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〈掌編・番外編〉
19. 特別な日のイチゴのケーキ
しおりを挟む年越しのお祭りを楽しんだ二人と三匹は明け方近くまでダンジョン都市で飲み食いを楽しんだ。
途中ですっかり寝入ってしまった子猫たちは、ナギがこっそり【無限収納EX】スキルの小部屋に寝かせてきた。
「コテツくんは元気ね。眠くない?」
『眠いけど、起きてるニャッ! たのしい!』
「ふふ、それは良かった」
興奮しているのか、翡翠色の瞳がまん丸だ。エドの肩に乗って、賑やかな街中をきょろきょろと見渡している。
火魔法の花火を打ち上げてからは、新年だ。この国の人々は一年の初めの年にまとめて年を取ることになっている。
暦をきっちり数えている者が少ないため、誕生日があやふやなのだ。
なので、もう全員まとめて新年になると、ひとつ年を取るという形式になったらしい。
アバウトではあるが、年に一度の無礼講とばかりに存分に騒げるのは悪くないとナギは思う。
「今日は皆の誕生日なのよね。おめでとう、エド」
「ふ。なら、ナギも誕生日だな。おめでとう」
エドとお互いに「おめでとう」と「ありがとう」を言い合って、くすくす笑っていると。
『……とくべつな日?』
こてん、と首を傾げるキジトラ柄の猫。
そういえば、彼には自分たちが決めた『特別な日はケーキでお祝いする』ことを教えていた。
「うーん……まぁ、いいかな? そうよ、今日は特別な日。お家に帰ったら、ケーキを焼こうか」
『ケーキ!』
ぱっと顔を輝かせるコテツ。
甘いスイーツが大好きな猫の妖精はすっかりケーキの虜だった。
「いいのか、ナギ」
「まぁ、お正月だしね? そんなわけで、エドには生クリーム作りをお願いします」
いちばん面倒な作業をさりげなく押し付けられたが、当のエドはなぜか嬉しそう。
「心得た。クリーム作りは任せろ」
そんなわけで、お正月なのに急遽、ケーキ作りのお仕事が追加された。
◆◇◆
年末年始をだらだらと過ごすために、昨年の内に二人でせっせと料理を作り置きした。
前世で言うところの『お節料理』気分で頑張ったのだ。
いつも食事作りを頑張っているので、三が日くらいはのんびり過ごしたいよね、と二人で頷き合い、こつこつと作り上げた。
まずはメインの揚げ物料理。
唐揚げにカツ、コロッケ、フライに天ぷらを肉に魚、野菜を使って揚げまくった。
あとはロースト料理。
ボアにディア、コッコ鳥にオーク、ブラックブル。飽きないように、肉の種類を変えてオーブンをフル稼働させた。
スープ系も忘れてはいない。
コンソメをベースにしたポトフにオニオンスープ、ミネストローネ。
カレーにシチューももちろん用意した。
豚骨ならぬオーク骨スープはラーメンだけでなく、雑炊にも使える優れものだ。
主食は米にパン、麺料理が基本。
たまに粉物も食べたくなるだろうと、お好み焼きとたこ焼き、ガレットなども焼くだけの生地の状態で【無限収納EX】内に寝かせてある。
用意したのはメインの食事だけではない。
当然、おやつも準備した。
甘い焼き菓子だけでは飽きるかもしれないので、塩っぱいお菓子も作ってある。
ポテトチップスを揚げ物ついでに作って、味付け用のフレーバーを何種類か用意した。
シンプルな塩味、コンソメ風味、黒胡椒、バター醤油に青のりとなかなかバラエティに富んだフレーバーだ。
なぜか、お正月休みだと張り切った仔狼がクラフトコーラ作りに熱中したので、無限にポテチが食べられそうな気がする。
だけど、ケーキだけは作っていなかった。何となく正月のイメージになかったので。
直前のクリスマスにブッシュドノエルを作って食べたことも一因かもしれない。
「ブッシュドノエルはチョコレートケーキだし、ここはやはりイチゴのケーキよね?」
「ん、誕生日はイチゴケーキだと思う。生クリームたっぷりのやつ」
そんなわけで、正月早々のケーキ作りだ。
去年までは手に入れるのが難しかったイチゴだが、今年は違う。
食材ダンジョンで甘くて新鮮なイチゴが採取し放題なのだ。
『イチゴ採ってくる!』
ふんす、と鼻息荒く張り切っているのは猫の妖精たち三匹。
コテツだけでなく、チビたち二匹も行く気満々だ。
困ったナギがエドを横目で見ると、仕方なさそうにため息を吐かれた。
「……分かった。俺が連れて行く」
「よろしくね、エド」
転移の指輪が使えるのは、持ち主だけなので猫たちの引率は彼に任せた。
その間に、ナギはホールのスポンジケーキを焼くことにする。
「どうせなら、いくつか作り置きしておこうかしら」
二個も三個も、それほど手間に違いはないので、ケーキ型の数だけスポンジケーキを仕込むことにした。
さすがに三年間、何度も焼いたのでレシピは頭に入っている。
手際よく材料を混ぜ合わせ、魔道具のハンドミキサーで泡立てた。
薄力粉をざっくり混ぜ合わせて、スキルで抽出したバニラエッセンスを加える。
「あとは型に流し入れて、空気を抜いて。温めておいたオーブンで焼くだけ!」
三個目のスポンジケーキを焼き上げたところで、食材調達部隊がようやく帰還した。
キャッキャと楽しそうにはしゃぐ子猫二匹と、ぐったりと疲れた様子のエドとコテツがキッチンに入ってくる。
「ナギ、これ」
言葉少なに手渡されたのは、カゴいっぱいのイチゴだ。どれも綺麗なルビー色をしており瑞々しそう。
「ありがと。……疲れているけど、大丈夫?」
「ああ……イチゴの採取だけのはずが、張り切ったチビたちがジャイアントロップイヤーに喧嘩を売ってな……」
「あーそれは大変だったね……」
目に見えるようだ。
床に寝転がったままのコテツが恨めしそうにこちらを見上げてくる。
『すっっごく大変だったにゃ……』
「おつかれさま。美味しいケーキを出してあげるから、もうちょっと待ってね」
「すまない。すぐに生クリームを作ろう」
「いいの? 疲れているんでしょう?」
「肉体的にはむしろ体力が有り余っているんだ。ストレス発散させてくれ」
「あっはいお願いします……」
エドにとって、お菓子作りのお手伝いはストレス発散になっていたようだ。
(もしかして、パン作りも……?)
思い至って、ナギは遠い目になった。
生地を叩いて捏ねる作業はたしかにストレス発散にはちょうどいいかもしれない。
ともあれ、精神的にお疲れなエドに作ってもらった生クリームはとっても甘くて素晴らしい出来栄えだったことは確かだ。
◆◇◆
「お誕生日おめでとう、皆! 私も!」
「乾杯」
正月のおやつタイム。
生クリームをたっぷり塗り付けた、贅沢なイチゴケーキを皆で切り分けて堪能する。
子猫たちにはホットミルクを。
二人と一匹はクラフトコーラで乾杯だ。
食材ダンジョンの六十階層で採取したイチゴをこれでもかと飾り付けたショートケーキは絶品だった。
「ウミャイウミャイ!」
子猫たちの渾身の「おいしい」コールをいただけて、苦労も報われるというもの。
この最初の年の出来事が楽しすぎたおかげで、我が家では『お節料理』の代わりに、こってりご飯の作り置きと、なぜかイチゴのショートケーキが年末年始のお楽しみとしてお約束になったのは言うまでもない。
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