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〈冒険者編〉
310. 攻略特典 2
しおりを挟むハイペリオンダンジョンの初回攻略特典は、ダンジョンへの転移指輪と船の模型だった。
いつでも好きな時に食材ダンジョンに転移ができる指輪は正直、いちばん嬉しいお宝かもしれない。
「ゴーレム馬車を使って寄り道せずに駆けても、片道十日は掛かるもの。それが一瞬で転移できるなんて最高じゃない?」
大喜びではしゃぐナギを見ることができて、エドも嬉しかった。
無邪気に喜ぶ少女の代わりに【鑑定】スキルで指輪の内容を確認する。
転移の際には魔力消費もなく、魔石の交換も必要ないようで、ほっとした。
使用制限もないため、何度でも使うことは可能。指輪の持ち主が触れた相手も一緒に転移することもできるようだ。
(指輪の装着者以外も連れて行くことはできるのか。良いことを知れた)
今は留守番をしてくれているコテツもダンジョンに行きたがるかもしれないので、彼を連れて行けるのなら僥倖だ。
ともあれ、喜ばしいことに変わりはない。
「転移ができるなら、日帰りで食材を持ち帰れるな、ナギ」
「ね! スパイスが足りなくなっても、ぱっと獲りに行けちゃう」
「採る」ではなく、「獲る」なのは、基本的にスパイス類はドロップアイテムだからだ。
もちろんスパイス以外にも欲しい食材は山ほどある。
これまでは遠方のため、長期間の遠征で手に入れるしかなかったけれど、この転移の指輪があれば、気が向いた時にダンジョンに出向けるのだ。
「起点となる場所を記憶させておけば、瞬時にダンジョンまで転移できるし、元の場所にも戻れる。すごい魔道具だぞ、これは」
「家に帰るのも転移が使えるってことよね? それもすごーくありがたいわ」
気軽にダンジョンに出向いても、家に帰るまで十日掛かるとなったら、地味にしんどい。
「これは秘密の指輪だから、普段は隠しておこう」
「私の【無限収納EX】に預かっておくね」
「それがいい」
エドにもナギが作ってくれたマジックバッグはあるが、所有制限がないので、誰かに奪われてしまう可能性もある。
収納スキル内に預かってもらっているのがいちばん安心だ。
(そう、指輪はいい。問題は──……)
地面にぽつんと置かれている、船の模型。いや、船の魔道具だろう。
全長は五十センチほどで、どう見ても玩具だが、鑑定では「船の魔道具」とある。
ナギもあらためて、この見慣れない魔道具を鑑定して、低く唸っていた。
「魔力を込めると、十倍の大きさになる。動力源は魔石」
「動力ということは、前世にあった船のように風が無くても動くのか」
前世の記憶を引っ張り出したエドは、ちょっとだけワクワクしてきた。
だって、船なのだ。
ダンジョンの七十階層でも大型帆船に転移させられたけれど、船に触ること自体、初めてだった。
大きな海を滑るように駆ける、雄々しく優美な船に憧れない男子はあまりいないと思う。
あの海賊船よりは小さいが、それでも本物の船が手に入ったのだ。
しかも、魔石で動く魔道船である。
転移指輪が特典と知った時に比べて、ナギのテンションはあまり高くない。
だが、エドは彼女が喜ぶ魔法の言葉を知っている。
「ナギ。この船があったら、沖で漁を楽しめるぞ」
「はっ……」
エドの指摘に、ナギが顔色を変えた。
ダンジョン踏破に浮かれて、すっかり忘れていたようだが、そもそも七十階層の海賊船も【無限収納EX】で持ち帰ろうとしていたのだ。
ダンジョン都市の南、海で新鮮な魚を手に入れるために。
(……と言うか、多分、ダンジョンの意志でこの報酬が選ばれた気がする。七十階層のフィールドである海賊船をナギに奪われてしまわないように)
この魔道具の船をあげるから、あの海賊船は持っていかないでほしい。
ダンジョンからのそんな願いを何となく感じ取ったエドだった。
「ダンジョンほど大物が獲れるかどうかは分からないが、沖に出ればマグロやカツオはいると思う」
「そうね。あって悪い物じゃないし、ありがたく使わせてもらいましょう」
ほくほくと嬉しそうに船の魔道具をナギが抱えたところで、また景色が変わった。
「……今度こそ、本物のダンジョン入り口みたいね」
「ああ、そうみたいだ」
見慣れたハイペリオンダンジョンの入り口に二人は立っていた。
突如、現れた二人の姿を目にした護衛の冒険者たちが騒めく。
「おい、お前たち。今、転移してきたな?」
「あ、はい。急にここに飛ばされてしまって……」
戸惑いながらも、律儀に答えるナギ。
冒険者たちの視線はナギが抱える船の魔道具に釘付けだ。
「転移でダンジョンの外に飛ばされたってことは、お前ら攻略したのか、このハイペリオンダンジョンを!」
「マジか! こんな子供が⁉︎」
「いや、この二人はもともと食材ダンジョンの発見者だ。可能性は高い」
「じゃあ、その嬢ちゃんが抱えているのが、ダンジョン攻略特典のお宝か……?」
ごくり、と誰かが息を呑む気配を感じた。怯むナギをエドが素早く庇った。
周囲の男たちをきつく睨み据えて警戒していると、誰かが駆け付けてくる気配がした。
「落ち着け、エド。大丈夫だ」
その大きな身体で二人を庇ってくれたのは、ダンジョンの調査任務で同行してくれた冒険者パーティ『黒銀』の盾役、デクスターだ。
2メートル近くの長身の黒クマ獣人。寡黙だけど、誠実な大人の一人だ。
「ナギも心配しないでいい。私たちがいる」
「ゾフィさん」
不安そうに空色の瞳を揺らす少女を宥めるのは、デクスターの妻であるゾフィだ。
彼女も黒クマ獣人で、目を剥くような立派な大剣を背負っている。
「ズルいぞ、黒銀の。オレたちにもダンジョンの踏破情報を教えてもらいたい」
「そうだそうだ!」
エドたちをぐるりと囲って、少しでもダンジョン攻略に有利な話を聞き出そうとしているようだった。
これは厄介だ。軽く舌打ちするエドの腕に不安そうな顔をしたナギがぎゅっとしがみついてくる。
エドはその細い肩を抱き寄せて、男たちを睨み付けた。
ナギに手を上げるつもりなら、容赦はしない。
「おい、お前ら大人げないぞ」
「まったくだ。情報はギルド経由で俺たちに回される。それを待てばいいだろう」
だが、敵ばかりではなかったようだ。
しつこく絡んでくるのは四人ほどの見かけない男たちで、他の冒険者たちや作業員たちは心配そうにこちらを見守ってくれている。
何より、黒クマ夫婦に守られている頼もしさが半端ない。
「そこまでだ!」
一触即発、といったところで、『黒銀』リーダーのルトガーの声が割って入ってきた。
「ここから先は冒険者ギルドの管轄だ。皆、ナギたちから離れるように」
ブーイングが飛び交ったが、駆け付けてきた冒険者ギルドの職員に睨まれて、男たちはすごすごと引っ込んだ。
「ありがとうございます、助かりました」
ナギは自分を抱えて、まだ警戒体制を解かないエドの腕の中で器用に頭を下げている。
「いや、君たちは悪くない。むしろ、こんな短期間でダンジョンを攻略した功労者だ。申し訳ないが、冒険者ギルドの職員として、話を聞かせてもらっても?」
さすがに、これは断れない。
二人は渋々と頷いた。
◆◆◆
いつも拍手をありがとうございます!
書籍化作業に入るので、しばらく更新が滞ると思います。
のんびりお付き合い頂けると幸いです。
◆◆◆
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