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〈冒険者編〉
300. ストロベリードリーム 2
しおりを挟む大きく育った野菜や果実は、大味になると聞いたことがある。
水分をたっぷり含んだ分、ぼやけたような薄い味わいになることが多いのだとか。
なので、ナギとエドもあまり期待はしていなかったのだ。
ジャイアントロップイヤーの植物魔法で大きく育った真っ赤ないちご。
りんごサイズのそれは、見た目はとても美しい。顔を寄せると、普通サイズのいちごと同じく、甘酸っぱい香りがする。
「おいしそう……には見えるのよね」
「だな。ためしに食ってみよう」
「エドは思い切りが良すぎ。まぁ、気になるから味見はするけど」
ちゃんと鑑定は済ませてある。
特に中身が変質したようでもなく、ちゃんと本物の『いちご』だった。
詳しく鑑定してみると、やはりジャイアントロップイヤーの植物魔法で巨大化したようだ。
「ジャイアントなうさぎさんだから、エサとなる植物を巨大化する特別な魔法を得意とするみたい」
「納得だな。シロクマなみにデカいうさぎに、小さないちごは物足りない」
「切実な状況で覚えた魔法なのね……」
少しだけ同情してしまう。
だが、それ以上に羨ましい。だって、植物を大きく育てることができるのだ。
いちごはもちろん、高価で希少な果実を巨大化して楽しみたいではないか。
「ナギなら、何を巨大化したい?」
ふと、エドがそんなことを聞いてきた。
顔を上げると、面白そうにこちらを見詰めてきている。
珍しいな、とは思ったが、素直に思案する。あらゆる植物に適用される魔法なら、やはりアレだろう。
「そうね、カカオの実かな?」
「カカオの実。チョコレートの原料か。その発想はなかった」
「だって、ダンジョンでしか手に入らないじゃない? 『外』での栽培も難しいカカオは、とっても貴重だもの」
あまり出回らないため、必然的に高価になる。栄養価が高く、苦味は強いが、砂糖と共に加工すれば美味なカカオは、王国では薬として王族や貴族に愛用されていたようだ。
希少なだけあり、美味しく加工する方法はあまり知られておらず、辺境伯邸でも微妙な味付けのチョコレートしか手に入らなかった。
(まぁ、あれは後で私が美味しくいただいたけどね!)
たっぷりのお砂糖とミルクで加工したチョコレートはとても美味しかった。
「エイダン商会ならカカオも手に入れてくれそうだけど、お高いんだろうなー……」
この国には王族や貴族はいないが、購入するのは富裕層くらいだろう。
しかも、ごく一部のご婦人方がカカオととある薬草をブレンドしたフレーバーチョコを媚薬として愛用しているとミーシャから聞いたことがある。
媚薬というか、惚れ薬のような効用を期待して加工されているらしい。
前世でも、媚薬扱いされていた歴史はあるようなのでチョコレートは罪深い。
(それだけ美味しいのよね、魅惑のショコラ)
「まぁ、私たちには植物魔法は使えないし、夢の話よね。それよりも、いちごよ!」
「ん、そうだな。いちごの話だ」
採取した巨大化いちごは一粒だけではない。
ジャイアントロップイヤーは子株で繋がったいちごの親株ごとまるっと植物魔法をかけたようで、六十粒は収穫できてしまった。
「丸一日、いちご狩りに耽ろうと思っていたけど、あっという間にたくさん手に入っちゃったわね」
「ん、あとは肝心の味の話になる」
「それね。とりあえず、味見しましょう」
りんごサイズのいちごにそのまま齧りつくと、果汁ですごいことになりそうだ。
なので、果物ナイフで二つに割ってから半分ずつ食べることにした。
「とりあえず、一口はそのままで。酸味がきつかったら、ホイップクリームを添えて食べましょう」
残念ながら、練乳は用意していなかったので、作り置きのホイップクリームで代用する。
「うん、香りはまさにいちご! いただきまーす」
フォークに突き刺したいちごの先端を、はぷり。いちばん甘い箇所を狙って食べてみる。口の中に甘酸っぱい果汁が広がった。
「ん! あっまーい!」
「美味いな。普通のいちごと変わらない味だ」
「大きくなっても、同じ味なのね。植物魔法、最高じゃない!」
薄くぼやけた味どころか、瑞々しくて濃厚ないちごの風味にうっとりしてしまう。
「これは素晴らしいもの……やだ、とまらない……」
もぐもぐと気が付けば、お腹いっぱい食べてしまっていた。なんと罪深い。
「ジャイアントロップイヤーを見つけて、いちごに魔法を掛けさせたくなるな」
「なるわね。魔獣のテイムって、私でもできないかなぁ?」
捕まえたジャイアントロップイヤーに延々といちごを巨大化させるのだ。うん、うさぎは可愛いし、ありなのでは?
一瞬、本気で考えてしまったが。
「無理だな。ダンジョンで生まれた魔獣はテイムできないと言われている」
「そうなんだ……」
「それに、ナギにテイムスキルはなかっただろう?」
「……ありませんね」
転生特典取得の際に、なぜ私は【テイム】スキルを選ばなかったのだ。
(……うん、あの時は生き抜くのに必死だったから仕方ないか。ベストの選択をしたと思うし!)
だが、テイムのスキルがあれば、もふもふ天国を堪能できたかもしれないと思うと、少しだけもったいない。
胡乱げにこちらを見詰めてくるエドに気付いて、小さく咳払いする。
「まぁ、それなら仕方ないわよね。とりあえず、これだけたくさん採取できたから、拠点に戻って休みましょう」
せっかく手に入れたので、いちごを使ったスイーツを作りたい。
「いちごのケーキ……」
「もちろん、ショートケーキも作るわよ? 生クリームは頼んだわよ、エド」
「! 任せてくれ。クリームとパン作りには自信がある」
張り切るエドと二人で、セーフティエリアに戻ることにした。
◆◇◆
発奮したエドが頑張ってくれたおかげで、生クリームが大量に仕上がった。
溶けてしまわないよう、いったん【無限収納EX】に収納しておく。
ナギはスポンジケーキをひたすら焼いた。どうせなら、一度に大量に焼いた方が負担が少ない。
甘いお菓子が好物の、お留守番中の猫の妖精たちも欲しがることは分かっているので、たくさん焼くことにしたのだ。
粗熱をとってから、スライスしたいちごを挟み、生クリームでデコレートしていく。
飾りのいちごは、普通サイズのものを使う。さすがにりんごサイズのいちごでは映えない。というか、ケーキが負ける。
「ジャイアントいちごの方は、ジャムにして楽しむのもありよね。あとはゼリーやムース、いちごミルクも美味しそう」
「ナギ、アキラがフルーツサンドにして欲しいとうるさい」
「あー…アキラはそっちが好物だったわね。分かった。作っておくわ」
ちょうど生クリームがあるので、いちごサンドも余裕で作れる。
ホイップではなく、贅沢に生クリームサンドなのだ。じっくりと味わってもらおう。
「今日はケーキを焼いたから、パイやタルトはまた今度ね。……パフェなら、すぐ作れるかな?」
アイスクリームの在庫もまだあったはず。
久しぶりのお菓子作りが楽しすぎて、気が付けば大量にスイーツを仕上げてしまっていた。
「……やりすぎちゃった?」
「この場合のやりすぎは、俺は歓迎する」
「え、食べられそう?」
「余裕だ」
つい先ほど、あれほどお腹いっぱいにジャイアントいちごを食べたのだが、エドは涼しい表情で頷いている。
そこまで豪語するなら、食べてもらおう。
「では、待望のいちごケーキよ!」
じゃーんと取り出したのは、ホールのいちごケーキだ。たっぷりの生クリームでデコった、いちごのケーキは我ながら会心の出来栄えだと思う。
さすがにホールケーキのまま食べ尽くすのはどうかと思い、ショートケーキサイズにカットする。
「で、こっちがアキラご所望のいちごサンド。ふわふわの食パンに生クリームとたっぷりのいちごをサンドしました!」
サンドイッチに使ういちごは、ジャイアントいちごをカットして使った。生クリームもケチらずに、たっぷりサンドしてあるので、美味しいと思う。
「そして、これが私が食べたかったパフェ! かわいいでしょう?」
これでもかとデコレートした、いちごパフェ。バニラアイスしかなかったので、いちごジャムで味付けしてある。
グラスの底には砕いたクッキーを敷き詰めて、カットしたいちごと生クリームをたっぷりと詰めた夢のパフェだ。
「どれもすごいな……。師匠たちが目にしたら、毎日作らされそうだ」
「……それは勘弁してください」
あり得そうでこわい。
ともあれ、今はせっかくのいちごスイーツを心ゆくまで堪能することにした。
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