフィの背をバンバンと叩いていた。
「んんー! んんんっ⁉︎ んっ、お、美味しいわ! 何これ何これぇ?」
ゾフィはカッ! と目を見開き「うまい」と一声叫んでから、物凄い勢いでカツを頬張っている。
師匠二人には以前に何度か、オークカツを提供したことがあるので、他の皆よりは余裕があるはずだが──
「もぐもぐ……オークカツ、相変わらず美味しいわねもぐ」
「ええ、さすがはナギです。大量に食べれば飽きがくるオーク肉をこれほど素晴らしい料理に昇華させるとは。いくらでもおかわりができますもぐもぐ……おかわりをお願いします」
余裕があるはずの師匠二人は楽しそうな会話を交わしつつ、ぺろりとオークカツを平らげていた。
土鍋四つ分の白飯も既に食べ尽くされている。
「わぁぁ……二人がかりで揚げる早さよりも食べ尽くされるスピードの方が早いってどういうこと?」
「ナギ、言っただろう。戦場になると。俺たちが勝利するか、奴らが勝鬨を上げるかの真剣勝負だ」
「いやいや、これそんなのだった? 単なる夕食会では?」
エドの目が真剣だ。
真剣なのは悪くないが、妙な対抗心を持たないで欲しい。
「手が止まっているぞ、ナギ。アイツらのおかわりに全て応えて、さらに明日のカツサンド用の具材も揚げることが出来れば、俺たちの勝ちだ」
「そんな勝利条件がいつの間に」
「ナギ、おかわりを頼む!」
「こっちにも。あと五枚は食える」
「嘘でしょ……わんこ蕎麦じゃないんだけど⁉︎」
呆然としている間にも、次々とおかわりコールが振ってくる。
オークカツですよ? 厚さ三センチで足の裏サイズの大きな肉を使った揚げ物ですよ?
困惑しながらも、ナギは慣れた手付きでオーク肉をバッター液にくぐらせて、パン粉をまぶして油に放り込んでいく。
パチパチと油が弾ける心地良い音が響く中、テーブルについた大食漢たちは味噌汁をすすりながら、うっとりとため息を吐いていた。
「話には聞いていたが、本当に旨いな。いくらでも食える」
「このキャベツと一緒に食うと、さらに食がすすむ気がする」
「分かる。あと、米。もっちりした米とオークカツはお互いを高め合っていると思う。交互に食べるのが最高に美味しい」
「まさに天上の味ね……」
「なるほど、これが勝利の味」
(うん、『黒銀』のメンバーたちは全員オークカツの虜になっちゃったわね……)
自分たち用の夕食分をそっと【無限収納EX】に確保すると、ナギは再び無心でオークカツを揚げる行為に没頭した。
◆◇◆
結論から言えば、オークカツを巡る戦いには無事勝利を収めました。
何せ、オークの集落ごとフロアボスを仕留めたので、ドロップした肉は大量にあったので。
ただでさえ揚げ物は胃に溜まるもの。
さしもの大食漢たちも途中で根を上げたので、ナギたちはゆっくりと自分たちの夕食を堪能することが出来た。
ついでに作り置き用のオークカツをかなりの数を仕込むことができたので満足だ。
さすがに翌朝はサッパリした物が食べたいと所望されたので、中華粥風の朝食にしてみたが。
鶏ガラから作ったスープにごま油を混ぜたので、風味がとても良い。
具材はコッコ鳥の胸肉を少々、三つ葉に似たハーブを添えて。
「あったかくて、お腹にしみるわー……」
ほうっとため息を吐くラヴィル。ミーシャも瞳を細めながら、上品に粥を口元に運んでいる。
どうやら気に入ってくれたようだ。
「消化に良さそうな、優しい味がします」
「昨夜は皆さん食べ過ぎていましたからね。せめて朝食は胃に優しいメニューにしてみました」
食後のハーブティーを皆に提供しながら、ナギはにこりと微笑んだ。
良い年をした大人たちは、さすがにばつが悪いようで、そっと視線を逸らしながら反省していた。
ハーブティーはエルフのミーシャ仕込みの胃腸を整える効用があるものを出してある。
気付いたルトガーが代表して頭を下げてきた。
「あれほど食べ過ぎる可能性を注意してくれていたのに、抑制できなかったのは申し訳ない。反省している」
「ごめんなさい」
「すまん」
「悪かったと思っている」
しゅん、と大きな体を縮こめて反省する姿を目にすると、こちらも申し訳ない気分になってしまうのは不思議だ。
「いいですよ。エドも言っていましたが、オークカツは初めて口にすると、中毒性がすごいみたいだし……仕方ないかなぁと」
もっともらしく頷いているエドだって、初めて食べた時の反応は凄まじかったのだから。
「でも、初めて食べたわけでもないミーシャさん達も夢中で食べていたような……」
ふと気付いた疑問を口にすると、心外そうに首を振られた。
「仕方ないじゃない。だって、オークカツはとっても美味しいんだもの!」
「ラヴィの言う通りです。それに、あらためて気付きましたが、この食材ダンジョン内でドロップする肉は特別に美味しい気がします」
「ここのお肉が?」
「あ、それは私も思ったわ。よくあるオーク肉がハイオークランクの味だった」
「このダンジョンは大森林の濃い魔素に晒される場所にありますからね。その分、魔物や魔獣が高品質になっている可能性はあります」
「おお……!」
それは良いことを聞いた。
魔素は濃ければ濃いほどに、食材は美味しく変化すると言う。
珍しい調味料や香辛料、お酒に甘味の他にも、美味しいお肉が手に入ると知れたら、このダンジョンに人がたくさん集まるようになるかもしれない。
(冒険者がたくさん集まれば、その分ドロップアイテムの香辛料が手に入りやすくなる……!)
冒険者なので、ダンジョンに挑むことに否やはないが、いかんせん拠点から遠すぎるのだ。
いっそ、大森林の側に転居するのもありかもしれないけれど。
(でも、せっかく良い土地を手に入れたし、たくさん友人が出来た街を離れたくない)
エドと二人で稼いだお金で買った土地なのだ。
緑豊かな森が目の前にあり、海ダンジョンや肉ダンジョンからも近い、とても良い拠点を手放すのは悔しい。
「だから、この食材ダンジョンが有用で、周辺を開拓しても元が取れると冒険者ギルドに認めてもらうために、今回の任務を頑張らないとね」
「そうだな」
エドも同意してくれた。
やる気に満ちた表情でナギは皆を見渡していく。
「次はハイオークが巣食う三十一階層。そこをクリアすると、大本命の三十二階層になります」
こくり、と誰かの喉が鳴る音がした。
そう、大本命。前回は、まだそこのフロアまでしか拡張されていなかった。
一カ月以上経った今、どこまでダンジョンが深く広がったかは分からないが。
「ハイオーク肉も素晴らしいですが、やはり本命はブラッドブル肉です」
「ブラッドブルか……」
巨大な牛系の魔獣はボアと同じく厄介だ。
スピードもパワーもあり、マトモに対峙しようとすれば跳ね飛ばされてしまう。
だが、大変だからこそ、そのドロップアイテムが手に入った時の喜びは計り知れない。
「では、行きましょう! 下層へ!」
美味しいお肉が待っている。
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