232 / 289
〈成人編〉
13. 指名依頼、完了しました
「素晴らしい成果でしたわ」
満面に笑みを浮かべたリリアーヌと握手を交わす。
ハイペリオンダンジョンの十階層までを護衛しつつ案内したナギたちは、無事に役目を終えることができた。
ダンジョンを後にして、ガーストの街までリリアーヌを送るまでが彼女たちの仕事だった。
「うふふ。本当に来て良かった! プリンのレシピも手に入ったし、ココナッツオイルやオリーブオイルに新種のベリーまで入手できると判明したのだもの」
ちなみに新種のベリーとは巨大化した、りんごサイズの『いちご』のことである。
ジャイアントロップイヤーという、かなり大きなウサギの魔獣がエサとなる植物を魔法で巨大化したものだ。
大きければ、味が薄く、水っぽくなりがちだが、六十階層のいちごは甘くて瑞々しい。
普通サイズのいちごもダンジョンでしか採取できない希少なベリーとされているので、ハイペリオンダンジョンの巨大化いちごは商人であるリリアーヌの目には宝石に見えたらしい。
「これは売れますわよ、ナギさん……! 価値を高めるために安売りはしません。もっとも六十階層まで採取に行ける冒険者はそういないとは思いますが……」
「だろうな。下層まで挑める実力のある冒険者なら、採取よりも狩る方が稼げる」
エドの意見ももっともだ。
以前よりはマジックバッグを持つ冒険者は増えたようだが、下層でわざわざ採取依頼を受ける者は少ない。
「……ナギさん」
潤んだ瞳で見つめられると、ナギは弱い。
危険な依頼なら躊躇するところだが、すでにダンジョンを攻略する実力のある自分たちにとって六十階層はいちご畑のようなものなのだ。
「定期的に採取して、商会に持ち込みます」
「ありがとうございます! 色を付けて買取りますわねっ!」
エイダン商会が運営するお洒落なカフェで、いちごスイーツが出回る日もそう遠くなさそうだった。
(いちごパフェやフルーツサンドもいいけれど、いっそ、いちごのショートケーキのレシピを解禁しちゃおうかしら……?)
見た目も愛らしく、美味しいケーキはきっとあっという間に人気商品となるだろう。
プロの手に掛かれば、ケーキの完成度も上がるはず。
素人の自分が作るよりも確実に美味しいケーキが食べられるようになるのだ。
(レシピの提供は、カフェの需要を見極めてからでもいいかな? 特別な日用のケーキが買えるようになったら、もっと気軽にお祝いができるよね)
寡黙でクールなキャラで通しているエドだが、ナギと同じく甘いお菓子は大好物だ。
思春期ゆえか、最近は大っぴらにスイーツを食べることを恥ずかしがるようになったけれど、相変わらず、いちごのショートケーキだけは『特別』だった。
「では、ナギさん、エドさん。今回の護衛任務ではお世話になりました」
サインした依頼書を差し出すリリアーヌ。
ちなみに同行していた『紅蓮』のパーティとはハイペリオンダンジョン前で別れている。
彼女たちの任務はダンジョン内の護衛まで。これから三人で本格的に食材ダンジョンに潜る予定とのこと。
狙いはドロップアイテム。マジックバッグを手に入れるため、長期戦でねばる予定らしい。
そのため、ナギとエドの二人でエイダン商会のガースト支店までリリアーヌを送り届けたのだ。
せっかくなので、【無限収納EX】に溜まっていたドロップアイテムをごっそり買い取ってもらった。
在庫の多い魔獣肉だけでなく、毛皮や爪、牙や内臓などの素材。
そして、サハギンの宝箱の中身で不要なものをテーブルいっぱいに並べると、商会の従業員に歓喜された。
「おお! なんと美しい、真珠でしょう! こちらは紅珊瑚? 鼈甲まであるなんて……」
「買い取っていただけます?」
「もちろんですとも!」
「良かった」
ナギはほっと胸を撫で下ろした。
魔石や魔獣の素材などは冒険者ギルドが適正金額で引き取ってくれるが、宝飾品は直接、商会に持ち込んだ方が利益が大きい。
だが、年若い冒険者は足元を見られて買い叩かれることも多いと聞いていたのだ。
(でも、ここなら安心だわ。リリアーヌさんが目を光らせてくれているもの)
ついでに、特殊個体の魔物を倒した際にドロップしたスパイス類が詰められていた木箱もいくつか買い取ってもらう。
単なる木箱ではない。これも魔道具のひとつで、見た目よりも容量が大きく、収納物の時間を停止できるのだ。
食材を保管するには最適なため、エイダン商会はドロップしたスパイスだけでなく、木箱も積極的に買い取っている。
「素材すべて、買い取らせていただきます。どれも状態が良く、素晴らしい品ばかりですので、このくらいでいかかでしょうか?」
エドと二人でそれぞれの買取代金が書かれた明細を覗き込む。
どれも冒険者ギルドより高値を付けてくれていて、ありがたい。
合計金額は、金貨十八枚。日本円にすると、百八十万円の儲けである。
「こんなに、いいんですか?」
「もちろんですとも! ぜひ、またの機会も我が商会にお持ちください」
「はい!」
笑顔で挨拶を交わして、エイダン商会を後にする。
「思ったよりも、稼げちゃったね?」
「そうだな。俺たちには不要だったから、かなり儲けた気分だ」
「ふふ。そうかも! せっかくだから、何かお土産に買って帰ろうか」
臨時収入は、ぱっと使い切ってしまうくらいでちょうどいい。
転移の魔道具でハイペリオンダンジョンに通い放題な二人にとっては、先ほど売り払ったアイテムは取り放題なので。
「お留守番中のネコちゃんたちが喜ぶようなものがあるといいな」
ガーストは獣人の街なので、様々な種族の獣人たちが使う品を手に入れやすいのだ。
「それと、エドの服を買おう! 最近、また背が伸びたよね?」
「自分では分かりにくいが、そういえばズボンの裾が短くなった気がする」
「うん、5センチは伸びているね。羨ましい……」
まだ成長期のはずだが、ナギの身長は百六十センチ弱といったところだ。
これでも十歳の頃と比べると、見違えるほどに育ったのだが、まだ小柄だった。
冒険者は体格の良いものが多いため、小さくて華奢なナギは悪目立ちしている。
(リザさんみたいなダイナマイトボディとまでは言わないから、せめてもう少しだけ身長が伸びてほしいな)
魔法使いのナギは燃費が悪い。
たくさん食べているのに、ちっとも太らないのだ。
女子的には嬉しいことだが、体が資本の冒険者としてはもう少し筋肉が欲しい。
傍らに立つエドをそっと見上げる。
整った容貌の横顔が、美しい。
目を見はるような美形というわけではないが、意志の強い琥珀色の眼差しやすっと通った鼻筋など、エドの顔立ちはとても好ましい。
また背が伸びた彼の目線はナギより二十センチは高い位置にある。
ずっと見上げていると、首が痛いくらいだ。恨めしそうに見上げていると思われたのか、気付いたエドが困ったように小さく笑うと「ん、」と片手を差し出してきた。
「え、あ……うん。ありがとう?」
繁華街なため、人通りが多い。
小柄なナギを気遣ってくれたのだろう。エドは優しくていい子なのだ。
(とはいえ、手を繋ぐのはちょっと恥ずかしいかな?)
ダンジョン内で転移をする際ならまだしも、街中は人目が気になる。
今は冒険者装備なため、デートとは思われないだろうが──
(デート⁉︎ いやいや、単なる買い物! 買い物だからっ)
慌てて思考をシャットアウトする。今はエドの服を買うことだけに集中しよう。
最近、彼の成長ぶりが顕著で、どうにも落ち着かないのだ。
出会った頃にはまだ丸みのあった頬がシャープになり、幼さが削ぎ落とされた少年は狼族の獣人や冒険者たちだけでなく、街の少女たちにも注目されている。
予想していた以上のイケメンに育ちつつある相棒にドギマギしているナギは、自分と手を繋いだエドを見て、舌打ちしている少年たちが多くいることに気付いていない。
エドはこれみよがしに可憐な少女の手を握り、その耳元に囁きかけた。
「──ナギ、そこの店で昼食にしよう。いい匂いがする」
「ふぇっ? あっ、うん! そうしよう! エドの鼻が嗅ぎ当てたなら、信用できるもの」
頬を赤らめて嬉しそうに笑うナギと、彼女を狙っていた男共を牽制したエドは笑顔でそのレストランに足を踏み入れた。
あなたにおすすめの小説
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
水魔法しか使えない私と婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた前世の知識をこれから使います
黒木 楓
恋愛
伯爵令嬢のリリカは、婚約者である侯爵令息ラルフに「水魔法しか使えないお前との婚約を破棄する」と言われてしまう。
異世界に転生したリリカは前世の知識があり、それにより普通とは違う水魔法が使える。
そのことは婚約前に話していたけど、ラルフは隠すよう命令していた。
「立場が下のお前が、俺よりも優秀であるわけがない。普通の水魔法だけ使っていろ」
そう言われ続けてきたけど、これから命令を聞く必要もない。
「婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた力をこれから使います」
飲んだ人を強くしたり回復する聖水を作ることができるけど、命令により家族以外は誰も知らない。
これは前世の知識がある私だけが出せる特殊な水で、婚約破棄された後は何も気にせず使えそうだ。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです
天宮有
恋愛
子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。
数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。
そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。
どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。
家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。