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〈成人編〉
13. 指名依頼、完了しました
しおりを挟む「素晴らしい成果でしたわ」
満面に笑みを浮かべたリリアーヌと握手を交わす。
ハイペリオンダンジョンの十階層までを護衛しつつ案内したナギたちは、無事に役目を終えることができた。
ダンジョンを後にして、ガーストの街までリリアーヌを送るまでが彼女たちの仕事だった。
「うふふ。本当に来て良かった! プリンのレシピも手に入ったし、ココナッツオイルやオリーブオイルに新種のベリーまで入手できると判明したのだもの」
ちなみに新種のベリーとは巨大化した、りんごサイズの『いちご』のことである。
ジャイアントロップイヤーという、かなり大きなウサギの魔獣がエサとなる植物を魔法で巨大化したものだ。
大きければ、味が薄く、水っぽくなりがちだが、六十階層のいちごは甘くて瑞々しい。
普通サイズのいちごもダンジョンでしか採取できない希少なベリーとされているので、ハイペリオンダンジョンの巨大化いちごは商人であるリリアーヌの目には宝石に見えたらしい。
「これは売れますわよ、ナギさん……! 価値を高めるために安売りはしません。もっとも六十階層まで採取に行ける冒険者はそういないとは思いますが……」
「だろうな。下層まで挑める実力のある冒険者なら、採取よりも狩る方が稼げる」
エドの意見ももっともだ。
以前よりはマジックバッグを持つ冒険者は増えたようだが、下層でわざわざ採取依頼を受ける者は少ない。
「……ナギさん」
潤んだ瞳で見つめられると、ナギは弱い。
危険な依頼なら躊躇するところだが、すでにダンジョンを攻略する実力のある自分たちにとって六十階層はいちご畑のようなものなのだ。
「定期的に採取して、商会に持ち込みます」
「ありがとうございます! 色を付けて買取りますわねっ!」
エイダン商会が運営するお洒落なカフェで、いちごスイーツが出回る日もそう遠くなさそうだった。
(いちごパフェやフルーツサンドもいいけれど、いっそ、いちごのショートケーキのレシピを解禁しちゃおうかしら……?)
見た目も愛らしく、美味しいケーキはきっとあっという間に人気商品となるだろう。
プロの手に掛かれば、ケーキの完成度も上がるはず。
素人の自分が作るよりも確実に美味しいケーキが食べられるようになるのだ。
(レシピの提供は、カフェの需要を見極めてからでもいいかな? 特別な日用のケーキが買えるようになったら、もっと気軽にお祝いができるよね)
寡黙でクールなキャラで通しているエドだが、ナギと同じく甘いお菓子は大好物だ。
思春期ゆえか、最近は大っぴらにスイーツを食べることを恥ずかしがるようになったけれど、相変わらず、いちごのショートケーキだけは『特別』だった。
「では、ナギさん、エドさん。今回の護衛任務ではお世話になりました」
サインした依頼書を差し出すリリアーヌ。
ちなみに同行していた『紅蓮』のパーティとはハイペリオンダンジョン前で別れている。
彼女たちの任務はダンジョン内の護衛まで。これから三人で本格的に食材ダンジョンに潜る予定とのこと。
狙いはドロップアイテム。マジックバッグを手に入れるため、長期戦でねばる予定らしい。
そのため、ナギとエドの二人でエイダン商会のガースト支店までリリアーヌを送り届けたのだ。
せっかくなので、【無限収納EX】に溜まっていたドロップアイテムをごっそり買い取ってもらった。
在庫の多い魔獣肉だけでなく、毛皮や爪、牙や内臓などの素材。
そして、サハギンの宝箱の中身で不要なものをテーブルいっぱいに並べると、商会の従業員に歓喜された。
「おお! なんと美しい、真珠でしょう! こちらは紅珊瑚? 鼈甲まであるなんて……」
「買い取っていただけます?」
「もちろんですとも!」
「良かった」
ナギはほっと胸を撫で下ろした。
魔石や魔獣の素材などは冒険者ギルドが適正金額で引き取ってくれるが、宝飾品は直接、商会に持ち込んだ方が利益が大きい。
だが、年若い冒険者は足元を見られて買い叩かれることも多いと聞いていたのだ。
(でも、ここなら安心だわ。リリアーヌさんが目を光らせてくれているもの)
ついでに、特殊個体の魔物を倒した際にドロップしたスパイス類が詰められていた木箱もいくつか買い取ってもらう。
単なる木箱ではない。これも魔道具のひとつで、見た目よりも容量が大きく、収納物の時間を停止できるのだ。
食材を保管するには最適なため、エイダン商会はドロップしたスパイスだけでなく、木箱も積極的に買い取っている。
「素材すべて、買い取らせていただきます。どれも状態が良く、素晴らしい品ばかりですので、このくらいでいかかでしょうか?」
エドと二人でそれぞれの買取代金が書かれた明細を覗き込む。
どれも冒険者ギルドより高値を付けてくれていて、ありがたい。
合計金額は、金貨十八枚。日本円にすると、百八十万円の儲けである。
「こんなに、いいんですか?」
「もちろんですとも! ぜひ、またの機会も我が商会にお持ちください」
「はい!」
笑顔で挨拶を交わして、エイダン商会を後にする。
「思ったよりも、稼げちゃったね?」
「そうだな。俺たちには不要だったから、かなり儲けた気分だ」
「ふふ。そうかも! せっかくだから、何かお土産に買って帰ろうか」
臨時収入は、ぱっと使い切ってしまうくらいでちょうどいい。
転移の魔道具でハイペリオンダンジョンに通い放題な二人にとっては、先ほど売り払ったアイテムは取り放題なので。
「お留守番中のネコちゃんたちが喜ぶようなものがあるといいな」
ガーストは獣人の街なので、様々な種族の獣人たちが使う品を手に入れやすいのだ。
「それと、エドの服を買おう! 最近、また背が伸びたよね?」
「自分では分かりにくいが、そういえばズボンの裾が短くなった気がする」
「うん、5センチは伸びているね。羨ましい……」
まだ成長期のはずだが、ナギの身長は百六十センチ弱といったところだ。
これでも十歳の頃と比べると、見違えるほどに育ったのだが、まだ小柄だった。
冒険者は体格の良いものが多いため、小さくて華奢なナギは悪目立ちしている。
(リザさんみたいなダイナマイトボディとまでは言わないから、せめてもう少しだけ身長が伸びてほしいな)
魔法使いのナギは燃費が悪い。
たくさん食べているのに、ちっとも太らないのだ。
女子的には嬉しいことだが、体が資本の冒険者としてはもう少し筋肉が欲しい。
傍らに立つエドをそっと見上げる。
整った容貌の横顔が、美しい。
目を見はるような美形というわけではないが、意志の強い琥珀色の眼差しやすっと通った鼻筋など、エドの顔立ちはとても好ましい。
また背が伸びた彼の目線はナギより二十センチは高い位置にある。
ずっと見上げていると、首が痛いくらいだ。恨めしそうに見上げていると思われたのか、気付いたエドが困ったように小さく笑うと「ん、」と片手を差し出してきた。
「え、あ……うん。ありがとう?」
繁華街なため、人通りが多い。
小柄なナギを気遣ってくれたのだろう。エドは優しくていい子なのだ。
(とはいえ、手を繋ぐのはちょっと恥ずかしいかな?)
ダンジョン内で転移をする際ならまだしも、街中は人目が気になる。
今は冒険者装備なため、デートとは思われないだろうが──
(デート⁉︎ いやいや、単なる買い物! 買い物だからっ)
慌てて思考をシャットアウトする。今はエドの服を買うことだけに集中しよう。
最近、彼の成長ぶりが顕著で、どうにも落ち着かないのだ。
出会った頃にはまだ丸みのあった頬がシャープになり、幼さが削ぎ落とされた少年は狼族の獣人や冒険者たちだけでなく、街の少女たちにも注目されている。
予想していた以上のイケメンに育ちつつある相棒にドギマギしているナギは、自分と手を繋いだエドを見て、舌打ちしている少年たちが多くいることに気付いていない。
エドはこれみよがしに可憐な少女の手を握り、その耳元に囁きかけた。
「──ナギ、そこの店で昼食にしよう。いい匂いがする」
「ふぇっ? あっ、うん! そうしよう! エドの鼻が嗅ぎ当てたなら、信用できるもの」
頬を赤らめて嬉しそうに笑うナギと、彼女を狙っていた男共を牽制したエドは笑顔でそのレストランに足を踏み入れた。
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